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【FINAL FANTASY7】 |
| ■遥かなるハイウィンド |
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掲載日[2009/09/02] 「ふふ、私よ。クラウド」 いつもとは格好が違うのでクラウドは少し驚いた。神羅兵の制服を着込んで運搬船の貨物室に潜んでいたのは、エアリスだった。 今は、ジュノンから神羅の運搬船に潜入に成功し、仲間たちとはばらばらに行動している最中だった。神羅兵に成りすまして、あちこちでクラウドの仲間たちがそ知らぬ顔をして船の仕事に従事しているはずだった。 貨物室でぎこちなく歩く後姿を見つけたので声をかけて正解だった。これではばれてしまうのも時間の問題だ。クラウドはそう思いながら声を低くして話しかけた。 「エアリス。神羅の女乗組員は少ないからな。面が割れるとまずいから、エアリスはこのままここにいてくれ」 クラウドの言い方にぴんと来たエアリスが、むっとして腕を組むと不満そうに言い返した。 「なにそれ?つまりは、私が変装下手だって言ってるの?ソルジャークラウド?」 「元ソルジャー、だ。いや、女の運搬員がいないわけじゃないが、乗組員の顔を覚えてると思うんだ。それだと部外者ってことがすぐバレるだろう。一応、念のためだな」 エアリスはへそを曲げると面倒だと瞬時に判断したクラウドは、すかさず言い訳のようにそう言った。エアリスがクラウドを見上げて、むくれたように視線を送っていたが、やがて納得したように肩をすくめる。 「わかった。クラウドの言う通りにします。せっかく船に乗込んだのに追い出されちゃたまらないものね」 ふふ、と神羅の制服に似合わない柔らかな微笑を浮かべて、エアリスはそう言った。エアリスの機嫌を損ねずに済んだことに安堵して、クラウドは人知れずほっと息をつく。 「そういえば。ね、クラウド。ジュノンで飛空艇、見た?」 エアリスが嬉しそうに体を揺らして言う。きっとこれまでにあれほど大きな機体を見たことがないのだろう。しかし、クラウド自身も、あんなに大きな規模の飛空艇を見ることができたのはあれが初めてだった。 「ウワサには聞いていたけど、あれほど大きいとは思ってなかったな」 エアリスの興奮を冷ますように、クラウドは更に声を低くして答えた。ここで雑談を続けるのも、本来はあまり好ましくない状況だ。 「すっごいよね〜…わたし、あれに乗れるかな?」 クラウドの様子などお構い無しだ。エアリスは興奮冷めやらぬ調子でそう言った。 「あれは神羅の兵器だ。破壊しといたほうが良かったかもな」 クラウドは努めてエアリスが冷静になるように声を潜める。そんなクラウドを見て、身を乗り出して話していたエアリスが目を瞬かせてからやがて身を引いた。 「そっかぁ〜。でも一回でいいから乗りたいなぁ」 クラウドの様子に気づいたエアリスは、肩を落としながら小さくそう言った。エアリスは未練がましく飛空艇に想いを馳せるようにクラウドから目をそらすと、ぽつりと言った。 「一度でいいんだけどなぁ…乗ってみたいなぁ…飛空艇」 ごう、と風が吹いた。白昼夢から覚めたようにクラウドは目の前の巨体をまぶしそうに見上げた。 飛空艇ハイウィンド。エアリスが乗りたいと言っていたそれが、今は目の前にある。夕焼けに照らされて、機体は赤く炎を帯びたような色に染まっている。 混乱のうやむやで手に入ってしまった飛空艇は、今やクラウドたちにとって無くてはならない存在である。 「こんなに大きなものが手に入るとは思わなかったな」 クラウドは独りごちる。そうだ、もともとはこんなものを手に入れる羽目になるとは思ってもいなかった。だからこそ、エアリスが飛空艇に乗りたいと何度言っても、自分が乗せてやるなんて簡単に言えることじゃなかった。あの時は。 けれど、あれからそれほど時間が経っていないにもかかわらず。 