英雄の花
戦争が終結した。破壊と殺戮が繰り返されて、混沌としていた世の中が、神羅
カンパニーによって世界が統括される事になった。しかし、神羅のソルジャーを
目指し将来を夢見ていた少年達は、失念に打ちのめされていた。つい、一週間前
にソルジャーとして認定されたザックスも、例外ではなかった。
「聞いてねぇよ!そんなの・・・・」
ソルジャーを夢見てゴンガガ村を出、決して楽ではなかった訓練を終えて、
やっと手に入れたソルジャーというクラス。あの英雄セフィロスと同じ、名誉な
クラス。しかし、それを発揮する事も出来ずに戦争は終わってしまった。
不謹慎ではある。戦争が終わり、もう罪のない人々から犠牲が出ることはな
いだろう。それを悔しがるのは人間性に欠ける。しかし、ソルジャーとなるため
に頑張ってきた自分の苦労が水泡に帰すとは、どうしても納得がいかない気がし
た。
「せっかくこのクラスを手に入れたってのに・・・・」
ザックスは不機嫌に戦争の終焉を報道するテレビを消すと、ベッドにうつぶ
せになった。不意にドアがノックされた。ザックスは内心誰が来たのかを理解し
て、横柄な返事をした。
「俺はいないぞー。」
「返事してんじゃないか。」
苦笑しながら入ってきたのは、同じ訓練チームに所属するクラウドと言う青
年だった。同じ訓練チームの仲間では一番の親友だ。
「なんだ、俺を笑いに来たのか?」
「不機嫌だなぁ。無理もないけど。」
クラウドはため息を付くと、椅子に座りながらそう言った。ザックスがベッ
ドから起きあがり、同じようにため息を付いた。
「テレビ、見たんだ。」
「ああ、戦争終わったんだよな。俺、せっかくソルジャーになれたってのに、
戦争終わってからのソルジャーって一体何の役目にかり出されるんだろう?」
「さぁ・・・・。でも、ザックスはそのクラス手に入れただけでも、良かった
と思うよ。」 クラウドは少し羨ましそうにザックスを見た。ザックスはそん
なクラウドの表情を見て、複雑な表情でクラウドを見ると、お前はどうだった?
と訊いた。
「うん・・・・。今日対戦試合だったんだけどな、多分、だめだよ。」
「お前って、いつも弱気だな。結果、言ってみろよ」
クラウドはちょっと考えていたが、やがて意を決して口を開いた。
「3勝5敗2引き分け。」
「うーん・・・・。面接は?」
「それもだめ。面接官の顔ぶれに酔いそうになったんだよ・・・。」
ザックスは可哀想になってクラウドを見た。しかし、クラウドはさっきまで
の情けない表情を、なんとか普段の気のよさそうな顔に戻して、笑った。
「故郷のニブルヘイムには帰れそうにないけど、まあ、ここでは新羅兵で十分
食っていけるから俺は新羅兵でいるよ。何か仕事があったら俺を呼んでくれよな
、ソルジャーさん!」
「ああ。でも、これがだめでもまだ試験受けるんだろ?」
「どうかな。志願者が並じゃないし、これからソルジャーの需要自体が落ちて
いくはずだろ?戦争は終わったし。試験が今まで通りあるとは、正直思えないな
。」
「・・・。」
ザックスは黙ってクラウドの言うことを聞いていた。クラウドの実力を知る
ザックスにとって、クラウドが試験で実力が出せていないのは分かっていた。ク
ラウドがソルジャーの資格に値する人材であることはザックスには充分分かって
いるのだが、それを見抜けない上司達がたくさんいることにザックスはある種の
失望を抱いていた。勝手な言い分だと言われれば、それまでだが。
「クラウド、下に降りてみないか?」
ザックスは立ち上がると、クラウドにそう言った。
「下へ?この寮の一階は食堂だよ?食事の時間にはまだ早いよ。」
「馬鹿。その下じゃない。プレートの下って言う意味だよ。」
「プレートの下に?何しに行くんだ?」
クラウドは吃驚してそう言った。ここミッドガルでは神羅の人間は程高いプ
レートの上で、それ以外の人間は陽の光を阻まれたプレートの下で生活をしてい
る。役目のある連中以外で神羅の人間がプレートの下に行くことなど、滅多にな
い。
「下で飲む酒もいいかなってさ。」
「酒ならこの寮の屋上にラウンジがあるし、神羅ビル内部にも・・・・」
「嫌ならいいんだ。憂さ晴らししたいんだよ。このプレートから離れてみたい
だけなんだ。」
ザックスはそれだけ言うと、財布をポケットに入れて大剣をい
つものように背に装備すると部屋を出た。クラウドは一度力つきたように頭を振
ったが、すぐにザックスを追って走り出した。
太陽の光がほんの一瞬も射すことがない世界。そんな世界をここスラムの住
人は力強く生きていた。魔胱エネルギーの恩恵を受け、それでも豊かにはならな
い生活を支えながら。 ザックスとクラウドは6番街に向かった。クラウドはこ
のプレートの下に来たのは初めてミッドガルに着いたとき以来だったが、ザック
スは割と慣れているのでそうではなさそうだった。多分、ちょくちょくあの寮を
