【逆転裁判】

■裁きの夢にて











 成歩堂法律事務所の室内には今さんさんと陽の光が差し込んできていた。
 時期的にはもう底冷えのする寒さになりつつあったが、窓からみえる空の具合は雲ひとつないいい天気だ。
 それに、室内は完全に寒気を遮断されている。
 エアコンの力を借りなくてもこの時間ならば心地よい暖かさで仕事をすることができる・・はずだった。
 成歩堂の思惑とは別に仕事を阻害する要素があったことを、このときの成歩堂は自覚していなかった。


 ちょうど2時間前、助手・綾里真宵が唐突に(ただし彼女がいうことはほとんどが唐突であるが)ミソラーメンを食べたいと言い出した。

「なるほどくん!おなかすいた?ねえすいたよね!?ミソラーメン、食べたいよね!?」

 こんな調子で、である。いつものことながら真宵の言い回しは直球ストレートでとてもわかりやすかった。
 昼の時間に差し掛かっていたのもあり、確かにお腹がすいていた成歩堂は真宵の提案に乗ってミソラーメンを食べに出かけた。
 今日はちょっと違う店に行ってみようと、真宵が誘う。どうやら彼女が前から目をつけていた店があったらしい。

「この前テレビで・・あ、ローカル放送だったけどね!でもテレビに出てたんだよ、うちの近所!」
「へぇ・・そうなんだ」
「そのときに紹介してたラーメン屋さんなんだ〜!」
「うちの事務所は見えなかった?テレビ」
「ごめん、ラーメンしか見てなかった」
(まあ、そうだとは思ったけど)
「うん、いいよ。そこにしよう」

 成歩堂は真宵にうなずくと、彼女が喜ぶ顔を見ながらその店を案内してもらった。
 店はどうやら大繁盛でこの地域にしては珍しく並ばなくてはならないようだった。
 成歩堂はちょっとうんざりして真宵に違う店にしないかと言ってみたが、彼女はここでどうしても食べたいのだと言った。
「ごめんね、なるほどくん。でも、もし仕事に差し支えるなら・・」
 わがままを言い過ぎたと思ったのか、真宵が申し訳なさそうに肩を落とす。それをみて成歩堂はやれやれ、と苦笑いしつつも彼女に優しく言った。
「いいよ。真宵ちゃん食べたいんだろ?今仕事が詰まってるわけでもないし、気にしなくていいよ」
 言われた真宵は本当にうれしそうに顔をほころばせた。
「ありがとう!なるほどくん!」
 真宵の素直に喜ぶ顔があんまりかわいらしくて、成歩堂はまあいいか、と頭を掻いたのだった。

 並んだだけあって、ミソラーメンはおいしかった。
 真宵はラーメンセットのお代わりして満足そうだった。
 セット、というのはご飯と餃子が一緒になったもので、彼女はラーメンも、ご飯も、餃子もお代わりをした。明らかに食べすぎである。
 しかし彼女はそんな様子も見せず、けろっとした顔で店の出際にこう言った。
「デザートも気になってたんだけどねー」
「まだ食べる気かよ!?」
「だって気になったんだもん。それにデザートは別腹だよ。ジョーシキでしょ?なるほどくん」
「いやいや・・真宵ちゃんは明らかに食いすぎだよ」
「ちゃんと食べないと大きくなれないでしょ」
(どう大きくなりたいんだよ・・太くなったらそれはそれで困るだろうに・・)
「イテっ!!」
 いきなり、成歩堂はほっぺをつねられた。真宵が手を伸ばしてつねっているのが見える。その顔はむっとして睨んでいる。
「いま、余計なこと考えたでしょ!」
「えっ!?」
「とぼけても駄目だよっ!なるほどくん、すぐ顔に出るんだからっ!こんなセクハラ上司は真宵ちゃんが退治してやるっ!真宵ちゃんキック!!」
「イテテっ!!つねりながら蹴るなーっ!!」

 そんな調子で帰ってきたものだから、事務所に着いた時間はすでに13時半。いつもならば13時には午後の仕事を再開しているので30分のロスだった。
 今日は忙しい日ではないが、仕事がないわけではない。
 成歩堂はすぐにまとめなければならない書類を思い出してデスクに着くと、早速真宵に午後の仕事を指示した。

