MUSIC FIGHTER
― type:rhythm ―




「礼!」
「「ありがとうございましたぁ!」」

ここは不動峰中のテニスコート。
女子テニス部が、青学との練習試合を終えたところである。

隣のコートでは、不動峰の男子部員達が練習に励んでいた。

試合後、その場でミーティングを開く青学女子テニス部。
「…解散!」
しばらくして、顧問の号令がかかった。

(来る……!)
その声に、男子部員一同、息を飲む。
すると…
青学女テニの輪の中からつかつかと歩み出てきた女の子が、彼らに向かって叫んだ。

「勝負だ不動峰!!」

(…やっぱり来た
―――!)

この女の子…青学女子テニス部の2年生エース・ は、
練習試合で不動峰中に来るたびに男子部員とも試合をしていく。
女子同士の試合では飽き足らず、半ばそれが楽しみになっているようなのだ。

一方の男子部員達も、かわいい女の子と試合ができるのは良いのだが、
相手は根っからの負けず嫌いなので、やりにくいことこの上ない。
彼女との直接対決は、できることなら避けて通りたいと思っていた(というか、観戦希望)。

「さーてっ、きょ・う・は・だ・れ・と・や・ろ・う・か・なー♪」
は今日もやる気満々。

反面、男子部員達は必死に“いけにえ”を選考していた。
「俺には関係ないね。」
「無責任だぞ内村!」
「こうなったら俺がアレ(=波動球)で仕留めるしか…」
「いや石田…それはあの子が死ぬから…」(←死にはしないと思うが)
「そんなに言うなら桜井、お前が行けばいいだろ!」
「そ、それは…あっコラ逃げるな森ー!!」

「…っていうかさぁ…」
そんな中、伊武がぼやき出した。
「こういうことになったのって、もとはと言えば神尾のせいなんだよね…。だいたいあの時…」


*     *     *


コトの始まりは半年ほど前。

その日も、この場所で不動峰と青学の練習試合が行われていた。
しかし、この時すでに不動峰中に敵無しの強さだったは、オーダーから外されていたのである。

「だ
――― っ! つまんないよぉ! 試合やりたいやりたい――― ッ!!」
目の前で行われている試合に参加できないもどかしさで、はだだをこね始めた。
ちゃん、落ち着いて…」
「帰ったら私らが相手してあげるから…」
「やだーっ! 今すぐやりたい
――― ッ!!」

と、その時声をかけたのが神尾だった。
「どうしたのこの子?」
「あ…なんかテニスしたくてしょうがないみたいなんですけど、今日は補欠で…」
「ふーん。ならあっちで俺と打ってない? コート空いてるし。」
「はい、お願いします〜(助かった…)。ほら、良かったねちゃん!」
「うんっ!!」

その時は普通に打ち合いをして済んだのだが…。
以来、は男子部員との試合に味を占めてしまったようで、こうして今に至るのである。


*     *     *


「あの時神尾がうかつに声かけたりしなきゃこんなことにはならなかったんだよ…
 後先考えないで行動されて迷惑するのはこっちなんだから少しは気をつけてほしいんだよね…
 そもそも神尾っていっつも……(以下略)」
「分ーかったよ! 分かりましたよ! 俺が行けばいいんだろ俺が!!」
伊武のぼやきにうんざりした神尾が、たまらず勝負を買って出る。

「よーし、今日の相手はリズムに決定ー!」
大喜びの。だがその時…

「お前ら、そんなところで何をやってるんだ。」
男子テニス部部長の橘が、遅れてコートにやって来た。
「…ん、ああ。さんが来てたのか。」
「こんにちは、橘さん。」
「うちはこれから紅白試合なんだ。すまないがまた今度にしてくれないか。」
「はぁーい…」

さすがのも、橘には逆らえない。
しぶしぶ返事をして、コートを後にするのだった。


*     *     *


それから数日後…

「「あ」」
商店街のゲームセンターで、ばったり会った2つのグループ。

一方は、神尾・伊武・橘 杏の不動峰トリオ。
もう一方は、桃城・林・池田・の青学2−8カルテット。

「リズム、こないだの決着つけるぞっ!」
ビシッと神尾を指差し、が言い放つ。
「げ、マジかよ…」
「だってしばらくは不動峰との練習試合ないんだもん。それまで待ちきれないよ。」
「てか、ここでどうやってテニスすんだよ。」

