No time to fall






 人は悲しいくらい辛さや苦しみを忘れてしまう。
 後に残るのは思い出になる。辛いことも悲しいことも全て。

 それなら、人としての罪は忘れることは出来るだろうか・・

 デュランは家に戻ってきた。紅蓮の魔導師を勝つまでは家に戻らないと決意し、フォルセナを飛び出したあの日から、ようやく家に足を踏み入れることができたのだった。
 しかし。彼は憂鬱だった。
 紅蓮の魔導師には勝つことは出来たが、こちらは3人。多勢に無勢という形の勝利に、デュランは自分にある種の不甲斐なさを感じていた。それともう一つ。
 自分が実の父を完全に死に追いやったという事実。
 もしかしたら、もう少し説得していれば、父はこの世に戻ることが出来たのではないか?
 もしかしたら、自分はむざむざ父を死に追いやったのではないか・・・?

 もしかしたら・・・俺は父を見殺しにしたのではないだろうか・・

 デュランは帰ってから、その思いに捕らわれてウェンディやステラの顔を見ることが出来なかった。
 かといって、紅蓮の魔導師に惨敗した後のように酒を浴びるほど飲む気分にもなれなかった。
 フォルセナにせっかく戻ったというのに。デュランはどうしても晴れて平和を取り戻した気分にはなれなかったのだ。
 もう一度旅に出たい、とさえ思った。
 あくる日もあくる日も訪れる戦いの連続。それは自分の罪意識を忘れさせるには確かに有効な方法だった。現に、今まで冒険の中にいるときは、考えないようにするだけでそのことから逃げることは出来たのだ。しかし、ここにはウェンディがいる。ステラがいる。それだけで、肉親を本当に殺してしまったのは自分ではないかという事が疎ましくてならなくなる。
 
