Rodon Journal Correspondent Report
Rodon in London
魯鈍的倫敦見物記
Jack Higgins の街角を探す
Rodonジャーナル Vol.195


 1.Nov.1998.
 


キャヴィンディッシュ・スクェア  − Cavendishi Square −

地下鉄「オックスフォード・サーカス駅」と「ボンド・ストリート駅」の中間。
メルボーン地区の、「オックスフォード通り」(OXFORD St)と平行して通る、
ウイグモア通り(WIGMORE St)の一画にあるのが、「キャヴィンディッシュ・スクェア」だ。
ヒギンズの読者なら、必ず知っている住所。
そう、ここが英国国防情報本部(DI5)第4課(グループ・フォア)の責任者、煮ても焼いても喰えないジイさん、
チャールズ・ファーガスン准将のフラットがある場所だ。




1972年に国防情報本部長が、首相の支持を得て、第4課として知られる課を設けた。
第4課は、時の首相から直接権限を委ねられて、
テロや破壊活動全般に関する対策を統轄することになっている。
10年たった今も、責任者は相変わらずチャールズ・ファーガスン准将である。
体が大きく、一見したところはいかにも柔和な顔つきの男で、
軍人としての経歴をわずかなりとも示しているのは近衛連隊のネクタイだけである。
好んで着るグレーのスーツはしわだらけで、半月形の読書用眼鏡をかけ、
半白の髪がもじゃもじゃになっている姿を見ると、どこか田舎の大学の教授のような印象を受ける。
                                    
                       『黒の狙撃者−CONFESSIONAL』(菊池 光:訳 早川書房)  



「キャヴィンディッシュ・スクェア」 木立の向こう あのフラットは怪しい
ファーガスンが午後のお茶を飲みながら外を眺めているはずだ


国防情報本部にオフィスはあるが、
彼はキャビンディシュ・スクェアのアパートを本拠に仕事をする方を好む。
インテリア・デザイナーである次女のエリイがアパート全体の内装をしてくれた。
アダム様式の暖炉は本物であるし、燃えている火も本物である。
ファーガスンは薪の火が好きな男である。
他の部分もジョージ王朝風で、分厚いカーテンをも含めてあらゆる物が完璧に調和している。

                            『黒の狙撃者』(菊池 光:訳 早川書房)




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取材秘話

名所でも何んでもない場所だけに、現地確認した時は、ソワソワしながら写真撮りました。
「は〜、ここか。ここなワケですね・・・・」とか呟きながら。
だからあまり緻密な取材はしていないのだけれど、写真の建物はかなり怪しいでしょぅ・・・・・。
高級フラット地区だそうで、この広場から北へ向かう「ハーレー・ストリート」には、
金持ち医者が多く開業しているそうです。
ヒギンズ作品でも『地獄の季節−A SEASON IN HELL』(川口 俊樹:訳 早川文庫)の中で、
ジャック・シェリーが、この通りの診療所に入院しています。
F・フォーサイスの「ジャッカルの日」が映画化された時、ジャッカル役を演じたジョージ・フォックスを、
当「Rodonジャーナル」と相互リンクしている英国発信サイト「ロンドン通信」主宰者が、
この通りで見かけたそうです。



オックスフォード街とキングリイ通り − Oxford Circus / Kingly Street −

前項「キャヴィンディッシュ・スクェア」を訪ねた際に降りたのが、地下鉄「オックスフォード・サーカス駅」。
ここは、「トラファルガー広場」でも登場した記者のアイドル、
P・D・ジェイムズ『女には向かない職業』のコーデリア・グレイ、22歳の美しい私立探偵の事務所がある街だ。
前項の地図にあるとおり、「リージェント・ストリート」と「オックスフォード・ストリート」の交差するこの地区は、
東京に例えると銀座界隈といったところ。高級商店街だ。
おしゃれに関心があり、服装計画をつくり買い物好きなコーデリアの街を、しばし覗いてみよう。



