掲載日:2001/11/11
修正日:2001/11/12




癒しの旋律



 ちゃり、ちゃり・・
 左足を前に出すたびに鳴るのは、ダガーを携えた金具が擦れる音。黄金色の髪を揺らして、彼はゆっくり船から遠ざかっていく。
 轟音を立てながらそこから遠く離れていくのは、ヒルダガルデ三号。リンドブルムのシド大公が愛しい妻の名前を入れて作った、最新型の飛空艇。
(ジタンが決めたこと・・だから私は・・何もいえないわ・・)
 遠ざかる黄金色の彼の髪を、いつのまにか逞しくなっていた後ろ姿を、ダガーことアレクサンドリア王女ガーネットは、いつまでもいつまでも見つめていた。
 涙が止まらない。止まらない。
 彼は宿敵であり、兄弟でもあるその人を助けるために、これから暴走するというイーファの樹にとどまった。これからその大樹が彼にどんな危害を与えるのか、ガーネットにはその想像もつかない。
 想像も、したくない。
 しかし、確固たる現実はその場所から遠く離れれば離れるほど、よく見えてくる。イーファの樹は、鞭の様に根をうねらせ、枝は鋭い牙のように伸び始めている。
 思わず、ガーネットは飛空艇の縁に額をつけた。
「ジタン・・ジタン・・どうか、どうか無事に帰ってきて・・!」
「ダガー・・」
 遠慮がちな声が聞こえて、ガーネットは振り返った。風に飛び散った涙が、すぐさま後方に流れていく。そして、そこにいたのは、エーコだった。
「エーコ・・」
 慌ててガーネットは涙を拭いた。
 エーコは涙のことは何も言わず、そっとガーネットの手を包んだ。
「馬鹿ね、ダガー・・だからあの時、ちゃんと言ったのに。好き?って聞いたのに」
 ガーネットは言われて、強がるように笑って見せた。肯定とも否定とも取れない、複雑な表情に、エーコは見上げたその顔でしょうがないわね、とでも言う風に笑った。まるでお姉さん風を吹かせるように。
「ちゃんといわないから、ジタン、行っちゃったんじゃないの?きっとダガーが止めていれば・・」
「そんなこと、ないわよ」
 そういって、ガーネットはゆっくり首を振る。エーコはそんなガーネットを、憤慨したように見つめ、腰に手を当てた。そして、少し荒げた声でこう言う。
「だって!生きてて欲しくないの!?ジタンに・・ジタンに生きて欲しいじゃない!」
 お姉さん風を吹かせるのも、長くは続かなかったようだった。エーコは悲しそうに涙を落として、ガーネットの手を握り締めた。ガーネットがその手のぬくもりに、少し微笑む。
「ええ、そうね」
「ダガーはそうじゃないの?」
 睨むようにエーコはガーネットを見上げた。ガーネットはエーコの手を自分の手で包むように握りなおすと、囁くようにこう言った。
「生きてて欲しいけど・・それもジタンが決めること、だもの。いいえ、ジタンは、生きるためにそうしたかったんだもの。だから、きっと帰ってくる」
「信じるの?」
 エーコは涙を零しながら、ガーネットを見上げた。ガーネットはそんなエーコに優しく頷く。
「そう、信じるの。それはきっと希望になるから。希望は諦めなければ、叶うものだから・・」
 陽が落ちかけて、まるでそれを抗うような強い勢いの赤い光をガーネットは見た。切実なほど、強くて精一杯の光。生きようとする生命の光は、きっとこうではないかと、ガーネットは思った。
 と、その瞬間。
 がくん、とガーネットの膝が折れた。
「!?」
「ダガー・・?」
 エーコが慌てて支えようとするが、力が及ばず、ガーネットはそのまま甲板に膝をついた。
「つ、疲れたの?ごめんね、こんな話するから余計・・」
「違う・・エーコ、違う。・・なにかしら・・痛い・・」
 ガーネットは自分の体を抱きしめた。エーコは慌てて、回復の魔法を唱えようとするが、ガーネットがそれを制した。
「違うの、これは私の痛みじゃない。」
「・・・?どういう意味?」
 エーコは唱える呪文を一度途切れさせて、ガーネットに尋ねた。
「・・まさか、ジタン?」
 ガーネットは思わずエーコに尋ねた。エーコがわかるはずもないのに。
 一瞬訳がわからないエーコは目を見開く。しかし、ある想像がエーコの中を走っていく。
(・・ジタンの痛みが、ダガーの体に伝わってる?)
「ジタンなの?ジタンの身に・・何か起こっちゃったの?!」
 エーコはガーネットの言葉に混乱して、今にも泣き出しそうになる。ガーネットは手を伸ばし、ゆっくりエーコを抱きしめた。
「どうしよう・・どうしよう!戻ろうよ!戻ってジタンを助けに・・」
 ガーネットがそれに首を振る。痛みを受けながら、ガーネットはそれをジタンが欲していることではないのだと、自然と判っていた。だから。
「ね、エーコ。一緒に、うたってくれる?ジタンに届くように」
「歌をうたうの?」
 エーコは不思議そうにガーネットの顔を覗き込んだ。ガーネットは苦痛に顔を歪めながらも、それでも力強く頷いた。
「ジタンが生きることを諦めないように。無事に、私たちと会えるように」
「エーコ歌う!」
 エーコがそう言ってくれたのを見て、ガーネットは安心したように頷いた。すうっと息を吸って、あのうたを、旋律を、歌い始めた。
 エーコも二回目からその歌にあわせて声を出した。
 二人の旋律は空を漂った。

どうか、どうか生きて。生きることを諦めないで。
このうたで、あなたをどうか癒して・・


 そして、二人はその歌がしっかり功を奏したことを、後に知ることになる・・。




Fin.


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Copyright 2001 BY SAE

FF9への愛情が・・すごいです。暴走してます。
どうしても抑えられないので、へたっぴでも小説を書いてしまいました。
そうでもしないと、なんだか熱暴走しそうで・・怖い。自分で。
こんなに何かに暴走するのってすごい久しぶりだ・・。