 ようやく、デュランは3日だけ暇乞いをする決意をした。フォルセナに戻ってから、まだ一週間も経たないうちの決断だった。しかし、英雄王は何も言わずに頷いただけだった。許しを得て、デュランは深く頭を垂れた。
「デュランよ。思いつめてはならぬ。何事にも犠牲はつきものなのだ・・。今は辛くても、全て、全て思い出に変わる。そなたが忘れようと、忘れまいと考えていても、そなたの心には残る。そういうものだ・・」
 王はデュランの目を見ながら、優しくそう言った。
 おそらく、王にも同じ思いがあったから。だから、デュランの心のうちを察することが出来たのだ。
 王もまた、あの忌まわしきドラゴンズホールから黄金の騎士であったロキと共に帰ることが出来なかったから。
 デュランは黙って頷くと、すぐさま王の間を去ったのだった。
 ウェンディは何も聞いては来なかった。あれだけ会いたかった兄が再び旅立つのを、不思議と大人しく受け止めているようだった。
 いつも通りの剣を腰に携え、身支度をすると、静かにデュランは家を出た。
 町を出たところで、ブルーザーが駆け寄ってきた。おおい!と野太い声を張り上げて、デュランのところに走り寄ってくる。デュランはいぶかしげに首をひねった。
「何でお前こんなところにいるんだ?警備の当番じゃなかったのかよ?」
 ブルーザーは息を切らして、膝に手を当てると、そんなことしてられっかよ、とかすれ声でそう言った。息を整えてから一息つくと、にっと笑って顔を上げる。
「お嬢さんのところに行くんだったら俺も連れて行けよ。」
「お嬢さん??」
 一瞬目を点にしてから、デュランは目を瞬かせた。
「ああ、もしかして二人の仲間のこといってんのか?リースとアンジェラ。」
「そうそう!俺一度もゆっくり話してないんだからよ。」
 ブルーザーはまるで猫のように目を細めて満面の笑みを浮かべたのだが。
 デュランは呆れた顔をして、違うよ、というと踵を返した。
「別に当てなんかない。あいつらを当てにするほど、俺は落ちぶれてはいねぇよ。」
 それを聞いて、ブルーザーはほほう!と何かを得たような顔をして声を上げた。
「すると何か?あのお嬢さん達は、お前が落ちぶれてどうしようもなくなったときの頼み綱なのか?それとも、お嬢さん達はお前が当てにするほどでもない落ちぶれたお嬢さんだって言うのか?」
「なんでそうなるんだよ」
 自分が馬鹿にされたのも腹が立った。しかしそれよりも、仲間が侮辱されるのはもっと腹が立った。
「撤回しろよ。」
 まるで怒りをむき出しにしたデュランがそう言った。しかし、ブルーザーは図体のでかい体からデュランを見下ろすようにしてこう言った。
「お前が言ったんだ。黄金の騎士殿」
「違う、そういう意味で俺はいっちゃいねぇよ!」
「わかってるよ。」
 急に敵意を引っ込めるようにそういったブルーザーに、デュランは虚を突かれた。きょとんとして、ブルーザーを見上げる。
 ブルーザーは無骨だが優しい笑顔を浮かべて頷いた。
「わかってるさ。お前がそんなこと言う奴なんて誰も思ってない。それに、親父さんの事だってそうだ。」
「・・・っ!」
「誰も、お前が罪を犯したとは思ってない。お前は世界を守ったんだ。」
「だ・・だけど、俺は・・」
 デュランが恐ろしそうに自分の手のひらを見つめている。手のひらに残されたのは、紛れもなく父を討った衝撃。
「お前の手には、お前の身に余る二つのものが乗っかったんだ。一つは世の平定を取り戻したこと、そして、辛いが立派に親父さんを弔ったこと。」
「弔った・・?」
「そうだ。お前はちゃんと弔ったんだ。騎士として、そして騎士の息子として、当然のことをしただけなんだよ。」
 突然、がんっっとデュランがブルーザーの腹に頭突きを食らわした。ブルーザーはげほっとむせて、なにすんだよっと言いそうになった。しかし、デュランが肩を震わせたのをみて、思わず言葉をひっこめた。
「ブルーザー・・さんきゅ。俺は救われたよ。騎士として・・人間として・・」
 ブルーザーは照れたように頭を掻いた。そうしてから、デュランの肩を優しくぽんぽんと叩いた。
「あまり一人で背負い込むんじゃねぇよ。みんな心配するぜ?」
「・・わかった。」
 ようやく落ち着いたようにデュランがブルーザーを見上げた。まるで本当に泣いてたのかと疑うほど、デュランは晴れやかな顔で笑っていた。
 と、そこに、聞いたことのある声が。
「へー・・デュランってそういう趣味だったんだー・・」
「知りませんでしたねえ。女性にはあまり興味がないようにも確かに見えたんですけど。」
 ぎょっとしてデュランとブルーザーが振り向くと、そこにはなんと一国の王女が二人も揃っている。
ブルーザーがおおっとばかりに顔をほころばせた。
「リースにアンジェラ!?なんでお前ら・・」
 焦った顔をしてデュランがアンジェラ達に近づこうとすると、アンジェラとリースが飛びのきながら笑う。
「ヤーダ!近寄んないでよ、うつるー!!」
「デュランは健全な少年だと思ってましたのにー!」
「俺は健全だぁぁ!!」
 3人がはしゃぐ声が久々に空に響きわたる。その声を聞きながら、ブルーザーは安心したように豪快に笑っていた。



Fin.


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珍しくギャグで落ちてます(笑)本当に珍しい〜(笑)
本当はデュランだけで悩みまくって、アンジェラの顔を浮かべて少し元気になる、ってくらいの
かなり抽象的なものだったのですが。
ブルーザーがしゃしゃりでてきてしまいました。(笑)
奴は私の中でデュランの親友気取りなので(笑)
でも、けっこういいかな、こういうのも。
描きながらちょっとクラウドとバレットみたいだなって思ってたのはヒミツです(笑)
22:41 00/06/01