【Dragon Quest9】

■一時の別れ[5]

掲載日[2009/11/09]













 一人、翼なき天使は旅立ってしまった。
 残された3人は あると が直行したはずのドミール火山の方角を見据える。いかに峻険で雲を超えるほど高いドミールの山と言えど、海を越えた先の大陸に鎮座するのではその山は霞ほどにも見えなかった。それでも、3人はしばらくの間、その方角を見たままじっと動かなかった。
 やがて、ジェイドが二人に声をかけた。
「町に入ろう」
「そうね」
 レッティが頷くと、シジーの手を取った。シジーはレッティを見つめ返して、おとなしく頷いた。
 3人はまるで兄妹のように寄り添って城下町の入り口の門をくぐったのだった。
「そういえば、あるとがいないのにリッカの宿は使わせてもらえるのかしら?」
 はたと気づいたようにレッティはそう言った。シジーも言われて気づいたとばかりに、目をぱちぱちと瞬かせた。
「あるとが従業員扱いだから従業員割引してもらえるんだものね。あるとがいない時にリッカの宿を使わせてもらったことがなかったし…」
「オレたちは あると とずっと一緒だったからな」
 ジェイドが当然のように一言そう言った。
「リッカが守銭奴じゃないことを願うしかないわね」
 レッティがため息をつきながらそう言う。リッカの宿を利用するときは、あるとのおかげで従業員割引が効いて4人で止まっても12ゴールドという格安で泊まれるのだ。しかし、あるとがいない以上、リッカは通常料金を請求してくるのではないか、というのが今の懸案なのだった。
「一応ルイーダさんに相談してみてはどうかしら。旅仲間の仲介役は全部ルイーダさんが取り仕切ってるみたいだし。こういう場合もきっと相談に乗ってくれるわ」
「それもそうね。元々、私たちルイーダさんの力がなかったら あると にも出会えてないんだし」
 シジーの案に、レッティはもっともだと頷く。
「酒場に行くか」
 ジェイドは話がまとまったと思ったのか、一人さっさと歩き出す。レッティは後ろから、酒場じゃなくてルイーダさんと話すのが先よ!などと言いながら、ジェイドを追いかけていく。シジーは二人を見ながら、思わず あると に微笑みそうになって、あるとが傍にいないことを思い出す。
(今あなたがいないという事実が、私の存在を殺す)
 シジーはふと頭に浮かんだその言葉に、ひとり自嘲した。

