夜の錦の盛り場で マドロスポーズで客を引く
陸(オカ)に上がった船乗りは 今夜も酒の海を泳ぐだけ
俺に近づきゃヤケドをするゼ 睨み効かせた強面で
ほろ酔い気分に悪酔い誘い 近づくお客をビビらせながら
あの人が行く あの人が行く 選ぶシノギを間違えながら
あの人が行く あの人が行く 夢に不器用なあの人の名は
KINさん KINさん 明日を睨んでる
くわえ煙草のあの人に 生まれた街を聞いたなら
潮風すさぶ北陸の 寂れたカモメ群れ飛ぶ港街
海に憧れ船乗りに 漁から帰りゃ女房は消えた
ぽつりと冷えた卓袱台に 幼い娘の写真が笑う
あの人が泣く あの人が泣く 逢えぬ我が児を追い掛けながら
あの人が来た あの人が来た 流れ流れてこの街の名は
KINSAN KINSAN 錦(ニシキ)三丁目
夜の錦の盛り場は 今夜も逸れた男で溢れ
娘たずねるあの人は 風吹く噂 耳をそばだてて
その日暮らしの命をつなぎ 斜に構えた強面で
酔いに浮かれるこの街の 近づくお客をビビらせながら
あの人が行く あの人が行く 寄り付くお客を蹴散らしながら
あの人が行く あの人が行く 娘の面影 見かけたような
KINさん KINさん 街に沈んでる
あの人が生きる あの人が生きる 逸れた命をやり直そうと
あの人が笑う あの人が笑う いつか出逢える幸せの朝
KINさん KINさん 夜明けは近い
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■Self Liner Note
どこの街にもある繁華街。
そこには夜毎、ひとときの酒に心をゆだね、一日の終わりを密かに祝い、
明日への始まりを心に願う男と女たちの群れが集う。
名古屋市錦三丁目。キンサンと称されるその通りは、今夜もそんな人の群れで一杯だ。
ほんの少しの疲れと傷を癒してくれる不思議の街------KINSAN。
僕はこのストリートの近くにあるライブハウスで、一ヶ月に一度歌っている。
夏の終わり頃、船乗りの話を友達としていた僕は
その友達から錦三丁目あたりにマドロスみたいなおじさんがいるよ、と聞かされた。
何故?・・・何故に酒と色と金の渦巻く楽園に船乗りなんぞがいるのだろう?
僕の心はその男への興味に囚われた。
ほどなくして僕の月イチのライブの日がやってきた。
ライブ終演後の僕はその友達と一緒に、普段あまり行かない、喧噪とネオンの光に彩られた雑踏へと足を踏み入れていた。
その男に、ひとめ会うために。
友達の話によると、彼はあるお店の入り口に立ち、訪れるお客様を迎えるお仕事をしているそうな。
この街にはたくさんそういう人が溢れている。しかし、それがどうしてマドロスなのか?
白地にブルーの横縞のシャツでも着ているというのか?
あるいはマドロスパイプでもくわえているのだろうか?そんな時代は、遥かな彼方。憧れのハワイ航路の頃のお話である。
彼よ・・・想像と戯れていた僕の耳もとに友達の言葉が届き、我に返った僕の目の彼方にその男は立っていた。
彼はたしかにマドロスだった。
地下にあるお店へと続く階段。その穴は遥かに深く、奈落の底へと続いているかのようにも思えた。
その、狭き入り口。階段を三段程下ったあたりから、片足をちょい上の段に掛け、斜に構えた彼の姿があった。
イキでイナセなポーズでキメた彼の姿を、そっくりそのまま港に運び、船を舫う柱の脇に立たせたならば、
どこから見ても、はるか南洋の沖の島に残して来た異国の女性を思う船乗りの姿そのものだった。
ただ・・・・・・顔が恐い。彼はおそらく海の向こうでも知られた荒くれだったのだろう。
お客様を迎える仕事についているからには、もう少し柔らかい表情が欲しいところだが
しかし、その強面も彼の不器用な頑なさから来ているものに違い無い。
僕がぼんやりと彼の姿を見ていると、目が会った。
ギロリと睨まれた彼の一瞥で僕はその場を動けなくなった。
竦んだ僕の姿を認めると彼は、ゆっくりと階段を登り、僕に近づいて来る。そして傍らに立ち、僕の肩をポンと叩いた。
彼は懐から舶来煙草を取り出すと僕にすすめた後、
自分も古ぼけたライターで煙草に火をつけ旨そうに煙を吐き出した。
煙は冷たい風に吹かれネオンの光と同化した。
そして、彼は語り出す。
彼の生い立ちから今までの人生。船乗りに憧れ、始めての航海から幾つもの危険に身を晒し
何度も出逢った命拾いの奇跡と、幾人もの人との不思議な縁の話。世界中の港街に残して来た女達との思い出。
そして、家族との別れ。
我が子との再会を果たす為に・・・・・・彼は海を捨てた。
黙って俯いて話に聞き入っていた僕の視線の傍らに、
ふと誰かがよぎった気配を感じて僕は視線を上げた。
そこには相変わらずの雑踏があるだけだったが、
酔客の入り乱れる光の海の中に
ひとりの美しい女性の姿を見た気がして、慌てて僕はその人の影を求め見渡した。
同時に僕の耳に声が届いた。微かに・・・とても微かに・・・
・・・ オトウサン・・・。
彼の娘だ!すぐ近くにいるよ!
彼にそれを知らせようと僕は立ち上がった!ねえ!今・・・。
・・・・・・彼は、何事も無かったかのように、僕がこの場所を訪れた時と同じ様子で
相変わらずお店の入り口、階段の三段下からキンサンの街を眺めていた。
ふたたび僕と目があったが、彼の視線は僕の事など知らない風でそのまま通り過ぎ、
通りの向こうのコンビニに注がれ留まった。
僕は確かに・・・彼と話したはずだ。
確かに今ここで・・・洒落た洋モクに火をつけてもらいながら・・・。
確かに・・・僕は・・・・。
・・・帰ろうか・・・友達がそっと言葉を投げてくれた。
僕のココロを気遣いながら。
頷いた僕は彼の名前を、聞き忘れたような気がして
もう一度振り返り、錦三丁目の街を睨み続ける彼の姿を目にした。その時、知った。
彼の瞳の奥に宿っている深い優しい光の存在に。
彼の瞳が僕に語りかけてくる。
流れ者に名前はいらない。好きに呼んでくれ・・・。