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【ディアマイン】 |
| ■For Valentine's day |
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作成日[2002/2/7] ――平凡な女子高生をしていたし、不自由や苦労というものは特別そう感じたことは無かった。パパが居なくなったときは酷く寂しい思いをしたことを覚えているけれど、ママと一緒に暮らしていくことはそんなにつらいと思わなかった。私は小さな心を痛ませる恋もしていたし、友達とも楽しくやっていた。 「幸せになろうね、咲十子」 ママがそういってくれるだけで、私はもう幸せだった。ママの言葉が、前向きに生きているママと一緒に暮らしていくことが何よりも幸せだった。 けれど、そこで終わりじゃなかったの。 もっともっと、深く優しくて温かな心を知る機会が、私には与えられたの。 もっとも、それと知るまで、時間がかかったのだけど――――。 お正月が過ぎて、次に賑わすイベントといえば言うまでもなく。そのイベントに向けてどこもかしこもそのデコレーションが花を咲かせている。 咲十子と晃子は買い物のために新宿に来ていた。久しぶりに顔をあわせた二人は楽しそうにバレンタインに華やぐ街を歩く。 咲十子が家を出るとき、風茉はずいぶんとつまらなそうな顔をしていた。しかし、バレンタインの買い物をするのに本命に来られても困る。咲十子はなんとか説得して出てきたが、実のところ説得に成功したとは言いがたい。拗ねて仕事部屋に閉じこもられてしまったのだ。 風茉を心配してうつむいている咲十子を、晃子はなんとなくそのわけに気づきながらも声をかけた。 「で?何買うか決まってるの?」 とりあえずお茶して買うものを整理してからにしよう、という晃子の提案通りに二人は一旦カフェに入っていた。晃子はローズヒップティー。咲十子はこの店自慢の薬草茶というものを飲んでいる。 「ん〜チョコレートの塊をいくつかと生クリームとかね。あとはビスケットと、アーモンドとかもあるといいかなぁ。トッピングもいくつか欲しいし・・あとはラッピング用のフィルムとかリボンとか」 「ふんふん。その日は私サボって咲十子んちで作っちゃおーっと」 「ふふふ」 幸せそうに笑う咲十子。晃子はそんなやわらかい表情をする咲十子の顔に、にやりと笑う。 「な、なに?」 「ねぇ。咲十子。聞いてもいーい?」 「なにかな・・」 咲十子は身構えるようにかしこまって座りなおすと、晃子はそんな緊張をほぐすように肘を突いた。腕に顎を突いて、咲十子を見上げるように見つめると、 「咲十子の作るチョコってあの風茉くん宛てよね?婚約者なわけだし」 とまず確認する。ぎくり、と咲十子の小さな肩が揺れた。 「う、うん・・」 「それでさ、咲十子って義理堅くて見分けるのが難しいから聞くんだけどね。それって義理チョコなの?」 ぶるぶるぶる、と顔を横に振る咲十子。もうすでに、咲十子の顔は赤く火照っている。晃子は意外そうな顔をしながら驚きつつも、なんだか風茉の嬉しそうに喜ぶ顔が浮んできて嬉しくなった。 「そっか。咲十子がそう言うんなら、安心したよ」 「え?」 顎を突いていた腕を下ろすと、晃子は一口お茶を含んだ。晃子はカップを置くと、言いにくそうに咲十子に告げる。 「前に紹介してくれたでしょう?婚約者だって」 「うん」 「親が決めた、ってついてたでしょ?」 「うん」 晃子はそこでようやく咲十子の目を見つめて話す。咲十子はそんな晃子の目を見ると、晃子が穏やかに笑っているのをみつけた。 「だから、心配してた。咲十子の意思じゃないってことにね」 「・・うん」 「きっとねぇ・・咲十子のことだからイヤっていえないんじゃないかとか、思ってたんだよね」 図星をさされた咲十子が、顔を赤くしている。分かりやすい奴、と晃子が言うと、むうっと咲十子が頬を膨らませる。そんな顔を見つけた晃子がぷっと吹き出した。 