【Dragon Quest9】

■一時の別れ[4]

掲載日[2009/11/07]













 あるとは一つだけ用事を済ませたいから、と言って、ジェイドと一緒に自分を運んでくれた里の人にお礼を言いに言った。里の若者は里の壊れた家の後片付けを済ませて休んでいるところだった。
「あ、具合よくなったんだね」
「あの…ありがとうございました」
 若者はぴょこんと頭を下げた あると に笑いながら、いいよいいよ、と手を振った。
「君は里を守ってくれたし、僕はその人を助けることができた。お互いにやれることをやっただけだから」
 若者は屈託なく笑いながら、山の縁に立つ家々を見上げた。
「僕はこの里が大好きだからさ。都会に出るひともいるけど、僕はこの里にずっと住みたいって思ってる。その住処を君は守ってくれたんだよ。だから君は僕の未来の恩人なのさ」
 若者はそれを言うと嬉しそうに笑った。
「グレイナル様に一人で会いに行くと聞いたよ。気をつけてね。もしよかったらお仲間さんは僕の家に招待するけど?」
 人なつこいのか、それとも あると が気に入ったのか、若者はさらに優しく声をかけてくれたが、あるとはそれを丁重に断った。
「一度、僕たちはセントシュタインに戻るので、大丈夫です」
「そっか。世界を巡る人の話を聞けると思ったんだけどなぁ。じゃあ機会があればまた今度」
 若者はそう言うと、休憩していたその場を去って、次の家の手伝いに行くようだった。
「珍しいくらい、いい人ねぇ」
 レッティはため息をつくとそう言った。
「お前と違ってか」
 ジェイドが無表情で返すと、レッティはジェイドを睨んだ。
「あんたと違って、でしょ」
「そうか」
 ジェイドは暖簾に腕押しのような気のない返事を返すと、あるとに向かって、気は済んだか?と声をかける。
「うん。つきあわせてごめんね」
 あるとはジェイドにそう言うと、ジェイドはただ頷いた。あるとは謝らなくてもいいことを謝るので、ジェイドは困る、といつも思っていた。
「それじゃ、ルーラを唱えるから移動しよう」
 町中でルーラを唱えると、町の人には一瞬にして人が消えたように見えて大騒ぎになってしまうので、あるとは必ず人気のないところまで移動するようにしていた。ルーラという呪文はどうやら天使特有の呪文らしく、他の人には知られていない魔法なので、あるとは使用する際注意するようにしていたのだった。

