【逆転裁判】

■なるほどくんとまよいちゃんの日常生活10題 →[***こちらから頂きました***]
+まけっぱなしのなるほどくんのいちにち+







01 おみくじ
02 ノックアウト
03 人気者で行こう
04 大いなる野望
05 南半球ツアー
06 雨にうたえば
07 シークレット作戦B(3-5ネタバレ)
08 カンパイ!
09 ぴかぴか
10 ワールドピース







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01 おみくじ
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「あれ?あんなところに小さな神社がある」

 明日の審理の捜査で町をぐるぐると回っている最中に、突然真宵ちゃんが声を上げた。

 ビル郡の間に唐突に出現する鳥居に、僕もびっくりした。

「へぇ?なんかずいぶん唐突に現れたね、鳥居」

 そのままの感想を口にした僕の腕を、真宵ちゃんが引っ張った。

「行ってみようよ!」

「え、今回の事件と全然関係なさそうなんだけど!」

「そんなの判らないよ!もしかしたらここの絵馬に、今流行りのダイイングメッセージが託されてるかもしれないし!!」

「い・・いやいや!そんなの聞いたこともないよ!!」

「なにを夫婦喧嘩なさっていらっしゃるんですか!なるほどくんもなるほどくんです!!殿方ならば愛しい真宵さまの言うことを何故お聞き届けにならないのですか!?」

 さっきから黙っているなと思っていた春美ちゃんが、ここぞ!と声を上げてきた。

「い、いやいや、夫婦も愛しいも何か違うって春美ちゃん・・!」

 しかし、これで僕の負けは決まったようなものだ。

 2対1、しかも最強の女流権力者の代名詞、綾里家が二人相手では太刀打ちもできない。

 ・・倉院の里に男の人がいなくなる理由が、そこはかとなくわかる気がした。

「わかったよ・・行こう」

「やったー!!」

「やりましたね真宵さま!」

「行こう行こうはみちゃん、神社のお神酒は未成年でも飲んでいいんだよ!」

「まあ、それはわたくし知りませんでしたわ!!」

「こらこら、はみちゃんに飲ませたら駄目だぞ!!」



「おみくじだー!!ほらほら、なるほどくん、あたしとはみちゃんの100円出す出す!」

「ことあるごとに奢らせるね、真宵ちゃん・・」

「殿方は泣き言をいうものではありませんよ!なるほどくん」

「わかりました・・」

 僕の財布はいつでも寂しい。

 この財布がいつか膨らむことがあるのだろうか、と遠い目をしながら、100円玉を二人に一枚ずつ渡す。

 ちゃりーんと箱に入っていく寂しい音を聞きながら、二人はわくわく、と言った様子できれいにたたまれた紙を取り出した。

 がさがさと二人がたたまれたおみくじを開く間、僕はコートのポケットに手をつっこみつつ神社の方を眺めた。

 ずいぶん古い神社らしい。こじんまりとしているが、今だけ少し華やいだ雰囲気があった。むこうで人がざわめいている。

 よくみると花嫁さんが見えた。お参りに来たのだろうか。親族の人に囲まれて、幸せそうに笑っている。

 写真をとろうとしているようだ。

「ひゃあ、すごいです!真宵さま、大吉ですね!」

「ふふふ、やっぱりひいてよかったね!はみちゃんは?」

「わたくしも大吉です!!備えあれば憂い無し、とあります!!」

 ・・なんかあたりまえのこと書いてあるよ・・。

 僕は思ったが、言わないでおいた。まあ、おみくじとか占いとか、たいていそういうものだし。

「さて、捜査に戻るよ」

「なるほどくんもひこうよ!おみくじ!!」

「おみくじを引くより、僕はあったかいコーヒーの方が飲みたい」

「じじむさいよなるほどくん!!ここは若者の真宵ちゃんに任せてどーんといってみようおみくじ!!」

「その台詞に若さを感じないのはぼくだけだろうか?真宵ちゃん」

 真宵さまに失礼な言葉は許しません!と春美ちゃんに足を踏まれながらも、結局ぼくもおみくじを引くことに。

 明日の審理もあるし、あまりひきたくなかったんだけど・・。

「末吉・・微妙なものひいたねぇ・・なるほどくん」

「だからイヤだったんだよ・・うう」

「泣かないでください、なるほどくん!!」

「大丈夫大丈夫!ちゃんとここにくくりつけて帰れば問題なしだよ!!」

「そうですとも!真宵さまがそうおっしゃるのであれば間違いなく問題なしです!!なるほどくん」

「そうだね・・」

