交通事故体験

 雨の日の高速道路で・・・

 交通事故被害者が受ける苦しみは、事故のショックや体の症状だけではありません。
加害者側の不誠実、賠償の問題、周りの無理解など、心が受けるストレスも
想像以上だと思われます。
 俗に「むち打ち症」と呼ばれる外傷性頚部症候群(頸椎捻挫)などは、
見た目には異常が見られないことで様々な誤解を受けます。

 一昔前、それをいいことに保険金詐欺をはたらく人間が横行しました。
そのために、真面目に治療を受けている人まで、色眼鏡で見られたりしました。
「保険金目当て」とか「怠け病」とかあらぬ疑いがかけられた人が多かったと思います。
 このような「人に理解してもらえない」という思いは、誰にとってもやるせないものです。
それはストレスとなって体にも影響を与えます。

 私も実際に交通事故を経験してみて、被害者の苦しみが実感できたといえます。
私が事故を起こしたのは、高速道路を走っている時でした。
ちょうど集中豪雨で速度制限が出ていました。
それまでゆっくり走っていたイライラもありトンネルに入って速度を上げてしまいました。

 長めのトンネルを出た瞬間、路面が雨で区分線さえ見えない状態になっているのに
気づきました。
その時には手遅れで、そのままの速度で突入し、ハイドロブレーン現象(注1)によって、
ハンドル操作が全く出来なくなりました。
覚えているのは左側のガードレールに当たった後、くるくる回転する感じまでです。

 それから、何かが焦げるような臭い(エアーバック)で目が覚めました。
緊張のせいか、体には特に痛みは感じませんでした。
車は最初の衝突地点から200メートル位離れた右側ガードレールに前部が
挟まっていました。
実地検証で、右前輪はねじ切れて100メートル位手前に落ちていました。

高速自動車道で起こした自損事故車両

 事故のトラウマ?

 事故後、整形外科で手当てを受けましたが、数箇所の擦り傷と打ち身程度でした。
レントゲンなどにも異常はありませんでしたので、いつも通りに仕事にも出ました。
ところが、数日が過ぎて仕事で車を運転している時のことでした。
途中から雨が降り出して、次第に雨足が強くなってきました。

 するとどうしたことか、急に体が硬くなってきて、運転が怖くなってきたのです。
一旦車を路肩に寄せて、気持ちを落ち着けてから車を出そうとしたのですが、
体はいうことを聞いてくれません。
それでも、時間を置いて少しずつ走行車両をやり過ごしながら移動し、
やっとの思いで会社にたどり着きました。

 同じ状態はその後も何ヶ月にもわたって続きました。
事故のショックが心の外傷(トラウマ)となっていたようです。
元に戻どすまでには、その事故に正面から向き合い感じ取ることに長い時間をかけました。

 体の方も、検査では異常なかったのですが、頸や腰などの痛みと頭痛、耳鳴りなどの
症状(不定愁訴)が続きました。
そして、何にも増して一番辛かったのは、そのことを「誰にも分かってもらえない」という
現実でした。

 メンタルケアの必要性

 心と体は別々ではありません。
体から心へ、心から体へと影響しあっています。
 事故を境に性格が変わったり、人生を悲観してうつ病になってしまった人もいます。
中には回復意欲さえなくしてしまい、漫然とただ治療だけを続けている人もいました。

 特に、加害者側の不誠実な対応などは、治療を長引かせる大きな原因となりえます。
そのことは専門家たちも認めていることです。
 だから、交通事故被害者には、外傷に対する治療だけでなく、それらを解消する
心のケアが重要になってくるのです。

 しかし、実際にはそれをやっているところは少ないと思います。
現実問題として、多くの患者を抱えていて、交通事故の患者の話にだけゆっくり耳を
傾ける訳にはいかず、医師にそこまでの時間の余裕がないことがあると思います。
 さらに別にカウンセラーを抱えるにしても、人件費やカウンセラーの力量の問題などが
あり、そこまで踏み切れないというのが実情ではないでしょうか。

 査定経験においても、被害者と面談して先ず飛び出すのは加害者への不満、
そして自分の痛みや苦しみを解かってもらえない焦りといらだちの言葉でした。
それらの体験をとおして、私は交通事故被害者に対するメンタル・ケアの必要性を
強く感じました。

 ただ、じっくり被害者の話に耳を傾けてあげるだけでもいい。
それによって、被害者の心の不安やぶっつけ先のない感情が開放されるなら、
それは心の傷だけでなく、体の症状を軽くすることにつながると思うからです。


     (注1)
   
      ハイドロブレーン現象
          水が路面とタイヤの間に入ることにより、オイルのような役割を
          果たし滑り、ハンドル操作が出来なくなる現象



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