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【Dragon Quest9】 |
| ■一時の別れ[2] |
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掲載日[2009/11/01] そんなときに、一人の老婆が あると を呼んだ。 「旅人さんや」 山頂の洞窟につながる階段から、幾分慌てた様子で降りてくる老婆を見つけて、あるとはそちらに足を向けた。 「どうしたんですか」 「グレイナル様の気が変わってね、あんたさん一人でグレイナル様に捧げる火酒を持ってくるなら話を聞いてやってもいいって話だったよ」 そういったのは、よく見るとここの村長の母親だった。どうやらグレイナルと話をしてきたらしい。それにしても溶岩の洞窟を平気で一往復するとは、怖いもの知らずの老婆である。 「ひとりで、ですか」 「ああ、グレイナル様はどうやらあんたさんを試したいようだね」 頭の回転の衰えぬ老婆は鋭い目で あると を見た。あるとも無言でその視線に応えるように、山の頂きを見据える。すでに高い位置にあるこの里よりもより高い山頂に一人で来いというのならば、いかなくては、と頭の中で呼応する声が響く。 「だめよ!ひとりでなんて!」 シジーの声だった。先ほど倒れた人を教会に運ぶべくその場にいなかったシジーだったが、あるとの会話を途中から聞いていたのだろう、元々白い顔を青白くさせて悲鳴のような声を上げた。 「シジー」 あるとは困ったように笑う。シジーは人一倍心配性なのを思い出して、安心させるように あると は足を向けた。 「大丈夫。一人でも行けるよ」 「何言ってるの!あの洞窟4人で抜けるのだって大変だったじゃないの!」 あるとを心配しすぎる所為で、シジーの目は鬼のようにつり上がっていた。行かせたくない、という意志だけがむき出しになった感情が あると にも伝わる。その気迫は言ってしまうと怖いくらいだ。 「正攻法でいかなくても、逃げながら行く方法だってある」 「でも見つかってしまったら!? あると は一人で戦わなくちゃいけないのよ!」 「見つからないように行く。シジー、このお婆さんだってあの山道を一人往復してきたんだよ」 あるとは自分の無事を保証するようにその老婆を手で示した。聞いていた老婆が幾分胸を張る。その言葉でシジーは何も言えなくなる。これ以上言えば、あるとを見くびっている様にとられてしまう。シジーはぐっと詰まった唇を噛むと、あるとを見上げた。 あると はいつも通りの顔で、穏やかに笑っている。どうしてそんな風に笑えるのか、シジーには不思議でたまらない。 「・・・っ・・・お祈りをしてくるわ」 それだけ言ってシジーは踵を返すと、先ほど出てきたばかりの教会に戻っていった。あるとの無事を祈るのだろう。そして、シジー自身の心の平安も一緒に得られるといい、と あると は思う。 「シジーを泣かしたんじゃないでしょうね?」 レッティがぬっと後ろから現れて、あるとを睨んだ。あるとは穏やかに首を振る。 「そ、ならいいけど。どうしちゃったの?珍しく怒ってたみたいだけど・・・」 「僕が一人で火酒を持って、山頂のグレイナル様に会いに行かなきゃいけないことになって」 あるとがそれだけ言うと、レッティは目を丸くしたもののそれ以上の感情を表に出さなかった。そのひとことだけだいたいのことは把握できたようだった。 「了解。シジーのことは任せて。きっと気持ちが落ち着かなくて、お祈りもままならなくて困ってるわ、あの子」 「うん、頼むよ」 あるとはレッティの言葉に甘えることにした。 「本当は!」 レッティは行く間際に あると に指を突きつける。 「あんたが行くべきなのよ!」 レッティが文字通り釘を刺すように言い放つのに、あるとは頷いて俯く。 「・・・でも今僕が行っても、シジーを苦しめるから・・・」 「そうね。アンタも意外と信念の曲がらない子だものね。ふにゃふにゃしてんだか、しっかりしてんだかわかりゃしない。とにかくシジーを見てくるわ。ジェイドは里の人の手伝いをしてるみたいだから、あるとは火酒とやらを取りに行きなさい」 レッティは身動きのとれなくなっている あると にそう指示すると、すぐさまシジーがいるはずの教会に向かった。 あるとは息をついて、ぐっと拳に力を入れた。 「いいお仲間さんたちだね」 振り返ると、グレイナルの伝言を伝えに来てくれた老婆がまだそこにいたので、あるとは少し照れたように笑った。 「ええ。本当に。右も左もわからない僕を支えてくれる大切な仲間です」 「大切になさい。そうだね・・・グレイナル様は一人で来なさいと行ったのは試練だけじゃないのかもしれないね。アンタさんにあのお仲間さんたちの有り難さを今一度確認させてたかったのかもしれないね」 「それなら、もう今十分に」 あると はにこりと笑いながら、老婆にそう言った。老婆はそれを聞いて微笑む。 「それじゃ、火酒の場所に案内しようか」 「お願いします」 老婆の背中を追ってゆっくり歩いて行く。あるとは山頂をもう一度見上げた。空は晴れ渡っていて、雲ひとつない。穏やかな空模様の様に自分の心もこう在れたら、と あると は山の空気を一呼吸肺に満たした。 里の入り口から谷にかかった石橋を渡り、そこから迂回して山道を登る。そちらにも山の縁にしがみついたように家が建っている。