【Dragon Quest9】

■一時の別れ[3]

掲載日[2009/11/03]













 途中で里の人の手を借りてジェイドは何とか あると を宿屋の一室に運び込む。このドミールの里は山間の集落のため、傾斜が多くひどく長い階段や坂道が多い。さすがに鎧を着た あると を運ぶのはジェイドにも無理だったので、里の人に手を借りたのだった。
「ああ、火酒の所為だね。でもそれなら心配ない。強い酒だけど飲まなければ抜けるのも早いから、少し横になればすぐ元通りになるよ」
 里の若者はそういってジェイドを安心させた。ジェイドは頷くと、ありがとう、と若者に礼を言った。
「里を守ってくれたの見ていたよ。壊れた家の片付けもしてくれていたよね。礼を言うならこっちのほうだよ」
 困ったことがあったらまた言って、と朗らかに笑いながら若者は宿を去っていった。
 唐突に襲われたにしては里の損害はそれほどなかった。しかし家が戦いの中でドアが損壊したり、屋根が欠けたりしたところがあったため、ジェイドはその後片付けを手伝ったのだった。
 ベッドに横になった あると を見ると、顔は赤いものの呼吸は落ち着いていたので安心する。目覚めたときに水を欲しがるのではないかと思い、ジェイドは部屋を出た。
 念のため宿の主人に あると が目覚めたらそこにいるように伝言をして、ジェイドは宿屋を出る。確か、里の入り口のすぐそばに井戸があったはずだった。公衆の井戸なので、そこの水ならば汲んでも文句は言われないだろうと踏んだのだった。
 宿を出ると、すぐそばにある階段を駆け上がってくる二人が見えた。
「ジェイド! あると が倒れたって聞いて・・・」
「大丈夫なのっ!?」
 レッティとシジーが顔を急な階段を駆け上がってきたにもかかわらず、青い顔をして堰を切ったように尋ねる。ジェイドは頷くと、二人をそのまま連れて二人が駆け上がってきた階段をまた降りるように促した。
「あるとは心配ない。酒の臭いに中(あ)てられて横になってる。しばらくしたら元に戻るそうだ」
「そう、よかった。それなら・・・」
 すぐにでも踵を返して あると の下に戻ろうとするシジーを、ジェイドが腕をつかんで止めた。
「ジェイド?」
 いつもなら余計なことには口を挟まないジェイドを不思議そうにシジーは見つめた。
「今だけでもゆっくり寝かせたいんだ。目が覚めたときに俺たちの誰かがいたら、あるとはきっとそれに気後れする。俺たちはあいつの家族じゃない、兄弟じゃない。だから、今は一人で何も気負わず眠らせてやりたい」
「でも、私たちは仲間よ!」
 シジーは言う。叫びたいのをなんとかこらえる。レッティが困ったようにジェイドとシジーを交互に見つめた。
「でも、結局は他人だ。思いやることがすべて正しいという自惚れは、シジー、今捨てた方がいい」
「ジェイド!」
 レッティはジェイドの言葉に驚いて声を上げる。シジーは青白い顔のまま、ジェイドを信じられないような目で見つめた。後頭部を漬け物石で殴られたらこんな感覚だろうか、とシジーは思う。頭の奥がずきずきと痛みを発して止まない。吐き気もする。気持ちが悪い。今まで考えられなかった、思いつきもしないその感情に、自分で身の毛がよだつほど嫌気がさした。
「でも!シジーの正しさに私たちはいつも救われてるわ!」
 レッティが叫ぶ。ずるりと体をよろめかせて地にしゃがみ込んだシジーを、レッティが支えるように抱きしめた。
「そうだ。それこそがシジーがここにいる意味、そして意義。今の意見はオレの押しつけに過ぎない。シジー、今の言葉で傷ついたのなら、オレは謝る。けど、お前は傷ついたんじゃないだろう?」
 ジェイドが優しい声色でシジーに問いかける。シジーはゆっくりと顔を上げると、ジェイドを見つめて頷いた。
「あなたの言葉はひとつの真実だわ」
「シジー!アンタ正気?アンタの感情を自惚れだとか言ったのよ!この男は!」