 真宵は言動にボケが多少(?)あるものの、与えた仕事に対しては真面目にきちんとやり遂げるタイプだ。
 とくに、書類の整理整頓には口うるさいくらいで、成歩堂の代わりにきちんと書類をファイリングをし、事象ごとに分けて書棚に保管してくれている。
 2,3日真宵が来ないと、この事務所は書類が散乱しはじめるため、その点については成歩堂は完全に真宵に任せきっているといえるだろう。

「あれ?」
「どうしたの?」
 この事務所には助手のデスクはないため、接待用のテーブルセットでファイリング作業をしていた真宵は顔を上げた。
 成歩堂の方はというと、デスクに散乱した書類をめくりながら何かを探しているようだ。
 真宵はそんな成歩堂を不思議そうに見つめたあと、膝に乗せていた5センチ幅のファイルをテーブルに避けると立ち上がった。
「何か探してるの?」
「・・うーん。ほら、さっき頼んだ事例集さ、もって来てくれたっけ?」
「えっ、持ってきたと思う・・けど、ちょっと自信ないなぁ・・。ごめん、もう一度探してくる」
「うん、頼むよ。慌てなくていいからね」
 真宵がデスクのある部屋を出てしまうと、成歩堂は休憩することにした。
「あー・・目が痛い」
 いろんな事例を追い、すでに完了した法廷記録からも浚い、成歩堂はより的確で確実な法廷の渡り方をシミュレートしていた。
 シミュレートしながら前回の法廷記録をまとめる作業をすると、前回の反省もできるし、よりよいやり方を見つけることができる。
 頼れる師匠だった綾里千尋がいなくなった今となっては、成歩堂は自分の足でこの世界を渡り歩いていかねばならない。
 そのためにも弁護士という仕事を独学するにあたって始めたシミュレート訓練は実際役に立っていたので、法廷が終わった3日間はこれをやることにしていた。
 これまでの相手になった手ごわい検事たちのおかげもあって、成歩堂の頭の中では日々高度なやりとりが繰り返されていた。
「でも・・疲れるんだよなーコレ」
 思わず愚痴りながら、成歩堂はぱたりとデスクに頭をつけた。
 そのまま窓を見やるとあきれるくらいいい天気で、成歩堂は思わずため息をついた。
(こんなに天気なら、真宵ちゃんと外で探偵しに行ったほうが気分よかったかもなぁ・・)

「うーん、やっぱりないよ?なるほどくん・・?」
 散々受付カウンターのそばにある書棚を探してきたのだろう、真宵がデスクのある方に戻ってくると、成歩堂の姿を見て立ち止まった。
「ひどい、寝てるし・・」
 真宵の言った通り、成歩堂はデスクの散乱した書類の上に突っ伏して、寝息を立てていた。はぁ、と真宵は思いっきりため息をついて、ソファにかけてあった真宵のひざ掛けを成歩堂の肩に掛けた。
 デスクの上を見てみると、書類と書類の間からさっきまで真宵が探していた「事例集」の表紙が見えたので、さらにため息が出てしまった。
「疲れてるんだろうなぁ・・やっぱり法廷のあとって」
 何気なく、寝息を立てる成歩堂の寝顔を見て、真宵は一瞬どきりとする。
 そういえば、真宵が成歩堂の寝顔を見ることなんてまずないのだ。
 事務所では事務作業か事件の相談をしていたし、探偵のときは夜遅くなっても成歩堂はきっと眉を上げていて、張り詰めた緊張感でとても眠気なんて言葉すら寄り付けない。一方、真宵は夜は弱いので探偵業務がひと段落するとがっくりと眠くなってしまうのだが。
 それはさておき、成歩堂の貴重な(?)寝顔を見て戸惑っている真宵は、うろたえたようにあとずさった。が、デスクの後ろは書棚になっていて大して退くこともできなかった。どん、と書棚にぶつかって、真宵はさらに慌てた。
(ああ、起こしちゃうよっ!)
 真宵はそう思ったが、当の成歩堂はふてぶてしくも深い眠りに落ちていたらしく、起きる気配は微塵もない。
 真宵は気が抜けた。しかし、安堵すると同時になんだか腹が立ってきた。
(なんであたしがなるほどくんに振り回されなきゃなんないのっ!?よぉーっし!!こうなったら・・)
 ここで真宵はにやり、と意地悪く笑うのだった。