 最強の二人に言われたなら、そうかもしれない、と完全に気持ちを押された状態でぼくは思う。

 それに。

「真宵ちゃんと春美ちゃんが大吉なら、平均とっても中吉になるから明日は大丈夫かな」

 といってみると。

 さすがに最強女流権力者の言葉は違った。

「なにいってんの!なるほどくんの末吉はあくまでなるほどくんの末吉だよ。あたしとはみちゃんの吉をとろうなんて甘いよ!!」

「その通りですよなるほどくん!愛しい人から吉をとろうなんてあつかましいことを考えるようじゃ、殿方としての威厳はないも同然です!」

「・・ごめんなさい」

 ・・・・。

 それにしても。

 おみくじ代を払ったのはぼくで。

 ひきたくもないおみくじを引かされただけなのに。

 どうしてこうも攻め立てられなきゃならないのか。

 僕はささやかな疑問を胸に、神社を去ることになったのだった。




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02 ノックアウト
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「真宵ちゃん?そっちは終わった?」

 大掃除の窓拭きを手分けしてやっていた。ぼくは受付側で、真宵ちゃんはデスク側の窓。

 ベランダがないのでちょっとやりにくいがしょうがない。

 せっせと背伸びをしてやっていると、どたばたと何かしら物音がするはずの真宵ちゃんの場所から物音が聞こえなくなっていた。

 終わったのかな、と思ってデスクのほうに脚を向けてみると・・。

「ま、真宵ちゃん!!」

「今忙しいから、ちょっと待って」

「い、いやいやいやいや!!それ、ちょっと、待ったぁぁぁ!!」

「え?なに?」

 窓枠の上に立って外側の窓を拭いていた真宵ちゃん。

 でも、一生懸命になりすぎて忘れてるよ、丈の短い着物を着ているって事実にさ・・。

 その状態で下から見上げる人がいたら、丸見えだってば!!

「は、早く降りてきなさい!!」

「はーい。なんなの?ちゃんと掃除してたのに」

 ぴょん、と窓枠から飛び降りる姿も危うい。

 着物の生地って修行の為か薄い作りなんだよな・・前から気になってたけど。

「真宵ちゃん、ちょっとここ座って」

「なに?」

「その姿であんなところに立ったりしちゃだめだろ!」

「え、だって掃除しなきゃ今年は終わんないよ!!」

「い、いやいや、まあ熱心なのはいいんだけど」

「でしょ?じゃあ、再開再開!!」

「待った待った!!ちょっと待った」

「もー、なんなの?あたし忙しいんだってば!」

「その姿で窓枠に乗ったりしたら下から丸見えなんだってば!!」

「!」

 真宵ちゃんの目が一瞬点になったのを見てから、僕の顔がかーっと熱くなった。

 も、もうちょっと遠まわしに言いたかったのに・・!!

「・・・見た?」

「・・・え」

「見たの?!」

「え、い、いやいやいやいや!!見てない、僕は断じて見てないっ!!」

「そ、残念だったねぇ。なるほどくん」

 にんまり、と笑う彼女。

 僕はいろんな意味でくらくらしてくる。

 ある意味、彼女は最強だ。手におえない。

 頭に来たというか、脱力したというか、もはや何もいえなくなって僕はきびすを返した。

 そして、すごすごと掃除に戻る僕の背中に、最強の彼女から一つ提言が。

「じゃあ、ぱんつに裾をいれてやればいい?」

「却下!!」


――そんな彼女に、毎日ノックアウト。


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03 人気者で行こう
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「ねえねえ、はみちゃん」

「なんですか真宵さま」

「トノサマンみたいなシュールで格好いい男の人、近くにいないかなぁ」

「まぁ、それならすぐ近くにいらっしゃるじゃないですか!」

「ええっ、はみちゃん、そんな人知ってるの?」

「真宵さま、おとぼけになるのもいいかげんになさったらいかがですか?なるほどくんがいるじゃありませんか!」

「え・・えーっと・・ごめん、はみちゃん。『シュールで格好いい男の人』なんだけど」

「あっ!」

「性別しかあってなかったね・・」

「すみません・・」

「さりげに、酷い事言うね・・真宵ちゃん」

 ひくひく、と口の端を引きつらせるしかできない僕。一人で捜査をしてきて帰ってみるとこんな話題。

 僕がなにをしたっていうんだ・・?

