●登場人物●
岩井十一朗 四十一歳 男 セミナー受講者・広告宣伝マン
蛇之目樽子 三十八歳 女 セミナー受講者・主婦
根津 功造 七十八歳 男 セミナー受講者・無職
浜田 真希 十五歳 女 セミナー受講者・女子中学生
阿須浦春樹 十八歳 男 セミナー受講者・フリーター
綾小路 優 三十三歳 男 セミナートレーナー
東海林マキ 二十七歳 女 ワイドショーリポーター
鹿須 金次 三十六歳 男 カメラマン
富田 雄蔵 五十三歳 男 スポンサー会社社長
柊 アリサ 二十一歳 女 タレント
安藤ロイド ?歳 ? アンドロイド・漫才師
夕帆ノリオ 三百二十六歳 ? 宇宙人・漫才師
安田 一郎 二十六歳 男 刑事
権藤鬼三郎 五十四歳 男 元刑事
高見沢 宇 二十二歳 男 インナーヴィジョンソサエティー会長
僕は忘れない。
日向のにおいから夕餉の仕度をする煙のにおい。
夕暮れの豆腐屋の喇叭の音。夕刊配達の自転車の音。
空は暮れなずんでゆく茜色。
ボクたちはそんな逢魔が時の路地裏に、密やかに築いた秘密基地を、
あたりをうかがいながらそっと抜け出すと、急ぎ足で家まで走った。
あれからどれくらいの時が流れたのだろう。
誰かとあの頃交わした約束のなごりを、いまだ果たせないでいる感
覚と、ときおり訪れる寂しさの中で、胸にてのひらをあてて、思い
出してみる。
確かにボクは交わしたのだ。
誰にも言わない二人だけの約束。
洪水のように襲いかかる、めくるめくデジャ・ヴの中に僕は、じっ
と立ち尽くしながら、銀河の回転のはやさに思いをはせつつ、思い
出しているのだ。
そんな、感傷を裏切るかのように舞台に二人の芸人が登場する。
出囃子、賑やかに。
芸人1 ようこそいらっしゃいました、ロイドです。
芸人2 ノリオです。
ロイド(芸1) 二人あわせて・・・。
ノリオ(芸2) なんでやねん!
ロイド 早いな。君のつっこみ、いつも早すぎるで。
ノリオ アホなこと言いな。君が早いとこボケェへんで悪いんやないか!
ロイド 早いとこゆうたかて、ボクら今、出てきたばかりやで。
ノリオ 知ってるわい、俺かて一緒に出てきたんやから。
ロイド いや、そういう問題やあれへんね。
ノリオ ほな、どういう問題や。問題わからな、答えられへんで。
ロイド 何を答えるつもりしとんや。僕はなんも聞いとらへんがな。
ノリオ ほな、黙ってェな。
ロイド ・・・・・。
ノリオ ・・・・・・・・・。
ロイド ・・・・・・・・・。
ノリオ ・・・・・・・・・。
ロイド 黙ってたら商売ならんやろ!
ノリオ どないせェっちゅうんや、困ったもんやな、君も。
ロイド こっちのセリフじゃ!・・・あのな。
ノリオ はいな。
ロイド 僕ら、まだ自己紹介の途中やろ。
ノリオ あ、ホンマかいな。何をもたもたしとンねん。自己紹介せんと、お客さんに失礼にあた
るやろ。
ロイド 君が邪魔したんやないか。
ノリオ いやあ、それほどでも。
ロイド 謙遜するトコやないやろ、そこは。
ノリオ 何を怒っとるんや、さっきから。
ロイド のんびりしとんな、君は。
ノリオ いやあ、それほどでも。
ロイド 謙遜するトコやないやろっちゅうてんねん!
