第3回 「むち打ち(損傷)症」の諸問題
 「むち打ち症」の長期化理由
 いわゆる「むち打ち(損傷)症」が他の外傷などから比べて問題が多いのは、ひとつに客観的な所見(他覚所見)が乏しいことによるものと考えられます。
第三者からは、症状の信憑性や治り具合の判断がつけにくいし、被害者にしてみれば誰からも理解してもらえないもどかしさ(焦燥感)などで、他の因子も介在し症状を増幅することもあるからです。

 「むち打ち症」の大半を占める
「頚部捻挫型」は、本来慢性化しない性格のものされています。
急性期に適切な治療を受ければ、そのほとんどが
3ヶ月以内に治癒するというデータが出ています。

 それが長期化する理由としては、被害者自身の意識や性格そして体質的な問題、加害者側の対応の問題、医師や治療上の問題、社会背景から来る2次的要因によるものや詐病などがあげられます。
 その内、被害者側の理由としては、主に
「心因性」「医原性」「賠償性」心の問題と体質的な阻害因子の介在などがあげられます。

 むち打ち症の症状が慢性化し長期化する理由は、加害者側との精神的な葛藤、医療に対する不信感、その他復職や収入に対する不安といった個人的社会的要因など心因性の関与が大きいといわれます。
 不安感は自律神経系の機能に影響を与えるといわれており、心因性が加重されて難治化する傾向があるといわれます。

 医原性としては、初診時に医師が重症であるかのような印象や不安を与えるような言動などがあります。
むち打ち症の治療は必ずしも治療方針が一定していないことで、最初の病院と次の病院で診てもらったときの違いや医師の交替などで治療方法が違ったりすると不信感がうまれます。

 また、無知や営利上の都合による理由なき入院や漫然とした薬物投与などがあります。
入院すれば健康人でも各機能は低下するもので、入院前の状態に回復させるのにその2倍はかかるといわれます。

 更に、薬物はその副作用(例えば、非ステロイド系の消炎鎮痛剤などは、胃の不快感、痛み、吐き気、嘔吐などの胃腸障害の副作用あり、「対症療法なので漫然と使ってはいけない」と説明書にある)により、本来の頚椎捻挫は大したことないのに、重症感を生む原因ともなります。

 賠償性については、自分は被害者であるという意識が根底にあるため、責任追及の気持ちがこうじて、治療が終わるまでの補償を支払うべきという加害者への依存傾向が強くなるといわれています。
自分に落ち度がなく加害者が存在するという事故そのものが、いわゆる賠償性神経症を引き起こしやすい大きな因子となります。

 更に体質的な回復阻害因子としては、次のようなものがあげられます。

変形性頚椎症

頚椎、椎間板の老化現象で20歳ぐらいから始まります。
骨棘という余分な骨ができたり、椎間板が厚みを失い椎体の間が狭くなって骨と骨が接触するようになり神経を刺激して痛みが出ます。

後縦靭帯骨化症
後縦靭帯が徐々に骨に変化して脊髄を圧迫することで、神経を刺激し痛みが出ます。

また、むち打ち症と似た症状を呈する疾患としては、次のようなものがあげられます。
脊椎疾患

脊椎疾患はすべてむち打ち症と同じ性質の症状を呈します。

・頚椎(脊椎)椎間板症、頚椎(脊椎)骨軟骨症。
・脊椎分離症、すべり症・・・腰痛など。
・骨粗鬆症・・・腰痛や圧迫骨折などを起こします。
・頚肩腕症候群・・・頸から肩にかけての痛みとこり、しびれに加え頭痛、頭重、目のかすみ、全身倦怠などと多彩な症状を起こします。

その他

・更年期障害・・・肩や頸のこり、腕のしびれ、めまい、耳鳴り、目のかすみ、動悸など。
・メニエール症候群・・・めまい、耳鳴り、難聴の3症状を呈する内耳疾患。
・高血圧症・・・不眠、精神不安定、全身のだるさ、頭痛、頭重、肩こりなど。
 事故以外の要因での長期化の扱い

