海の向こうに



 この地上で、唯一その一瞬たりとも闇に呑まれることのない光の都市ミッド ガル。
 巨大企業・神羅カンパニーが地上数百メートルの中空に構築した、人口都市 。魔晄エネルギーと呼ばれる星の資源を動力源とし、人々にその恩恵を与え続け ている。
 ミッドガルの中央にそびえるビルには、巨大な「神羅」の看板が掲げてある 。そう、そこがこのミッドガルという怪物を、星を食らう怪物を飼う主人、神羅 カンパニー本社ビル。今は、プレジデントが死したその後、息子のルーファウス がその陣頭指揮を執る。
 そんな、神羅ビルの一室で、一人の男が窓の外の風景を眺めながら、一つた め息をついた。その窓の外の風景は、驚くほど遠くまで見渡すことが出来るよう だった。今は外は闇夜で、ミッドガルの放つ光を頼りに見える範囲しかその風景 を見ることは出来ないが、夜が明ければ、その風景を見るものは思わずため息を もらすに違いない。
 そこは、このミッドガルが中空にある上に、ビルの60階以上の、すなわち 要人フロアの一室らしかった。男はもう一度、光を浴びるミスリルマインの山々 を見つめてから、窓から離れた。と、その時、ドアをノックする音がその重い空 気を響かせた。
「次の会合で話し合う第2神羅ビルの企画書、及びその資料をお持ちしました 。」
「ああ、ありがとう。入ってくれ」
 男は穏やかな声で答えると、その女を部屋に入るよう促す。女はしつれいし ます、と頭を下げ、部屋にはいると、男が離れていた机に書類を置く。
「君、もう今日は帰りなさい。明日、早いのに悪かったね。」
 女は首を振ると、困ったような顔をした。
「都市開発部門統括官、ともあろうお方が、そんな恐縮した言葉を吐くなんて 。他の統括官が聞いたら、呆れますわ。リーブ統括官。」
 リーブは笑う。彼女は秘書のマリエラ。端正な顔立ちをしていて、頭の回転 がよく、話す言葉はいつも的を得ている。しかし、その中にちゃんと優しさも込 められいて、それはまるで女性の理想像のような人物だ。
「女性をこんな時間まで酷使してしまって、私自身申し訳ないと思うからだよ 。この会社はそこまでしなければ落ちぶれる会社でもないし、その実そこまです る必要があるとも思えない会社だからね。」
 そういうと、リーブは再び窓の外に目をやる。そんな上司の姿を見たマリエ ラはまた、困ったような顔をする。
「リーブ統括官。人の上に立つ統括官がそんな言葉を吐くなんて。と、さっき も私、いいましたよね?」
 リーブが振り向いて、もう一度笑う。
「そうだね、つい君がしっかりしているから、僕は甘えてしまってるようだ。 」
 その言葉を返すように、マリエラが控えめに言う。
「奥様を、思い出されましたか?」
 リーブが目を丸くする。リーブのそんな表情を見たマリエラが、はじかれた ように顔を赤くした。
「すみません、差し出がましいことを」
「いや、そうかもしれない。君のように妻は優秀な秘書だったからね」
 一時の沈黙が二人を包んだ。が、リーブがマリエラに次に声をかけたのはそ れからすぐだった。
「さ、ここはいい。支度をして帰りなさい。」
 マリエラは頷いたが、ふとリーブを見つめるとこう言った。
「お疲れなら、一日くらい休まれた方が・・?」
「いや、僕は大丈夫だ。すまないね、心配かけて。」
 リーブがそういうと、マリエラは頷いて部屋を出ていった。もちろん、失礼 いたしました、と言葉を添えて。
 マリエラがいなくなると、部屋はまた静寂に包まれた。地中から吸い上げる 魔晄炉の音が聞こえるのではないかというほど、そこは静かだった。
「妻、か・・。」
 何年ぶりに口にした言葉だろう、とリーブは思う。リーブの妻フィレンツェ は、1年前にすでにこの世を去っていた。フィレンツェはマリエラの前の秘書を 務めていて、もちろん容姿端麗、頭脳明晰な秘書だった。二人が生活を共にする ようになっても、フィレンツェは秘書を辞めずに、その仕事をこなしていた。
 しかし、皮肉にもその仕事中だったのだ。彼女の命を奪ったのは。
 新しい都市開発事業の見学に行ったときだった。まだ建設中の場所を見回る 為に、リーブもフィレンツェも似合わない工事用のヘルメットを被っていた。不 格好な似合わないヘルメットを被ったフィレンツェは、同じ様にヘルメットを被 っていたリーブを笑っていた。
 あんなに生き生きと朗らかに笑っていたと言うのに。残酷な運命は彼女から その笑顔を奪い取ったのだ。
 現状把握のため、いろいろな場所を見回っていた。まだ工事中の為、足場は 現場工事者が使っている簡単なものだった。不運と言われれば、それまでの事件 。たまたま、足場のボルトが弛んでいた場所がその時外れて足場が崩れてしまっ た。そして、その時その場所にいたのが、秘書フィレンツェだったのだ。
「もう、遠い昔のように思えるな・・」
 窓の外の風景を見ながら、リーブは呟いた。フィレンツェが死んだ時に、リ ーブはまずこの仕事を恨んだ。そして、この仕事で奉仕する自分と会社を恨んだ 。妻との出会いが、またこの会社であったことも忘れて。
 しかし、結局仕事は捨てられなかった。フィレンツェと楽しく過ごした思い 出のほとんどが、この仕事の中で生まれたものだったからだ。リーブは仕事は続 けたが、一度会社の存在に疑問視をした自分はなかなか消えてはくれなかった。
(一体この会社は何を目指しているのだ?人の豊かさを?技術の革新を?絶対 の権力を・・・?)
 そんなさなか、アバランチというグループが活動をしているのを耳にする。 魔晄炉を爆破させ、神羅カンパニーに楯突く者達。リーブは彼らが気になってし ょうがなかった。彼らは、この会社を相手に星の命を守るためだけに立ち上がる 。巨大な怪物ミッドガルすら生み出した巨大な会社を相手に。
 誰に褒められるでもない、まして、自分の生活が豊かになるわけでもない。 それなのに、彼らは止まらない。「星の命」を守るという抽象的な目的のために 、彼らは突き進むのだ。
 リーブはそんな彼らが知りたくて、スパイを送り込んた。ケット・シーとい う大きなモーグリにのった猫人形を。いま、彼らはそれをスパイと知らず、セフ ィロスを追い続けている。
「クラウド・・だったかな?」
 ほとんどの操作を自動操作に任せているので、思わずその旅のリーダーの名 すら忘れそうになる。リーブはやっとの様に思い出して、クラウドの名を呟いた 。
「君は・・・何を目指している?」
 窓の外から薄い光が射し込んでくる。夜明けだ。海に反射した光がまぶしい 。リーブは目をしかめながら、それでもその海を眺める。今は海の向こうに渡っ てしまった、自分の分身とその仲間を考えながら。
「海の向こうならば、その答えは見つかるのかね?」
 しばらくその輝きを放つ海を見ていたが、リーブはため息をつくと机に向か って歩き出す。とうとう読みそびれた書類を手にすると、椅子に座って目を通し 始めた。
 また、変わらない一日が始まるのだ。神羅カンパニー統括官としての一日が 。

fin.


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