 だいたい僕はこの事務所の所長なんだけど、いまいちその威厳はない。というか。

 この二人が異様に押しが強くていつも負けてしまう、という現実。

「なにいってんのなるほどくん!まさか自分が『シュールで格好いい』とか思ってるんじゃないよね?そんなこと考えるんだったら即刻東京湾に沈んでもらうよ!!」

「沈めるなよ!!そんなことで!」

「こんくりづめで、ですか?」

「い、いやいやいや!春美ちゃんになんてこと教えてるんだ真宵ちゃん!」

「はみちゃんもお年頃だからねー」

「なんの関係があるんだ・・」

 疲れ果てて、僕はデスクの椅子に座り込んだ。二人がソファを陣取っている以上、僕が座れるのはこの椅子しかない。

 疲れ果ててネクタイを緩めながら息をついていると、春美ちゃんがぱしん、と手を打ったのでびっくりする。

「あ、トノサマンとなるほどくんの共通点、ありました!」

「え、なになに、はみちゃん」

「ずばり!人気者です!!」

「「ええ?」」

 真宵ちゃんと僕の声がハモってしまった。唐突になんなんだ。人気者??

「そうです!なるほどくんもトノサマンもとっても皆さんに人気がありますよね!」

「ええ〜〜〜っ?」

 これは非常に不満そうなトノサマンファンの声。

 そこまで不満を表されるとさすがの僕も腹が立つ・・が、なんか春美ちゃんの話がよくわからないので、とりあえず聞き返す。

 弁護士の職業病みたいなもんだな。これは。

「どういうことかな?春美ちゃん」

「はい!なるほどくんはたくさんのお友達がいらっしゃって、みなさんなるほどくんを頼りにしていらっしゃいます!もちろんそんななるほどくんは、真宵さまにゾッコンなのですが・・」

「いやいやいや!なにいってんだよ、春美ちゃん!!」

 だいたい今のご時世ゾッコンって・・・一体春美ちゃんはどこからそういう言葉を仕入れてくるんだろう。

「そうだよ、はみちゃん。なるほどくんなんてあたしの影武者でしかないんだからね」

「なんでだよ!」

「だって陰の所長はあたしでしょ?」

「・・・」

 違う、といえない僕の弱さに、僕はさらにへこんでしまった。

 そんな僕をよそに、真宵ちゃんは春美ちゃんに話を戻す。ううう。

「ああ、でもはみちゃんが言いたいこと、わかる気がしてきたよ」

「まあ、さすがは真宵さま!」

「あれでしょ、ほら、うーんと、類は友を呼ぶ、っていうか、類は災難を呼ぶっていうか」

「なんなのそれ」

 すかさず僕はツッコんだが、彼女は考え中だったらしくさりげなく無視された。

「ヤッパリさんは厄介な事件を持ち込むのが得意だし、御剣検事はなるほどくんを知的に追い詰めるのが得意で、冥さんはやっぱり鞭でなるほどくんを追い詰めてて、事件の証人はいっつも曖昧でやっぱりなるほどくんを追い詰めてて・・」

「なにがいいたいの、ソレ」

「え、だから・・なるほどくんは災難に人気者なのかなって」

 びっと人差し指を突きつけていう真宵ちゃん。

 さすが真宵さま!とはやしたてるのは春美ちゃん。

 そして、僕はこういうしかなかった。

「だからさらっと酷いこと言うのやめなさい!!」

 ・・・。

 言ったのだが。

 「本当のこと言われたからって怒鳴るのやめてよね〜大人気ないんだから」「そうです、よりにもよって愛しい真宵さまに怒鳴るなんて殿方として失格です!」と逆に罵られて。

 僕は、結局。

 災難に人気者なんだなぁ、と遠い目をするしかなかった。


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04 大いなる野望
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「なるほどくんは、一流の弁護士になりたいの?」

