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【Dragon Quest9】 |
| ■一時の別れ[1] |
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掲載日[2009/11/01] 地上に落ちてしまった女神の果実をようやく収集し終えた あると 達は、天使界に戻ろうと黄金の汽車ではるか上空を目指していた。飛んでいる最中、突如現れた黒いドラゴンに襲われ、その混乱の中 あると は列車から転落してしまう。黒いドラゴンはバルボロスという名らしく、滅びたはずの帝国ガナンに仕えるドラゴンだということが、あると達が転落した先のナザム村でわかった。 あると はその昔、そのバルボロスを滅ぼした英雄がいるらしいことを聞きつけ、英雄を求めてドミールという高い山の山頂の集落にたどり着く。 村長に事情を話し、空の英雄が倒したはずのバルボロスが生きていることを信じられない村長だったが、あると達の必死な様子を見てバルボロスのすみかに通じる穴への通行を許可した。そうしてその穴の先の、醜悪なほど熱い溶岩洞窟を抜けた先の天の頂きにグレイナルの巣窟はあった。 ゆるやかに現れたのは美しいドラゴンだった。神々しく白く細い肢体はどちらかと言えば竜に近い。しなやかに揺れる尾がゆったりと揺れると光の残像のようにきらきらと空気が光ったように見えた。 空の英雄、グレイナルの正体はその美しい竜だったのだ。里の人々が「英雄」とばかり言うので、あると達は人間だと思い込んでいたが、それが勘違いだったと気づく。 「空の英雄グレイナル、300年前、あなたがバルボロスを滅ぼしたのだと聞きました。あなたならあの黒いドラゴンを再び打ち滅ぼすことができるはずです!あの竜は蘇ったのです!」 あるとは懸命にここまで英雄を訪ねた理由を説明しようとしたのだが、しかし、グレイナルは聞く耳を持たないようだった。 「バルボロスはわしがしかと300年前に葬ったはず…愚かな。人間ごときがわしを謀ろうとは…さてはきさまはガナン帝国の手先か。よかろう。いにしえの竜の力をおもしらせてくれるわっ!」 血気盛んな老齢のドラゴンは あると 達に容赦なく打ちかかってきたが、あると達はさすがに英雄を殴りつけるわけにもいかず、なんとか話を聞いてもらおうと必死にグレイナルの攻撃を避け続けるしかない。 「グレイナル!話を聞いてください!」 風が鳴るように振り回される尾の攻撃を避けながら必死に あると が説得しようとするが、グレイナルの方は戦いが楽しくなってきたのか、あると達を叩き潰さんと躍起になっている。 「ちょっとー無理なんじゃないの!?やっぱ齢300歳超えたじいさんじゃさー。変に疑り深くなっちゃってややこしいったらないよ!」 盗賊のレッティは完全に無傷で避け続けている。盗賊の素早さは あると とシジーに比べて圧倒的にレベルが違う。武闘家のジェイドも相応の速さで、つかず離れずを繰り返しながらグレイナルの尾が跳ねる先を飛び越えている。シジーは遅れながらも盾のおかげで攻撃をなんとか防ぎきれている状態だ。長期戦になると疲れでこちらの全滅も危うい、というところで、グレイナルが唐突にぱたりと攻撃をやめた。 「当たらぬのではつまらぬ。もう帰れ。わしは貴様が気にくわん。さっさと立ち去るがいい!」 グレイナルはそう言うと、ふてぶてしくもその場にとぐろを巻き眠ってしまった。 「ちょっと!話くらい聞いてくれたっていいじゃないのよー!」 「お願い、英雄さん!話を聞いてください!」 レッティとシジーがグレイナルの鼻先で訴えたのだが、グレイナルは眉一つ動かさず、やがて寝息をたてはじめたのだった。 「これはダメだな」 ジェイドがぽつりと言うと、レッティが振り返ってジェイドに怒鳴りかかる。 「あんたってよりによって何も言わなくていい時にひと言余計なのよ!」 「そりゃすまん」 ジェイドは少しもすまなそうな顔をせず、あるとに振り返った。 「どうする」 「機嫌を損ねてしまったみたいだしね…一時退却かな。