 レッティは今度はシジーが信じられず、喚いた。
「レッティ、いいのよ。レッティには私の行動がきっとイヤじゃないの。でも私の行動が一意に喜ばれるものとは限らない。そういうことを知れと、そう言ったのよ。ジェイドは」
 ジェイドは頷く。それを聞いて安心したのか、ジェイドは再び階段を歩き出した。しゃがみ込んだシジーももう一度足に力を入れる。立ち上がる。一つのことを知るという衝撃を、もう一度胸に刻み込む。決してそれを嫌がらず、拒まず受け入れることを自分に誓う。
「男って本当デリカシーがなくてイヤになるわ!」
 まだ不服そうにレッティはジェイドの背中を睨んだまま、シジーの体を支えようと腕を差し出した。
「でも、ジェイドは間違ってない。レッティもよ。ありがとう、私を守ろうとしてくれて」
 シジーはレッティを見つめて微笑む。言われたレッティは目を丸くしたあと、何かをごまかすように肩をすくめて顔を背ける。
「私はアンタのそういう素直すぎるとこってニガテなのよね」
「ふふっ、私はそういうレッティの可愛いところが大好きなんだけどなぁ」
 可笑しそうに笑いながらシジーがそう言うと、レッティは心外な!とでも言う顔でシジーに言い返した。
「私はいつでも可愛いわよ!」
「はいはい」
「なにそれ!超ムカツク〜!」
 きいきいと喚くレッティと、もうすっかり調子を取り戻したシジーが階段を下りると、ジェイドが井戸の前で何かを思案するように棒立ちになっているのを見つけた。
「ジェイド、どうかしたの?」
 シジーは先ほどのことなどすっかり忘れたような顔でジェイドに話しかける。
「いや、あるとに水を持って行ってやりたかったんだが、そう言えば水を入れる器がなかったことに今気づいて何とかならないか考えていたんだ」
「こンの大ボケ!さっきは余計なことぺらぺらしゃべっておいて、ここで大ボケかますか!いつも使ってる革袋の水筒があるでしょうが!」
 ぐぐっとジェイドの頬に革袋の水筒を押しつけながら、レッティはすごむようにそう言った。
「おお」
「おお、じゃないわよ!」
 レッティが怒鳴りながら返すと、あたりにいた里の人がどっと沸いた。
 それを見て、シジーが嬉しそうに手を叩く。
「わ!二人とも旅芸人ばりのボケとツッコミね!次は転職して旅芸人になればいいわ!」
「冗談じゃないわよ!私はスーパースターになるためにここにいるんだから!余計なこと言わないでよシジー!」
 レッティにぎろりと睨め付けられても、シジーはびくともしない。自分の名案を楽しそうに話し続ける。
「今時スーパースターなんて需要ないでしょ?グビアナ城下町のダンスホールひとつっきりだし。それだときっとすごい倍率よね。でも旅芸人なら場所を選ばず芸人できるんだもの。こっちの方が世界のスーパースターだと思うわ!それに私、旅芸人大好きだもの」
 にこにこと嬉しそうに語るシジーに、レッティは意地悪く言い返す。
「それは あると が最初は旅芸人だったからでしょ!」
「違うわよ!」
 シジーが慌てて否定する。
「どうだか」
 にやにやと笑いながらレッティがそう言っていると、あたりから口笛やヒューヒューとはやし立てる声が上がる。シジーがあたりを見て赤くなるが、すぐにレッティに言い返した。
「な!ちょっともう!勝手なこと言わないで!ジェイド!水汲んだの?」
「ああ」
 平然とした表情のまま、ジェイドが革袋の水筒を掲げる。それを見てすぐにシジーは引き返した。
「帰るわよ!」
「おっ騒がせしましたァ〜♪」
 レッティがシジーを言い負かしたことで上機嫌になって挨拶すると、里の人たちが楽しませてくれたお礼か拍手を送った。レッティはそれを嬉しそうに受けていたが、里の一人が一言多かった。
「旅芸人さん!また楽しませてくれよ!」
「旅芸人じゃないわよ!」
 レッティがすぐさますごんで言い返すと、これにはシジーが大爆笑だった。

