final happy end 〜最上の幸福〜



 「私の所為であの人の夢が・・」
 その罪悪感の呪縛から逃れ始めたのはいつの頃だったろう?
 シエラはぼんやりとそう思いながら、ハイウィンドの整備に疲れた体を伸ばした。とうとう年齢も30をこえてしまったが、シエラの肌はまだ20代の張りと艶に満ちあふれていた。罪悪感に生きてきた、20代を取り戻すかのように。
「こんにちは〜・・。」
 ふと聞き覚えのある声を聞いた。ハイウィンドのコックピットに入ってきたのは自分とは10近く歳の離れた男女。二人を見てシエラはにっこりと微笑んだ。
「いらっしゃい、クラウド、ティファ。ニブルヘイムの暮らしはどう?」
 ティファは微笑みながら寒さをしのぐ防寒具を外す。クラウドがそれとなくそれを手伝ってやりながら、答えた。
「ミッドガルの暮らしをしってるから、ちょっと不便だけど。何とかくらしてます。」
「でも、のどかだし、空気もきれいだから、私はこっちの方がいいわ」
 ティファが防寒具を脱いだところで、シエラはやっと彼らがここに来た意味が分かった。ティファのお腹が膨らんでいる。
「まあ、おめでたなのね!」
「ええ。」
 照れるように、しかし幸せに頬を紅潮させてティファが答えた。クラウドが少し困ったように話す。
「もうちょっと安静にしてろって言ってるのに、ティファはきかないんだ」
「早く誰かに報告したかったの!祝ってもらいたくて!」
 言い訳するようにティファがシエラにそう言った。シエラが優しく微笑むと、判るわ、と言う。
「女ですものね。」
「そうよ。女は子供を産むためにこの世に産まれるのよ?」
 ティファがどう?ともいいたげにクラウドにそう言った。クラウドは呆れたようにティファを見ると、わかったわかった、となだめるように頷いた。
 そんな二人を見て、二人を家にもてなすことを決めたシエラは、工具セットを仕舞いながら話しかけた。
「ここには、どうやってきたの?ティファがそんな体じゃ、歩くのは・・」
「チョコボよ!うちのチョコボはすごく元気なの」
 ティファがはしゃぐようにそう言った。
「山チョコボ?それなら早く着くわね」
「いや、普通のチョコボで。山で酸素が薄くなったりして、ティファが苦しんだら俺は何もできないから。遠回りして・・」
「なんだか、大変ね。クラウド。」
 シエラにそう言われて、クラウドは肩をすくめた。しかし、顔は嬉しそうに弛んでいる。子供が出来たことを喜んでいる様子だ。
「そうそう、来る途中に変わった人に会ったのよ・・」
 ティファが思い出したようにシエラに話す。
「男の人と女の人。チョコボに乗っていて、クラウドを懐かしそうに見るの。」
「クラウドの知り合いじゃないの?」
 シエラは優しく尋ねるが、クラウドはまたもや肩をすくめる。知らない、と言わんばかりの大雑把なゼスチャー・・。
「クラウドの方は知らないっていうけど、向こうはすごく知ってそうなの。でも、クラウドがあまりに反応しないから、向こうも諦めたみたいで。最後に、「元気で、クラウド」って。」
「名前を知っていたの?」
「そうなの!」
 ティファもシエラもどういうこと?と訝しげな表情をクラウドに向けるがクラウドは首を傾げるだけ。
「後を追わなかったの?聞いてみればよかったのに・・」
「クラウドが追わなくていいよって。先を急ごうって・・」
 ティファが残念そうにそう言った。
 クラウドがたまりかねたように口を開く。
「全く知らない奴じゃないんだ・・」
「えっ?」
「あの二人、俺は会ったことがあると思う。でも、どこでなのか誰なのかは俺には判らない。二人は覚えてたけど、俺は覚えてなかった。それだけだよ。」
「気にならない?」
 ティファが不満げにそう言った。が、クラウドは首を振る。
「多分、俺が覚えておく必要はないと思う。そういう、存在でいいと思うんだよ。」
 シエラが気になったようにティファに話しかける。
「どんな格好をしてたの?さっき変わった人って・・」
「そう、服装が絶対ここの人じゃないの。なんだか・・男の人は中世の騎士のような格好をしてて・・・」