 さて、こちらは成歩堂龍一の夢の中。
 成歩堂は夢の中で法廷に立っていた。位置は、もちろん弁護人側。
 向かいは当然検事側になるが、そこには御剣が立っている。そして向かって右側の一段高いところにはいつもの見慣れた裁判長が座っている。
 のんきにも見慣れた風景だな、と思う。
 そう思って証人台の方を見ると、そこにはまだ誰も立っていない。
コンっ!
 突然、木槌の音が鳴り響く。裁判長が打ったのだった。
「これより被告人・綾里真宵の・・」
「ま、待った!!」
 驚いて、いきなり成歩堂は声を上げてしまった。まだ尋問の時間でもないというのに。いや、そもそも裁判長が口上を述べているということは裁判そのものすら始まっていないというのに、声を上げてしまった。今の成歩堂にはそんなことはどうでもよかったのだ。
「いったい、なんなんです!?真宵ちゃんの容疑はもう・・この前きっちり無罪を頂いたことで疑いは晴れています!!」
「倉院の里の件ですね」
 恐ろしいほど静かな裁判長の声だった。
「弁護人は落ち着きなさい。身近な人の容疑に驚くことは人としてしかたないことですが、あなたは彼女の弁護人です。彼女の弁護を依頼されてここにいるのです。一度落ち着いて今のあなたの立場をよくわきまえなさい」
 裁判長の言葉が成歩堂の耳に届いていた。
 届いていたが、意味がわからなかった。状況がまったくつかめなかった。
(真宵ちゃんがまた、ぼくに弁護を依頼した・・?!)
「いまさら慌てた様子を見せて傍聴人の気を引こうとしているのなら、なかなか貴様も策士だということになるが、それもまあ付け焼き刃にすぎないな。こんなタイミングの悪いところで同情を引こうなど、まったくナンセンスだ」
 御剣がそういうと鼻を鳴らす。
(御剣の声が、遠い。あいつらしい声、あいつらしい台詞、なのに今は遠い。一番ぼくが闘争心を掻き立てられるはずのあいつの声がぼくに届かない・・。真宵ちゃんに一体何が起こったんだ・・?)
 文字通り茫然自失の体(てい)に成り果てた成歩堂を見て、裁判長はもう一度木槌をたたいた。仕切り直しである。
「これより被告人・綾里真宵の思慕疑惑について裁判を執り行います。御剣検事、冒頭弁論を」
(シボ・・・?なんだ・・?シボ疑惑って・・)
 成歩堂の頭はなんとか状況を把握しようと懸命に働いていたが、やはりどうにもつかめなかった。流れは一旦成歩堂を無視する形で進められていく。
「はい。被告人・綾里真宵は上司、あるいは弁護人、あるいは被害者の成歩堂龍一氏に一般的とされる上司への尊敬以上、すなわち思慕の念を抱いていたという疑いがあり、これをこの裁きの庭こと法廷で事実を明らかにするものである」
「っ・・・ええええ!?」
 かあっと顔が熱くなったのが、成歩堂自身にもよくわかった。わかりすぎた。
「なっ・・なんですかそれは!そんなことあるわけがないじゃないですか!たとえあったとして、今この場で裁かれるべきことですか!?」
 頭がパニックになりそうだったがなんとか言葉にはした成歩堂だったが、その甲斐むなしく、裁判長と御剣はすげなくこう言った。
「もちろんです」
「無論だ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
 ばんっと成歩堂は机を叩く。いつもの法廷論議の調子が戻ってくるような気がした。よし、やろう、心も体もそう決めた瞬間だった。
「それは犯罪に当たる行為ではない!」
 しかし、成歩堂がびしぃっとまっすぐに指さして言い放ったものの、その場の雰囲気はさらに冷たさを増した気がした。
 一度、水を打ったように静まり返っていた空気が、まず傍聴人席からさわさわという声が聞こえ、それから、御剣がため息をついて首を振る。
「静粛に!」
 いつもより幾分遅れた調子で、裁判長が木槌を叩いた。完全に呆れ顔の裁判長の顔が一段高いその席から覗いていた。
 その場がまた静かになり、やっとのように御剣が声を上げた。
「裁判長」
「なんですか、御剣検事」
「弁護人は現状の認識が足りなさ過ぎるようです。今しばらく時間を頂きたい。異例ではあるが、弁護士と少し話がしたい」
「許可します」
 裁判長はそういうと、息をついた。御剣も少々頭を痛そうにして人差し指をコメカミに当てている。そして、気を取り直したのか姿勢を正すと、まず人差し指を一本、立てて見せた。
「成歩堂、これは何本だ」
「一本」
「これは」
「二本」
「あれは?」
「うだつのあがらない裁判長」
「私は」
「検事至上最も気障な男御剣。ぼくの、ライバルだ」
 ふん、と御剣が鼻を鳴らした。
「それだけの認知力があって、どうして今この問題がわからんのだ貴様・・」
「それこそ、ぼくが一番知りたい問題だ」
 成歩堂も次第に落ち着きを取り戻してきていた。なにより成歩堂の声が堂に入ってきたことに、御剣も気づいたようでいつもの見下し視線を投げかけてくる。
「では、もうひとつ聞く。貴様の左の胸に光るバッチは何だ?」
「弁護士バッチ」
「そう、お前の職業は」
「弁護士」
「そしてお前のような公僕が将来を約束できるのは?」
「――同じ弁護士」
 自分の声が、そう言ったことに成歩堂は目を丸くした。
(将来を約束できるのは、同じ弁護士?!)
 念のため、重ねて言うがここは夢の世界の話である。成歩堂はいつのまにか、夢の世界の法律につかまされたことになる。前提も理由もない、それが夢の世界ではありうることだというのは皆さんもご承知の上のことだろう。
「それが、日本での婚姻のルールだ。わかっているじゃないか。例えばそれが裁判長と貴様でも成り立たんのだ」
「当たり前です!というか、それ以前の問題です!」
 裁判長の怒鳴り声がしたが、成歩堂は今言った自分の口を右手で押さえていた。
(僕が将来を約束できるのは、同じ弁護士でなければならない・・!)
 御剣が成歩堂を一瞥した後、御剣は落ち着いた様子で再び口を開いた。
「裁判長」
「なんですか」
「弁護人は状況を理解したようですので、被告人を入廷させていただきたい」
「許可します」
 成歩堂がゆっくりと自分を取り戻して顔を上げたとき、憔悴しきった少女の顔があった。
 成歩堂の助手、綾里真宵その人である。