「別にテニスじゃなくても勝負はできんだろ。」
から聞いて事情を知っていた桃城が、2人の間に割って入る。

「アレなんかどーよ?」
と指差したのは…

「「ダンスダンスレボリューション!?」」

音楽に合わせて、画面に表示される矢印の指示通りにステップを踏む…という、アレである。
(注:「古い」と言われようが当方は一切関知いたしません。)

「いいだろ、。」
「うんっ」
「神尾は?」
「しょーがねぇ、やってやるか。」

(ひっかかったな、神尾。はダンレボにかけては俺とほぼ互角。そうそう敵う奴はいねーよ…)
にやりと笑う桃城。だが神尾は神尾で、
(種目が悪かったな、さん。俺はこういうの、超得意なんだぜ。)
と、不敵な笑いを浮かべていた。


*     *     *


「1ゲーム2曲で勝負だ。当然、得点の高いほうが勝ちだからな。それじゃあ、いくぜ?」

“MUSIC START!”

2人とも、好調な滑り出し。
「…へぇ、けっこうステップ速ぇーじゃん。」
懸命にステップを踏むを、神尾が挑発する。

「は、速い、なんてスピードだ!!」
「どーなってんだ、アイツらスゴイぞ!!?」
ハイレベルな戦いに、ギャラリーが集まってくる。
「ふふっ…スピードに関してはアキラ君の右に出る者はいないわ。」
杏が嬉しそうに言う。
「リズムに乗るぜ♪」

(くっ…気に入らないな…)
余裕しゃくしゃくの神尾にムッとしたは、得意技を繰り出した。
足をクロスさせ、体を大きく傾けてのステップ。
普通の人なら足がもつれてしまうところだが、はこれを難なくやってのけた。
「スッゲェ!! 何だあの超アングルステップ!!」
ギャラリーが沸き上がる。

「さすがだわ、あんなステップをいとも簡単に踏むなんて…
 でも運がないわねさん…相手が不動峰のスピードエース、アキラ君じゃなければね!」
「リズムに乗るぜ♪」
先程のステップで少しリードしていただったが、神尾の追い上げであっという間に同点になってしまった。
「もう追いついてる!!」
「は、速ぇぇ
―――!!」

「その超アングルステップが命とりだぜ、もっと試してみろよそのステップ!」
(調子づいちゃって…)
はもう一度、同じステップを繰り出した。だが完全に追いつかれていて…
「遅いって♪」
「っ!」
バランスを崩したは、転倒してしまった。

選択した曲の難易度は最高。テンポも速く、足がもつれるのも無理はない。
「普通の奴なら矢印を踏むため必死に左右に動かされて…スタミナも奪われるんだろうな。でも、俺には丁度いい速さだぜ。」

神尾がを見下ろす。は急いで立ち上がると、ダンスを再開した。
(何がスピードのエースよ…フザけんなっ)
「!」
だが、再び足を滑らせ、バランスを崩してしまう
―――

その時
―――

はとっさに横の手すりに手をかけると、そこに体重をかけて跳び上がり、
くるっと体を一回転させてもとの位置に着地した。
 をナメんなよっ!!)

「な、何だ今の!?」
「ブーメランみたいに回転したぞ!!」
「ブーメランステップ!?」
林と池田が、驚嘆の声をあげる。
「スゲー見たか!?」
「見た見た!ブーメランステップだってよ!!」
ギャラリーも騒ぎ出す。

「へえ…魅せるじゃねぇかさん。じゃあこっちも…リズムを上げるぜ♪」
ますますリズムに乗る神尾に対抗すべく、はもう一度ブーメランステップ(決定!!)を試みた。
「おおっ、出たブーメランステップ!!」
一瞬ビクッとする神尾だったが、は違う矢印の上に着地してしまう。

「さっきのはまぐれだね…気にすることはないよ神尾。」
伊武が声をかける。
「まあな、だけど油断は勝敗に関わる。(ねじふせてやるぜ、俺のスピードで) リズムに乗るぜ♪」