 三人は城下町の西に建つ煉瓦造りの大きな建物の入り口に立つと、示し合わせたようにその入り口の門をくぐった。その先に広いフロアがあり、所狭しとテーブルと椅子が並んでいる。奥にある横に伸びたカウンターには、この建屋のオーナーであるルイーダと、宿屋の管理をするリッカ、それに珍しい商品を仕入れては格安で提供してくれるロクサーヌという娘が並んで立っている。いずれも美人と評判の三人娘だ。
「ルイーダさんっ!」
 レッティが弾んだ声でルイーダに声をかけると、ルイーダはレッティとその後ろからゆったりついてくるシジーとジェイドを見て、あら、と口を開いた。
「あるとはいないの?」
「そうなんです。あると一人でって言う英雄様のご指名で」
 レッティがつまらなそうにそう言いながらカウンター越しにルイーダにそう言うと、ルイーダは何か思い当たったような顔をしてから、呟くように続けた。
「英雄…もしかしてグレイナル?」
「知ってるんですか…?」
 シジーは幾分驚いてルイーダの言葉を聞きただすと、ルイーダは慌てて頷いた。
「あ、うん。でも名前だけ。でも、そう。あなたたち、もうそんなところまで行ってたのね…。ずいぶんしっかりした顔になったなって思ってたの」
 いつもは冒険者たちを叱咤するような瞳のルイーダが、珍しく成長したレッティたちを嬉しいような寂しいような、という複雑な表情を見せた。レッティはルイーダに褒められたことが単純に嬉しくて、飛び跳ねて喜んだ。
「本当!?ルイーダさんっ!私、ちゃんと成長してますか?」
 ルイーダはレッティを見ると、にっこりと微笑んでレッティを褒め称えるかと思いきや、きちんと釘指すことも忘れなかった。
「レッティの成長は嬉しいけど、あなたスーパースターになるのが夢だったわね?盗賊の鋭い目つきはスターには不向きよ。盗賊の素早さを身につけて踊りを洗練させるって言うのはいい目標だったけど、もうちょっと優雅さがいるわね」
「目つきは生まれつきですっ!」
 レッティはルイーダにすかさず釘指されたことにショックを受けながらやりかえすが、ルイーダはそうじゃないのよ、と首を振る。
「生まれつきのものとは別の、瞳の力みたいなものよ。盗賊でもスターでも、獲物をあからさまに探すような目つきはどちらにしてもタブーだわ。プロなら静かに悟られないようにするのがプロよ」
 ルイーダはそう言うと、頑張りなさい、とレッティに続けた。ルイーダは簡単に褒めたりしないが、フォローもアドバイスも行き届いた会話を駆使する。冒険者たちが自然にルイーダの店に集うのは、やはりルイーダの人徳によるものが大きいのだろう。
「それで、あるとがいないことに関してなんだけど…俺らはしばらくここで待機したいんだ。その場合はどうしたらいいんだ?」
 ルイーダに改めて あると がいない場合のことをジェイドが聞いてみると、ルイーダは簡単よ、とこともなげに三人に言った。
「もともとあなたたちはウチの登録者だもの。私が面倒を見てあげる。ここの登録をしたときの登録の書にその事は明記してあるし、それにあなたたち、あるとと冒険する前は私が普通に面倒みてあげてたでしょ?」
 シジーは言われてみれば、と あると に出会う前の事を思い出す。リッカがいなかった頃はこの宿屋はここまで大きくもなかったので、ルイーダが冒険者たちを空き部屋に泊めていたのだった。しかし、今やリッカの宿屋は日々部屋が足りなくなっていっている状況のようだ。それを前と同じに寝泊まりすることは果たして可能なのだろうか、とシジーは一人頭を悩ませていると、それに気づいたかのようにすぐさまルイーダがフォローした。
「もちろん、リッカの宿として管理する部屋数から言って冒険者が使える部屋は減ってはいるけど、最近は冒険者もほとんど出っぱなしでほとんど戻ってこないから、部屋数は大丈夫よ。ただし、リッカの宿ではないから、食事や掃除は各自で行うこと。これは前の通りね」
「そっかー、リッカんとこのご飯は食べられないってことか。残念ねージェイド」
 ショックからいつの間にか立ち直っているレッティがジェイドにそう言うと、ジェイドはつまらなそうに鼻で息をついた。それを隣で聞いていたらしいリッカが、ジェイドに大丈夫ですよ!と声をかける。
「ルイーダさんのお店で出してるメニューはおつまみ中心ですけど、厨房は宿屋と同じなんです。宿屋と同じ食事をって注文してもらえば、ここで同じものが食べられますよ!」
 リッカの言葉に、ジェイドはにやりと笑って返した。
「そりゃいい。毎日そうしよう」
「あはは、ジェイドさんったら本当にうちの料理を気に入ってくださってるみたいで私も嬉しいです!」
 リッカは素直に笑うと、ジェイドは静かに頷いた。
「うん、気に入ってる」
 ジェイドもよどみなく思いのままの言葉しか言わないタイプの人間なので、リッカは率直なジェイドの言葉に嬉しそうに微笑んだ。和やかな二人を見てシジーも微笑ましくなりながらも、シジーには行きたいところがあったのを思い出した。
「とりあえず、住処と食事のことはまとまったわね。一度、ここで解散にしましょうか」
 レッティはシジーの言葉にはっとしながらも、これ以上は個人の問題だと割り切ることにした。ジェイドもシジーの言葉に頷く。
「あなたたちが泊まる部屋の鍵はこれよ。一つしかないから、代表の誰かがちゃんと管理してね」
 ルイーダが鍵を渡そうとすると、ジェイドが手を差し出した。
「オレは多分部屋か酒場にいるから」
「わかったわ。お願いね、ジェイド」
 シジーはジェイドに鍵の管理を任せることにする。レッティもおそらくじっと部屋に閉じこもるタイプではないから、妥当な人選と言ったところだろう。
「それじゃ、また」
 シジーは落ち着きなく二人に手を振ると、ルイーダの酒場で賑わう人々を通り抜けて扉の外へと出て行った。ジェイドとレッティは二人顔を見合わせてから、示し合わせたように息をついた。
 二人にはシジーがどこに行くのか、すでに予想がついていたのだ。