「被告人、名前と職業を」
 御剣が静かに言った。真宵は目を伏せたまま、いつもとは違う小さな声で名乗る。
「綾里真宵・・成歩堂探偵事務所の助手をやっています」
 思ったより落ち着いた声だと判断したのだろう、御剣は頷くと一つ目の問いを投げかけようとした。
「真宵クン、君は・・」
「あたしは・・何も悪いことはしていません!」
 肩を震わせて真宵は声を搾り出すようにそう言った。その姿が成歩堂には痛々しくてたまらなかった。
「あたしは!ただなるほどくんの傍で助手をして、そして、尊敬していました。」
「だまりなさい!被告人は余計な発言を慎みなさい!」
 木槌が鳴る。何度も鳴る。耳が痛い。やめてくれ。
「あたしは、なるほどくんの傍にいたいだけです!なるほどくんの傍でなるほどくんを助けたいだけなんです!」
「真宵クン、落ち着きたまえ!」
 御剣が怒号を発する。珍しいことだ。あの何もかも取り繕ったような気障な男が叫んでいる。
 そして、真宵も叫んでいる。懸命に、心のそこから、自分の正しさをみせつけるかのように・・!
「あたしは間違っていません。あたしはなるほどくんを」
「待った!!」
 成歩堂がついに声をあげ、真宵が黙り、それにひきずられるように御剣が、裁判長が、野次をあげていた傍聴人達が息を呑んだように静まり返ったのだった。
「なる・・ほど・・くん?」
 哀しそうな、これ以上なく哀しそうな顔の真宵。自分は正しくないのか。受け入れてはもらえないのか。その不安で涙が止まらなくなった顔。そんな真宵を見て、成歩堂は今まで腑抜けていた自分を叱咤した。
(真宵ちゃんに罪を着せたりするもんか。僕は・・僕は、真宵ちゃんの弁護士であるまえに・・!)
「裁判長」
 水を打ったような静けさの中で、成歩堂の声だけが響いた。その声は神聖で、この上なく頼もしいものだった。
 裁判長はその声に魅入られたようにしばらく返事が出来ないようだったが、やがて答えた。
「なんですか、弁護人」
「僕は、被告人・綾里真宵の弁護を放棄します」
 成歩堂がそう言った一瞬後、場内は大混乱となった。
「なんですと!?」
「正気か成歩堂!?」
「なるほどくん!?」
 傍聴人たちもどうなるのかとざわざわとざわめく。
 木槌の音が思い出したように鳴り響いて、またもとの静けさを取り戻す。
「彼女は、今疑われるような罪には値しません、なぜならば!」
 この場にいる全ての人々が成歩堂の次の言葉に注視した瞬間だったに違いない。夢でなければ、であるが。