抜け出して遊びに来ていたのだろう。
そんなザックスが飲み屋に選んだ店は普通の定食屋だった。
「もう飯を食うのか?」
クラウドが不思議そうな顔でザックスにそう聞いた。ザックスは心得たよう
に笑うと、こう言った。
「ああ、ここの飯はうまいし、懸賞付きなんだ。得した気分になれるだろ?そ
れに酒だってうまいぜ?」
「ふうん。」
どうでもいい、と言う顔でクラウドは返事をすると、自分から進んで定食屋
に入った。ザックスはそんなクラウドを見て、肩をすくめると続けて店内に足を
運んだ。
いらっしゃい!という威勢の良い親父の声が店内に響いた。クラウドが吃驚
して身を引いている姿を見つけて、ザックスが鼻で笑った。クラウドがむっとし
てザックスに振り向いたが、すぐにぷいっと顔をそらすとすたすたと奥のカウン
ター席に座った。ザックスがまた笑いをこらえながら、クラウドの隣の席に腰を
下ろして、メニューを目で追う。
「空きっ腹に酒はまずい。ここの定食で腹ごしらえしとこう。」
「・・・・了解。ソルジャー殿」
「卑屈だな、お前。」
「今に始まった性格じゃないんでね。」
一向にこちらを向かずに、クラウドはふてくされた表情でメニューを見てい
た。ザックスが苦笑して親父に日替わり定食2つ!と頼んだ。
「あっ!俺まだ何にも言ってないのに!」
「クラウド君、今日は俺のおごりだ。よって君には俺の指定メニューを食べて
もらおう。」
ふざけてザックスがそう言ったのを、クラウドは横目で睨みながらぼそぼそ
と言い返した。
「一番安いってだけだろー。俺は焼き肉定食が良かったのに・・・・」
「人のおごりは素直に受けるものだよ、クラウド君」
「はいはい!ありがとうございます、ソルジャーザックス!」
クラウドの機嫌は直りそうもなかったが、ザックスはそれをいっこうに気に
していないようだった。二人は親父に差し出された定食を平らげると、お手拭き
が入っていた袋を開いてみた。クラウドが本日のみ酒飲み放題クーポンを当てて
、親父に大声で賞賛された。ザックスは子供のように上機嫌に喜ぶクラウドを見
て笑った。
その日はそのクーポン券も相まって、二人は夜通し酒を飲み明かした。親父
はしばらく二人を店から出そうとしていたが、やがてそれも諦めて二人と少しの
客のために店を使わせてくれた。
気が付くとどうやら朝が近いようだった。ザックスは二日酔いで痛む頭をさ
すると、財布から自分の分の会計を済ませておこうとカウンターに多めの金を置
いた。それはザックスが先日ソルジャーとして認定されたときに会社側から出さ
れた祝金だった。 クラウドの方を見たが、まだぐっすりと休んでいるようなの
で、ザックスはそのままにしておくことにした。ザックスは外の空気を吸いたく
て、表に出た。
「少し冷えるな・・・・。」
眠い目をこすりながら、ぼんやりとザックスは歩いていった。特に頭では何
処に行くとは決めてはいなかったが、足はまっすぐ教会の方に向いていた。ザッ
クスは教会を好んでいた。ザックスが知る限り、ミッドガル内で陽の光が届く場
所はそこだけだったからだ。
教会は6番街のはずれに小さく佇んでいた。朝早いせいか、霧が当たりを包
み込んでおりその辺りに神秘的な印象を与えていた。ザックスは教会のてっぺん
にかかる陽の光を眺めながら、ぼんやりとその陽を招き入れる割れたプレートを
見上げていた。
「あら?だあれ?」
不意に女の声がした。ザックスは振り返ってその声の主を確かめようとした
。女は片手に籐籠を提げて、長い茶色の髪を後ろで結い上げていた。そして、そ
の髪束と耳の前に垂らした髪はきれいにねじられていてそれは不思議な髪型だっ
た。彼女はザックスににっこり微笑むと、おはよう、と言った。
「あ、おはよう・・・・」
気後れしたようにザックスはそう返事をすると、彼女は肩をすくめて笑った
。
「間抜けな顔してるのね。ソルジャーってもっと怖い人ばかりだと思っていた
のに。」
「え・・・、何で・・・」
ザックスは自分が何故ソルジャーであることが分かったのかを問おうとして
、それがくだらない質問だということに気付いた。全てのソルジャーは魔胱を浴
びて、その瞳は魔胱の作用で蒼く輝く。人々はその瞳を見るだけでその人がソル
ジャーだという事を理解することが出来る。
「ところで、こんなところで何をしていたの?あ、もしかして特別な任務?」
彼女はうっかり聞いてはいけないことを聞いてしまったのか、とでも言うよ
うに手を口に当てた。ザックスはすぐにその言葉を訂正する。
「違うよ。親友と飲みに降りてたんだ。酔いを醒まそうと思って、俺が気に入
ってるここをその場所に選んだってわけさ。君は?」
「私はこの教会で育てている花を手入れに来たの。」
ザックスは一瞬聞き違えたのかと思って、思わず聞き返した。
