流れ者の物語
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その1 男の顔は履歴書
今年もプロ野球のシーズンが始まろうとしている。各球団もいっせいにキャンプイン、余裕のレギュラー陣、今季にかける背水の陣の選手たち、そして期待の新戦力や百戦錬磨のベテランと、
老いも若きも白球を追って汗を流しているのだ。心が踊る。こうしてはいられない。私も何かしなくてはならない。まあ特に何をする必要もないのだが、三十年来のプロ野球ファンとしては、
毎年今頃になるとむやみに心が踊るのを抑えられない。新聞や雑誌に目を通しては、ああでもないこうでもないと、監督か評論家にでもなったつもりで戦力分析に余念がない。
そんなファンは全国に約1,170万人いると推定(筆者試算)される。そして今年も週刊ベースボール2004年プロ野球選手名鑑号が発売された。昨年まで在籍していた選手が今年は載っていない。
解雇されたか。おっと、この球団に在籍している。ということはトレードか? それともテスト入団か。おお、この新人選手は○○大学野球部、ということは某球団の某選手の後輩だ。
それにしてもこの選手の写真映りはよくないなあ。まるで指名手配写真みたいだなあ。
ふーん、この選手は△△高校で甲子園に出ているのか、そうだそうだ思い出した、準決勝で負けたあのピッチャーかあ、そうかそうか、今じゃすっかりベテランなんだなあ、、、
私は毎年この名鑑号を隅から隅まで読むのが大好きなのである。
■ベテランと呼ばれる人たち
子どもの頃、プロ野球選手といえば相当なオッサンというイメージがあった。だいたい20代から30代がほとんどで、40を越える選手は今もむかしも数えるほどという世界。
小学生くらいの子どもにしてみれば、自分の父親と同世代かその前後くらいだから、無理もない話ではある。ところがいざ自分が40歳を目前にしてみると、プロ野球選手たちのほとんどが自分よりも若い世代だということに気づく。
そして、ああ私もオッサンになったんだなあ、と実感するのである。もう現役選手ではなく監督やコーチの世代に近くなりつつあるのだ。光陰如矢。
現在、球界最年長選手は読売ジャイアンツの工藤公康(投手:西武ライオンズ〜福岡ダイエー・ホークス〜読売ジャイアンツ;通算23年)41歳。
長い間西武ライオンズで活躍していたが、福岡ダイエーホークスを経てジャイアンツに移籍。年齢を感じさせない驚異のピッチングでお馴染み。通算191勝と、現役投手で最も200勝に近いところにいる。
とはいえ弱い時代のスワローズのエースとして活躍した松岡弘(サンケイ・アトムズ〜サンケイ・スワローズ〜ヤクルト・スワローズ)のように、191勝で引退というケースもあるが、、、
工藤の場合は故障でもない限りまずまちがいないだろう。最近では44歳まで現役投手として活躍した佐藤義則(阪急ブレーブス〜オリックス・ブレーブス〜オリックス・ブルーウェイヴ)がいたが、
工藤もこれくらいまではじゅうぶんやれるだけの体力は持っているだろう。高卒でプロ入りしているから現役生活も23年。名古屋電気高校時代から今までその顔がほとんど変わらないのも凄いが、
このあいだに大きな故障もないということは、体力維持、健康管理に相当気をつけているのだろう。
工藤に次ぐのが川相昌弘(読売ジャイアンツ〜中日ドラゴンズ;22年)の40歳だ。引退にともない原辰徳監督のもとでコーチ就任が確実視されていたが、突然の原監督解雇にともなうドタバタ劇で現役続行を決意。
新天地を目指してドラゴンズにテスト入団した反骨の人。通算1709試合に出場、犠打世界記録保持者の職人でもある。新人時代の桑田真澄投手と選手寮で同室だったことがある。
当時、いしいひさいちのマンガでは、妖怪変化のごとき桑田に困惑するキャラクターとして記憶されている。それにしても川相が球界最年長世代に属する時代になったのだなあ。しみじみ。
40代の選手はこのふたりだけで、その後は35歳以上が52人(外国人選手は除く)。内訳は39歳(6)、38歳(3)37歳(8)、36歳(13)、35歳(23)。
