地球人の歴史  1.人類の起源


神話と進化論

 「地球人の歴史」というからには、人類がどのようにして地上に現れたのかについて説明しておかなくてはならない。

 世界各地に、人類の起源を語った神話がある。中国の神話では、女神が泥から人間をつくったとある。最初はひとりづつ丁寧に作っていたのだが、やがて面倒になったのか、泥の中に綱をひきずって、跳ね上げた土をそのまま人間にしたのだそうだ。きちんと作ったものは富貴な人となり、いいかげんに作ったものは卑賤な人間になったという。

 また、キリスト教徒が「旧約聖書」とよぶユダヤ教の聖典では、神が土の塵からアダムという男がつくられ、アダムの肋骨からイブとよばれる女がつくられたとある。その他、北欧神話は木から、マヤの神話はトウモロコシから人間が生まれたと語っている。

 残念ながら、そのような夢とロマン(?)にあふれた神話群は、現在ではあまり面白みのない「進化論」にとってかわられ、忘れられてしまっている。

 進化論の基礎は、19世紀イギリスの学者ダーウィンがつくった。生存競争に生き残った個体が子孫を残すことで、生物は少しずつ環境に適応する方向に進化するというものだ。

人間も生物だから例外ではないが、当時多くの人が誤解した(そして今でも誤解される)ように、人間はサルから進化したわけではない。かりに野生のサルを何十万年観察したところで、人間にかわることはありえない。ダーウィンが言いたかったのは、人類はサルと共通の祖先から枝分かれしてきたということである。


ヒト科の特徴

 生物学的にいえば、われわれ現生人類は、霊長目のなかのヒト科ヒト属ということになる。

 霊長目とはサルの仲間である。7000万年前に出現して以来さまざまに枝分かれして、地球上に広がった。キツネザル科、メガネザル科、オナガザル科、テナガザル科、ショウジョウ科など十数の科に分類される。ヒト科もその中にふくまれる。

 ヒト科をほかのサルたちと区別するポイントは、「直立二足歩行をする」かどうかである。脳の大きさなどは分類には関係ない。

 ヒト科に近いといわれるチンパンジーも、二本足で立ち、歩くこともできる。しかし、その状態を長く維持することができない。チンパンジーとヒトとでは、骨格が大きく違うためだ。主な違いには、以下のようなものがある。

 1.チンパンジーの背骨は頭骨の後ろについている。それに対し、ヒトは真下についているので、頭を支えることができる。

 2.ヒトの背骨はS字形に曲がっており、腰に重心が位置するようになっているので、バランスよく立つことができる。

 3.チンパンジーは大腿骨が骨盤から真下にむいてついているのに対し、ヒトの大腿骨は内側に向いている。これにより、上体を左右に揺らさずにまっすぐ歩くことができる。

 4.チンパンジーの親指は足の内側についており、手のようなかたちをしている。歩行ではなく木の上での生活に適した形である。これに対し、ヒトは五本の指が足の前側に同じ方向についている。しかも「土ふまず」があり、体重を足の裏の3点でしっかり支えるようになっている。

 このような特徴をそなえて、ヒトの直立二足歩行が可能になったのだ。


大地溝帯で生まれた人類

 進化の過程で、ヒト科の中にもさまざまなの種が生まれてきた。しかし、その中で現存しているのは私たち(ホモ=サピエンス=サピエンス)1種のみである。それ以外は、すべて絶滅してしまってどこにも存在しない。

 そのため、人類の先祖を知るための手がかりは化石だけということになる。しかも、まるごと一体分の化石が見つかることはまれで、ふつうは部分的にしか出土しない。研究者は、ときにはたった1本の歯から種を特定しなければならない。

 今のところ、もっとも古いヒト科の化石は500万年前のもので、エチオピアで発見された。

 ここは、アフリカ大地溝帯(グレート・リフトバレー)にあたっている。紅海を経て、エチオピアをとおり、ケニア、タンザニア…と東アフリカを縦断する大地の割れ目である。現在も毎年数cm広がっており、数百万年後にはここを境にアフリカはふたつに分かれてしまうともいわれる。

 地溝帯周辺からは、猿人(アウストラロピテクス属)とよばれる数百万年も前のヒト科の化石がからたくさん発掘されている。このことから、「イーストサイドストーリー」という人類誕生についての仮説がとなえられている。それは次のようなものだ。

 今から1000万年前、アフリカ東部が割れはじめた。地下からマグマがふきだし、キリマンジャロ山やケニア山などの高山があらわれた。この地方は熱帯の大森林におおわれていたのだが、湿った空気を運んでいた赤道西風が山々にさえぎられたために、徐々に乾燥して、草原にかわった。森林に住んでいた多くの類人猿が絶滅するなか、直立二足歩行を獲得したヒトの先祖だけが草原に適応し、生き残ることができたのだと。

 この仮説によれば、東アフリカこそ人類発祥の地ということになる。

グレート・リフトバレー(アフリカ大地溝帯)

グレート・リフトバレーの地殻変動により、湿った赤道西風がさえぎられてアフリカ東部が乾燥化し、森林が草原になったことが、人類の誕生に関係があるとみられている。

ミトコンドリア・イブ

 約180万年前になると、原人(ホモ・エレクトス)とよばれる人類が登場する。猿人に比べ、骨格はずっと現生人類に近くなった。直立歩行が完成して長距離の移動ができるようになり、脳の容量も、現代人の2/3ぐらいまで増えた。

 原人の化石は、アフリカ・アジアの各地で発見されている。ジャワ原人、北京原人などが有名だが、アフリカ大地溝帯で発見された化石が格段に古い(160万年前)。そのため、大地溝帯にいる何種類かの猿人のうちどれかが原人に進化し、100万年ほど前にアフリカを出ていって、ユーラシア大陸に広がったと考えられている。

 およそ30〜20万年前になると、現代人と同じ知能・身体構造を持った新人(ホモ・サピエンス)があらわれる。これは、アフリカやユーラシア大陸に広がっていた原人が、それぞれの地域で進化していったものだと考えられていた。

 ところが1987年、とんでもない説が発表された。現在の人類の祖先は、29〜14万年前にアフリカに住んでいた、あるひとりの女性であったというのだ。

 これは、DNAの研究からでてきた仮説である。細胞内のミトコンドリアがもつDNAは、ヒトなど高等生物の場合、母親側からしか遺伝しないことがわかっているので、これを調べることで母方の先祖をたどることができる。そして、アフリカ人、アジア人、オーストラリア人、ヨーロッパ人、ニューギニア人からとったミトコンドリアDNAを比較して家系図をつくった結果、アフリカ人から他の人種が枝わかれしていったことがわかったのである。

 この説によれば、現在の人類は、20万年ほど前にアフリカに出現した新人から枝分かれしていった。世界各地にいた原人たちは、子孫を残すことなく絶滅したということになる。ちなみに、人類共通の先祖と想定されるアフリカ女性は、旧約聖書に登場する最初の女にちなんで「ミトコンドリア・イブ」と名付けられた。

 しかし、人類は原人が世界各地で進化したものなのか、それともアフリカ単一の起源なのかは、まだ結論は出ていない。


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