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【逆転裁判】 |
| ■朱色の帰り路 |
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なるほどくんにとっても、あたしにとっても、それは些細なコトだった。そのはずだった。 でも、なんだか、あたし自身にとっては、そうじゃなかった「らしい」。 ヒトゴトみたいに言ってるけど、本当にヒトゴトみたいにそう思ってるんだから「らしい」としか言えない。 未だになんで、あんなヒトコトであたしがあんな気持ちになったのか・・、 それがちっともわからない。 裁判が終わったみたいだった。 みたいだった、というのはいつもながらあたしにはなるほどくんが無罪を勝ち取った瞬間の記憶はないから。 有能な検事にいつもぎりぎりまで追い詰められてしまうなるほどくん。本名は成歩堂龍一。一応、あたしの上司ってことになってる。あたしはその助手をやってるんだけど。 ただ、助手といいつつもあたしはそのなるほどくんを助けてあげられない。だいたいあたしは弁護士の勉強なんて一度もしたことがないし、もともと法廷に足を踏み入れるなんて事自体、今までのあたしには考えられなかったこと。 でも、今、あたしはここにいて、なるほどくんの弁護をなんとか成立させたいと思ってる。 あたしには役に立てる知識も力もなくて、それでも、なるほどくんを助けたいと思う。 だから。 ―――助けて・・お姉ちゃん! あたしがここでできることはひとつだけ。 あたしにとって完全無欠の弁護士、あたしのお姉ちゃんの―――『綾里千尋』の「霊」を毎度の事ながら法廷で呼び出すということ。 あたしには、霊媒という力がある。死者の魂を現世に呼び戻す力、綾里家一族の女のみに受け継がれる力。 それが、それだけがあたしにとってなるほどくんを救うことができる唯一の方法。 その力はあたしにとってずっと誇りだった。 霊媒師倉院流の家元としての役目を果たすことができる、お姉ちゃんにもお母さんにも恥じることのない家元としての能力があたしにはちゃんと宿っている、そう思ってきた力だった。 けれど、法廷でこの力を使うとき、ときどきあたしの心に言いようのない不安の渦を生む。 それが何なのか、今のあたしにはわからないのだけど。 「いやー今回もぎりぎりのところで助かったよ。真宵ちゃん」 うれしそうにそういってなるほどくんがあたしに微笑んでくる。意識を取り戻したあたしは、慌ててあたりを見回して状況をなんとか理解しようとした。そこはまだ法廷で、お髭のサイバンチョーさんも、検事さんも、傍聴人の人たちや被告人も誰もいない法廷だった。すべてが終わった法廷なんだと、あたしはそう理解した。 「勝ったの?なるほどくん」 お姉ちゃんもいたんだから、負けるはずがないと思っていてもやっぱりちゃんと結果を聞かないとあたしは心配で、勢い込んでなるほどくんに問い掛けると、なるほどくんはもちろん、といって笑った。 「真犯人もわかったしね」 「お姉ちゃんが、なるほどくんを助けてくれたんだね」 よかった、って思う。ほっと息をつきながら、あたしは胸をなでおろした。 「うん、いつも申し訳ないなぁ・・千尋さんには・・」 頭を掻きながら、照れくさそうに、申し訳なさそうに笑うなるほどくん。 ほっとした顔。お姉ちゃんが助けてくれたからできる表情。 そんな仕草、そんな表情、いつも見慣れてるのに。 見慣れてるのに、どうして。どうして? 「ま、真宵ちゃん!?」 「・・・え?」 「ど、どうして泣いてるの!?勝訴したんだよ!なんにも心配することはないんだよ!?」 「・・え?え?あたし、泣いてる?」 手のひらを頬に当ててみると、本当に水みたいなものが手に当たって、あたしはびっくりしてしまった。目を瞬くとまたぽたぽたと頬に伝う水が増えてるのが判った。 「あれ?なんか、変、あたし・・止まらないし・・」 「真宵ちゃん・・?」 心配そうななるほどくんの声が確かに耳に聞こえたのに、そことは別のところから湧き上がるように別の声がした。 恐ろしいくらいその声はあたしによく似た声で、あたしがあたしに問い掛けてくるようにこういった。 ――ネェ、本当ニアタシ ――アタシハココニイテイイノカナ? ――アタシハ本当ニ ――アタシノチカラデなるほどくんヲ助ケテルノカナ・・? 「違うよ・・違うよね・・」 あたしは自分が泣いてるのか泣いてないのかとか、そんなことはどうでもよくなった。 「真宵ちゃん、真宵ちゃん?」 なるほどくんが肩を揺さぶってるのを感じる。きっと、あたしの目が正気を保ってないせいだ。