CROSS GATE[中編]
その頃、クロノを王と認めない反王国派が暗躍し始めていた。平民出で貴族の血も流れていないクロノがどうして王として認められよう?というのが大半の貴族達の言い分だった。
クロノを暗殺しようとする刺客が何度も城内で見つかり、即座に処刑された。クロノは処刑を反対していたけれど、大臣達はそれを許さなかった。そして、既に公の場から退いた私の父上もそれが最善だとクロノを諭した。
「こんなことになるんだったら・・」
クロノは辛そうにいつも部屋で拳を握り締めていた。処刑の日の前後はクロノはベッドに入らなかった。
じっと月を見つめているのだ。処刑されるものも見ているであろう、その青白い月を。
クロノがつらそうな顔をする度に、私は強く毅然とした態度を見せ付けなければならなかった。彼を自分が守らなければ、誰が守るのだ?王家に引き入れたクロノの最初の加害者は、他でもない私自身なのだから。
「ねぇ、クロノ。きっとこの子が生まれたら人の見る目も変わってくるはずだよ!だって、この子はれっきとしたガルディア王族の血を継ぐ者だし、それに世界を救ったクロノの血を継ぐ者なんだからね!」
身重の私は何度もそう言ってクロノを慰めた。しかし、クロノはその度に儚げな表情で笑うのだ。
私はその度に「死の山」を思い出してぞっとした。
そして、それはきっと『予感』だったのだ・・。
―ガルディア王国暦1003年
まさにガルディア王国始まって以来の大きな動乱の年となった。
私が身篭っていた事は最上の機密事項とされていたにもかかわらず、城内に幾度となくスパイが紛れ込んでいたのか、その事も遂には世間に知れわたってしまった。
子供が生まれると知れれば、刺客はクロノのみならず私もその暗殺対象としはじめるだろう、と考えそれを伏せることにしていたらしいけれど、結局それが噂として立ち回ってしまったのだ。
今までクロノ中心に警護が固められていたのに比べ、私にもガードマンが増えた。食事、身につける衣類や貴金属、靴、全てが毎日検査をされてから、手元にやってきた。気の休まることがなかった。
クロノと二人でいられる時間も減った。毎日の会議はすでに昼間だけでなく、夜も公然と行われるようになったのだ。事は深刻さを増していった。
それでもクロノは私の身を案じて、時間の合い間を縫って顔を見せてくれた。私の待つ部屋を訪れ、いつもの優しい瞳で私を見つめ、一言二言を紡ぎ、優しい仕草で体を労わってくれた。
「元気な子供を生んでくれよ」
「もちろん!」
私はいつもの調子でクロノに返事をした。クロノがその言葉に安心したように微笑んでくれるのを知っていたから。
その人の笑顔を絶やしたくないと思ったから。
どんなに会える時間が減っていこうとも、私たちは絶対的な夫婦なのだから。
そして、その年の春。美しい花が咲き乱れる季節に、私たちの子供は産声を上げた。
「おめでとうございます!可愛らしい姫君のご誕生です!」
廊下の外でひときわ大きな声で喚く召使の声を聞いて、このときばかりは私もほっと息をついた。ちゃんと大任を果たしたのだ。ガルディア王族の正当なる後継者を、私はきちんとこの世に送り出したのだ。
すぐに、部屋にクロノが慌てて走りこんできたのを見て、私はおどけるように笑った。
「ちゃんと、生んだからね。スパイなんて目じゃないわ!クロノも負けないでよ!」
そういった私の手をクロノは握り締めた。力強く頷いたクロノは、もう弱気な瞳をしなくなった。
赤ちゃんの顔を見たその時から彼も、父親になったのだ。
「そういえば、ルッカがプレゼントをくれるって言ってたよ、この子が生まれたら」
「ルッカが?」
娘を穏やかな表情で見つめていたクロノが、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「そう。なんか結婚式のころから考えてたプレゼントらしいんだけど。受け取れないかなぁ・・」
今の状況ではおそらくルッカ自身を城内にも入れてもらえないだろう。実際、チビロボを見せてもらう約束も果たせないまま、月日が経っている。クロノもその状況を瞬時に察知して、暗く顔を曇らせた。
「わかった。何とかする」