ノリオ そないぽんぽん言わんかて。
ロイド まあ、それでも君が自分で謙遜するっちゅうような、人間としての立派な態度をおぼえ
たことは、たいしたもんやと思うけどな。君、もう何年になる、地球に来て。
ノリオ そうやな、もうかれこれ・・・2年と3ヶ月か。
ロイド おっ、もうそないなるんか。早いもんやな。あれは、そうやな、僕がこの首筋にマイク
ロチップ埋め込んだ半年後やったな。雪の降る寒い晩やった。あの時君が・・・・・。
ノリオ (客席を見てからロイドに)ちょっ、ちょっと。
ロイド 何や、うるさいな。人が思い出に浸ってんのに。・・・あのころ君はまだ、たしか、頭
にアンテナ立てとったなァ・・・。
ノリオ あ、あのな。
ロイド うるさいっちゅうてんねん!せっかく今、君があの頃のボクの下宿に転がり込んで、イ
ンスタントラーメン食べながら、ほう、これは旨い食べもンでんな。わて、正直ゆうて
宇宙食のパサパサしたあの舌触り、苦手なんですわ。ゆうて・・・まあ、その頃は君も
関西弁やのうて、何やわけの判らん言葉しゃべっとったけどな・・・あの時の、君の姿
を思い出したとこやのに。・・・・そやそや、確か、僕はあの時、充電中やった。
ノリオ い、いや。あのな。感慨に耽ってるとこ、悪いんやけどな・・・・。
ロイド 何やもう、さっきから。
ノリオ やっぱ、自己紹介しよ。
ロイド 何や、今さら。
ノリオ 客席見てみ。
ロイド、言われて客席を見る。客席はあっけにとられているらしい。
ロイド (あわてて)うわっ、お客さん、ぽかーんと口開けて固まってはるがな。あかん(ノリオ
に)そやからゆうたやろ。このネタは自己紹介してからやないと、お客さんには何のこ
とか判れへんから、気ィつけなあかんて。ほんまにもう。(客席に)すんません。もう
一度、自己紹介からやらせてもらいまっさ。すんなへんなァ。
二人、気を取り直して、高座に上がったところから。
ロイド ようこそいらっしゃいました、ロイドです。
ノリオ ノリオです。
ロイド 二人あわせて・・・。
ノリオ ロイドとノリオ(すかさず)まんまやがな!
ロイド まあね。・・・しかし、何ですね。
ノリオ はいな。
ロイド 君の名前、変わってるね。何やて、夕帆?・・・ユウホちゅう名字やて?
ノリオ そういう君かて変わってるがな。安藤・・・・。
ロイド 普通やろ。
ノリオ まあな。名字は普通やけど続けて名前を呼ぶとロイドやろ?・・・安藤ロイド。変やで。
ロイド ええねん。僕、アンドロイドやから。君かて、フルネームで呼ぶと・・・夕帆ノリオ。
ノリオ 僕、宇宙人やからな。師匠がつけてくれはったんや。
ロイド そうか、まあ、僕ら、二人とも、あんまりこの地球の人間のことよう判りまへんけど、
一生懸命やりますさかい。
ノリオ どうか、よろしゅう。
二人 たのみますわ。
二人、客席に頭を下げる。お客の拍手。
ロイド いやあ、しかし君、大変やったね。
ノリオ 何が。
ロイド 君がこの地球に来た時。何やて?ダースベーダーに襲われそうになったんやてな。
ノリオ そうやがな。あのおっさんには参ったで。ヘルメットがずれて前が見えんようになった
もんやから、刀、めちゃくちゃ振り回しよんねん。その時の傷が、まだこの背中にのこ
っとって、時々、うずくねん。
ロイド 災難やったなあ。
ノリオ 君かて苦労してるんやろ、新しいデータ、ダウンロードすんの忘れると、すぐ時代遅れ
になるっちゅうやないか。
ロイド それだけやないねん、僕、欠陥品やろか。緊張すると、時々、昔のデータが出てきてご
っちゃになる時あんねん。恥ずかしいで〜これは。あ、もう、こんな話しとったら緊張
してきた。
ノリオ だ、大丈夫か。
ロイド う、うん。まあ、ダイジョー、ブイ!・・・・なあ〜んちゃって!
