MOTHER's DAY




 月夜の森はいつもと変わりなく、湿り気を帯びた風が流れていた。鬱蒼とした森には葉が重なる音が鳴り響き、猛禽の鳴き声が忘れた頃に森を揺らした。
 森の中は何に荒らされるでもなく、静かな時間を刻々と育んでいく。生命の生まれ変わりを優しく、心強く見守っているかのように。
 そんな森の中で大きな口を開けて大鼾をかいている少年がいた。大きく開かれた口には鋭い牙が見える。そう、彼は獣人族なのだ。強いて言えば、獣人族の長、獣人王の息子であった。
「うう〜ん・・」
 およそその牙の鋭さからは考えられないくらいの可愛らしい唸りを上げ、彼は寝返りを打った。傍にいた、狼がふと様子をうかがうように目を開いたが、何事もなかったことを確かめると、再び瞼を閉じた。
 と、狼はぴくんと鼻を震わせた。狼が木の葉の影から見える月を見上げ、そこからゆっくり何かを追うように視線を地上まで移動させた。しかし、警戒する唸り声はなかった。ただ、まるで何者かを定めるような眼差しが、狼の目には浮かんでいた。
 敵か?味方か?
 狼の眼差しにはただそれだけが浮かんでいる。
 狼の過剰な高ぶりを感じ、獣人の彼も目を覚ました。寝ぼけた目をこすりながら、カール?と呼ぶ。
 カールはまるで起こしてしまったことを詫びるように、主人に擦り寄った。ぺろり、と少年の鼻を舐める。
「ん・・?どうした、カール。何か見つけたのか?」
 彼は狼が今まで見ていたものに気づいていなかった。狼はまるで教えていいものか躊躇うようにクウン、と鳴いた。
「ケヴィン・・」
 唐突に名が呼ばれた。ここには自分と狼のカールしかいないと信じていたこの場所で、自分の名が呼ばれたのだ。
「誰だ?」
 警戒心を露わにして、ケヴィンは振り返った。狼が、まるで犬のようにわん、と鳴いた。
 そこに見たのは、金色の光を放った美しい女性だった。髪は黄金のように煌き、優しい瞳がケヴィンの全てを捕らえてしまう。ふわっと風もないのに、女性の髪が波打った。
 まるで女神様みたいだと、ケヴィンはそう思った。
「あ・・誰?」
 女神のような女性はケヴィンの問いには答えず、目を細めた。笑ったのだった。なんて、穏やかな微笑み。聖母のようなリースでも、気高いアンジェラにも、無邪気なシャルロットにもない、暖かい微笑み。
 ケヴィンはその微笑みに圧倒されていた。
 ゆっくりとその女性が近づいてきた。もう、ケヴィンには警戒心も何もかもが解けてしまっていた。これがもし敵であったらどうなることか・・?
 しかし、その心配もないのだと、ケヴィンは思っていた。隣にいるカールが、まるで犬になってしまったかのように黙ってケヴィンの傍についているのだ。もし、少しでも可笑しなところが有れば、カールが真っ先に気づくはずだ。
 それに・・・、直感が、野生の勘が、警戒する必要がないことを告げていた。驚くほどはっきりと、それは体に隅々に行き渡っていた。
 だから、その光り輝く女性がケヴィンの頬に手をかけたときも、待っていたかのようにその手に顔を埋めたのだ。
(あったかい手・・。)
 光を放っている所為なのか、それとも全くそれとは関係ないのかわからなかったが、その手はやわらかく暖かかった。それでいて、儚げでいつ消えてしまうかわからないという怖さが同時にケヴィンの心に発した。
 たまらず、ケヴィンはその手がまだ頬にいてくれるように、自分の手を重ねた。暖かい感触が、手からも伝わってケヴィンは幸福になった。
 女性はそのケヴィンの仕草に心打たれたかのように、また微笑んだ。微笑んだ瞳から、光の軌跡が一粒、ころんと零れ落ちていく。
 それに気づき、ケヴィンは驚いた。
「何故・・泣く?どうして泣く?」
 そういいながらも、ケヴィンも目に涙を浮かべていた。それとは知らず。
「さよなら・・またあなたに会えますように・・」
 女性はそういうと、ふわっと髪をなびかせた。風が起こり、森がさざめいた。砂埃が立ち昇り、ケヴィンは目を閉じてしまった。
 気づいたときには、跡形もなくその女性は消えていた。
 まるで、胸の中にぽっかりと小さな穴が空いてしまったような、そんな取り残された気分をもてあまし、ケヴィンはぽろぽろと涙をこぼした。
 慰めるようにカールが、ケヴィンの涙を舐め続けていた・・・。



Fin.


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リハビリ2弾っす。
ケヴィンを書こう!!と会社の帰りに思いつきました。
ずいぶん前にこのネタって書こうと思ってたけど、忘れてた(笑)
リハビリは「とにかく書くこと」「深くは追求しないこと」「技でもなんでも(笑)躊躇なく使うこと」です。
今までなら、変かも〜とか、人はそう思わないかも〜って思ったりすると、却下。ってこともよくあったけど。
リハビリは却下不能です。思いついたことは全て書くようにします。
じゃないと、意味ないのです。リハビリの。
カールはもうもうもう!うちのリュウ(犬)ですね。
書きながら、会いたいなあ〜・・って思ってました。
はあ、少しはリハビリ効いてきたかな〜ぁ・・。
23:36 00/05/29