「クラウドが、いない・・」
 ラムザは起きあがりながら、ぼんやりとした口調でそう言った。周りにはラムザを気遣うように、旅の最初から一緒に戦ってきた仲間がラムザを見守っていた。
「ここに倒れていたのは俺達と、ラムザ、あとの高名な方々はここにはいないよ・・」
 ネイザンがため息をつくとそう言った。彼はラムザが旅をし始めてからずっと、ラムザを見守ってくれている。ラムザは頷くと、ネイザンに妹は、と聞いた。
「アルマ様なら・・」
 顔をほっとしたように弛ませると、ネイザンは後ろを向いた。後ろの方からアルマがゆっくり兄を気遣うように近寄る。
「兄さん・・お疲れさま。」
「アルマ、よかった・・。」
 ゆっくり立ち上がって、アルマを抱きしめる。アルマも安心したように、兄の体をつかんだ。
 落ち着いて、ラムザとアルマが残った4人に頭を下げた。
「ありがとう。ネイザン、ナイジェル、そしてドレファス、セルフィーナ。戦いは終わったよ。僕の側にいれば、いずれ異端者に荷担したものとして逮捕されるのは目に見えてる。みんな、ここでお別れしよう。」
「ラムザはどうするの・・。」
 セルフィーナが気がかりでしょうがないというように、心配げな表情でそう言った。ラムザは大丈夫だよ、と笑う。
「今までこうやって逃げて来れたし、とにかく街と城に近づかないように暮らせば、平気だと思うよ。」
「せっかく世の平定を取り戻した人がどうして・・」
 セルフィーナが悔しそうに泣いた。ドレファスが力づけるようにセルフィーナの肩を抱く。
「じゃあ、俺達はここで自分の街にでも戻るとするか!」
 明るく陽気なナイジェルが、その場の雰囲気を察してそういった。ラムザが感謝と別れの握手をする。
「いままで、ありがとう。」
 それからラムザはみんなと握手をして、4人がその場を去っていくのを見守っていた。アルマが優しく笑って、ラムザの手を握った。
「兄さんも本当にお疲れさま。」
「アルマ。」
「一度、私たちもうちに帰ってみない?」
 ラムザはアルマの提案に頷いた。途中、野放しになっていたチョコボをつかまえて、イグーロス城へと足を走らせた。
 イグーロス城が喧噪に包まれていた。何かと思って、二人は人が騒ぐ方向に遠くからチョコボで移動してみると、それはなんとラムザとアルマの葬式の参列だったらしかった。
「・・なんだか妙な気分。私はここにいるのに・・」
 アルマが呆然とそういった。ラムザは黙ってアルマの言葉を聞いていた。
「ザルバック兄さんがいたら・・・どうなっていたかしら・・」
「僕が異端者には変わりないけど・・アルマが兄さんとベオルブ家を再建出来たかもしれないね・・残念だ、本当に・・」
 アルマはそれには何も言わなかった。ベオルブ家にもう関わりたくないと思っているのかもしれなかった。
 参列者が去っていく。野次馬根性で来た人々も、既に飽きたように帰っていったようだった。
「お墓、見てみようよ。」
「アルマ・・君って本当に強いね・・」
 アルマがにっこり微笑むと、ゆっくりとチョコボを墓に近寄っていってしまう。と、まだ、参列者の一人が来たようで、慌ててラムザはアルマを止めようとした。が、その人物を見てラムザが懐かしげにその名を呼んだ。
「・・・オーラン・・!」
 彼なら大丈夫だろう、彼はラムザの味方だ。
 オーランが去っていこうとした瞬間、二人とその場に居合わせることになった。オーランは驚愕に声も出ないようだった。ラムザは微笑んだ。全ては終わったことを報告するように。
 アルマは墓を見たらすぐ、「いこう、兄さん」と先を促した。ラムザとアルマはチョコボで墓地を抜けていった。
「お墓まであるなんて。なんだか、もう生きることを拒否されたみたい。」
 墓地を抜けてすぐ、アルマがそう言った。ラムザはそれを聞いて、自分が今まで考えていたことを打ち明けようと口を開いた。
「ここじゃないところに行ってみようと思うんだ。アルマ」
「ここじゃないところ?」
 アルマがラムザのチョコボと自分のチョコボを並ばせて、兄をのぞき込む。意味がよく分からない。
「ここに残ったのはネイザン達と僕ら二人。他のクラウドを僕らは見てない。」
「ええ・・。」
「クラウドはどうみてもここの人じゃなかった。彼は自分の本来の場所に帰ったんだと思うんだ。」
「そうね・・。」
「ここじゃ生きることもままならない。だから、僕は転送機を使って・・」
「ここを抜けるのね!」
 アルマがはしゃぐようにそう言った。ラムザは慌ててアルマを制する。
「アルマはここにいてもいいんだよ?僕は異端者だからね・・?」
「私もお墓まで作られた異端者の家族よ?どうやって生きていけると思う?」
「そうだね・・、ゴメン」
 アルマが笑う。そんなこと気にしないで、言わんばかりに。
「それより、転送機はどこに?」
 二人は転送機のある機工都市ゴーグにチョコボを走らせた。二人にはもうこの世界に未練はなかった。ムスタディオの父ベスロディオに話をして、前はこの世界に呼び出す役割しか持たなかったので、逆に出来ないかと話を持ちかける。
「ふむ、面白そうなことを言うな・・。この機械仕掛けの仕組みさえ解明出来れば、その中枢機関を逆回転させてやることで可能だとは思うがな・・。ちょっと待っておれ・・・」
「ちょっと待って。」
 唐突に口出したの機械の事なんて判るはずもないアルマだった。
「アルマ?」
「だって、ここにキャンサー(巨蟹宮)のマークが・・」
「うん、これはキャンサーの聖石で動いたんだ。」
「キャンサーの対極宮を入れれば逆始動すると思わない?対極宮は・・カプリコーン(磨羯宮)よ!」
 ベスロディオとラムザは、この機転の利く娘にただただ吃驚するばかりだった。確かに可能性としてはあり得る。
 聖石を入れていた袋に手を入れて、ラムザはカプリコーンの石を探した。翡翠色に輝く石を取り出す。
 ベスロディオはキャンサーの石を転送機から外した。ラムザはカプリコーンの石をその転送機にはめると、思った通り天球儀はクラウドが召喚されたときとは逆の回転を始めた。
「いけるぞ!後悔しないな!帰ってはこれんぞ!!」
 二人は挑むように頷いた。ここではもう幸せは望めない。それならば、少しでも幸せを望める方に足を向けた方がいい。
 恐ろしいくらいの光りが瞬いた。稲妻がほとばしり、二人を包んだ。
 光りが止んだときには・・ベスロディオの前には天球儀がその動きを止めて静かに佇んでいた。
 二人は旅だったのだ。