 一瞬の魔力の発動後、4人はセントシュタイン城下町の入り口の目の前に降り立っていた。
 ドミールの里とは海を隔てて大陸も違うセントシュタイン領に一瞬にして移動できてしまう呪文など、よく考えたら確かに人が自由に使えたら恐ろしいものになってしまう。平和な時代ならまだしも、戦争などが行われた場合、敵陣に一瞬にして潜り込むことができることになってしまうのだ。
「楽ちんで助かるわー!ホント!」
 シジーが一人考え込んでいた可能性に気鬱になりそうになるのを、レッティの一言が吹っ飛ばしてしまう。今の利便性だけを考えれば、本当にありがたい呪文なのだ。
「本当ね」
 シジーも相づちを打つが、レッティはにやりとシジーを見ると笑う。
「シジーは残念でしょうけど!」
「どうして?」
 レッティが何故笑うのか分からずに、シジーはレッティを不思議そうに見つめる。レッティはシジーをしばらく見つめてから、ヤメた、と投げやりにそう言った。
「今、アンタをいじめるのはヤメとく」
「いじめ…?」
 シジーはますます首をかしげるが、あるとが隣からレッティに話しかける。
「できれば、そうしてくれると嬉しいな」
「了解、リーダー」
 レッティはおざなりにそう言うと、先にもくもくと歩くジェイドを追った。ジェイドが何事かをレッティに話しかけていたが、レッティはめんどくさそうに知らんぷりをしている。
「いじめ…?」
 ひとりシジーだけがついて行けずに、頭を悩ませるが、気にすることないよ、と あると が笑いかける。
「レッティはシジーをいじめたりできないもの。レッティが勝手にいじめてるかも?って思ってるだけだよ」
 天使たる所以なのか、真意までは読めなくても心の動向はわかるらしく、あるとはそう言った。シジーはそれを聞いて、ただ頷く。
「あると、送ってくれてありがとう。ここでいいわ」
 シジーはやっとのように、その言葉を口にする。あるとが立ち止まって、レッティとジェイドもシジーの声が聞こえたのか、足早にこちらに引き返してきた。
「そうね。酒場もすぐそこだし、あるとに見送ってもらわなくても大丈夫だわ」
「悪いな、遠回りさせて」
 レッティとジェイドがそう言うと、あるともううん、と言い笑うと、ぽつりと本心が溢れたように呟く。
「なんだか、やっぱり寂しいな」
「それは私たちも同じ」
 シジーは あると の手を取って、優しくその手を包み込んだ。
「天使 あると、どうかあなたの冒険に幸あらんことを…」
 シジーは僧侶らしく、その手を額に持ってくると、天に祈りを捧げた。人間が天使のために祈るというのはあべこべのような気もしたが、それについては誰も何も言わなかった。
「ありがとう。シジー」
 あるとは祈り終えたシジーの手を逆に包み込むと、しっかり握りしめた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。実はね、山頂のイメージを頭に刻み込んだから、ルーラが使える。里の人の前ではさすがに言えなかったんだけど…」
 あるとのその言葉に、3人はぽかんと口を開けた。まさか従順でおとなしい あると がそんな裏技を使うとは誰にも予想ができなかったのだ。3人が呆然としてしまったのも無理はない。
「ウワァー…あると、やるじゃん!」
 一番に調子を取り戻したレッティが、嬉しそうに あると の肩をばしっと叩いてやった。
「いてっ!」
「なるほど、ルーラか。考えも及ばなかったな。それならあの溶岩の洞窟はクリアしたも同然か」
「あったりまえじゃない!なによーびっくりさせて!よかったわね!シジー、シジー?」
 シジーを見ると、あるとの手を握りしめたまましゃがみ込んでいる。あるとがその手をシジーが握るままにしているので、さきほどとは逆の、天使に祈りを捧げるような形になっている。
「よかった…!あんなところを あると 一人で行くなんて本当に…考えるのも厭になるくらい怖くて…」
 泣くのを何とかこらえてるらしいシジーを見て、レッティが先制するように あると に訊いた。
「あんた、シジーを安心させるための戯言とかじゃないでしょうね?」
 レッティがそう言ったのに、あるとが逆に目を見開く。シジーもその言葉にびくりと肩を震わせると、おそるおそる あると を見上げた。困ったように あると はレッティとシジーを見つめると、すぐに答える。
「まさか。ちゃんと覚えてるから大丈夫。ここからすぐに行くつもりだよ」
「そう。それなら安心だわ」
 レッティはよかったわね、とシジーを横から支える。
「一時とは言え、しばしのお別れなんだからちゃんと立って、シジー」
「うん」
 いつもは窘め役のシジーがレッティに窘められているのを、ジェイドは不思議そうに見守る。
「気をつけてね、あると。グレイナル様も気性の荒い方だったみたいだし…」
「うん。気をつける」
 あるとはそう言うと、シジーの手を離した。ルーラを唱える前の、ちょっとした魔力の発動を肌で感じで、シジーは手を伸ばしそうになった。けれど、一緒に行けないのだ、ということをもう一度胸に刻み込んで、手を引っ込めようとした瞬間、魔力を帯びた あると の手のひらがシジーの手のひらを掴んだ。
 安心させるような あると の微笑みはいつもと変わらない。その笑顔に、出会ったときからずっと支えられてきた。本当は手放したくはない、手放せない。けれど、今だけ、ほんのわずかな時間だけ、我慢しよう、とシジーは思う。
「シジー?笑って。僕を信じるなら、どうか笑って」
 あるとの言葉につられて、不安に駆られたままの自分の表情を自覚する。なんとか強ばった頬の筋肉を緩ませる。あるとを不安にさせてはいけない、彼の言う通り あると を信じるならば笑顔だ、と言い聞かせる。シジーがやっとのようにぎこちなく笑うのを、あるとが笑う。
「シジーのまっすぐな正直さと素直さに、僕はいつも救われてきたんだ。だから、絶対に迎えにくる。待っていて、シジー」
「あると!」
 魔力の発動に備えて あると はその手を離すと、シジーに笑いかけた。もう一度、信じて、と念じるその瞳に、シジーは堪らず手を伸ばした。しかし、そこには魔力が発動した後の残滓のようなエネルギーが離散し、拡散しただけだった。
 あるとは、ひとり旅立ったのだった。












to be continued.

■レッティ「もうそれプロポーズじゃん」みたいな台詞が書きたかった(笑)もちろんあるとはそう言うつもりはないんだけど…(笑)

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