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六道の辻〜修羅道〜
修羅道
『11年』
あの日俺は初めて父親を殴った
その時に初めて人を殴って拳の痛さを感じた
これまで一度も感じた事のない痛み
いままで感じた事の無かった心の痛み
たしかにそれは、心の痛みだったのだ
いまとなってはそれすら良い思い出になっている
どんなに言葉を交わしてもわかり合う事が出来なかった俺達が
いや、罵り合う事でしかお互いを主張する事しか知らなかった
俺達だったが初めて何かを感じ取れた日だったのだ
親父は俺にこう言った
「自分は子供だからわからないなんて言い訳をするなっ!
はなっから理解する気がなくて何がわかると言うんだ!
俺だってな、俺だって世の中の事なんかまだ何にもわか
っちゃいないんだよ!生きてる間にわかるものか!」
そう、そう言って俺を殴ろうとした
だがその拳を引っ込めてこう続けたのだった
「俺は今からお前を殴るぞ、
成人式を迎えるまでは俺にはお前を管理する義務があるんだ
それまではお前の好きにはさせない
それを憶えておけ、わかったか!」
まだ17歳の俺には到底納得など出来る言葉では無かった
しかし父親は驚く事を口にしたんだよ
そして初めて父親の涙という物にお目に掛かったよ
「その前にお前が俺を殴れ!我が子を殴らなくてはならない
俺のこの痛みをお前が身を持って知れ!」
そして俺は親父を殴った頬を思いきり殴ったんだよ
だが親父は俺を殴らなかった
「それが子を殴る親の気持ちだ
わかるだろ気持ち良い物じゃないだろ
殴って後悔してるだろ、いつも俺はそうなんだよ」
言葉なんかじゃとても理解出来ない物が
なんかこう理解出来た様な気がしたよ
拳を伝わって熱い何かを感じられたんだよ
そのすぐ後、親父は入院した
病院に顔見知りが出来る程見舞いに行ったものさ
だけど半年の間なにも知らされなかったんだ
半年後に親父はホスピスに移された
もしかしたら、あの言葉は死を悟った親父が
自分をわからせる為にじゃ無くて
初めて自分を知って貰いたいと
そう思ったから出たのかもしれない
結局、成人式まで管理する義務を果たす事なく親父は死んだ
俺は最後の言葉を聞く事は出来なかった
そして今、俺も親父と同じ病でこの世を去ろうとしている
小学校に上がったばかりのお前には殴られた事はないけど
親になってみて息子に殴られるのも
悪くないなって思っているんだよ
なんかたくましく感じるだろうなって
別に変な趣味とかないんだぞ
俺はお前の成長は見守る事は出来ないが
こうして何かを伝える事は出来ると思ってる
まあ一方通行なんだけどな
お前の返事は聞く事が出来ないけれど
この手紙を読んでいるお前は
俺が親父を殴った歳になっているんだな
書きながらその姿を想像しているよ
あんまり俺に似るなよ、格好悪いから
お前に宛た手紙はあと三通ある
・一つは成人式を迎えた時
・一つは結婚式のお祝いの言葉
・一つは初めて子供を持つ時
こんな形じゃ話し合いとは言えないけど
俺の言葉も片隅にでも置いておいてくれ
素直に「ありがとう」そう言える人間になって欲しい
そして「ありがとう」と言われる人間になって欲しい
それじゃあ、今度会えるのは成人式だな
寂しい時は俺の墓をサンドバックにでもしててくれ
痛いから嫌か?そうだよな
まっ、とにかく体には気を付けて
お前は親より早く死なないだけでも
親孝行なんだ胸を張って生きろ
父より
『走りぬけた夜の数だけ』
久しぶり元気だったか
1通目の手紙は読んでくれただろうか
とうとうお前も成人する日が来たんだな
いちいち言わなくてもわかってるとは思うが
もう未成年ではないんだぞ
でも、成人するまでお前を守ってやれなかったのは
本当に悪いと思っている
俺が居なくても立派になってるだろうとは思うが
大変な思いをした事もあっただろう
不憫な思いをさせて本当にすまない
埋め合わせをする事も出来ないのに
おこがましいかもしれないけれど
人生の先輩として助言させて欲しいと思う
人生の先輩と言っても俺の人生は終わってるんだけどね
これからお前は一人の大人として
生きて行かなくてはならない
俺が言える事は
自分と信念を持って生きて欲しいという事だ
自分を持つというのは
人と違う事をすれば良いって事ではない
人と違うのが自分らしいというのは間違いだぞ
人と同じ事をしてても自分らしさがなくなるわけではない
わざわざ無理に変わった事をしなくても良いんだ
何かを極めた者は人と同じ事をしてても
人とは違うと言えるとは思わないか
邪道で人と違うなんてのは誰にでも出来る
変わり者である事が
誇らしいなどというのは勘違いでしかない
何かを極めて頂きに立つ
そんな王道を歩いて行って欲しいと思う
その為には歯車になる事も必要になってくる
勿論そうではない生き方も沢山ある
自分の腕だけで生きる道も沢山ある
しかし、歯車になるのを潔しとせず
何もしないくせに鼻っから社会に適合しようとしない
「俺、常識の枠にはめられたくないんだよね」
などと言う非常識な人間にはならないで欲しい
真に常識外れな人間とは
あらゆる常識を身に付けて
更にそれを昇華させて飛び越えた人間だから
つまりは王道を歩んで何かを極めて
常識の物差しでは計り切れない人間の事なのだから
丸まった歯車は噛み合う事すら出来ない
自分で尖った人間だと勘違いしてるかも知れないが
要は歯車になってしまったら
そこから逃げられないという恐れから
鼻っから逃げて言い訳してるだけなのだ
歯車として生きている人達だって
誇りをもって生きている
きちんと自分をもって尖って生きている
だからこそ歯車同士が噛み合っているんだ
厳しい社会で生きて行くのだから
それは当たり前の事なのだが
いいか、信念のない歯車は歯車にすら成り切れない
そうして社会から弾かれて行くんだ
それにどうしても歯車でいるのが嫌ならば
頂点に立て
歯車を動かす原動力となれ
王道を歩んで自分の王国を作れ
などと身の程もわきまえず偉そうに語ったが
お前にも一緒に王道を歩んでくれる人
まぁ、要するに嫁さんが出来た時にまた手紙を書いている
いつになるかわからないけど
人間なにがあるかわからないから早い方がいいぞ
俺みたいに早死にするかもしれないし
もしかしたら既に嫁さん貰ってるかもな
そうだったら大切にしてやれ
絶対に手をあげたりするんじゃないぞ
お前の家庭の事だから口出しする気はないが
これだけは言っておく
怒りにまかせて拳を振るうな
それでは家庭を持った時に一人の男としてまた会おう
父より
三途の川