 シジーが行きたいところというのは、セントシュタインの教会だった。そこで再び祈りを捧げるのだ。あるとの無事を祈ることしか、今のシジーを支えられるものは何もなかった。
 急ぐあまりに途中の階段で転びそうになりながらも、シジーは教会にたどり着く。ここの教会の神父とは顔見知りであるし心も落ち着くだろう。セントシュタインに戻りたい、と あると に願ったのは別の思いがあってのことだったのだが、今もってここに来ていたことはひとつの幸運だと思った。
「シジー!どうしたのです!そんなに慌てて!」
 修道女が血相変えて教会に飛び込んできたシジーを抱え込むと、安心のあまりシジーはその場に崩れ落ちた。この修道女がここにいるという更なる幸運に、シジーは涙があふれそうになる。
「ああ、マザー。あなたが何故ここに…!」
「修道院にあった書物をこちらの神父様にお届けするお役目でセントシュタインに…まぁ、あなた!顔が真っ青よ、シジー」
 マザーとシジーに呼ばれた女性は中年の修道女だった。実は、その修道女は幼い頃からシジーを見守ってきたその人だった。シジーはある期間修道女で過ごしていたのだ。
「ああ、神様。マザーを私の元にお送りくださったのですね…!感謝します…!」
 シジーはとうとう我慢ができなくなったのか、マザーの服を握りしめるとひしと彼女を抱きしめた。マザーはおとなしく貞淑なシジーがこれほど取り乱すのが不思議で堪らないらしく、しかし落ち着いた声でシジーに声をかけるとゆっくりと抱きしめた。
「シジー。神の御前である教会でそのような取り乱し方は感心しません。さ、一度外へ」
「は、はい…」
 シジーはマザーに言われてよろめくように立ち上がると、一度神にお詫びを捧げるように一度跪き祈りを捧げてから、教会の外に出た。マザーはそのシジーの背中に優しく手を当てると、彼女を支えるように一緒に歩いたのだった。
 教会の裏手に芝生が整えられた公園があった。遊具も何もない場所だったので、整備されている割にあまり人気がないその場所でなら落ち着いて話ができそうだとシジーは思った。
「ご挨拶が遅れました。お久しぶりです、マザー」
「いつものシジーですね。安心しました。あのように取り乱すあなたを…私は久しぶりに見ました」
 マザーは心配そうにシジーの手を取ると、シジーの瞳をのぞき込むように腰をかがめてそう言った。
「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした」
 シジーは心の底からマザーへの失礼を詫びた。頭を下げて、マザーの手を握りしめる。
「大丈夫ですか?顔色は…さっきよりはよくなったみたいだけど」
「大丈夫です。でも、座ってお話しても構いませんか?」
 シジーはベンチを指さすと、マザーは頷いた。二人はベンチに腰掛けると、空を見上げた。高いところに白い雲がゆっくりと移動しているのが見えて、空だけは平和だ、とシジーはその空の美しさに悲しくなりそうになった。
「シジー。あなたの心の災いを私に話してちょうだい」
 マザーはなかなか話し始めることができないでいるシジーを窘めるようにそう言った。シジーはマザーを見てから、少し混乱したように視線を彷徨わせる。そんなシジーにマザーは優しく声をかけた。
「あなたの混乱はおそらく気持ちの整理がついていないことによるものです。順を追ってお話なさい。そうすることで、あなたのなかでも出来事が整理されていくはずです」
 マザーは静かに、強要するでもなく、優しく勧めるような口調でそう言った。
 シジーはマザーの言葉に納得はしたものの、一体どこから話したらいいものかと考えあぐねた。困った顔のままマザーを見つめると、マザーは穏やかに微笑み、それならば、と別の提案をした。
「あなたが今思い浮かんだ言葉を、一つずつ言ってみなさい。私がその度にその言葉の思いを確認しましょう」
「はい…」
 シジーはマザーの言う通り、頭に浮かんだ単語を口にするようにしてみた。
「ひとり」