私と同世代の39歳は吉井理人(投手:近鉄バファローズ〜ヤクルト・スワローズ〜ニューヨーク・メッツ〜コロラド・ロッキーズ〜モントリオール・エクスポズ〜オリックス・ブルーウェイヴ;16年)、
加藤伸一(投手:南海ホークス〜福岡ダイエーホークス〜広島カープ〜オリックス・ブルーウェイヴ〜大阪近鉄バファローズ;21年)、
小宮山悟(ロッテ・オリオンズ〜千葉ロッテ・マリーンズ〜ニューヨーク・メッツ〜千葉ロッテ・マリーンズ;13年)、
八木裕(内野手:阪神タイガース;18年)、
古田敦也(捕手:ヤクルト・スワローズ;15年)、
佐藤真一(外野手:福岡ダイエーホークス〜ヤクルト・スワローズ;12年)。入団時期が高卒と社会人では通算年数もけっこう違ってくるもので、加藤伸一の21年と佐藤真一の12年では実に9年の開きがある。
ついでに38歳の3人も紹介しておこう。
吉田修司(投手:読売ジャイアンツ〜福岡ダイエーホークス;16年)、吉田豊彦(投手:南海ホークス〜福岡ダイエーホークス〜阪神タイガース〜大阪近鉄バファローズ;17年)、
野村謙二郎(内野手:広島カープ;16年)。吉田修司というのも苦労人で、社会人の北海道拓殖銀行(倒産して今は存在しない)からジャイアンツに入団。はじめのうちはけっこう期待されていたのだが、
あるときピンチに登板したときにポカスカ打たれて火だるまにされた。見せしめの意味もあったのだろうか、ベンチがなかなか引っ込めてくれず、たしか10点くらい取られたんじゃなかったかな。
たまたまラジオ中継を聴いていたのだが、プロの悲哀を感じさせられたものだった。そのシーズンオフにジャイアンツを放出されホークスに移籍。ここで王貞治監督に出会い心機一転。今じゃパ・リーグを代表する中継ぎエースに成長した。
38歳から41歳までで11名。そのうち、投手が半数の6名を数える。このあたりの経歴をみているとさすがに懐かしい球団名が出てくる。
南海ホークスの生き残りは加藤、吉田豊のほかには37歳の西山秀二(捕手:南海ホークス〜広島カープ;19年)、35歳の大道典嘉(外野手:南海ホークス〜福岡ダイエーホークス;17年)の4人になってしまった。ロッテ・オリオンズの生き残りも小宮山のほか、
37歳の初芝清(ロッテ・オリオンズ〜千葉ロッテ・マリーンズ;16年)、35歳の堀幸一(ロッテ・オリオンズ〜千葉ロッテ・マリーンズ;17年)、
伊良部秀輝(ロッテ・オリオンズ〜千葉ロッテ・マリーンズ〜ニューヨーク・ヤンキース〜モントリオール・エクスポズ〜テキサス・レンジャーズ〜阪神タイガース;17年)くらいなものか。
ほかには37歳のデニー友利(投手:大洋ホエールズ〜横浜ベイスターズ〜西武ライオンズ〜横浜ベイスターズ;18年)がいる。もともと球は速かったのだがベイスターズでは芽が出ず、ライオンズに移籍してからレギュラーを獲るまでに
成長。昨年からふたたび古巣に復帰した息の長い選手。田中幸雄(内野手:日本ハム・ファイターズ;19年)は、同じ時期に同姓同名の田中幸雄という投手がいたので、ファンは年長の田中に敬意を表して
オオユキ(投手)・コユキ(内野手)と呼び分けていた。今では呼び分ける必要もないが。ロッテ一筋の初芝清も得難いキャラクター。いい歳して金髪に染めたりして存在感をアピールしている。観ていてほんとに楽しい選手のひとり。
■ベテラン捕手というタフネス
ポジション別では投手(23)、捕手(6)、内野手(15)、外野手(8)となっている。このうち、野手はとりあえずポジションがそうだというだけで、代打要員だとか守備固めとして生き残る手もあるわけで、
必ずしも先発要員である必要はない。タイガースの八木なんかその典型。投手も先発・完投型が激減している昨今、とりあえず5回を投げ切ればいいとか、中継ぎ、抑えとしてやってもいける。
そうなるといまだにチームの司令塔としてキャッチャーマスクを被り続ける古田は凄い。捕手というポジションが激務であることを考えてもこれは驚異的といえよう。
まだまだがんばっている中村武志(捕手:中日ドラゴンズ〜横浜ベイスターズ;20年)も昨年の出場試合数が79だというのに、古田ときたら実に139試合に出場している。