「・・でもさ。どんな事情かはおいておいても、あの家で何かを拒否するっていうのは、私でも無理だなぁ。あまりに大きいんだもの」 和久寺の豪邸に一度お邪魔した晃子は、そのときに受けた衝撃を思い起こすかのように天井を見上げながらそう言った。咲十子はそんな晃子に、そうね、と微笑む。 「本当はね、拒否することはできたの。でも、私ちゃんと風茉君を知ってからでも遅くないって、そう思ったから」 「・・・いつ、気づいたの?」 晃子は半分あきれたようにそう言う。咲十子が、驚いたように晃子を見返すと、晃子が意地悪そうに笑っている。 「自分の気持ちに、さ。咲十子、私に紹介したとき、まだ気づいてなかったんでしょ?」 「あ・・うん」 「いつ?」 思い起こすのも恥ずかしいのか、咲十子はうつむきながら言った。 「文化祭のときに・・私がひと騒動起こしちゃってね。風茉君、助けてくれて、二人で隠れてたの。」 「あたしは、知ってたと思うよ。咲十子が自覚するよりも先に」 バレンタインの特設会場の一角で、チョコを選んでうんうんうなっている咲十子の隣で、晃子がそう言った。 「・・風茉君のこと?どうして?」 心底意外そうな顔をして、咲十子がそう言った。迷っていた2つのチョコレートをつい二つともカゴにぽいと入れてしまう。 「だって、咲十子だから」 「なにそれぇ」 憤慨して咲十子が晃子に突っかかる。しかし、晃子は肩をすくめ、褒めてるのよ、と言う。 「咲十子、無責任なこと口にするタイプじゃないもん。あのとき私に『風茉君は親が決めた婚約者なの』って伝えた時咲十子は無意識に覚悟してたんだよ。覚悟というのも違うかな・・咲十子は風茉君に惹かれてる自分をどこかで知っていたっていうのかな」 「・・・」 「だから、言葉にして私に伝えられたんだと思ったの。私はね。だからおざなりな気持ちで言ったんじゃないって、私は知ってた」 咲十子は呆然とするしかなかった。自分よりも先に気持ちを知られていたこともだが、そこまで分かってくれる友達が目の前に居ることに咲十子は嬉しくなってしまう。 「晃ちゃん・・すごい・・。晃ちゃんすごいよ」 「やっ・・何泣いてんのよ咲十子!」 ぽろぽろっと涙を落とす咲十子に、晃子が慌てる。バックから取り出したハンカチをすぐに渡すと、咲十子がハンカチを握り締めて晃子の腕にぎゅっと腕を絡ませた。 「晃ちゃん!私風茉君にもチョコ作るけど、同じくらい晃ちゃんにもチョコ作る!」 「やだっ!いらないわよ!女子高じゃあるまいし!」 「あげるんだったらあげるのっ!晃ちゃんいてくれて嬉しいから・・嬉しいから!」 泣き止まない咲十子を見て、晃子は困ったように笑う。ぽんぽん、と落ち着かせるように晃子が咲十子の頭を叩くと、咲十子は余計に晃子にしがみついて泣き出してしまった。 「あーあ。なにやってんだか」 特設会場の影で、二人を見つめる二つの影があった。その片方の小さな影が嘆息を漏らすようにそう言う。 「ヤキモチですか?風茉様」 「ばぁか。女にヤキモチ妬いてどうすんだよっ」 そういいつつも、拳がぎりぎりと握られているのを見つけて、大きな影の方が笑いをこらえた。 女にヤキモチなんて妬くわけではないが、自分の知らない時間を長く一緒に居続けた晃子を切実に羨ましいと風茉は思った。だから、つい拳に力が入ったのだ。 そんな風茉の心を見透かしたかのように鋼十郎は風茉をなだめる。 「さ、それにしても、あんまり尾行なさいますとそろそろ咲十子様の疑いがかかりますよ」 「鈍いから大丈夫だろ」 「いえ、それ以上に風茉様がいつお声を上げられるとも知れませんので」 ずっと二人を尾行していたのだが、晃子の発言のたびに、つい文句を言おうとして立ち上がろうとする風茉を鋼十郎は幾度となく押し留めたのだった。 風茉は鋼十郎の言うことに顔を赤くしながらも、もっともだと思ったのか「帰るぞ」と声を出した。 「かしこまりました」 ―――みんなが幸せになるバレンタインまであと少し。 ―――女の子はその準備期間から幸せになれる、というお話。 ■End. |