「花?花があるのか?」
彼女はザックスの反応を楽しむように笑うと、ええ、と返事をした。
「不思議?そうかもしれないね。でも、こんなに不毛な土でも、陽が入ってく
れるから、花、咲いてくれるの。」
ザックスはへえ、とまた先程していたように割れたプレートを見上げた。彼
女が急に手を叩いて、ザックスにこう提案した。
「そうだ。ついでだし、お花、見ていってよ。別に急いでるわけでもないんで
しょ?」
「え?あ、ああ。」
彼女の強引さにザックスは吃驚しながらも、この娘の元気な声が自分の心を
、さっきまで釈然としない感じだった心を、潤していくような不思議なものを感
じていた。
「こっちよ、さあ・・・えーと、ごめん。名前知らないんだった。」
率先して教会に入ろうとしていた彼女は振り返って、照れたように笑う。ザ
ックスもつられたように笑うと、じゃあ、と自分から口を開いた。
「俺はザックス。ソルジャーなんだけど、まだなりたてなんだ。」
「なりたて?じゃあ、決まったのは最近なのね。おめでとう。」
「・・・ありがとう」
彼女は複雑な表情でザックスがそう言うのを不思議そうに見ていたが、慌て
て思い出したように自己紹介をした。
「私、エアリス。5番街に住んでるのよ。・・・それじゃ、あらためてザック
ス、こっちよ」
エアリスはザックスを教会に促した。
教会の内部は何故か光に溢れていた。ザックスはまた上を見上げて、教会の
屋根が崩れかけて穴がぽっかりと空いているのを見つけた。そこからの光が、こ
の教会を満たしていることに気付き、ザックスは納得する。
「見て、きれいでしょ?」
エアリスははしゃいだ声を上げてそう言った。ザックスもエアリスが立って
いる花壇の側に寄った。
「本当だ。こんなところでよく・・・。この花は、強いんだな。」
「・・・うん。」
エアリスは光が洩れている天井を見上げてそう言った。
「そして、この花と同じようにここに住んでいる人たちも強く生きてる。」
「そうだな。」
ザックスはため息をつくと、再び花を見た。エアリスが不思議そうにザック
スを見る。
「なんだか、元気ないのね。いつもそんな風?」
「いや、なんだか滅入ってるんだ。自分に。」
「自分に?」
ザックスはエアリスを見ると、肩をすくめた。
「そう、自分に。自分の思い通りにならないことに腹を立ててる自分が、もの
すごく幼くて嫌なんだ。」
エアリスはザックスから目をそらすと、花壇の花の手入れを始めながらザッ
クスにこう言った。
「そういうとき、私もあるよ。でも、それって思いっきり怒ってもいいんじゃ
ないかな。自分の気持ちを否定すると前に進めなくなるから。」
ザックスはエアリスが手入れする姿を見つめながら、そうだな、と納得した
ように言った。
「英雄になる方法なら、いくらでもあるはずだよ?」
エアリスがザックスの見上げてそう言った。ザックスは吃驚して、目を見開
いたが、やがて照れたように笑った。
「それに、ザックスは英雄になれると思うわ。」
「どうして?」
「どうしても。私はそう思うの。」
エアリスがよいしょ、と立ち上がり、既にその手にはきれいな一輪の花があ
った。エアリスがその花をザックスの手に差し出した。
「はい、これあげる。これはソルジャーおめでとう、の分ね。英雄になったら
、その時にまたここに来て」
「英雄おめでとうの分をくれるのか?」
ザックスは笑いながらそう言った。エアリスが少し怒ってザックスに言った
。
「そうよ。だから、真面目に頑張ってよ?」
「ああ、そうする。」
ザックスは花を受け取って、エアリスに約束した。エアリスは満足げに笑う
と、じゃあ、と言った。
「またね、ソルジャーザックス。次に会うときには英雄ザックスになっててね
」
「エアリスは何になってる?」
エアリスは少し考えてから、ザックスに打ち明けた。
「多分花売りをしてると思うわ。母さんがまだ許してくれないの。けど、戦争
も終わったし、そろそろ始められるはずよ。」
「そうか、じゃあ、花売りのエアリスに今度会いに来るよ。」
エアリスは微笑むとザックスを見送った。ザックスはエアリスに手を振ると
、教会を出た。
そう言えば、クラウドをほったらかしにしていたのを忘れていた。ザックス
は慌てて6番街の定食屋に戻ったが、そこにクラウドはいなかった。親父に聞い
てみると、不機嫌そうに帰ったということだった。
ザックスは苦笑しながら、自分もプレートの上に戻ることにした。無断で外
泊しているので、あのクラウドがちゃんと正面から入ろうとして、寮長に大目玉
を食らうことは目に見えている。早く追いついて裏のルートを教えてやらなけれ
ばならない。
ザックスは花が散らないように大事にポケットにしまうと、急いで走り出し
た。
fin.
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