クロノはそう言って、もう一度私と我が子を見るとすぐに部屋を出て行った。力強いクロノの足取りを見て、私はほっと息をついたが、次の瞬間、あ、と顔を歪ませてしまった。
「赤ちゃんの名前・・どうするのかしら?」
ルッカが私の部屋に現れたのは、そのわずか一週間後だった。クロノ自らが兵を伴ってルッカの家を迎えに行ったということだった。ルッカの発明品を王として購入したい、という名目で。
「全く、驚いちゃったわよ。いきなりあの後城内に立ち入れなくなっちゃって。一体どうしたのかと思えば、今度は前触れも無く王様自ら出迎えてくれちゃって」
「ごめんね、ルッカ」
私が力なく申し訳なさそうな顔をしていたのだろう、ルッカは慌てて、いいんだけどね、と笑って見せた。
「で、まずは約束を果たすわ。おいで!チビロボ!」
ルッカがそう呼ぶと、部屋の外から自分で部屋の扉を開けてくる一体のメカ。ずいぶん小さなメカが、自分よりもはるかに高いドアの取っ手に手を伸ばし、ドアを開けて入ってくる。
「失礼シマス、ルッカ。」
瞬時にメカの目がマールを見定めると、キチキチっと音を鳴らしてから素早くこう言った。
「ハジメマシテ。チビロボ、デス」
「うわ〜!お利口なんだね!」
私はそのロボットを見て、はしゃいでしまった。ロボットはあの、一緒に戦ったロボと同じ形をしている。色が少し違ってはいるものの、見る限りそっくりだった。そして、その大きさはだいたい半分くらい。
「あんたの名付け親よ。マール。教えておいたでしょ?」
ルッカがそう言うと、チビロボはまたキチキチっと音を鳴らして、頷いた。
「メモリー参照シマシタ。マール、R1002−009、『チビロボ』、定義。」
ルッカがそれを聞いて、あちゃ、と顔をしかめた。
「口語用の置き換えしてなかったのね、その部分。ごめん、後で直してあげるわ。」
「何?」
私は何のことかわからず、ルッカの顔を見ると、ルッカは気にしないで、と笑う。
「今単語単語で話しちゃったでしょ?ああいうの直したつもりだったんだけど、抜けてたみたい」
「ああ。いっつもルッカが『ばぐ』っていってるやつね?」
私はルッカが慌てて修理しながら叫んでる言葉を思い出して笑った。
「そうそう。それ。・・と、こっちに来なさい、チビロボ。」
「ハイ。ルッカ」
チビロボはルッカのところまでやってくると、ルッカに持ち上げられた。私がベッドに横たわっていたから、下のままだと見えないからだろうけど。
それよりも驚いたのはそのチビロボがかなり軽そうだってこと。
「も、持てるの?それ」
「もちろん。これも開発の賜物よ」
ルッカは誇らしげにそう言った。チビロボはルッカの膝の上にちょこんと座っている。
私はそのチビロボを覗きこんだ。
「こんにちは。はじめまして。マールよ」
チビロボはジーっという音を鳴らして顔を上げると、私の顔を捉えるように見つめた。
しばらくキチキチキチキチ鳴っていたかと思うと、やがてチビロボが返事をしてくる。
「コンニチワ。マール。アナタニ会エテ嬉シイデス」
「今、何したの?ずいぶん時間がかかったけど・・」
私はルッカにそう尋ねると、ルッカはぽんとチビロボの頭に手をやる。
「この子があんたの顔を覚えたのよ。次からはすぐにマールって呼べるようにね。この辺りは、ロボの技術にはまだ追いついてないの。あの子は、瞬時だったものね。」
「へえ・・」
私はチビロボを見ながら、微笑んだ。何もかもを思い出す。ロボが居たときは、みんなが傍にいた。クロノもルッカも、そしてカエルや、エイラ、そして魔王すらも。
「あの時なら・・みんないつも一緒だったのにな・・」
毎日の張り詰めた空気に疲れていたのか、私は思わずそう吐露していた。ルッカが、それを案じたように黙って頷いた。
「でも、アンタもそうそう弱味を吐いてる場合じゃないわよ。子供、守ってあげないとね!」
ルッカは元気付けるようにそう言うと、私も慌てて頷いた。
「で、この子、なんて名前なの?」
ルッカは傍らで眠る赤ちゃんを見て、そう言った。チビロボもつられた様に赤ちゃんを見ている。
「まだ、名前決まってないんだ・・クロノと次会った時に決めないとね。」
「次って・・なにそれ?」