「誰のことかしら?」
 マザーは穏やかにその単語の意味を促す。
「仲間がひとりで危険な場所へ行ってしまったんです」
 シジーは自分を分析するように淡々というように心がける。
「ほかには?」
「戻らない」
 シジーはその言葉に恐ろしい思いがして目を閉じた。
「それは?」
「その人が戻らないかもしれない。その人が戻っても、また四人で一緒に旅ができないかもしれない」
 ふと言いながらおかしな自分に気づく。後者はあり得ないのではないかと。
 シジーの表情の変化に気づいたのか、マザーは次の言葉を、と促す。
「信じる」
「いい言葉ね。教えてちょうだい」
 マザーは微笑むようにシジーに続きを勧めた。
「ひとりで旅立った仲間が私に言いました。信じるなら笑って、絶対に迎えにくるから…って」
 マザーは頷いた。シジーを見つめると、その手を握りしめる。
「勇敢で素敵なお仲間に巡り会えたことを誇りに思いなさい、シジー。そしてそのお仲間さんは他ならぬあなたを必要としていることもね。他のいろいろな不安や余計な心の曇りは、あなたの疑心暗鬼によるものよシジー」
 マザーは毅然としてシジーにそう言った。シジーも言われて初めてそれに気づいた。自分が あると を信じずに疑い、その結果このとてつもない黒い不安が胸を押しつぶしていたのだと知る。
「お仲間さんはあなたを信頼しているわね。それなら、あなたは信頼と愛情で返すべきだわ。それが私たち聖職者の務めですよ」
 マザーの言葉を胸にしみこませるように聞き入ってから、シジーははい、と頷いた。
「マザー。お話を聞いてくださって、本当にありがとうございました」
 マザーがいてくれて、本当によかった、と心底思いながらシジーは神に感謝する。ついで、と言っては失礼かもしれないが、マザーにひとつシジーはお願いをしてみることにした。
「マザー。よろしければ一緒にその仲間の無事を祈っていただけませんか」
 言われたマザーは快く了解の意を示してくれた。
「ええ、もちろんよシジー。あなたのお仲間の無事を一緒に祈りましょう。よければ、その人の名前を教えてもらえるかしら」
 聞かれて、そう言えばここまでの話題で一言も あると の名前が出なかったことがシジーには不思議なくらいだった。シジーは微笑むと、ゆっくりその名前を心に刻み込むように口を開いた。
「あると。あると、って言います」
 シジーの、面映いような誇らしいようなというその表情に、マザーは微笑ましく思いながらそう、と頷いた。
「あると、素敵なお名前ね。ええ、いいわ。教会に戻りましょう、シジー」
「はい、マザー」
 シジーとマザーは連れだって教会に戻っていったのだった。













to be continued.

■ルイーダの酒場のシステムを考えてたらややこしくなってきて割愛。
考えたのは、冒険者管理維持費は町の商店街から有志を募って資金集め。
国の兵士たちでは民衆レベルの問題解決には動いてくれないことが多々あったため、冒険者に頼ることが多かった。
そのための冒険者支援の維持費として町内会費の予算として組まれていて管理をルイーダに任せている…とか。
この仕組みだと支援の資金に限りがあるため、冒険者は誰でもなれるわけではないという仕組みが必要。
ま、そこはルイーダの眼力なのかな(笑)あなた向いてないわよ、とか言われて終わりwとか。
かの有名なFQではテストをしてたけど、テストは正直コストがかかりそうです。審査とかにも人件費が相当かかるし。
世界的レベルでシステムができあがってるからこそ可能というのもあるけども…DQの場合はルイーダ一人の双肩にかかってるし実質そこまでは無理かなと。
冒険者自身にはルイーダのお眼鏡にかなえばコストはかからないというマイ設定です。
なので、冒険者たちは町民の頼み(クエスト)をできる限り叶える必要がある、という流れ。

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