ノリオ ・・・・・古いな。
ロイド ・・・・・恥ずかしい。
ノリオ うん。
ロイド このあいだ、街でこれが出てしもて、恐いアンちゃんにぶちゃぶちゃに殴られた。
ノリオ 何やて、殴られた?そ、それはあまりにも・・・
と、ノリオが言いかけた時、客席からもノリオと同時に叫ぶ声。
ノリオ・声 (同時に)それは、酷いっ!
舞台上の二人、声に気付いて客席をすかし見ると、一人の客が立ち
上がった。
彼は白いマントにサングラス、頭に白いターバンを巻いて、そう、
誰あろう月光仮面その人である。彼の格好に驚く舞台上の二人。
月光仮面 (高笑い)ふはははは!そこの不幸な二人。私が現れたからにはもう安心するがよい!
強きをくじき、悪を蹴散らし、悪いやつを懲らしめる!
ノリオ やっつけてばっかりやな。
月光仮面 う、うむ。そいでもって・・・えと・・・・弱きを助け、お年寄りを大切にし、電車の
席を・・・・えっと、えっと・・。
ロイド 誰なのですか、あなたは。
ノリオ (ロイドに)聞くまでもないやろ、月光仮面・・・のつもりのおっさんやがな。
月光仮面、高笑いをしながら舞台に駆け上がってくる。
うろたえる二人。
ロイド あ、あの。今、僕達の舞台の真っ最中なんですが。
ノリオ すんません。おりて貰えますか。
月光仮面 (聞いていない。ロイドに)怪我はなかったか。
ロイド は?
月光仮面 悪漢に襲われたのであろう。もう大丈夫だ。
ノリオ 大丈夫じゃない、困ってますよ、僕達。
月光仮面 何!困っているならいつでもこの私を呼んでくれたまえ。君たちの話をさっきから聞い
ていたが、まだ、この世間には不幸な人間がたくさん存在するのだと言うことを、改め
て思い知らされた。ありがとう!(二人に握手)私はいつも、君たちの味方だ。この世
に悪がある限り、私の仕事は終わらない。幸い、君の怪我も軽いようだし、私には他に
も救わねばならぬ人々が待っている。(突然耳をすまして)おっ!どこかで主婦が助け
を呼んでいる。悪いが、今日のところは失礼する。では、さらば。また会おう!ふあっ
はっはっは!
と、高笑いをして去る月光仮面。あっけに取られる二人。
二人 えーと(去った月光仮面の方に向かって)・・・・・・もう、あんな奴とはやってられ
んわ・・・・・ちゃんちゃん!
逃げるように駆け去る二人。その後に、今まで二人に隠れて見えな
かったが一人の女性が姿を現す。年令は40歳前後。小太りである。
エプロン姿であるところを見ると主婦のようである。彼女は何やら
叫んでいる。
主婦 いい加減にしてくださいよ!失礼にも程ってもんがあるでしょう!あなたたちはそうや
って、いつもいつもハイエナのようにどこからともなく嗅ぎ付けて、哀れな小羊たちの
傷ついた体を、骨までしゃぶり尽くすのだわ!けだもの!覗き魔!偽善者集団よ、あな
たたちは!