ここにいてもどうしようもないし」 あるとはそう言うと、ジェイドも頷いた。残りの少女たちもがっかりしたように肩を落とすと、あるとがルーラの呪文を唱えようとしていることに気づいて、あるとの方に足を走らせたのだった。 ドミールの里に退却した あると たちだったが、ドミールの里は大変な混乱に巻き込まれているのだった。滅びたはずのガナン帝国の兵士たちがドミールの里に攻撃を始めたところだった。 里の入口付近から幾度となく爆発音がするのを聞きつけて、あるとが近くの人に状況を尋ねる。 「なにがあったんですか?」 里の素朴な男が爆音を耳に入れまいと耳をふさごうとしていたところ、あるとが声をかけたので仕方なく手を耳から外して応える。 「唐突に入口のほうで爆音が響いて、どこかの国の兵士のように鎧で身を固めた奴がいきなり里の人間を襲い始めたんだ。俺はあわててここまで逃げて来たんだけど…」 だらしないわね、とレッティが後ろで言うのが あると の耳に届いたが、辛うじて男の耳には届いてないようだった。男はそれよりも爆音の方が気にかかるのか、あるとに話し終えるとすぐさま耳に手をやった。 「とにかく入口を見て来よう。里の人たちじゃ、どうしようもないみたいだし」 「まーたー?」 レッティが文句を言う。その言葉の後には「人助けぇ?」という言葉が省略されている。あるととシジーが先に走りだすのをみて、ジェイドがレッティに振り返った。 「お前は放っておけるのか?」 ジェイドに言われてレッティはぐっと詰まる。レッティは仕方なく あると 達を追って走り出し、ジェイドはしんがりを務めると四人はそろって里の入口へと向かった。 攻撃が始まったばかりだったのか、倒れている里の人はまだ二人だけだった。あるとはすぐさま倒れた人を抱えると、息があることを確認する。 「あいつら…突然攻撃してきやがって…!」 憤りを露わにして剣で割かれた腕を男は あると に訴える。 あると はしゃべらないで、と静かに言うと、回復呪文ホイミを唱えてやる。傷が浅くなかったのか止血は出来たものの、その傷は完全には癒えなかった。隣ではシジーがもう一人の怪我人にべホイミをかけている。そちらは声も出せないほど重症だったのか、その人は気を失ったままだったようだ。 「なんだ。おまえらは」 別の建物を破壊にかかっていた兵士のひとりが あると 達に気づいて、こちらに剣を向けた。 あると は無言で兵士を見つめた後、静かに立ち上がって怪我人を近くで見守っていた里のものに預ける。シジーも倣うように里の人間に手当を頼んだ。 「戦う意思もない人を傷つける理由を教えてくれないか」 剣を向けられているのにもかかわらず、静かに、淡々とした声がそう言った。 あると の声はこれまでもそうだったが、怒りというものに呑まれたことがない。シジーはその状況とは裏腹なほど静かな声にじっと耳を傾けた。 「弱き者が滅びるのは自然の摂理とは思わんかね?」 剣を あると に向けていた下っ端の男とは別の男が答えた。ゆったり現れたのはどうやら兵士たちをまとめている騎士のような出で立ちの男だった。どうやらこいつがこの件の中心人物のようだ。 「それを全否定はしない。けれど、人はそれを越える力を持つことを知っている。心ある人ならば弱い人を見て助けたいと思うはずだ」 あると は剣を向ける下っ端の兵士を無視して、その騎士の前に立つとそう言った。 「世迷い言か、理想論か。はたまた性善説とくるか。どれにしても虫唾が走る話よ」 すらりと男は剣を抜く。 「剣を持つならばお前も知っているだろう。弱き者の骸を踏み越えてきたお前ならばな!まずは剣を抜け!話はそれからだ」 先手を打つように、騎士は あると の頭に剣を振りおろそうとしたが、瞬時に あると はそれを自分の剣で防いだ。一瞬にして あると は剣を鞘から抜き去り、その防御に出たのだった。 「素早いな。面白い戦いになりそうだ」 兜をしているので男の表情は読めなかったが、男の声が嬉しそうに歪むのがわかって、それが あると には不快だった。 