「僕は弁護士を辞めるからです!」

「だめだよ!なにいってんの、なるほどくん!!起きて!!」


 強く肩を揺さぶられ、その反動でごんっと額をデスクに打ち付けたところで、成歩堂は目を覚ました。
 夢の欠片を全て置去りにして。
「いてててて・・な、なんだよ?真宵ちゃん・・?」
 デスクに打ち付けた額をさすりながら顔を上げてみると、珍しく仁王立ちをして起こっている真宵の姿があった。しかし彼女の表情はその態度とは裏腹で今にも泣きそうなくらい、哀しげな表情をしていた。
「な、な、な、何言ったかわかってんの!?なるほどくん!」
「え・・」
「嘘だよね?!一体どんな夢を見たらそんな・・」
「あ・・え?ちょっと、ちょっと。真宵ちゃん、落ち着いて。何をそんなに怒って、いや哀しんで・・?」
「怒ってもないし、哀しんでもない!ばかぁっ!」
 寝起きで思考回路がまだ復旧していない成歩堂の体に、温かでやわらかくてたおやかなものが被さってきた。
 それが、何か、を頭が認知するまでたっぷり5秒はかかった。
「まっ・・真宵ちゃん!?」
 真宵が成歩堂の体にがっちりと抱きついていたのだった。
 さすがにこれには成歩堂も驚いたが、うわごとのようにいう彼女の言葉によって、成歩堂は自分の理性を立てなおした。
「なるほどくんが弁護士を辞めちゃったら、あたし本当に一人になっちゃう。おねえちゃんを繋ぐ最後の人なのに、なるほどくんお願い、お願いやめないで・・」
 聞いてるほうが切なくなる、申し訳なくなるほどの、切実なリフレイン。成歩堂は真宵の肩を両手で支えるように真宵を自分から引き離した。
「辞めるわけないだろ?」
「なるほどくん・・」
「僕はこの仕事につくことを子供の頃から決めていたんだ。だから、簡単に辞めたりなんかしないよ」
「ほんとに?」
「ほんとさ」
 しばらく二人が見つめあってじっとしていたのだが、最初にその緊張感を台無しにしたのは、他でもない我らがリアクション王の真宵であった。
「ぷっ・・・ぷぷぷぷ!!あーあはははは、もーだめ。お腹イタイ〜ぷぷー!!」
 いきなり笑われた成歩堂のほうは何がなんだかわからない。
(訳もわからず怒られて泣かれて抱きつかれて笑われて。一体なんなんだだ今日は・・!?)
「なんなの真宵ちゃん。今の、笑うところあった?」
「ううん・・でも・・・ぷぷっ、はい、これ!」
 笑いを堪えきれない真宵から渡されたのは手鏡だった。
「??」
「カオ、見てみて〜!」
 そう言って、真宵は笑い転げるように部屋を出て行った。遅れてばたん、とドアを閉める音がした。音の具合からしてトイレのドアだろうと思いつつ、成歩堂が鏡を覗き込むと・・・。
「うわっ!なんだこれ!真宵ちゃん、これ油性ペンじゃないだろうね!?ちょっと、真宵ちゃん出てきなさい!!」
 手鏡を置いて、成歩堂も慌てたよう部屋を出て行くと、トイレを叩きまくった。
 成歩堂の額にはなんと「トノサマン!丙!」の「丙」の文字がくっきりはっきり書き込まれていたのだ。それを見て真宵は笑い転げたというわけだ。
「これじゃあトノサマンどころかキン○マンだろ〜〜〜!!」
「あ〜〜しまったあ〜!なるほどくんはキン○マンがよかったのかぁ・・肉って書けばよかったね〜ぷぷー!!」
「そう言う問題かっ!!」
 ドアの奥からは、いつまでも笑い転げる幸せそうな真宵ちゃんの声が聞こえてきたのだった・・。

 ・・この二人が恋を語る日が来るのはいつの日か?