と、主婦から遠く離れたところに、マイクを持ったけばけばしい女
性とビデオカメラで彼女を撮影中の中年男。
女性 (カメラに向かって)彼女はいったい誰に話し掛けてるんでしょう。はい、こちら、現場
の東海林マキです。ただいま本日午後1時50分ごろに発生した、白昼の主婦立てこもり
事件の現場に来ております。立てこもっている女性は年令38歳の都内在住の主婦,蛇之目
・・・えっ?何?(カメラマンに何やら話し掛けられ、それに応えて)・・・いいのよ。
犯人の名前を出した方が、誰でも喜ぶんだから。(なおも話し掛けられて)え、何よも
う。中継中に。・・・るさいわね!いいじゃない、容疑者でも犯人でも、どっちでも。
結局、悪人でしょ!もう、黙ってて!(改めてマイクを構え、カメラに向かい)失礼致
しました。えーと、犯人の名前は蛇之目樽子(ジャノメタルコ)。夫と2人の子供を持
ち、75歳の姑と同居の5人家族、あなたの隣にも住んでいそうな、一見ごく普通
に見え
たこの主婦の心の中に、いったいどんな狂気が巣くっていたというのでありましょうか。
満足に口も聞かない仕事ひとすじの夫。あるいは嫁いびりに情熱をかけた姑とのいさか
い。はたまた小学校から中学への進路に関する悩みが原因だったのかも知れません。桜
の花も満開のこの静かな住宅街の平和な昼下がりに、突如として起こった血なまぐさい
残虐な事件の前触れかとも思える、不可解きわまりない・・・・・ちょっと!あんた!
どこ撮ってんのよ!
気がつくと、カメラマンはリポーターとは逆の方向を一生懸命に撮
影している。
東海林 聞いてンの、リポーターは私よ!せっかく盛り上がってきたところなのに。ったく。金
ちゃん!おいこら、金次!聞こえてんのか!こらあ!
金次 はあ?
カメラマンがカメラを構えたまま、振り向く。
東海林 てめえこのヤロウ!何年カメラで飯、喰って(カメラが向けられているのに気がついて、
あわててにっこり)・・・で、ございますから・・・あとで、覚えてろよ・・でござい
まして、その・・・つまり・・・いっぺん、シメてやろうか・・・というような、感慨
にふける今日このごろでござります。ちょっと、ここでスポンサーからのお知らせを。
中継が切り替わったかのような間があって。
東海林 ちょっと、あんた、なめんじゃないわよこのあたしを。人がせっかく、事件のありのまま
の状況を克明にリポートしてんのに、どこ撮ろうとしてんだよ。
金次 あの、花を(と、道ばたを指す)
東海林 花だと、この・・パパラッチくずれがア・・・(怒りに震えて言葉にならない)
金次 デスクに言われたスから。花撮ってこいって。夕方のニュースのタイトルバックに使う
らしいんスけどなかなか可愛い花が咲いてなくて。桜は満開できれいなんスけど、いま
さらねえ。
東海林 うんもおうふがきぐげ・・・(意味不明)
金次 あ、でも東海林さんの「まゆつばリポート」もう撮りましたから大丈夫っス。ばっちり
っス。
東海林 マユツバというなマユツバと。「現代の迷える妻たちリポート」略して「まよつま・リ
ポート」よ。瞬間視聴率30パーセントを稼いだ人気コーナーにゆるせないわ。
金次 やらせと気づかれる前の話でしょそれは。
東海林 いいのよ、あの時はバラエティのパロディ企画のふりして切り抜けたんだから。視聴者
は誰も気づいてないわよ。
金次 そうスかねえ。
東海林 そうに決まってるでしょ!我が社の高視聴率ワイドショー「目撃バンザイ!」は、この
私のコーナーで持ってんだから。ここでもうひと頑張りさえすれば、私は念願のゴール
デンのニュースキャスター。あなたも昔の様に報道に戻れるかも知れないじゃないの。
金次 どっちでも・・・いいスよ・・・・その話は俺はもう。
東海林 何言ってんの。出世の糸口よ。チャンスよチャンスなのよこれは。どう?目からウロコ
が落ちたでしょ。
金次 耳にタコができそうス。まあ、とにかく、ばっちりっスよ。
東海林 何がばっちりなのよ!
金次 今日の分は撮りましたから。あ、いいっスか、煙草。
東海林 もう、中継が返ってくるわよ。あ、あのね。ちょっと!カメラ下ろしてどうすんの!
カメラ構えてお願いだから。ねえ金ちゃんったら。(相手にされないので)もうっ!