 
被害者の病的素因は、損害額の算定において原則として考慮すべきでないとする考え方の「否定説」と、被害者の体質的素因が、損害の発生又は拡大に大いに寄与した場合、減額をみとめるという「肯定説」があります。
実際は、寄与度減額を認めて損害賠償額を
割合的に認定することが定着しています。

 事故と相当因果関係がないと見られる因子の介在により、本来の外傷の治療が長期化した場合は、判例などをもとに、期間的にみるか、割合的(寄与度)であらわす方法をとります。

 期間で見る場合は、その介在がなっかた場合、通常なら外傷はどれ位で治っていたか、つまり「通常生ずべき損害」はどのくらいの期間であったかということになります。
受傷から一定期間を前提として、治療費、慰謝料、休業損害などを賠償するもので、受傷から3〜6ヶ月を相当因果関係のある期間として認めるものが多いようです。

 受傷後治療が慢性化して長くなったり、途中から症状が変わらなくなったケースで、
受傷後一定期間を経過した時点で症状固定とし、後は後遺症とした場合では、判例では5〜8ヶ月が多いようです。

 関与度の割合で認定する場合は、事故との相当因果関係が否定されて、加害者の責任が減額された割合で、10〜60%までの幅が見られます。
これは、被害者側からみれば、むち打ち損傷などで
心因性などと競合する場合でも60%を超えることはないということにもなります。

 受傷後2〜3ヶ月後の症状発現

 むち打ち症に対する誤解のひとつに「後になって症状(後遺症)が出るので怖い」などというのがあります。
医師の中にもそのように言う人もいますが、受傷後相当期間たっての症状発現は、医学的に考えられず、他の事故以外の原因を疑うのが合理的だと思われます。

 外傷は、受傷直後に症状が現れるのが特徴であり、それはせいぜい3日位までで、受傷後長期間を経て頑固な症状が出ることはありえません。
バレリュー症状が2〜3週間で現れることはあっても、
受傷直後に無症状であることはありえません。
損傷が大きいほど直後に症状を発するもので、症状発現までに時間がかかればそれだけ「軽症」と考えれれます。

 むち打ち症で治療が長期化した場合は、治療効果が余り期待できなくなった時点で
「症状固定治癒」といって賠償上の治療範囲を被害者との間で話し合って設定することになります。
その時点で
残っている症状を「後遺症(障害)」として、医師の診断書や本人の直接面接を元にその等級(自賠責保険による事前認定)を決めることになります。

 「症状固定治癒」という考え方

 前出の「症状固定治癒」について、補足しておきます。
交通事故外傷の補償問題では、完全に治るものであればその期間が賠償の対象となる範囲となります。
 しかし、頑固に症状が続き長期化したものについては、どこかで賠償の範囲を設定する必要が出てきます。
そのための便宜的方法が、症状固定治癒と呼ばれるものなのです。

 その設定の根拠となるのは、随分昔の中部労災の荒木医師の見解がもととなっています。
なぜ労災かといいますと、労災も自賠責も国の保険であり、自賠責算定が労災に準じていることにあります。

 同医師の
「現在認められている治療法により、3〜6ヶ月加療してもその症状に変化が認められなくなった状態を症状固定治癒とする」とのことで、医学上で「症状に変化がない」ということは「治療効果がない」ことを指します。

 したがって、査定側としては
医療調査なりで、その辺の症状の経過を医師より確認し、それを元に被害者とどこでその日を設定するか交渉することになります。
症状固定が設定されれば、受傷からそこまでの期間を賠償の範囲として、各賠償金の算定に入ります。

 その時残っている症状が後遺障害の等級認定が受けられた場合は、別枠で逸失利益と慰謝料を一括で算定し支払われます。

 ただし、自覚症状のみで客観的な所見が見られないケースで余りに長期化した場合などは、
最高裁の過去の判例で3ヶ月で却下というものを元に裁判もじさずという姿勢で臨むこともあります。

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第1回 交通事故の過失割合
第2回 いわゆる「むち打ち(損傷)傷」
第4回 対人事故による損害 傷害編 (1)
第5回 対人事故による損害 傷害編 (2)