コーデリアはランベンス・ノースの向こうのベイカール線で事故にぶつかり、出社に三十分遅刻した。
彼女はオックスフォード・サーカスの地下鉄の駅から明るい六月の陽光のなかへと上がってきた。
《ディキンズ・アンド・ジョーンズ》の飾り窓を眺めている早朝の買い物客の群を行き過ぎ、
キングリイ・ストリートの不協和音のまっただなかへと突入し、
敷石の舗道とせまい通りをぎっしり埋めている乗用車や貨物車の光かがやく洪水のあいだを、
どんどん進んで行った。急ぐなんて理屈に合わないと彼女にはわかっていた。
秩序ときちょうめんさに関する強迫観念のあらわれだ。
今のところ、なんの約束もない。訪ねてくる予定の依頼客もない。未解決の事件もない。
書かねばならぬ最終報告書もない。

 『女には向かない職業−AN UNSUITABLE JOB FOR A WOMAN』(小泉 喜美子:訳 早川書房)  

1972年に出版された『女には向かない職業』のP・D・ジェイムズは「作者おぼえがき」の中で、
『すべての登場人物は、いちばん不愉快なものをも含めて、想像上の所産です。
 私たちみんなにとってさいわいなことに、都市そのものはそうではありません。』と書いている。
日曜の人混みにもまれながら、「われわれは仕事に誇りを持っています」のキャッチ・フレーズをうたう
コーデリアの「プライド探偵事務所」を探しに、「リージェント通り」を「キングリイ通り」へ向かった。
(地図参照:右下部分)


写真中央左側の「オックスフォード・サーカス駅」出口から 右方向へコーデリアは舗道を歩く
階段を上がって 本文にある「ディキンズ・アンド・ジョーンズ」はもう二軒向こう側
「グレート・マルボロ・ストリート」をはさんで「リバティー百貨店」と並ぶ224番地にある
写真の建物は「ローラ・アシュレイ」があるファッションビル
街の喧騒と雰囲気は東京に例えると「新宿三丁目・伊勢丹前」と云った感じ 


グリーンのブラウスに鹿子模様のスカートで事務所へ向かうコーデリアは、ファッション好きの美人。
「ディッキンズ・アンド・ジョーンズ」より「ローラ・アシュレイ」で決めてもらいたい。
ところが『女には向かない職業』が出版された1972年には、85年にここへ出店した「L・アシュレイ」は存在しない。
私も「L・アシュレイ」で決めた美人とロンドンを歩いてみたい・・・・・残念!
(でも、トラファルガー広場で少し触れた美人と歩いたモンね。タネ明かしはまだなのだよ、ワトソン君)

ファッション話しのついでに、『女には向かない職業』にでてくるM&Sブランドは、
「マークス・アンド・スペンサー百貨店」のことだ。
この店は「オックスフォード通り」を、西の「マーブル・アーチ」方向へ行った「オックスフォード458番地」にある。
(地図参照:中央左の”P”のある場所)


どう見てもたしかだった。新しい表札は曲がって掲げられていた。
そのまことに正確な事実をはっきりと認めるに際して、コーデリアはベヴィスの教えてくれた”方法”
などをわざわざ採用する必要はなかった。
キングリイ・ストリートでごった返している遅い朝の交通ラッシュのあいだを縫って反対側の舗道に
渡り、猛り狂う配達ヴァンやタクシーの群をへだててようくそいつを眺め直してくれ、
とベヴィスは言ったのだ。
たいそうていねいにデザインされ、そしてたいそう高価だったそのすてきな長方形の青銅の板は、
たしかに半インチ曲がっていた。
一方にかしいでいるために、それはその文字づかいの単純さにもかかわらず、
いかにもわざとらしく、ばかげて見えると彼女は思った。
不条理な願望といんちきな繁盛ぶりを広告するにはまさにぴったり。

   プライド探偵事務所(三階)
    経営者 コーデリア・グレイ

   『皮膚の下の頭蓋骨−THE SKULL BENEATH THE SKIN』(小泉 喜美子:訳 早川書房)  


「リバティー百貨店」横の「キングリイ通り」入り口
本の描写からは予想出来ない狭い路地 しかも一方通行の出口
頭上ではカラクリ時計が午後4時を告げていた
路地からはコーデリアの「ミニ」ならぬ フランスの小型車「プジョー」が出てきた
『女には向かない職業』では同じフランス車でも「ルノー」が登場している