いいわよ自分でやるから。覚えてなよこの能無しが。
と、東海林、自分でカメラを地面に無理やり置いて、そのフレーム
に入ろうと姿勢をひくく、ぶざまな格好でマイクをかまえる。
東海林 (イヤホーンを押さえながら)どうしたの!こっちは準備万端よ!中継はまだなの!
声 お弁当もまだなんですけど。
いきなり背後から声をかけられて、驚きに声も出ない東海林。
いつのまにか先程の主婦が、無気味に立っている。
東海林 お、お、おどかさないで!いきなり何よ!
主婦 あのー、今日のお弁当。もう、こんな時間だし、おなかがすいちゃって。今日は出ない
んでしょうか、お弁当。
東海林 何、言ってんのよ!ちゃんと仕事をしてからでしょ!もうすぐ中継入るんだから。持ち
場に戻ってよ!ったく初めてじゃないんだから!
主婦 けれど、もうそろそろ帰らないと。会議室に入る時間なので。
東海林 会議?あなた、会社員じゃないでしょ。
主婦 いえ、あのパソ通の、つまり、フォーラムってやつなんですけど、その、この間、日本
中にメッセージを流して問いかてみたんですけど、そろそろ彼らが現れる頃なので。チ
ャットの方は、そうですね、なかなかスピードについていくのが大変ですね。でも、掲
示板にもメッセージを一応掲載してあるので、そちらの方もチェックしなければ。
東海林 わけの判らないこと言ってないで仕事してよ!
主婦 お弁当は・・・・。
東海林 あげるわよ!仕事をしたら!いい?あなたの様な主婦の変わりは掃いて捨てる程いるん
だからね、クビ飛ばされるわよ!わかってんでしょうね?
主婦 まあ、一度、火あぶりで処刑された身体ですから。クビのほうはまだ判りませんけど。
東海林 やめてよ、気味の悪い。ふざけてないでちゃんとしてよもう!
金次 ばっちりっスよ。(と、煙草の煙りを大きく吐く)
東海林 あんたは煙りにまかれてなさい。ああ、もういらいらするわね、どいつもこいつも。中
継はまだなの!中継車からのキューは!
金次 ああ、中継車ならもう次の現場に向かいましたよ。
東海林 ど、どういう事よそれ!
金次 言ってませんでしたっけ。あの、何か、爆弾予告の事件が発生したらしくて、急遽、そ
ちらに向かったんスけどね。
東海林 い、いつ!
金次 さあ、かれこれ二十分ぐらいになるんじゃないかなあ。
東海林 に、二十分!!!!
主婦 あのー(と、金次に)
金次 何ですか。
主婦 その、事件っていつ起こったのですか。
金次 事件?
主婦 爆弾予告とかおっしゃいましたよね。
金次 あ、ああ。詳しくは知らないっス。
主婦 そうですか(と、何やら考え込んでいる)
東海林 金ちゃん・・・・(呆然として)・・・・中継車がいないってことは、さっきからの私
のリポートは・・・。
金次 ああ、今回から録画になったんスよ、東海林さんのコーナー。
東海林 録画・・・現場最前線の私のリポートが・・・録画・・・。
金次 (考え込んでいる主婦が気になって)あの、奥さん。蛇之目さん。
蛇之目(主婦)・・・・はい?