しかもベイスターズの場合は、二番手捕手、28歳の相川亮二が70試合、打率 .248、本塁打5、打点14と着実に力をつけて、次代を担える実力をつけてきたからいいが、スワローズの二番手が30歳の小野公誠ではこころもとない。
ちなみに小野は44試合、打率 .200、本塁打0、打点3である。古田引退後のスワローズは攻撃パターンがガラっと変わるのは必然だ。カープの西山も25歳の石原慶幸(4年)に成績では大きく水をあけられている。
やはりカープは若手を育てるのが巧いチームという証拠のひとつだ。
わがタイガースも遅咲きの矢野輝弘(中日ドラゴンズ〜阪神タイガース;14年)が正捕手で、スーパーサブとして野口寿浩(ヤクルト・スワローズ〜日本ハム・ファイターズ〜阪神タイガース;15年)がいるが、
若手の浅井良(3年)の成長如何がこれからの鍵である。
まあルーキーの小宮山慎二という超高校級もいるのだが、捕手というのはなかなか選手が育たないポジションである。
タイガースにも25歳の中谷仁(7年)、狩野恵輔(4年)という鳴り物入りで入団してきた高卒ルーキーがいるが、
ケガなどもあっていまだ結果を出せずにいる。それに、ある程度年齢がいった不動のレギュラーと期待の新人という組み合わせだといいのだが、近い世代に不動のレギュラーがいるとなかなか出番が巡ってこない。
前述の野口もそうでスワローズ時代は古田の陰に隠れて活躍の場がなかった。当時の野村克也監督が心機一転がんばってこい、という意味でファイターズに放出。そこで野口はレギュラーの座を掴み大活躍したことは記憶に新しい。
ところが現在はタイガースに移籍し、ふたたび二番手というポジションにつくことになるのだから面白い。
■行く人、来る人 トレードの楽しみ
移籍組も注目である。昨年わがタイガースは18年ぶりのセ・リーグ制覇を成し遂げ、私も18年ぶりに楽しいシーズンを送ることができた。この優勝の原因には、星野仙一前監督が大幅なトレードを断行したことが大きい。
伊良部、下柳、野口、片岡、アリアスなくして優勝があり得ただろうか。当然優勝を経験せずにタイガースを去った選手もいる。ファイターズに移籍した坪井智哉(外野手)、伊達昌司(投手)などは移籍先でレギュラーの座を
不動のものにした。快足男高波文一も赤星憲広の大活躍があっては出番がなかったが、移籍先のライオンズで貴重な戦力として大活躍した。まあ、そういうのはいいんだけど、私としてはこの男に注目である。
1996年ドラフト4位でタイガースに入団した曽我部直樹外野手。サンジルシ醸造という社会人には珍しい酒造業界からプロ入りということも話題になった。ところが強肩好守で鳴らすもレギュラーを獲るまでには至らず
ついに解雇されてしまった。しかし昨年末にマリーンズのテストを受けて合格。心機一転頑張ってもらいたいものである。
贔屓チームで芽が出なかった選手が他球団で活躍する、というのは嬉しいものであるが、できれば別のリーグで活躍してもらいたい。同一リーグだったらやられちゃうからね。ダリル・メイ(投手:阪神タイガース〜
読売ジャイアンツ退団)、トーマス・オマリー(内野手:阪神タイガース〜ヤクルト・スワローズ退団)のように、大活躍されると頭にくるものである。その点、今年オリックス・ブルーウェイヴに移籍したトレイ・ムーア投手には
大活躍してもらいたい。北川博敏(内野手:阪神タイガース〜近鉄バファローズ〜大阪近鉄バファローズ;10年)のように、代打逆転満塁サヨナラ釣り銭無し優勝ホームランという空前絶後・古今無双の大記録を打ち立てたのも凄いが、
塩谷和彦(内野手:阪神タイガース〜オリックス・ブルーウェイヴ;12年)も忘れてはいけません。ひそかにタイガースを去った後、移籍先で芽が出て今では中軸を打つまでに成長した。ちなみに北川も塩谷も捕手から野手への
転向組というのも面白い。ついでに、今年ベイスターズに移籍した宇高伸次(投手:近鉄バファローズ〜大阪近鉄バファローズ〜横浜ベイスターズ;6年)も注目株。今では渡辺俊介(千葉ロッテ・マリーンズ;4年)とともに絶滅寸前の本格派アンダー
スロー。横浜球場へ通うたのしみがまたひとつ増えた。
■イチローは有名だが、サブローって知ってる?