「戦いに喜びを感じるのは、あなたの心が壊れてしまっているからだ。それに、その体は…!」 全身を鎧や兜で覆ってはいるが、腐臭を完全に閉じ込めることはできなかったようだ。漏れ出るあまりに強い匂いに、 あると は愕然とする。この騎士はすでに生身の人間ではない。 「ああ、すまんな。臭うか。まったく羨ましいことだ。俺にはもうすでに嗅覚とやらはないのだ」 交えていた剣を離すと、今度は あると の鎧の継ぎ目を狙ってくる。脇下は形状の問題で防具が手薄になりやすい。さすがに騎士ともなれば、同じ防具を身につける者の弱点をすかさず狙ってくる。 あると は剣の軌道を読むと、素早く避けるように一歩下がった。目の前で剣が風鳴りの音を残していく。拍子抜けして振り上がった腕のおかげで、その体はまさにガラ空き状態だ。素早く前に出ると、 あると は剣を付きたてて首元を狙う。 「よっと!」 ガラ空きだと思ったのはまさに誤りだった。体勢を崩したと思ったのに、騎士はその振り上げた剣の勢いを利用して体を回転させたのだった。一気に剣がぐるりと一周して、飛びこんできた あると に当たる。 「うわっ!」 剣は直撃したものの、鎧のおかげで傷には至らなかった。しかし、当たった横腹への衝撃はひどく重く、 あると はよろめいた。その隙を逃すほど騎士は愚かではなかった。 「もらった!」 「しっぷう突き!」 まさに横槍が入った。シジーが声を張り上げると、手にした槍を力いっぱい騎士の足を狙って飛び込んできた。シジーには力はそれほどないが、足を掬わせるくらいならできると踏んだのだろう。思った通り、騎士はよろめいて転倒した。 「あると!迷わないで!戦いの中での迷いは死を招くわ!」 シジーが声を上げる。あるとは頷く。迷っていたこととは、この騎士の存在意義だ。何故この騎士は死を奪われて体が朽ち果てても戦いを繰り返そうとするのだ。その騎士の理由を考えてしまった。死んではいない状態とは、生きている状態の人とは別なのか。別、ではない気がする。そこには生きている人とと同じく意思がある。思いがある。体が勝手に死んでしまっただけということでもある。もしその体が朽ちた体でなかったら、生きている人と同じに見えたのではないだろうか。 「あなたが一日も早く正しく成仏できることを願うよ」 そう言って転倒した騎士の前に立つと、騎士は悪あがきするように あると に剣を向けた。とっさに、 あると は剣を避けると、その騎士の横腹に剣を突き刺した。致命傷にはならない程度に傷を負わせたのだ。そうでもしないと、この騎士は何度でも あると を狙ってくるだろう。 あると の剣の素早さに叶わぬことを知ったのか、騎士はそのまま再び体を地面に預けた。そして、息を荒げながら辺りを素早く見回した。 「く…わが兵士までも…!」 騎士は兵士たちがそのほど近い場所で倒れているのを見つけて悔しそうに息を荒げた。 兵士たちを相手していたレッティとジェイドが軽い傷や返り血で汚れたまま、あるとの元に駆けつけた。 「とどめ、させてないんじゃないか?」 ジェイドは あると に言うと、うん、と あると も頷く。 「見逃したいんだ。だめかな」 「更生するとでも思ってんの?こいつ、死に損ないだよ!ゾンビだよゾンビ!」 レッティが喚くようにそう言うが、 あると もそれには頷く。 「でも、死に損なってるってことは死んでないってことだよね。じゃあ、生きてるってことだよね。それなら、ちゃんと生きてほしいよ」 あるとの言葉が全部は理解できない。けれど、少しならわかる気がする、と思った三人はそのまま黙りこむ。里の人間も事態が収拾したことに気づいて徐々に人々が外に顔を出し始めている。 「もし逃げるならいまのうちだ。どうする?」 あるとがそう、騎士に訊ねた時だった。後ろから、いかにも甲高い耳障りな声が聞こえてきた。 「ホッホッ、面白いお坊ちゃんですね…」 そういって あると 達に近づいて来たのは、一見白髪の老人だった。小柄で狡猾そうな目をした老人と思いきや、その頭の白髪は鳥の羽根をかたどる様な形になっている。