幼き頃の・・・


「クラウド。だったっけ?」
 その頃俺はまだ七つだった。そして、その子は俺と同じくらいの女の子だっ た。漆黒の髪を肩まで垂らした少女は、俺を見上げて俺に話しかけてきた。その 子はその日、今更ながら俺の名前を聞いてきた。俺がここニブルヘイムに来てか ら、四、五ヶ月が経とうとしていたというのに。
 でも、正直俺は嬉しかったんだ。これでもう俺はひとりぼっちじゃない、こ れから一緒に遊んでもらえるんだって、うかれてたはずなんだ。だけど、そのと き俺はその自分の気持ちを表には出せずにいた。どうやって、対応したらいいか さえ分からなかった。
「・・・・。」
 俺はとりあえず頷いた。まだ魔胱を浴びていない茶色に濁った瞳を背けたま ま。黒髪の少女俺はそのこの名をとっくに知っていたティファはそんな俺の態度 に、傷ついたような顔をした。俺はしまった、と思った。けれど、どうしようも なかった。
 その日から六年間、俺とティファはあの給水塔の約束をする日まで何等関わ りを持たなくなる。俺は、厳密に言えばティファのママが死ぬ日まではと、言わ なくてはならないのだろうが。
 ニブルヘイムに来たのは、親父が死んだせいだった。もともと、親父は武器 屋の仕事をしていた。戦争が始まったばかりで武器が飛ぶように売れていた。そ れなのに、親父は唐突に倒れたまま動かなくなった。母さんはその武器屋を人に 譲り、その金で俺を連れてニブルヘイムまで来た。その村は俺達が出ていった後 戦場となり、焼かれてなくなったと聞いた。
 俺も母さんも、そんな風体でこの村に入り込んだものだったから、ニブルヘ イムの者達の目には厄介者が転がり込んできた、としかうつらなかった。でも、 そんな村の中でも親切にしてくれる人が全くいなかったわけではなかった。旅商 人で家を空けることが多いのでと、その人は俺達に家を安く貸してくれた。が、 それを快く思わない者が大半で、中でもその中の代表とでも言うべき嫌な奴が、 隣の親父、つまりティファの親父だった。
 だから俺は同い年の子供達とは遊ぶことはもちろん、話しかけることすらで きなかった。大人が話していることは子供の耳にも、ストレートに入ってくる。 大人達がいぶかしむと、その子供達も当然その対象となるその子供を卑しむのだ 。
 俺は隣の親父を恨んでいた。隣の家に住む奴らを憎んだ。ティファも例外で はない、はずだった。そのとき話しかけてくるまでは。
 ティファは気を取り直した様に俺に話しかけてきた。昔から少しくらいじゃ くじけない奴だった。「そんなところで何してるの?」
 俺はその時家の屋根に登っていて、ティファは自分の部屋の窓から屋根の上 にいる俺を見上げている格好だった。
「別に何も」
「ふうん。私もそこに行きたい。どうやって登るの?」
 そう言ったかと思うとティファは既に窓枠に足をかけ始めていた。俺は慌て てティファを止めた。
「だ、だめだよ。親父さんにしかられるだろ?」
「パパ?ああ、今日はね、ニブル山で狩猟大会やっててパパも村のみんなも留 守なの。安心していいよ。いまこの村にはあなたのママと私と宿屋のおじさんく らいしかいないわ。」
 ティファは大きな瞳を瞬かせると、にっこりと微笑んだ。俺はそれでもティ ファがここに登るのを許さなかった。ティファを気遣ったのもある。でもそれよ り俺にはこの家同士を阻む垣根が高すぎるような気がして、ティファには越えら れないように思えてならなかった。
「いいよ。じゃあ、ここにいるから話し相手になってね。」
「それより、ティファは行かなくていいのか。そのニブル山には」
「つまんないからいいの。それにクラウドに話しかけるチャンスでしょ。いつ もはパパが怒るから話もできないものね。」
「・・・・うん」
「お隣同士なのにねぇ。クラウドっていま何歳?」
 ティファは明るく俺を見上げて話しかけ続けた。始めのうちは抵抗を感じて いた俺も、だんだんとティファのペースに乗せられていった。
「7歳」「あ、じゃあ1つお兄ちゃんだよ。クラウドの髪ってきれいよね。私 たまーに金髪って憧れるんだよ」
「でも、ティファはその髪似合ってる。」
 ティファは嬉しそうにクラウドを見つめた。
「本当?そうなの。私も実はそう思うの。だからね、まあいいやって思うのよ 。クラウドのママは茶色かったよね、髪。じゃあパパと同じ?」
「・・・・」
 ティファは俺が黙ってしまったのを見て、首を傾げていた様だった。でも、 俺はその時正確にはティファの表情をよく見ていなかった。ただ、これだけは強 烈に覚えている。その時俺は無性にティファが腹立だしく、憎らしく思ったんだ 。
 ティファの両親はちゃんといて、何故俺にはいない?ティファには毎日を楽 しく過ごせて、何故俺は日陰のような生活を強いられなきゃならない?どうして 慣れもしないニブルヘイムなんかにいなくちゃならない?そんないろんな事がそ の一瞬で頭の中で爆発した。
「けよ」
「え?」
「もういいからどっかに行ってくれ!」
 ティファは一瞬吃驚した顔をしたが、すぐにどうして!と言い返してきた。 「せっかくお話ししに来たんだよ!クラウド!」
「・・・・」
「ねえ!どうして!返事してよ、クラウド!」
 俺はもう一言も返事をしなかった。屋根に寝っ転がると耳をふさいでしまっ た。
「クラウド!」
 ティファの声はうわずってかすれてその後しゃっくりが聞こえてきたが、俺 は必死にその声を耳に入れまいとした。瞼をぎゅっと閉じると、涙がこぼれた。
 何故、こんな事で俺が泣かなきゃならない?

「クラウド!クラウドってば!」
 その声に驚いて目を開けると、目の前にティファがいた。先程の小さなティ ファではなく、
あれから10年の月日が経った現在のティファ。
 いや、ティファだけじゃない。その隣でバレットが呆れたように俺を見下ろ している。そのバレットの目を見て、俺は自分が寝坊したことに気づく。
 無言で起きあがって、頭を掻く。
「ごめん、遅くなって。すぐ行くよ。」
 ティファとバレットが顔を見合わせると、肩をすくめて笑い合った。
「いいの。ゆっくり支度して、クラウド。ちょっと心配だったのよ。クラウド は自分を取り戻したばかりだから。」
「ティファはもう気の抜けたお前なんか見たくないそうだからな。肝に銘じて おくんだな、クラウド」
 二人はそれだけ言うと、部屋を出ていった。
 俺はベッドの上でしばらくぼんやりしていた。幼い頃の惨めな自分と、今の 自分を比べてみる。昔の俺は仲間一人付けられなかった。ティファを助ける力も なかった。それが今はどうだ。俺を探し出してくれるほどの仲間がいる。星を救 う為の力だって身に付いている。それが結局は神羅のジェノバ・プロジェクトに 乗せられた結果だと思うと情けなくもなるが、まあいい。この力を俺に与えたこ とを、神羅カンパニーに後悔させてやる!
 俺はここまで気持ちの整理をすると、急に胸がスッとした。ベッドから降り て、身につけるものとアイテムとマテリアを整理する。
 今日はジュノンの海底神殿だな。久しぶりにひと暴れさせてもらうか!



Fin.


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