ルッカは驚いて私の顔を覗き込んだ。確かに驚くのも無理はない。夫婦なのに、次会ったとき、なんて普通は言わないだろうから。
「今クロノ忙しくてね。なかなか会えないんだ・・」
「そうなんだ・・だからあんなにやつれて・・」
そう言ってからルッカは慌てて口をつぐんだけれど、私はその言葉を聞いてやっぱり、と思った。
「クロノ・・やっぱり私と一緒になるべきじゃなかったかな・・?」
「マール・・」
ルッカは優しく私の肩に手を置いた。
「一緒になるべきじゃなかったなんて、クロノは思ってないよ。きっと」
「でもさ・・あんなに弱ったクロノ・・私見てられないよ。あんなにみんなといるときは力強かったクロノがあんなになっちゃうなんて。・・きっと王族なんかでクロノを縛っちゃいけなかったんだよ・・」
「でも、クロノはマールと一緒になることを選んだんだから。それだけは彼が選択した道だったんだから。マールが責任感じることなんてないんだから。」
それに、とルッカはゆっくり赤ちゃんの方に目を移す。
「この子だって、生まれてこなかったよ?こんなにクロノにそっくりな女の子見れるなんて思わなかった」
ルッカはふふっと笑う。私はルッカの言葉に驚いて目を瞬かせた。
「え?クロノにそっくり?」
「そっくりよ。見てわからない?この目の辺り・・小さい頃のクロノを見てるみたい。だってアイツ、結構小さい頃は女顔だったから」
「そうなの?」
またもや驚いて私はルッカの顔を覗き込んだ。ルッカは笑う。
「そうよ!結構弱虫で、私のメカがあったからいじめられっこにならずに済んだようなものよ!ま、途中から剣を近所の親父さんに習い始めて、筋がいいとか言われて徐々にそれもなくなっていったんだけどね」
「へぇ・・」
(クロノにそっくりかぁ・・。生えてきた髪の毛が金髪で、女の子、っていうだけで、私似かと思ってたけど、先入観だったみたい。実際似てる部分もあるんだけど、目がクロノ似って言われるとは思わなかった。)
「ああ、やだ。忘れるところだった。赤ちゃんへのプレゼント!」
ルッカはそう言うと慌ててウェストポーチから小さな何かを取り出した。
「あっ・・・!!」
私はそれを見て驚いた。ルッカが私の表情を見て、面白そうに微笑む。
ルッカはそれを赤ん坊の手に握らせた。
「ゲートホルダー・・・ちっちゃいけど・・」
私は驚いて、その小さなゲートホルダーに見入った。ルッカは満足そうに笑いながらこう言う。
「ふふ。赤ちゃんの手に丁度いいやつ作っておいたのよ!渡せてよかった!」
「でもまさか、これも本物と同じってやつじゃ・・?」
どきどきしながら私はルッカに尋ねてみたけど、ルッカはにんまりと笑って誤魔化すようにこう言った。
「さあね?」
ルッカが帰ってから数時間後、クロノが久しぶりに私の部屋へ顔を出した。ルッカが既に帰ったことを伝えると、クロノは残念そうな顔をした。
「で?プレゼントは?」
「赤ちゃんが握ってるよ」
「へえ?」
なんだろう?と首を傾げたクロノは赤ん坊の傍に寄ると、わっ!と驚いた。
「ゲートホルダーじゃないか!やるなあ、ルッカ!」
クロノは珍しく興奮して赤ん坊からそのゲートホルダーを取り上げてしげしげと見つめていた。思わずその姿に私が笑っていると、赤ん坊が泣き出したのに気付いて慌てて赤ん坊を抱きしめた。
「やだ!クロノ!それ返してあげて!この子気に入ってたみたい!」
「ああ、ごめんごめん」
クロノはおそるおそる小さなゲートホルダーを赤ん坊に差し出すと、赤ん坊がそれに気付いてぎゅっと握り締めた。すると、不思議なくらいすとん、と大人しくなった。
「すごいな・・それ。ルッカのことだから、何か安定剤みたいな作用でもいれてるのかも・・」
「まさか。気に入ってるのよ。きっと」
ねえ、と私は赤ん坊に話し掛けた。赤ん坊はそのまま眠ってしまいそうなほど安心した顔をしていた。
「ね、クロノ。この子の名前、まだなんだけど?」
「あ。そうだった」
クロノは頭に手をやって、きょとんとした顔でそう言った。本当に忘れていたらしい・・。忙しいとは言え、酷い父親もいたものだと私はため息を付きそうになった。
「で、クロノは何か考えてた?」
「うーん・・一応は・・」