色素の薄い瞳は世界の全てを蔑んでいるようで、あるとはその男と目があった瞬間背筋が寒くなるのを感じた。 「あなたは…?」 それでも あると はそんな感情など一切表に出すことなく、男に声をかけた。男は あると を一瞥すると、あるとが先ほど声をかけた騎士の元にすいと移動した。 「まったく、嘆かわしい限りですね。あなたは敵に情けをかけられて、帝国軍として恥ずかしくないのですか。恥を知りなさい」 鳥の頭をした男は静かに騎士を叱責する。どうやらこの男は騎士よりも上の位に位置する人間らしいと、あると達は予想する。ということは、帝国の人間と言うことだ。あると達は素早く男と間合いを取った。 「げ、ゲルニック将軍…どの、どうか今一度、私に力を…」 「ホッホッ、無能さんに捧げる力などもうありませんよ。全くその図々しさにはおしおきが必要ですね」 小狡そうに笑っていた目が一瞬光が走ると、苦しそうに息をしていた騎士に向かって巨大な火の玉を投げつけ止めを刺してしまったのだった。黒こげになる間もなく、騎士はその姿を保てなくなり土に返るようにさらさらと全身が砂状に壊れていくのを、あるとを始め四人が息をのんで見つめていた。恐ろしいほど強力な力を目の前にして、あると達は言葉を失ったのだった。 ゲルニック将軍、と騎士は言っていたので、この鳥のような男はガナン帝国の重鎮の一人のようだとわかる。ゲルニックは あると を見ると、先ほどと同じように虫でもみるような目で笑うと相変わらず慇懃無礼な物言いで話を続けた。 「やれやれ。帝国の敵は グレイナルだけではないというわけですね。…まあいいでしょう。あなたもグレイナルも、ここドミールも、どうせもうすぐこの地上から消え失せるのですから」 そういうと、ゲルニックはその場から姿を消したのだった。 とりあえず、ゲルニックとの直接衝突は免れたので、四人は胸をなでおろした。さすがに準備もなく凶悪な技を何の躊躇もなく放つような相手とは戦いたくない、と誰もが思っていた。 「助かったわね…」 シジーが槍を下ろしながらほっとしたようにそう言った。しかし、あるとは騎士がいたその場所から目をそらそうとしなかった。シジーは あると の隣に立つと、あると、と声をかけた。 「あ、ごめん。なに?シジー」 何事もなかったかのような顔だったが、目が悲しげに沈んでいる。あるとの目を見ていると、居た堪れなくなってなんとかしたいとシジーは思ってしまう。 「あの人の土を教会の近くに埋めさせてもらいましょう。きっと神父様はお許しくださるわ」 シジーの言葉に、あるとは救われたようにほっとした顔をした。あるとの顔がやっと和らいだのを見て、シジーは心の底から安堵する。 「この里を攻撃したのに?」 レッティは後ろから信じられない、という顔でシジーに言った。シジーはそうよ、と答えながら、騎士がいたその土を手でかき集めた。両手に乗る分だけそれを掬うと、レッティに振り返る。 「神の下ではあらゆる人が皆平等なの。神は誰であろうと厭わず許しを下さる方。それが神の神たる所以よ」 レッティはシジーが手一杯に集めた土を見てため息をつくと、仕方なさそうに小さな布袋を差し出した。 「はいはい。それでも、あんたは神でも何でもないただの女の子なんだから、得体のしれない灰を集めるのに少しくらいは嫌がりなさいってのよ。これに入れて!」 「ありがとう、レッティ」 シジーはレッティの突き放したような優しさを笑いながら、レッティの広げた袋に灰と土の混ざったものを入れたのだった。 辺りを見てみると、人々は少しずつ普段通りの生活を取り戻し始めているようだった。しかし、安心はまだできない。ゲルニック将軍は先ほど、この里も消え失せるなどと物騒なことを言い捨てて行ったのだ。 「また、来るな…」 ジェイドがぼそりと あると にそう言った。あるとも無言でそれに頷く。 しかし、それが今ではないことは確かだ。とにかく、今は里の人々の救助活動に手を貸すのが先決だろう、と あると はようやく気持ちを切り替えた。 to be continued. ■ゲームと若干進行が違います。村長の母が出るタイミングとか…。 |