でも、こんな気持ちを持ったまま正気を保ってなんかいられない。 「あたしは、お姉ちゃんがいなきゃいつも何もできないんだ・・!」 霊媒のチカラも、弁護士としての能力も、いつもお姉ちゃんはすごかった。いつもお姉ちゃんのすごさを一番身近なあたしがいつもよく知っていた。お姉ちゃんはすごい、お姉ちゃんは立派だ、小さい頃からずっといつも自慢に思ってた。それなのに。 どうして?どうして今は、こんなに・・。 こんなにお姉ちゃんの力が・・・!! だめだ!こんなことを思っちゃいけない!! あたしは多分、悲鳴をあげたんだと思う。全ての思考を強制的に止める方法がわからなくて、あたしにはそれしかできなかった。なるほどくんの手を振り払って、とにかく逃げ出さなきゃ、ここから、全部から逃げ出さなきゃって思って。 それからまた、記憶が途切れてしまった。 霊媒の力を使う以外で、記憶が途切れることなんてなかったのに。 どこをどう逃げてきたのか、あたしは川べりの草むらに一人で座っていた。 目の前には割と大きな川が流れている。川の水は濁っていて、ときどきゴミ袋やら木の枝やらが流れていた。 一度もこんなところに来た覚えはなかった。多分、いつもの法廷の帰り道とは逆側を走ってきてしまったんだと、ぼんやり思うあたしがいた。 これまでは一度も、お姉ちゃんにあんな感情を抱くことはなかった。 今になって、どうしてそんなことを思ってしまうのか、あたしはあたしが信じられなかった。 たった一人のお姉ちゃんなのに、しかも今となっては会うこともできない人だっていうのに、どうして今になってそんな黒い感情が芽生えてしまったのか。 あたしはわからなくて、ただ、目の前の川の流れをぼんやりとながめることしかできなかった。 川べりへと降りてくる風はとても冷たくて、あたしの頭もだんだんと冷えてきた。 「お姉ちゃんが・・悪いわけないんだよね・・。きっとあたしが、自分のことを棚に上げてお姉ちゃんを妬んで・・」 「真宵ちゃんが悪いわけでもないよ」 唐突に声が聞こえてあたしは息を飲んで振り向いた。すぐ後ろに、青いスーツ姿の男の人がいて、あたしはさらに驚いてしまって声も出なかった。 「気づかなかった?しばらくここにいたんだけど・・それにしてもここは寒いね。真宵ちゃん、これ着てるといいよ」 なるほどくんは背広を脱ぐとあたしの肩に乗せてしまった。あたしはようやく言葉を思い出したみたいに、でも、と声を上げた。 「それじゃなるほどくんが寒いでしょ!」 「大丈夫、普通男の方が体温は高いからね。それより、真宵ちゃんが風邪ひく方が僕は困るから」 なるほどくんは風を心地よさそうに浴びながら、ズボンのポケットの手を入れた。 「でも、やっぱりいいよ。頭を冷やしたついでに体が冷えちゃったのは自業自得だもん」 あたしは立ち上がりながら背広をなるほどくんに返すように差し出した。なるほどくんは、困ったような顔をして背広を受け取る。あたしはなんとなくもう一度川の方に向いた、そのときだった。 体が温かいものに包まれた、と思ったすぐあとに、不思議な圧迫感を感じてあたしは声を上げた。 「わわっ!?」 「あははっ、やっぱり氷みたいだ、真宵ちゃん」 えええっ!?どういうことっ!? あんまり予想外のことをされて、あたしは目を丸くすることしかできなかった。なるほどくんが背広であたしの体をくるんでくれたのまではまだ許すよ!でも、なるほどくん、その上からあたしをだ、だ、だ、抱きしめちゃってるよーー!! 「やせ我慢しないでね、真宵ちゃん。寒いときは寒いって言っていいんだよ」 「!」 なるほどくんはそういって、あたしからぱっと手を離した。喚きたてる隙も与えないというか、あたしが言うのも変なんだけど本当にその不意打ちは鮮やかなくらいだった。 「さ、騒ぎ立てて婦女暴行現行犯でイトノコ刑事にひっとらえてもらおうと思ったのに!!」 あたしはあまりに驚いてしまった反動で声が上ずってしまっていたけれど、びっと指を突き立ててなんとか一言言ってやった。けど、なるほどくんは御剣検事がするみたいに余裕ある表情で肩をすくめてみせた。似合わないんだけどね。全然。 「ぼくだって弁護士のはしくれだ。真宵ちゃんが考えそうなことは予想できるよ」 「うう・・」 悔しくて歯軋りさせながらなるほどくんを睨みつけていたんだけど、不意に体が温かいもので包まれたお陰か、急に体が寒かったことを自覚したみたいに鼻がむずむずしてきた。 「・・っくしゅんっ!」 「ほらほら。帰ろうよ真宵ちゃん。こんなところにいつまでもいるわけにはいかないだろ?」 ぐいっと手を引かれるままに、あたしは歩き出した。 なるほどくんと手がつながってる、って思って、あたしはなんだかそれが不思議に思ってしまった。 