船は目の前にあり。 彼女はクラウドのそばにいない。 「…あの時、『乗せてやる』って言うんだったな…」 言ってさえいれば、彼女を乗せられたかもしれない。今更そういう妄想に取り付かれる。けれど、妄想でもなんでもいい。生きていてさえいてくれるならば、なんだってよかった。 ――すごーい!中、広いんだね!クラウド! ――見てみて!こんなの見たことないよ!これで動くのかな? ――シドに怒られちゃった!あんまり色々触るなって!ずるいよね、シドはずっと触ってるのに! ――ふふ、内緒だよ?今このボタン押しちゃったんだ。 ――すごーい!たかーい!やっぱりすごいなぁ!願い、叶えてくれたね!ありがとう!クラウド! 目を閉じれば、クラウドの頭の中ではしゃぎすぎるほどはしゃいだエアリスが艦内を走り回る。 その様子や言葉や声の高さが、容易に想像できる。 エアリスなら、こう言う。エアリスなら、こうはしゃぐ。楽しむ。笑う。喜ぶ。 判っていたのに、どうして、叶えてやる、と一言言えなかったのか。 嘘でもいいから言うんだった。いや、未来には嘘はつけない。いずれ来る未来に対して、嘯(うそぶ)いてもそれは可能性はゼロではない。言っても嘘にはならなかったはずなのに。 「なんだ、クラウド。ずいぶんアツい視線をハイウィンドに向けてくれんじゃねぇか。今更こいつに一目惚れか?」 「シド」 クラウドの力ない声が仲間の名を呼ぶ。クラウドは少し思い出に浸りすぎて、疲れたようだった。近しい人の思い出は、懐かしさと悲しさで心を疲弊させるようだ。 そんなクラウドを見て、シドはふんと息をついた。クラウドが何を考えていたのか、大方察しがついたのだろう。シドはそういう辛気臭い話は嫌いだった。シドは気を取り直したようにハイウィンドを見て、自慢げに声を上げた。 「自慢の女房みたいなやつだからな!べっぴんだろ?」 シドはクラウドの隣に並んで、自慢の女房、もとい巨体のハイウィンドを見上げる。シドにとってはこれが生き甲斐で、これが楽しみで、これが操縦さえできれば自分がたとえ神羅側になろうとそうでなかろうとどうでもいいのだろう。クラウドはそういうシドの潔さが時々羨ましくなる。 シドは煙草をくわえた口元を歪ませた。白い煙が空へと細く紡がれる。 「あのねぇちゃん、今じゃ飛空艇より高いところにいるんだろうな。案外、飛空艇が低く飛ぶんでびっくりしてるかもな」 シドが、エアリスのことを言うのは珍しかった。しかも、極上の至宝のように扱う飛空艇を蔑ろにするところなど見たことがないシドが、『低く飛ぶ』なんて言葉を言ったのには、クラウドは耳を疑うほど驚いた。 「シド?」 「ああん?」 煙草を器用にずらしながら、シドが返事をする。クラウドの問いに答えるのがとても面倒そうだが、目は笑っている。 「遅かれ早かれ、俺らもあのねえちゃんとこに行く。これだけはぜってぇ曲がらねぇ。ま、会えたら今度はいってやりゃぁいいのよ。飛空艇に今度こそ乗せてやるってな」 そこに唐突にびゅう、と風が鳴る。一日の最後の光が、幻影をクラウドの目に焼き付ける。 ――ほんとに?うわ〜楽しみにしてるからね! 風が返事をしたように聞こえた。光がエアリスを映し出したように見えた。 エアリスは、いないんじゃない。いつでも、どこにでもいるんだ。 会えないのは悲しいし寂しい。けれど、在るを感じられるのは嬉しい、とクラウドは思う。 「ああ、そうだな。そうしよう」 クラウドは笑った。多分傍から見たら、おそらく笑顔と判らなかったくらいの、わずかな口角の歪みであったが、それがクラウドの最大限の笑顔の表情だと、シドは知っていた。 「おうよ。ハイウィンドは俺様が力ずくで持っていくから安心しな!」 ふーっと、まるで一筋の白い紐を天上に垂らすように、シドが煙を吐いた。まっすぐ迷い無く伸びる白煙を見ながら、クラウドはその先の空を眺める。空はすでに太陽の光を失い、一番星が小さく光り始めていた。 Fin. |