クロノの言葉に一瞬驚いて、私はクロノの顔を見つめた。クロノが照れくさそうに手を頭にやっている。
「・・ほんと?どんなの?」
嬉しさと好奇心に胸を膨らませながら、私はそう聞いてみた。クロノは赤ん坊に囁くようにこう言った。
「ルーネ・・ってどう?」
「ルーネ・・?何か由来が?」
クロノが考えたにしては、いい名前。語呂も悪くないし。私はもう一度、唇を動かして、ルーネと呼んでみた。
「ガルディア王国の二人の王妃の名前からね。中世の王妃リーネ様、そして現代の王妃マールをうまくあわせてみたんだ。どうかな?」
クロノも少し自信があるようで、私の顔を覗き込んで答えを待っている。私は久しぶりにクロノのそんな姿を見て、嬉しくなって頷いた。
「うん!すごくいいね!この子の名前、ルーネで決定ね!」
私は赤ん坊をぎゅっと抱きしめて、ルーネ、ルーネ、と呼んだ。クロノも横から赤ん坊を覗き込んで、同じように名前を呼んだ。それはまさしく、私が夢見ていた家族絵そのものだった。
ルーネの誕生パーティは質素に行われた。父上と大臣、クロノと私、そして我が子ルーネが集まって、ルーネの誕生を確認した程度に収まった。料理も用意されていたが、結局誰も口をつけなかった。
城内の雰囲気は日増しに重くなっていくばかりだった。次々に見つかるスパイや刺客に、私たち城内で暮らすものは自然憔悴の色が見え始めていた。そして、それはクロノも例外ではなかった。
私はもしかしたら『予感』していたのかもしれない。クロノが、倒れたときにそう思った。
「王妃!マールディア王妃!大変です、クロノ王が・・!」
召使が駆けつけた声も全てを聞くに及ばなかった。なんとか繋げた命、クロノの命はきっと前よりも生命力が落ちていたのかもしれない、そんな暗い妄想にも取り付かれた。私はそんな妄想を振り払いながらクロノが休む寝室へ急いだ。
そこには、すっかり青白い顔をしたクロノの顔があった。一瞬私はクロノの顔から目を逸らした。それくらい、衰弱しているのが一目で判るくらいだったのだ。
しかし、王が倒れたとなれば当然指揮をとるのは私だ。この城の命運が私の肩にようやく、降りてきたのだ。今までクロノ一人にしか扱えなかった重荷を、ようやく私も扱えるようになったのだ。
そう思った私はすぐにその血を思い出したかのように、毅然とした声を張り上げた。
「クロノが倒れたことを知る者は?」
傍に控えていた大臣が静かにこう言った。
「分が悪いことに、会議室でお倒れになりました故・・ここに運ぶまでに城内の者には知れたかと・・」
私は首を振った。おそらくスパイがどこかに潜伏しているから、その事が反王国派の手のものに伝わるのは時間の問題だろう。どんなに狩っても狩っても、出てくるのだとクロノは以前そう言っていたことがある・・。
「ならば、この部屋を完全封鎖なさい。私と、大臣以外は通してはいけません。医者はクロノを全力で快方へ向かわせるよう努力してください。」
「御意」
大臣と傍に居た医者が頭を垂れた。大臣はすぐに部屋を出た。この部屋の前に置く人員の確保をするためだろう。
部屋には、クロノと医者と、私だけになった。
「クロノはどんな様子なの?」
私は優しく医者に尋ねた。医者はクロノの顔がよく見える位置へ私を促した。私はクロノの傍に寄った。
「クロノ王は・・みたこともない病に侵されているようです。今ある毒薬のものではないと思います。スパイや刺客によるものではなく・・それ以前に王自身がお持ちだった病気のように・・」
「まさか!」
私は驚いて医者の顔を見つめ直した。
「クロノは元気だったのよ!ずっとずっと・・この王室に入る前までずっと元気だったんだから!」
「しかし、毒物の反応は全く見られません。それに毒物による後遺症のようなものも見られないのです」
私はクロノの顔を覗き込んだ。顔色は悪いが不自然なほど色は変わってはいない。毒物によるものであれば、皮膚の色は不自然な色に変わると聞いたことがある。それならば、確かに医者の言う通り、刺客による毒物混入にひっかかったわけではないようにも思えた。
「・・・」
「酷く体力は衰弱されております。しかし熱は上がっておりません。心拍数が少し高いくらいで普通に動ければ問題ない状態です。しかし王は体が思うように動かせないようです・・」