その後もは新技ブーメランを試みるが、7回連続で失敗。
神尾が大きくリードしたまま、1曲目が終了した。


*     *     *


「…はあっ…」
曲と曲の合間、手すりにもたれかかって一息つく
(あの大技さえ決まれば…リズムを倒せるのに…)

「…つまんねぇ色気出しやがって。」
そんな彼女に、桃城が声をかける。
「一発必中の大技に頼んなきゃあんな相手に勝てないほどヘタクソだったか?
 、お前のダンスはどういうダンスだった?」
「……」

一方、神尾サイドは…
「いい調子だね、神尾。」
「ああ、負ける気がしねぇ。今までにないくらいリズムに乗れてるぜ。」
談笑する神尾と伊武。

そこに杏がやって来る。
「アキラ君、あなたのリズムが狂ってるわ!」
「杏ちゃん!? 神尾は絶好調じゃ…」
「いつもよりテンポが速すぎるのよ。ちょっととばしすぎだわ。」
「…………!」


*     *     *


かくして、ダンス再開。
2曲目の前奏が流れ出す。

「このままじゃ終わらせない…絶対にね!!」
隣にいる神尾をチラッと見てから、が言い放つ。
「…そりゃこっちのセリフだぜ。」
神尾も負けじと言い返す。

「どうやら迷いがなくなったみてぇだな。」
桃城がにいっと笑った。
「でもちゃんの不利は変わらない…」
心配顔の池田に、桃城が言う。
「どっちにしろタダじゃ終わんねーよ。ああなったは、しーつこいから。(どっかの誰かに似て、な…)」

ダンスのほうは、全くの接戦。
速さの神尾・粘りの、両者互いに一歩も引かず自分のステップをキープしていた。

(こんなしぶとい相手は初めてだぜ、よくやったよさん。でも…もう終わりだ!)
「出たぁ! クイックステップ!」
神尾は細かなステップで着実に得点を重ねていく。
対するも、ぴったりとその後をついてくる。
(しつけぇんだよさん。アンタにもう勝機はねぇんだよ、もうヘトヘトだろ…?)
「さっさと諦めろよ!!」

(誰が諦めるって?)
クロスステップ8連発をきめたは、ついに同点に追いついた。

曲も終盤に差しかかった。
きわどい接戦も、あとわずかで勝敗が決まる
―――

神尾は、すっかり息が上がっていた。
(並みのステップじゃ追いつかれるってことはよく分かった…ならば、リズムを上げる!!)
神尾、最後の猛攻!
「いいスピードだわ! アキラ君」

一方のも、得意のクロスステップでラストスパートをかける。
(この子、ここへ来て最もキレのあるステップ踏みやがった!!)
神尾は、余裕のない表情を浮かべる。

だが、その時
―――

各々、次の矢印を予測して動いたことで明暗が分かれた。
台上後方で、しかも後ろ向きに立っているに対し、次の指示は「↑(前)」。
これに対し、神尾はすでに次のステップに入る体勢を整えている。
「悪いなさん。運も実力のうちだ。」

しかし
―――

はすばやく重心を移動させ、前方に飛び込んだ。
その体が宙に浮く
―――
そして、無理な体勢をとりながらも、ぎりぎりで「↑」の矢印を踏んだ。

「なんだって…?」
驚きの表情を隠せない神尾。

「誰がもう終わりなんて言ったのよ…たとえ残り1フレーズだろうと何だろうと、絶対諦めないんだから!!」

「…また…同点…」
ゼイゼイと肩で息をする神尾。
「やっぱりちゃんとはやりたくないな。」
「同感。」
林と池田が、顔を見合わせる。

そして
―――

“FINISH!”

結果は、僅差での逆転勝利
―――


*     *     *


「…ハア…ハア…」
神尾は、乱れた前髪をかき上げながら天を仰いだ。

(そういえば…なんか前にもコレと同じような展開が…
 ………!!
 まさかさんってアイツと何か関係が…!?)

神尾は、はっとしてのほうに目を向ける。

「―― っしゃああ!!」
何度も何度も大きなガッツポーズを繰り出す
あげくの果てには、桃城達に胴上げまでされている…。

「気のせい、だったか…」

地区予選決勝での対戦相手とは正反対に全身で喜びを表すを見て、
勘ぐり過ぎだよな…と神尾は思うのだった。




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