 宿に戻ってみると、宿の主がすぐにシジーたちに声をかけてきた。
「お連れさん、お目覚めのようですよ。先ほどここにいらしたんですが、今は部屋でお休みのようです」
「ありがとうございます」
 シジーは主人に礼を言うと、自分たちの部屋へ向かった。
 カウンターからつながる廊下の突き当たりのドアを、念のためノックする。
「あると?入るわよ」
「うん」
 声がはっきりしている あると の様子を感じて、シジーは安堵する。ドアを開けると、あるとがベッドで腰掛けたまま、こちらを見て少し笑った。
「僕、いつのまに宿屋に?」
 ジェイドがゆっくり前に出て、あるとの前に立った。
「オレが運んだ。里の人も手伝ってくれた」
「うわぁ、ごめん。僕覚えてなくて・・・里の人にもお礼を言わなくちゃ」
 ジェイドは あると の額に手をやって異常がないことを看ると、そうだな、と返事をした。
「ジェイド、汲んできたお水あげたら?」
 レッティが後ろからジェイドに声をかけると、ジェイドは革袋の水筒を取り出して あると に差し出した。
「喉渇いてないか?酒気帯びのあとは喉が乾くもんだから」
「あ、ありがとう。もらうよ」
 あるとはジェイドから革袋の水を絞り出すようにして口に含んだ。汲んだばかりの水なので冷たくておいしいのか、それともやはりよほど喉が渇いていたのか、あるとは入っていた水を飲み干してしまった。
「はー。おいしかった!ありがとうジェイド!」
「水で回復したか。安いもんだな、お前は」
 声に張りが戻ってきた あると を見て、ジェイドも心配だったのだろう、やっと口元をゆるませた。
「そう言えば、火酒の瓶は?」
 あるとが預かっているはずのものが見あたらず慌てて聞くと、シジーがこれのことかしら、と足下に置いてあった瓶を拾い上げた。
「あ、それ。だと思う・・・。シジー、お酒の臭い平気?」
 あるとは瓶を見つけて一度は安堵したが、臭いを思い出して身震いしていた。シジーは瓶の臭いを嗅ごうと鼻を寄せるが、ほのかに甘いにおいが漂うくらいであまり強い臭いはしなかった。
「大丈夫。ちゃんと縛ってあるから臭いもあまりしないわ」
「そう。よかった。僕一人でそれを持ってグレイナルに会わなきゃいけないんだよね・・・瓶を持てないんじゃどうしようもないところだった」
 それを聞いて、ジェイドがそうなのか?とレッティに声をかける。レッティは肩をすくめて肯定の意を示すにとどまった。あまりこの話を広げると、シジーがまた狂乱するのではないかと恐れたのだった。
 しかしシジーは割合落ち着いた声で、あるとに頼んだ。
「ねぇ、あると。私ここで待っているより、セントシュタインのルイーダさんのお店で待っていたいわ」
「あ、私もそれいいな!ルイーダさんに会えるし!」
 レッティはルイーダの様な格好いいスーパースターになるのが夢で、ルイーダのファンなのだった。
「オレも、その方がいいな。ルイーダのとこの酒はうまい」
 ジェイドがそう言って頷く。すでに仲間たちが あると に協力的に接しているのを感じて、あるとはうん、と頷いた。
「じゃあ、みんなをセントシュタインまで送るよ」












to be continued.

■4人は仲良しで羨ましい。みんないい子でお母さん嬉しい。

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