金次 何かこころあたりでも。あの事件に。
蛇之目 いえ、ただ、私のメッセージが間に合わないのかも知れないと。
金次 メッセージって、先程のお話の、パソコン通信の。
蛇之目 ええ、まあ。
金次 いったい、誰に。
蛇之目 はあ、あの、おかしな話だと笑わないで下さいね。あの、実は昔の仲間を探しているの
ですけど。その仲間に送ろうと。
金次 どんなメッセージなんですか。
蛇之目 「かつて祖国フランスの為に、神の声に導かれ共に戦った勇敢な騎士の生まれ変わった
魂たちよ。今度は遠い東洋の異国のこの地において、再びわれらの立ち上がるべき時が
迫っている。どうか、連絡されたし。」あの、笑わないで下さいね。
金次 いえ、笑いませんよ。
蛇之目 良かった。話の判るかたで。
金次 生まれ変わった・・・と言うと、あなたも。
蛇之目 はい、私も遠い歴史の彼方では、一人の少女でした。私はその女の子の生まれ変わりな
のです。ああ、やはりここでこうしてはいられない。カメラマンの・・・。
金次 金次です。鹿須(しかす)金次っていいます。
蛇之目 鹿須さん。この(と、東海林を指して)方にあとで宜しくお伝え下さい。今は何もお判
りにならないみたいですから。私、これで失礼させていただきます。
と、去ろうとする蛇之目。それを追って金次。
金次 あ、あの。蛇之目さん。
蛇之目 はい?(振り向く)
金次 あなたは、昔、誰だったんですか。
蛇之目 私の名は、かつて百年戦争の折、仲間の騎士と力を合せ解放した祖国の地名オルレアン
とともに歴史にとどめられています。そのころ私も、少女でした。
金次 ・・・オルレアンの少女。
蛇之目 はい。また、いつか。(と、去る)
金次 ジャンヌ・ダルク!
金次、蛇之目の去った方角に駆け寄り、しばし、その姿を見送る。
東海林がようやく、この世界にかえってくる。
東海林 金ちゃん・・・金次・・・どこ?
金次 あ、ああ。ここにいますよ。
東海林 あたし・・・決めたわ。
金次 何をっスか。
東海林 (キッと顔をあげて)あたしはリポートを続けるわ!この白昼の主婦の籠城事件の続報
をテレビの前でかたずを飲んで、せんべいを食べながら待っている日本中の視聴者のた
めにわたしは、たとえこの喉が張り裂けようとも、喋り続けるわ、カメラの前で。たと
えこの腕が折れようとも、放しはしないわ、真実を伝えるマイクを。さあ、撮って!金
ちゃん!このあたしを!(事件現場のリポーターの顔になって)さて皆様、お待たせ致
しました。再び現場の東海林です。ただいま現場を遠巻きにしながらも、先程から警察
の必死の説得が続いております。容疑者からの要求など詳しい状況はいまだ判っており
ません。人質が果たして無事なのか。その安否さえ確認できておりません。
相変わらず、蛇之目の去った方角を見遣っている金次。
続く東海林のリポート。
東海林 あっ、現場で何やら変化が起こっている模様です!先程からの警察官の説得も、もうか
れこれ二時間は続いており、これは、持久戦に持ち込まれるのかと思われましたが、し
かし今、現場付近が騒がしくなって参りました。何やら・・何やら、起こっている模様
です。
彼女はリポートを続けながらも、徐々に主婦のいた場所に近付いて
いくとそこに突っ立っている金次と目があう。
東海林 もうっ!金ちゃん。
金次 東海林さん。
東海林 何よ、恐い顔して。
金次 もしかしたら・・・僕達は。
東海林 な、何よ。
金次 とてつもない特ダネを逃してしまったのかも知れない。
東海林 特ダネ?どういうこと?
金次 さっきの蛇之目さん、今日の予告事件の事を何か知っているのかも知れない。
東海林 何ですって!早く言いなさいよそれを。ちょっと!蛇之目さん!
金次 帰りました。
東海林 えっ!帰った?
金次 ええ、あなたに御挨拶もできずにすみませんと。
東海林 んなこたあどっちだっていいんだよ目を覚ませボケナス!早く追い掛けんのよ。
金次 そ、そうスね!
と、慌てて機材をかついで追おうとしたその時、ふたたび蛇之目が
二人の目の前に現れる。
二人 蛇之目さん!
蛇之目 お二人に言い忘れた事があったので。
東海林 私もそれが聞きたかったの。
金次 ぜひ聞かせて下さいお話を。
蛇之目 あの。
二人 はい。
蛇之目 もう結構です、お弁当。(と、去る)
二人、一瞬あっけにとられるが、我にかえって。
二人 そうじゃなくて!
と、追い掛ける二人。
桜の花びらがゆるやかに舞う。
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