「紅い花」




 秋も深まり、かつて貴族達の別荘地として賑わった山深い地は、
まだ時折、暖かい日がある都市部とは違い、
早々と冬の到来もまじかに迫り、肌寒くなる日々が多くなってきていた。

首都星オーディンとはいえ、もともとはその昔、時の皇帝の寵を失った寵姫が、
余生を送る為に建てられた館があったここは、帝都や市街地からは遥かに遠く、
その交通の不便さと共に、もっと首都に近く、より風光明媚なフロイデンに、
皇室や大貴族達がこぞって別荘を建てた為、
今では、世捨て人同然の人がひっそりと暮らす、寂れた場所になってしまった。

「まぁ〜綺麗!」

素直に感嘆の声を上げたのは、ここでは珍しい若い女だった。
人目を避ける為、夕暮れ近くに散策をしていた彼女に、
偶然見つけたそれは、半年以上前の出来事を思い出させた。




あの方が心配だ

 その連絡が来たのは、補給線の防衛の為、出撃していた所属する部隊の艦隊が、
オーディンに帰還した日の夜のことだった。
補給部隊は無事、味方がいる宙域に届いた。
ただ、予測していたとはいえ敵方のゲリラ的強襲に、
護衛の艦にかなりの犠牲がでてしまった。
その多くが、新兵が多数いる、新規配属の艦だった。
彼女の上官の乗った艦は無事だったが、近くで爆散した艦を救えなかったことに、
上官はかなり落ち込んでいる。

オーディンで留守を任されているカテリーナに、
同僚が助けを求めるように連絡してきたのは、そんな訳だった。



 仕事を終えた後、一旦官舎に戻り私服に着替え上官の私邸に向かった。
古くから使えている執事ハンスが、彼女の顔を見ると安堵した表情をみせた。
「私の方から、ご連絡をしようかと、考えあぐねていたところでございました」
「そんなに・・・」
酷い有様なのですか?と口には出さなかったが、言いたい事はハンスに伝わったようである。
ハンスの話によると、帰ってくるなり食事もとらず、強い酒を煽っているという。
彼でさえ、近づけようとしないのだ。
「お気お付け下さい・・・」
あなた様だけが、頼りなのですがと言いながら、
酒に溺れた主人が、彼女に乱暴しないか心配している。
カテリーナは、ハンスが彼女と主人が深い関係なのを知っていると、その時気付くと共に、
彼女に連絡してきた同僚にも、気付かれていると思った。
知らなければ、連絡などして来ないだろう。
コンコン
軽く書斎の扉を叩く
「私です・・・・失礼します」
返答が無かった事を幸いにして、するりと中に入った。
窓際の古いランプの薄明かりだけの中、グラスを手にしている。
側においてあるボトルは、すでに空になりつつあった。
何しにきた・・・・
と言いたげに、煽ろうとしているグラスを取り上げると、
「私にもください」
と一言言って、琥珀色の中身を飲んだ。
ケホケホ
喉を焼くような強いアルコールに、思わずむせ返してしまった。
すっと伸びた手が、彼女からグラスを奪いテーブルに置くと、
再び手が彼女に向かって伸びてくる。
「今夜は、駄目です」
きっぱり言い切る女に、一瞬手が止まるが、その後は迷うことなくその体を抱き寄せた。
俺を慰めに来たのだろう・・・



 「だ 駄目です・・・本当に・・・」
抵抗を試みたが、白いブラウスの首もとのリボンをするすると解かれ、
前のボタンが外されていった。
下着の上から胸の谷間に顔を埋め、片手をスカートの中に入れ太腿を撫で回される。
待って・・・
せめて・・・言いかける唇を奪われ、それ以上の言葉を塞がれた。
強いアルコールの味がする舌が、口中に割って入り彼女の舌に絡みついてくる。
下着姿にされ寝室に連れて行かれると、真正面に座らされ、彼は自身の服を脱いだ。
痩身だが、軍人として適度に均一についた筋肉が、目の前で露になった。
カテリーナは、今から要求される事が判っていた。
予想通り、奉仕する事を告げられ、諦めて実行し始めた。
これで満足してくださるならと・・・
「ん・・・んっ・・」
くぐもった声が、シンプルに統一された寝室に響く。
あまり好きでは無い行為を、今夜は無理強いさせられた。
数ヶ月ぶりの性の放出に我慢が出来ず、彼が果てるのは早かった。
飲め・・・
乱暴な口調で命令され、渋々従い飲み干した。