「でも・・クロノが病気をもっていたなんて考えられないんだけど・・。でも、もしかしたら時間旅行でなにかの病気をもらってしまっていたとしたら・・」
私はあることを思いついて、クロノの手を握った。
「クロノ、クロノ。安心して。今度は私の番だね。絶対あなたのこと、私がなんとかするからね・・!」
私はそういって医者にお願い、とだけ言葉を残すと、その部屋を出て行った。
部屋の扉に控えていた衛兵達にも、頼みます、と言葉を入れ、急いで大臣を探しに足を走らせた。
大臣を王の間で見つけた。
「クロノの病状に関することで招集をかけたい人がいます。一人は城下町の岬の家に住む発明家ルッカ。一人はメディーナ村の外れにすむボッシュ。二人を城に呼び寄せてください。すぐにです」
そして、ボッシュとルッカはその日のうちに城内へと通され、私が待つ部屋へ訪れた。城の兵士がそれぞれ二人を呼びに出てくれたのだった。
「一体どうしたっていうの、マール」
「突然呼び出しなんぞ・・」
二人が揃って私の部屋に入るのを確認して、今ここに居た召使を退出させる。召使は心得たように一礼をして部屋を出て行った。
「ずいぶんとまた、物々しいな」
ボッシュは召使が出て行った扉を見つめて、そう言った。あえてその言葉を無視して、私は二人に椅子を勧めた。
「どうぞ座って。色々話したいことがあるの」
二人は一瞬私の言葉遣いに気圧されたように黙り込んだが、頷いて進められた椅子に腰を下ろした。
「実は、クロノが倒れてしまったの」
「えっ?」
「なんじゃと?」
二人は当然のことながら驚いた。まさかそんなことになっているとは夢にも思わなかったのだろう。
とりあえず、クロノのことについてまだ噂になってないことだけは確かめられて、私は心の中でほっと息をついた。
「クロノは・・どうやら誰かから毒物を入れられたわけではないらしいというのが医者の見解よ。・・・ボッシュは医学の知識はないの?」
「一応は賢者を名乗る者じゃ。どれ、クロノと会ってみるかな」
ゆっくり立ち上がろうとしたボッシュを、私は手で制した。
「今クロノと会うにはそれなりの手続きが必要なの。ある程度の質問に答えてもらって、それから誓約書へのサイン。それから入室許可証が発行されるからそれを扉の前の衛兵に見せる必要があるわ」
私の話を聞いて、二人は驚いたように顔を見合わせた。
私も友人達にこんなことしたいわけがない。でも、一度例外を設けると、その後はなし崩しになってしまう。そうなってしまえば、クロノは反王国派の手の刃にかかる可能性が大きくなる・・。
「お願い、今は言うとおりにして欲しいの・・」
私は不思議そうな顔する二人に懇願するようにそう言った。
ルッカもボッシュもただならぬ様子を敏感に感じ取ってくれたのか、大人しく頷いてくれた。
入室許可証をもらうために大臣のもとへと二人を連れて行く。大臣は一人会議室で一冊の書物に目を通していた。私が声をかけると、大臣は頷いて傍に駆け寄った。
「どうかされましたか、王妃」
「二人をクロノの部屋へ入れたいの。医者から原因がわからないと匙を投げられた以上、別の方法でクロノを救う必要があるわ。」
「お二人は王を救うことができると・・?」
大臣は訝しげにルッカとボッシュを見つめた。確かにこの二人では医学に対する説得力は薄いかもしれない。二人とも名のある職業を持っているといえ、専門外なのだから。
「大臣、医学だけが人を救うとは限りません。あらゆる可能性で私は夫を、そしてこの国の王を救いたいのです。」
私の言葉に圧倒されたかのように、大臣は私を穴が開くほど見つめていた。やがて、力を抜いて頷くと、大臣はこう言った。
「わかりました・・。ふふ、マールディア様も似てまいりましたな。父君に」
「大臣、だからこそあなたを信用するのよ」
穏やかに私はそう切り返すと、大臣も嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。我が王妃」
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