願いの声
さよならを分かってしまうのは辛い。あの娘がもうここにはいないことを、
二度と会えないことを、自分に理解させるのは容易ではない。けれど。
「エアリス・・・何で?何でこうなっちゃったの・・・。」
ティファがエアリスの頬を撫でる。まだ、温かいエアリスの顔。今にも目を
覚ましてくれそうな安らかな顔。しかし、エアリスの顔には確かに生気というも
のが残ってはいなかった。
「いやよ・・・こんなのは嫌・・・。」
ティファが手で顔を覆う。涙が指の間をつたって、床にぽたりと落ちていっ
た。
バレットが隣で肩を震わせている。悔しさか、怒りか、それとも絶望か。諦
めきれない様子で首を横に振る。信じられない、信じたくない。でも、目の前に
いる娘の命は、既に果てていた。使命を果たした後のような、安らかな顔で。
バレットはクラウドを振り返った。涙が溢れそうになっているのを必死にこ
らえているのが、クラウドにも分かった。バレットは極力クラウドと目を合わせ
ないようにして、クラウドの肩に手を置くとその場を離れていった。 泣いてい
るティファを励まし、クラウドはエアリスの体を抱き上げた。その体は驚異的に
軽かった。思った以上に。
クラウドは思わず唇を噛んだ。悔しくて、辛くて、たまらなかった。
こんなにもか細い体の女性を、自分は守ることも出来なかった。挙げ句の果
てに、セフィロスに狂わされたとき、自分はエアリスに手を挙げてしまった。無
抵抗なエアリスを、殴ってしまった。夢の中で、エアリスは許してくれたが、自
分では自分をどうしても許す事が出来なかった。そして、何の償いもできないま
まに、エアリスはクラウドから離れていってしまった。手が届かないほど、遠く
に。
「ごめん、エアリス。・・・本当にごめん。」
クラウドはエアリスの体を運びながら、謝っていた。クラウドには謝って済
むような問題じゃないと頭では分かっていたが、それでも謝る言葉しか今のクラ
ウドには見つからなかった。
泉は何処までも澄んでいた。かなり深そうなその泉は、エアリスの最期の場
所となった。クラウドはその泉にエアリスを沈めた。エアリスは吸い込まれるよ
うに沈んでいった。
三人とも、何もかもが終わってしまったような絶望に襲われながら、その日
は眠りについた。
今まで一緒に戦ってきたかけがえのない仲間。母親のように怒ったり、子供
のように泣いたり、天使のように笑っていたエアリス。彼らはエアリスのそんな
ところに、時に励まされ、元気づけられてここまで進んできたと言っても過言で
はない。それなのに。突然の死。何とか避けることが出来なかったのかと、それ
ぞれの胸を悔恨の念が押しつぶそうとしていた。
「ね、クラウド。そんなに自分を責めないで。」
夢の中、エアリスの声がそう言った。
クラウドはエアリスの姿を探したが、どうしてもその姿は見あたらなかった
。クラウドはそれでもエアリスの声を聞こうと、呼びかけた。
「エアリス?どこだ?」
「ここに、いるから。大丈夫。」
クラウドは必死に辺りを見回した。ある一点、光り輝く場所を見つけてクラ
ウドは本能的にそこだと思った。足を踏み出そうとして、エアリスにそれを止め
られた。
「だめだよ。近づけないの。クラウドには約束の地は早すぎるでしょ。」
おどけるような調子でエアリスがそう言うと、笑った。いつもの明るい声で
。クラウドは懐かしさに目がくらむようだった。
「エアリス。守ってやれなくて、本当にごめん」
「ふふ、ボディーガードだったのにね。」 全く悪意がない、朗らかな声がそ
う言った。しかし、クラウドはますます小さくなって謝った。
「ごめん。俺、本当に・・・」
「やだ、謝ってなんか欲しくないよ。だって、クラウドらしくないもん。クラ
ウドはもっと、そう、興味ないねって顔してないと、だめだよ。」
「・・・。」
「それに、ね。私は古代種で、どうしてもやらなきゃならないことがあったし
、そして、それはちゃんと果たせたから、私はちゃんと約束の地に着くことが出
来たの。これって、名誉な事よ。だから、クラウド。私はあなたの目には届かな
くなってしまったけど、心はいつも側にいるから。」
「エアリス・・・」
「クラウド、本当は誰も何も悪くないよ。だから、自分を責めるのはもう、止
めよう?クラウドはただでさえ他に考えることがいっぱいあるんだから、ね?」
クラウドはエアリスにそう言われてやっと頷いた。
「ああ、・・・ありがとう、エアリス。」
「聞いて、クラウド。約束の地にはね、私が会いたかった人がちゃんといたの
よ。父さんと母さん、それに前言ったよね?ソルジャーの人のこと。その人とも
、会えたの。だから私、ちっとも不幸なんかじゃないから。・・・クラウドがい
ないのは寂しいけど」
クラウドは少し笑った。やっぱりエアリスは特別だ。エアリスの声だけで、
心がこんなにも穏やかになっていく。
「いつか、また会おうね。」
妙にしっかりとした声でエアリスはクラウドにそう言った。クラウドも確信
を持った声でこう答えた。
「ああ、今度はボディーガードの役目、ちゃんと果たしてやるからな。」
「うん、お願いね。」
うれし泣きかどうか分からなかったが、かすれたエアリスの声がそう返事を
すると、一点の光が消えていった。クラウドはその消えゆく光を、いやに厳粛に
見つめていた。
三人が三人とも、同時に目を覚ました。クラウドは静かに目を開けただけだ
ったが、ティファとバレットはしきりにエアリスの名を呼びながら、目を覚まし
たようだった。クラウドは二人の様子に驚いて、目を覚ました二人に話しかけた
。
「おい、まさかおまえらもエアリスの夢を見てたのか?」
二人ともぎょっとした顔をして、クラウドを見つめた。ティファが先に口を
開いた。
「じゃあ、クラウドも?バレットは?」
「俺もだけどよ。けど、夢って言うか・・・」
「エアリス自身の声、よね。」
バレットもクラウドも驚いた顔をした。まさにその表現がぴったりだったか
らだ。三人はそれぞれ自分か聞いたエアリスの声を話し合った結果、ほとんどそ
の台詞が同じだったことを見いだしていた。
ただ、三人が三人とも口に出さなかったことがあった。最後のエアリスの呼
びかけた言葉については、誰も自分の口から話さなかったのだ。実はここが三人
が三人ともエアリスの台詞が違うところだったのだ。
ちなみにそれは何だったかというと。
クラウドには「いつか、また会おうね。」だったが、バレットには「戦いが
終わったら、マリンちゃんの側にいてあげてね」で、ティファには「クラウドの
こと、お願いね」と、いうことだったらしい。
どちらにしても、このエアリスの声を聞けたことで、三人はあの眠る前の徹
底的な絶望からはある程度救われていた。前に進もうとする気力が、再び湧いて
きたのだった。
だから、彼らはその気力がある内に出発した。再び、セフィロスを追い求め
て。
Fin.
Copyright 1997 BY SAE