地獄



その時まだ私に海といった概念はありませんでした
私は広い森、いえジャングルといった所に住んでいました
私達には文明といった概念はありませんでした
私達は自然の恩恵を受けながら
目に映るものだけが世界、そういった暮らしをしてました

部族間の小競り合いはありましたが
比較的平和で物質的ではなく
心が豊かな暮らしを送っていました

きっと幸せだったのだと思います
私達には大きな不幸という概念がありませんでしたので

大切な人が死んでも
それは消滅ではなく転生を意味すると信仰してました
決まった特定の神という概念も
宗教という概念もありませんでした
自然が神であり私達を生かしてくれている
敬うべきものであると信仰していたのです

私は世界がこんなにも広いという事を
知る術もありませんでした
自分の足で行ける場所、原始的なイカダで行ける
場所意外は知り得なかったのです

そして異なる武器を扱う者がいる事も
異なる肌の人種がいる事も
なによりも奴隷といわれる者がいる事も知りませんでした

正確に言えば私達にも奴隷とは言わないけれど
多少そのような概念がなかったとは言えませんが
人間の尊厳を傷つける
そんな卑劣な者供の存在とかけ離れた暮らしをしていたのです


私達は海の青さも深さも広さも知りません
見た事も聞いた事もありません
そういった言葉も概念もありませんでした



つづく


三途の川