キングリイ通り8番地には、ビートルズ関係の商品を集めた「ビートルズ・ショップ」がある。
この店へ記者が行った時、リバプールに出張している店主に代わって店番をしていたのが、
ビートルズ・ファン・クラブ会長のリチャード・ポーター氏だった。
そして、この店の隣にかつてあったクラブで、ポール・マッカートニーはリンダに初めて出逢ったそうだ。



グローヴナー・プレイス − Grosvenor Place −

「ヴィクトリア駅」からウエストミンスター地区(City of Westminster)を、
北西の地下鉄駅「ハイドパーク・コーナー駅」へ、「バッキンガム・パレス・ガーデンズ」の裏を通るのが、
「グローヴナー・プレイス通り」だ。

ここ「バッキンガム宮殿」の裏側を取り囲む塀に面した通りは、ヒギンズ読者以外にはなんの意味も無い場所。
1983年に出版された『エグゾセを狙え−EXOCET』の導入部に登場するのが、この通りだ。
お馴染みの登場人物、SASの少佐、トニー・ヴァリアーズの後を、記者もたどってみる。


電気通信公社の黄色いトラックが角を曲がった。
雨のグローヴナー・プレイスは静かな佇まいを見せている。ほかの車輛は一台も見えない。
天候、そして時間が午前三時であるという事実を思い合わせると、べつにおどろくようなことでもない。
ハーヴィー・ジャクスンは速度を落とした。ハンドルを握っている手はじっとりと汗をかき、
滑りそうだった。
かれは黄色いオイルスキンのレインコートを着ていた。
三十歳代後半の大男で、黒い長髪が滅多に笑うことのない顔を縁どり、
高い頬骨の上の眼は黒い色をたたえている。
雨足が強く、ワイパーがあまり効果をあげていなかった。
かれは縁石沿いにトラックを停め、ダッシュボードから煙草の箱を取り出し、
一本引き抜いて火をつけた。
つぎに、窓を巻きおろし、道路の反対側の高い煉瓦塀に視線をむけた。
その塀はバッキンガム宮殿の後部の庭園を取り囲み、上部には有刺鉄線が張りめぐらしてあった。
かれは背後の仕切りを拳でコツコツと叩いた。すぐに仕切りが開き、ヴァリアーズが顔を出した。
「どうした?」
「着きました。準備はいいですか?」
「二分でできる。位置についてくれ」
(中略)
かれは三十歳、中背でたくましい肩の持ち主だった。眼は黒く、なんの感情も示していない。
以前、鼻の骨を折った形跡がある。乱れた黒髪はほとんど肩に届きそうだった。
黒いジャンプスーツとフランス空挺隊員のブーツは、かれをおそろしく危険な男に見せていた。
それから、疲れた悲哀のような雰囲気も漂わせていた。
その顔は、この世の中とそこで生きる人々についてあまりにも知りすぎ、
すべてに絶望した人間のそれだった。
かれは眼だけが出るようになった黒い毛糸のフードをかぶった。
トラックが車体を振動させながら道路を横断し、歩道に乗り上げて壁ぎわに止まったとき、
かれは作業台につかまって身体を支えた。

                           『エグゾセを狙え−EXOCET』(沢川 進:訳 早川書房)  



ヴァリアーズのトラックが わずか2フィートの間隔で横付けされた煉瓦塀
記者の手が届く程で あまり高い塀ではない
撮影者の背後が”不運”な「グローヴナー・プレイス側警備室」のある「グローヴナー・ゲイト」
 ここに写る有刺鉄線を乗り越え あの木の枝から内部へと彼は進入したのかもしれない・・・・



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取材秘話

朝から早速参りました。この周辺は、つごう2回訪れているんですね、じつは。
いよいよ記者は、ヴァリアーズの後を追って「バッキンガム宮殿」内部の取材へと、
長く険しい道を歩み出すと。
塀を乗り越え、警備する警官に「手馴れた動きで鋭い一撃」を、加えるわけにもいかないので、
とりあえず徒歩で、宮殿正面へと向かうのだった。