■END



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Copyright 2005 BY SAE




































●今回のオマケ
真 宵:こんにちは!綾里真宵です!
成歩堂:こんにちは。成歩堂龍一です。
真 宵:なんかひねりのある挨拶したいよねぇ、なるほどくん。
成歩堂:管理人そういうアドリブ利かない人だから、その辺は許してあげなよ。
真 宵:そうなんだ。しょうがないかー・・。
成歩堂:さて、今回は「ぼくが裁判の夢を見る話」でいいのかな。
真 宵:「おいしいラーメンを食べに行く話」じゃないの?
成歩堂:「僕が蹴られ、落書きされる話」ともいえるし・・なんかまとまりのない話だよね。
真 宵:まとまりのない話っていわゆる失敗作なんじゃないの?
成歩堂:いきなり核心をつくようなこというなよ!!管理人きっと吐血してるぞ。
真 宵:管理人、最近悩んでるらしいしね。でも、悩むより先に書き始めちゃうらしいけどね。
成歩堂:数でこなそうとしている雰囲気だね。
真 宵:書いていけば何とかなると思っているみたいだから。
成歩堂:どうだろう・・それは。
真 宵:で、もともとはこの話、「夢」に一点集中した話になる予定だったみたい。
成歩堂:そーなんだ。
真 宵:でも夢の内容だけだと「逆転」の話としては常軌を逸しすぎる、と思ったらしくて、それで前後の話を入れたんだって。
成歩堂:ま、真宵ちゃんが真宵ちゃんらしくないからね。夢とはいえ。
真 宵:そうなんだ。(内容を教えて欲しい目)
成歩堂:そうなんですよ。(内容には触れたくないので目をそらす)
真 宵:・・ちぇっ。えーと、それで、夢を見るための伏線がラーメンになったと。
成歩堂:ふうん、安直だね。お腹いっぱいになれば眠くなるってやつだよね。
真 宵:まあ、そういうお約束管理人大好きなので。
成歩堂:それで、こういうまとまりのない話になった、と。
真 宵:・・管理人、いつも話を書いたあとに題名つけるらしいんだけどね。
成歩堂:うん。
真 宵:そのときに題名がぱっと浮かばないと、その話は失敗なんだって。管理人的には。
成歩堂:へ〜。
真 宵:タクシューもコラムで言ってたんだけどね、ストーリーは端的に説明できる方が面白いんだよ。
成歩堂:言ってないよ。そんなこと。
真 宵:似たようなことを言ってたと思うんだけどなぁ・・だめだうろ覚え。
成歩堂:相変わらず記憶力に問題がありすぎるな、ここの管理人は。
真 宵:仕事こなしてるのが自分で不思議だって言ってたしね。
成歩堂:そんなこと自分で言うなよ!
真 宵:ま、ま、管理人の記憶力はどうだっていいんだよ、とりあえず。
成歩堂:うううん・・。それで、題名の話、なんだっけ?
真 宵:そうそう、題名ここんとこうまいのが浮かばないんだって。
成歩堂:なんだそりゃ。常に失敗作ってことか?
真 宵:そういうことになるね。昔はタイトル決めるのが楽しみなくらいだったらしいんだけどね、今は苦痛らしいよ。
成歩堂:タイトル決めなきゃTOPページに載せられもしないしね。
真 宵:そうなんだよね・・でも小説は出来上がってるから意地でも上げたいらしくて。
成歩堂:不満なタイトルのままUPになる・・と・・やれやれ。
真 宵:きっと、タイトルがすんなり浮かぶようになる頃がサイトの終わりなんだろうね。
成歩堂:不吉なこというなよ・・。
真 宵:逆にいえば、そんな日が来ない限りサイトは半永久的に存続するんだけど。
成歩堂:それもキツイような・・。


(オマケ製作日:2005/12/13)

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