家の間の均された道を歩くと、突き当たりにぶつかった。よく見ると、その先にも道があるようで、崖のように切り立った側面にぽつんと入り口のドアが用意されていた。 「開けるよ。アンタさん、お酒には強いかね?」 ドアを開ける前に老婆が確認するように振り返ったので、あるとは首をかしげながら答えた。 「いえ、僕はお酒はまだ・・・」 老婆はああ、そりゃまたこれは試練だね、と呟くと、笑った。 「鼻を摘んでることだね。まあ、無駄かもしれないけど」 そういって老婆はドアを開けると、途端にむせるような酒気が一帯に広がった。あるとは、慌てて鼻を摘んだが、それが間に合ったかどうかもわからない。鼻を摘んでいても、口で息をする限りはその酒気を吸い込むことになってしまうのからだ。 「げほっ」 強すぎる酒気が喉を刺激するようだった。咽せて咳が出てしまう。その咳の音に気づいたのか、奥で野太い声が叫んだ。 「こらぁ!誰だ勝手にオレの仕事場に入ってきたのは!」 「私だよ」 やはり酒気慣れしているのか、老婆は張りのある声のまま入り口で声をあげた。すると、奥にいた男が飛んでくる。 「なんだ、婆さまじゃねぇか!どうしたんだ急に!」 「グレイナル様が火酒を欲しておいでなんでね。今回はこの子に届けてもらうことにしたんだ」 あるとは前に出てぺこりとお辞儀をする。しかしお辞儀をした姿勢の後顔を上げられない。くらくらするのだ。あまりに強い酒気がすでに全身を侵し始めているようだ。 「おいおい、大丈夫かお前」 よろめく あると を心配した男がすぐに手を貸してやろうとしたが、その男の服からよりいっそう強い酒気の臭いがしたので、あるとは慌てて顔を上げた。 「だ、大丈夫っ・・・ですっ!」 「ああ、オレの方が臭ぇか!がはは!」 はち切れんばかりの胸板をそらすと、筋肉隆々の男は朗らかに笑った。あるとは、すみません、と蚊の鳴くような声を出すのが精一杯だ。 「いい機会なんで醸造してるところもみせてやろうと思ったんだが、ここでそんな状態なら辛いだろうな。婆さま、味見てくれねぇか。まだちょっと早いんで心配なんだ」 「あいよ。じゃあ、アンタさんはここで待ってなされ」 老婆に言われ、あるとは頷く。本当は外で待っていたい位だったが、それを言うためにここの空気を吸うのもためらわれるほどの酒気だったので、結局 あると はここで我慢するしかなかった。 入り口から狭い洞穴を進んでいったところに別のドアがまた出現する。そこの奥でこの里の名物の火酒が造られている。男がそのドアを開くと、先ほどよりもより強い酒の臭いが顔いっぱいに襲いかかってくるようだった。火酒の精とやらがもし悪意を持ったモンスターにもなっていれば、一溜まりもないだろう。それくらい強い刺激の臭いに、老婆はにやりと笑った。 「今年もいい出来だね」 「もうわかるのか、さすが婆さまだな」 男は人の三倍はある大瓶を優しく撫でていきながら、奥に進む。林立する大瓶からはさらなる酒気が芳香していた。あるとがここに来ていたら目を回して昏倒していたに違いない。 「今年の一番いいのはコレなんだが」 「どれ、味を見ようかね」 男が大瓶の下に突き出た筒にある栓を抜いて、少しだけ酒を抜いて器に入れる。器を老婆に渡すと、老婆は一口でぐいと飲み干した。 「いい飲みっぷりだね。相変わらず」 「こうじゃなきゃ味がわからんよ。うん、申し分ない。これならグレイナル様もお喜びになる」 老婆は男に器を返すと、労うように男の腕を優しく叩いた。 「今年もいい火酒にありつけそうだね。ありがとうよ」 「よせよ!オレはこの仕事気にいってんだ!それだけだよ!」 男は照れ隠しのようにがはは、と笑うと、すぐに小さな瓶にその大瓶の酒を移し入れた。 「よし、これでいい。それにしてもあのボーズ、大丈夫かよ?」 「グレイナル様たってのご希望でな。グレイナル様も何か思い当たる節があるようだよ」 移し入れた瓶を受け取りながら、老婆と男は連れだって強い酒気を帯びた部屋から出た。 「お、なんとか生きていたようだね」 あるとの顔を見て老婆は笑った。倒れることは免れたようだったが、顔が少し赤くてぼんやりしている あると を見て、男はやはり心配になった。 「おい、大丈夫か?子供にはきつすぎるよなぁ。グレイナル様も何をお考えなのか・・・」 「偉大なる英雄様のお考えだ。わしら凡人が推し量れるものではないよ。さ、いくよ」 老婆が優しく あると の手を握ると、その部屋から連れ出した。男は後ろから頑張れよ!と声をかけたが、あるとは軽く頭を下げるのがやっとで、言葉を返すこともできずにそのままその部屋を出たのだった。 強い酒の臭いに解放されて、あるとはその場に崩れるようにしゃがみ込む。老婆が瓶を持っていたので、火酒は無事だったが、あるとをどうしたものかと困っていると、緑色の髪の男がやってきた。 「あると?」 老婆のそばで崩れ落ちた あると を見つけて、ジェイドは駆け寄った。老婆は あると の仲間だと思い至り、火酒をジェイドに渡す。 「グレイナル様に捧げる火酒だ。これがあればグレイナル様は話を聞いてくださるだろう。この子は火酒の酒気に当てられただけで心配ないよ。少し横になっていれば具合はよくなるはず」 それだけ言うと、老婆はその場から離れた。ジェイドは瓶を右手に持ち左側に あると の腕を取ると、あるとを引きずるように背負って宿屋に向かったのだった。 to be continued. ■お酒が苦手なのは書き手遺伝で…(笑) |