 ハイウィンドから3人は降りた。シエラが家で二人をもてなすためにだ。
「整備、やめちゃっていいの?シドにまた、怒られちゃうわよ?」
 ティファが心配げにそういった。シエラはきょとんとティファを見たが、ぷっと笑うと首を振った。
「艇長は私を許してくれたわ。怒鳴られたりはするけどね。それに、整備をしたのは私の気まぐれなのよ。いつでも艇長が空を飛べるように。」
「そういえば、シドは?」
 クラウドがシエラに聞く。シエラはそれに答えるように天を仰いだ。
「あそこ!」
 懐かしい赤いタイニー・ブロンコ。修正と改造がされて軽快に飛び回るそれを見て、二人は驚いた。
「飛べるようになったのか!」
「ええ、ミッドガルから少しずつおこぼれを拾ってきて、直しちゃったの。最近、艇長はミッドガルに部品を拾いに行ってばかりよ」
 満面の笑みを浮かべて満足そうにそう言うシエラのもとに、シドの嬉々とした声が届く。
「シエーラっ!またいいのが落ちてやがったぜ!また、コイツはまた早くとべるようになるぜ!!」
「お帰りなさい!艇長!」
 クラウドとティファはそんな二人のやりとりを見て、微笑んだ。シエラは見つけたのだ。自分の幸せへの道を。






fin.


Copyright 1998 BY SAE