 結局、流されるまま抱かれてしまった。
来るのではなかったと、少し後悔する。
今夜・・・いや後2〜3日は危険だったからだ。
でも、荒れている恋人を、見捨てる事など出来なかった。

熱く情熱的に、肌をはう唇と舌を拒めない。
出撃する準備の忙しさと、任務に出てから帰還するまでの間、
2人だけになる時間も無く、久し振りの情事に溺れた。
いつもより激しく、何度も求められ、貫かれ、揺さぶられ、体の奥に放たれた。
やっと解放された後、ベッドの上で目を覚ますと、
まだ気だるさが残る体を、そっと隣で眠る人を起こさないようにしながら、
シャワールームに向かう。
しばらくして水の音を聞きつけ、アイゼナッハもシャワールームに入ってきた。
後ろから抱きすくめられ、湯に打たれながらまた体を求められる。
大きな手が、彼女の両胸を鷲掴みにしながら、先の敏感な突起を弄んだ。
「あぁ・・・」
首筋に再び唇がはう
先ほど体のあちこちに付けられた、薔薇色の情痕を、長い指が一つ又一つと確かめるように
なぞっていった。
やがて片手を女の秘所に伸ばし、奥の中へ指が深く挿入された。
二本の指が内側を撫でるように動めいた。
徐々に体が熱を帯び、白い肌が桃色に上気してくる。
シャワーの湯とは、違うものが足の間から溢れていた。
「も もう 駄目・・・お願い・・・」
彼はゆっくり指を抜くと、カテリーナの両腕を壁に押し付け体を支えさせ、
一気に後ろから彼自身を受け入れさせた。
「ひっ・・・」
指とは違う、硬く太い熱いものを受け入れるのに、悲鳴がもれた。
アイゼナッハは激しく腰を動かし、彼女の体を突き上げてくる。
待ち望んだ衝撃に、頭の中が吹き飛びそうだ。
「エ エル エルンスト・・・あっ・・・あぁぁ・・・」
絶頂に向かって締め付ける彼女に、男も頂点に達しようとし、
再びカテリーナの体の奥に、精液が注ぎ込まれた。


バスタブに彼に体を抱き抱えられ、ゆっくりと疲れきった体を湯に浸かった。
彼女のお気に入りの、薔薇の香料の入った入浴剤をいれて貰うと、
いたわるように背中に湯をかけてくれた。
「まるで・・・赤い花びらのようだ」
自分が強く吸ってつけた痕を、人事のように言ってのける。
「いけない人・・・」
もう、この方から、離れられない・・・・
カテリーナは心底思った。


翌朝早く、カテリーナの官舎に、紅い薔薇の花束にカードが添えられ届けられた。
(昨夜は、すまなかった)
一言だけ書かれた送り主の名が無いプレゼントを、
花言葉の意味を考えると共に、昨夜の揶揄かしらとも思いながら、
そっと抱きしめ彼女は微笑んだ。



 上官であり恋人でもあるアイゼナッハが、
貴族令嬢と、秋にも再婚するとの話を聞かされたのは、
それから、まもなくの事だった。





目の前でハラハラと散る、名も知らぬ紅い花



おそらく、あの夜この子を授かったのだと、目立ち始めたお腹をさすった。
仕事をなくし、愛する人をなくし、すべてを失った時、
この子だけが残された。
今頃、あの方は新しい奥方を迎えている頃だろう。
寂しさを振り払うように、カテリーナは飽きることなく、
何時までも舞い散る花を見つめていた。







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