ううん、ちょっと違う。 不思議に思っているあたしを、不思議に思ってる、みたいな感じ。 あれれ、どうしてあたしこんなことを思ってるんだろうって。 暖かくて大きな手があたしの手を包んでいるのが、不思議で不思議でしょうがなかったんだけど。 それがあんまり暖かくて心地よかったものだから、あたしはその手をそのままにしていた。 しばらく歩いた後に、思い切って途中からあたしもなるほどくんの手を握り返してみたんだけど。 一歩分先を歩いているなるほどくんは腕をちょこっと反応させて、でもしらんふりして歩いてた。 なるほどくんの耳がちょっと赤く見えるんだけど、あれって夕日の赤さが映ってるのかな。 あたしもちょっと顔が熱いけど、もしかしてあたしの顔にも夕日の赤が映ってるのかな。 変なの。 ただ、手がつながってるってそれだけなのにね。 ああでも、ほんとに。 あたし、どうしてあのとき一瞬でもお姉ちゃんを妬んだりしちゃったんだろうな・・。 ■END
●今回のオマケ 真 宵:こんにちは、綾里真宵です。 成歩堂:こんにちは、成歩堂龍一です。 真 宵:お待たせしましたー。逆転SSとしては1ヶ月ぶりになってしまいましたー。 成歩堂:管理人、逆転熱が落ちたかも?とか思ってたらしいし。 真 宵:熱しやすく冷めやすい人だよね。 成歩堂:若さがないから続かないんだって言ってたけど。関係あるのかな、若さ。 真 宵:ぴっちぴちに若いあたしにはわかんないけどね。少なくともあたしはずっとラーメンを好きでいられる自信あるけどなー。 成歩堂:管理人もそこは負けないらしいけどね。ラーメン大好きらしいし。 真 宵:えっ、じゃあ勝負勝負!! 成歩堂:いやいや、どんな勝負だよ。大食い勝負ならあっさり負けるって言ってたよ。 真 宵:なんだぁーつまんないなぁ。 成歩堂:ところで、これって作品解説しなきゃいけないんじゃないの? 真 宵:そうだよそうだよ。ラーメンの話なんかなるほどくんがするから。 成歩堂:僕のせいかよ!っていうかそもそも僕はラーメンの話なんてしてないよ! 真 宵:まあまあ。とりあえず解説すると、実はこのネタは管理人のサイクリングダイエットが元になったらしいです。 成歩堂:ああ、1時間半もこぎつづけた・・県境を越え、市境を越えた・・。 真 宵:それそれ。もちろん川も越えたらしいんだけどね。3本くらい。 成歩堂:3本もかよ!どんだけ走ったんだ。 真 宵:まあ、その一つの川を跨ぐ陸橋があったんだけど、そこで当たった風がかなり気持ちよかったらしい。 成歩堂:へー・・・って、それだけなの? 真 宵:この話に関してはそこだけかな。 成歩堂:・・・インスピレーションってわかんないもんだね。 真 宵:そうなんだよね。いつも降らない雪が降ったからといって話が湧くかと思えばそうでもないし。 成歩堂:いつでも見られるはずの川で珍しくサイクリングしてみると浮かんだりするもんなんだ・・。 真 宵:ようはやっぱり自主的に行動したことに付加価値ってついてくるもんじゃないかな。 成歩堂:ああ、なるほど。雪が降るという偶然起こったことよりも、サイクリングをしてみたっていう自主行動によってその付加価値を得られたということかな。 真 宵:まあ、雪が降った日も一応管理人外に出たみたいなんだけど。 成歩堂:あれもね、歯医者で仕方なくだったしね・・(笑)自主行動にはならなかったのかもね。 真 宵:まあ、自主行動してても浮かばないときは浮かばないんだけどね。 成歩堂:そういえば、今回タイトルはすんなりいったんだね。(現時点で決定済み) 真 宵:そうなんだよ!!めっずらしいよね〜! 成歩堂:話の内容としては穴がありすぎてどうにも失敗作の予感がしないでもないけどね。 真 宵:まあ、作者の想いが伝わるほど文章に込められたかというとそうでもないらしいしね。 成歩堂:込めたかったんだけど、込められない事情もあるみたいだし。 真 宵:答えをばら撒きたいんだけど、ばら撒くとそれはそれでつまんなくなりそうで伏せたようだし。 成歩堂:いろいろね。 真 宵:事情がね。 成歩堂:ってさ。 真 宵:ん? 成歩堂:この話、僕らのことなんだけど、僕らこんな話し方してていいのかな? 真 宵:え、駄目かな。やっぱり。 成歩堂:うーん。駄目なことはないと思うけど、自分たちで自分たちを・・ 真 宵:認めちゃってるみたい? 成歩堂:そうそう・・って、ええ!? ナルマヨ関係を少し進展させてみました。というか、真宵ちゃんをもやもやさせてみたというか(笑) ゲームの真宵ちゃんは嫉妬の感情を持ちそうにないなぁとか思うんですけど、女性なら多分持つ感情だと思うのでこういう話を一つ。 ←←TOPへ/ ←目次へ |