マリーンズの大村三郎外野手の登録名はサブローである。当時イチローとして大ブレイクした鈴木一朗にあやかってか、こういう名前になったのだが、知らない人は知らないだろうなあ。
同じ外野手の寺本四郎のコンビでサブロー・シローとして売り出す、というギャグを考えたこともあったっけ。
そのサブローももう10年選手か。今やイチローはバリバリのメジャーリーガーだし。この登録名だが、選手の名前をニックネーム的に登録名にするケースがほとんど。カズ:青木和義(外野手・西武ライオンズ)、
太陽:藤田太陽(投手:阪神タイガース)などがそうだ。メジャーリーガーから日本球界入りしたマック鈴木(鈴木誠)は、メジャーの登録名をそのまま使っているケース。今年フィラデルフィア・フィリーズのマイナー
チームから西武ライオンズに入団した佐藤隆彦捕手の登録名はG・G・佐藤。どういう意味なんだかわからない。B・B・キングは Blues Boy King なんだけどね。
そしてなんといっても注目株はSHINJO:新庄剛志(外野手:阪神タイガース〜ニューヨーク・メッツ〜サンフランシスコ・ジャイアンツ〜ニューヨーク・メッツ〜日本ハム・ファイターズ;12年)。
宇宙人がふたたび日本球界に帰ってきた。何も考えない男の今後に注目。余談だが森章剛(外野手:中日ドラゴンズ)は昨年まで登録名がショーゴーだったんだけど、今年は元に戻してしまった。
■その他、ひたすら個人的な注目株
今や絶滅寸前の本格派アンダースローといえばマリーンズの渡辺俊介だ。昨年から安定感を増してようやくローテーション入りを果した期待の逸材。球場で観ているとほんとに凄い。地面スレスレから球が飛んでくる。
阪急ブレーブスで活躍したミスター・サブマリン山田久志よりも腕が下から出てくる。先日のキャンプでは山田氏から指導を受け「もう少し高い位置から投げた方が制球が安定する」と言われたそうだ。そうか、地面スレスレももう
見納めか。でもあそこからもう少し高くなったくらいで本格派には違い無い。嘉勢敏弘(投手:オリックス・ブルーウェイヴ;10年)も今年はどうなんだろう。高校時代はエースとして活躍。野手として入団したが3年目に当時の
仰木彬監督に投手と野手の二刀流を命じられる。どっちつかずで伸び悩んでいたが、一昨年から本格的に投手に専念した。選手の個性を伸ばして注目された仰木監督だが、こんないじられ方をした選手もいるのである。がんばれ、嘉勢!
筑波大学から初のプロ選手、専攻は原子物理学という杉本友(投手:オリックス・ブルーウェイヴ〜横浜ベイスターズ〜ヤクルト・スワローズ;8年)も神宮でもうひと花咲かせるか? 今年の選手名鑑には全員笑顔で写ること、
という指令が出されたに違いないジャイアンツの選手の中で、ひとりだけぎこちない笑みを浮かべているカツノリこと野村克則(捕手:ヤクルトスワローズ〜阪神タイガース〜読売ジャイアンツ;9年)、その気持ち、
わからないでもない。それにしてもジャイアンツ選手たちの笑み、笑み、笑み。気持ち悪いぞー。そんななかでもニコリともしていない須藤豊ヘッドコーチと関本四十四二軍コーチ、さすが。笑ってる場合じゃないのをご存じですね。
そしてようやく小田幸平(捕手:読売ジャイアンツ;7年)にも笑顔が戻った。ルーキーの年の写真こそ笑顔だが、それからは毎年毎年暗くなるいっぽう。ほんとに今年の名鑑号に載っているかどうか心配していたところだった。
きっと今年の写真撮影が決まったということでニッコリ笑顔じゃないか。今年こそ結果を出さないと来年の保証はないぞ。がんばれ、小田! ブルーウェイヴの本屋敷俊介コンディショニングコーチ補佐って、
長嶋茂雄と同期でかつてタイガースで活躍した本屋敷錦吾の息子さんでしょうか? 珍しい姓だからたぶん親子か親戚だと思う。最後にガニ股打法の種田仁(内野手:中日ドラゴンズ〜横浜ベイスターズ;15年)にエールを
送ってこの稿終り。起立、礼。
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