●ANOTHER DAYS●
カルマ。
何の貴族の称号もない、ただのカルマ。それだけ。
可愛らしい蒼い瞳と黄金色の輝く髪の毛を持つその娘は、町外れの小さな小
屋に両親と3人で暮らしていた。季節は乾期に近づいていて、周りの草原はやっ
と元の乾いた土に戻り始めていた。
カルマは一日も早く街に出られるようになるため、チョコボに騎乗する訓練
は怠りなく毎日繰り返していた。広い広いこの草原は、カルマのチョコボの練習
場として、最適な土地だった。
「ボコ!ちょっとちょっと!きゃあっ!」
どさっ!
カルマの体がこの広い大地に投げ出された。幸い、いつもこの茂った草や柔
らかい土が体の衝撃を減らしてくれている。カルマの方も、幾度となくチョコボ
に投げ出されているので、自然と体が受け身をとっている。カルマは不機嫌に体
を起こすと、別の方に逃げていくチョコボを目で追った。
「も〜っっ!!ボコ!待ちなさいったら!」
「カルマ。」
後ろから聞き覚えのある声に声をかけられ、思わずカルマは肩をすくめた。
おそるおそる後ろを振り返る。
「お父さん」
まだ年若いその男はカルマに向かってため息をつくと、苦笑しながらカルマ
に手を差し出した。彼は、そう、歴史の上では数年前に死んだとされた男。ラム
ザ。正式な名はラムザ・ベオルブ。貴族ベオルブ家末弟にして、真の英雄。しか
し、それを今現在知るものは皆無に等しい。
「大丈夫かい?」
「う、うん」
カルマは父の手を握ると、立ち上がる。カルマが服の汚れを叩き落とすと、
父を見上げた。ラムザはボコに向かって口笛を吹く。すぐにボコがラムザに気付
いて、軽快な足取りでラムザの方に走り寄ってくる。そして、ラムザはボコを優
しく撫でてやると、騎具の手綱をつかんだ。
「カルマ。父さんと一緒に練習しないと危ないって、母さんにも言われただろ
う?」
「ごめんなさい。」
カルマは肩を縮めてそう言った。父にそっくりな黄金色の髪の毛が前に垂れ
た。
「まあ、いいや。ほら。」
ラムザはカルマを抱え上げると、チョコボに乗せてやった。カルマはスカー
トを直すと、父に渡された手綱を握りしめる。
「特訓の成果はどうだい?」
ラムザはボコが唐突に暴れないように騎具を握ったまま、カルマに尋ねた。
カルマは憤慨したように父に報告する。
「ボコったら、お父さんがいるときはおとなしいくせに、私だけだと馬鹿にし
て。ちっともおとなしくしてくれないのよ!」
ラムザが笑う。ボコを撫でてやりながら、カルマにこう言った。
「ボコは分かってるんだよ。カルマが父さんに内緒でボコに乗ってるって事を
ね。だから、暴れるんだ。カルマを叱ってるんだよ。」
「えー?ボコ、そんなことが分かるの?」
カルマはボコに顔を寄せて、そう聞いてみる。ボコがクエエ!と勢いよく鳴
いたので、カルマは吃驚した。
「分かるのね!お父さん!」
「そうだよ。ボコは賢いから分かるよ。カルマがどんなにボコに乗りたいかっ
て事も、ちゃんと分かってるよ。」
カルマはきょとんとした。ラムザはカルマを見上げると、にっこり微笑んだ
。
「そこまでもちゃんと分かってるんだ。だって、さっきまでボコはカルマを乗
せて軽快に走ってただろ?」
ラムザがそう言うと、カルマはそう言えばと頷きかけたがすぐに父に言い返
した。
「でも!ほんの少しよ!すぐにいつもみたいに投げ出されちゃったし」
「僕を見つけたからさ。」
ボコがク〜と鳴く。主人に申し訳ないと言うような、そんな感じの鳴き方を
する。
「僕がいたのを、ボコがカルマより先に見つけたんだ。だから、カルマをまた
叱ったんだよ。」
「まあ!ボコったら!」
カルマが怒ってボコの頭を軽くぴしっと打った。ボコがク〜とまた鳴いた。
ラムザはカルマのそんな様子を見て、騎具をその手から離した。ボコを撫でなが
ら、カルマに言う。
「よし、じゃあカルマ。ここを一回りしてごらん。ボコはきっと投げ出したり
しないよ。僕が許してるんだから。」
「本当!?ようし!じゃあ、ボコ。頼むね!」
カルマの足がボコの体を打つと、クエエッと一鳴きしてボコは足を蹴立てて
走り出した。ボコはぐんぐんスピードを上げていくので、カルマは手綱を必至に
握っていた。いつまでもボコが自分を振り落としたりしないで、走り続けてくれ
るので、カルマは喜んだ。
「ボコ!早いのねえ!」
風に打たれながらカルマがそう言った。やがて、走りを堪能して、カルマは
ゆっくり手綱を引いていった。スピードが落ちていって、ラムザの方に寄ってい
く。 ラムザがボコを撫でてやって、カルマを見上げた。
「どうだった?」
「最高!ボコって早いのね!お父さん!」
「うん、でもボコも生きてるんだから、あまり無理させたらいけないよ。疲れ
てしまうからね。」
そう言ってラムザはカルマをまた抱えると、ボコから下ろす。それを聞いた
カルマが、慌ててボコを撫でて言う。
「嘘!無理させちゃった?ボコ!」
しかし、ボコはクエッと元気よく鳴いたので、カルマはほっと胸をなで下ろ
した。
「大丈夫。ボコは強いから。でも、無理しすぎたらいけないって事だよ。」
「うん、分かった。お父さん」
カルマは素直に頷くと、父の手を握った。ラムザは娘の手を握り返して、ボ
コを手綱で誘導させていく。陽が落ちかけて、遠くにやっと見えてきた小屋。そ
れがカルマの住む小屋だ。ドアの前で帰りを待ちかねた母が手を振っている。
「カルマ!あなた!お帰りなさい!」
カルマが走り出して、母に抱きついた。そして、今日の成果を真っ先に報告
した。
「お母さん!私ね!ボコに乗れたのよ!!」
Fin.
Copyright 1997 BY SAE.