 唐突に、真宵ちゃんがそう聞いていてびっくりした。

「なんなの、一体」

「うううん、お姉ちゃんは一流の弁護士、だったんだよね」

「そうだよ」

「だから、なるほどくんも一流になりたいのかなって」

「千尋さんが恥ずかしくない程度にはなりたいかな、やっぱり」

「じゃあ、やっぱり一流に?」

 なぜ、一流にこだわるのだろう。

 「べつに一流でなくてもいいけど」と返事をすればこの会話は終わるのだろう。でも。

 僕はソファに座って饅頭を食べる真宵ちゃんを改めて見つめた。

 どうやら、真宵ちゃんはこのやり取りの奥に狙いがあるようだな、と思う。

 僕はデスクの椅子から立ち上がった。

「一流ってさ、人が勝手に決めるものでさ、一流のナニカになる、なんて一番漠然とした夢だと思うよ。ぼくは」

「・・・」

「真宵ちゃんがなりたいのは一流のナニカなのかな?人に一流って言われて終わるようなナニカなんて、本当に君がなりたいものなのか怪しいもんだと思うけど?」

「・・・」

「真宵ちゃん。なにか悩んでるの?ぼくでよければ、聞くよ」

 真宵ちゃんは食べかけの饅頭を手につかんだまま、じっとテーブルを見つめていた。

 それから、すっくと立ち上がると、僕を見てこういった。

「コーヒー、淹れて来るね」

 そのあと、話すから、という言葉を聞いた気がして、僕は頷いた。



「・・・ラーメンって、さ」

「は?」

「一流の味!とか元祖!とかあるじゃない?」

「う、うん・・」

 まじめになにか悩んでいると思ったんだけど、思い違いだったのかな・・?

 そう思ってみたが、僕は黙って真宵ちゃんの話を聞くことに専念した。

「で、霊媒師の家元の家系ってとどのつまり元祖!一流!なわけで」

「うん」

 ・・やっぱり、霊媒師のこと、悩んでたんだな・・。

 成歩堂は思い違いでなかったことを確信して、息をついた。

「あたし、本家の人間だからきっとこのままだと家元を襲名することになると思うんだけど・・いまちょっと自信がなくて」

「・・・うん」

 わかるよ。千尋さんを亡くして気持ちが落ち込んでいたときに、さらに事件、そして事件。

 さすがの真宵ちゃんにも、簡単に耐えられる事件ではなかったんだよな・・。

「だからね、家元とかってなんなのかなって思ってきて・・なるほどくん、どう思う?」

「そうだなぁ・・綾里家って僕らがいう一流とか元祖っていう世界とはまた違う気がするけどさ」

「・・・」

「要は、真宵ちゃんがどうしたいか、だけじゃない?」

「あたしが?」

「そう。多分ね、君がしたいようにしたらいいと思うんだ。例えば、真宵ちゃんが違う何かに目覚めてその道を目指すとするよね。それでも僕はいいんじゃないかなって思うんだ」

「ああ、ラーメン職人とか?」

「・・・っ!!目覚めてたの?」

「うん、ちょっと。だっておいしいじゃない!ラーメン」

「うん、いや、わかるけどね・・」

 倉院流の霊媒師家元がラーメン職人に目覚めて家元を拒んだ、という話はあまり聞きたくない話だな・・。

 本気にラーメン職人に流されないうちに、早くここは話を戻しておくべきだろう。

「真宵ちゃんは結局家元の嫡子という立場だし、これまではきっとなるべくしてなる、みたいなところがあったんだろうけどさ。」

「うん・・」

「いろんな事件があったから、逆に本当に自分がなるべきなのかって考える時間が早まったんだと思う。辛いことばっかりかもしれないけど、いいことでもあったんじゃないかな」

「え?どうして?」

「だって、家元になってから、家元に向いてなかったって悩むよりいいじゃない」

「ああ・・そうか、そうだね」

 真宵ちゃんは僕がそう言うと、にっこり笑った。

 真宵ちゃんの素直な笑顔に、ちょっとどきどきする。

 よかったよ、ちょっとでも笑顔が戻って。

「将来の家元の立場として悩むんじゃなくて、真宵ちゃんが霊媒師をやりたいか、だけ悩んだらいいと思うよ。それから、じゃあ家元になるべきか、春美ちゃんとどう折り合いをつけるか、考えるのはその後でいいはずだよ」

「そっか。そうだね、いやーなるほどくんにハナシ聞いてもらうのもたまにはいいもんだね!」

「たまには?」

「そっ、たまには!」

 元気を取り戻した彼女。いや、そういう風に取り繕っている雰囲気もあるが、そこは見ない振りをしてあげよう。

 せっかくの真宵ちゃんの努力、無駄にしたくないからね。

「あたしは、あたしらしい霊媒師になるよ!」

「そっか」

 安心した。無駄にはならなかった。僕の話は。

 ・・・。

 とりあえずラーメン職人には向かなくてよかったよ。ほんとに。

「真宵ちゃんの大いなる野望はこれからだね!なるほどくん!!」

「がんばってね」

 話はこれで終わりかな、と僕は残りのコーヒーを飲み干すと、デスクに戻ろうと思った。

 のだが。

 真宵ちゃんが僕のスーツの裾を握り締めている。これじゃあ、デスクに戻れない。

「ってことで、協力してね、なるほどくん」

 きらりと真宵ちゃんの目が光ったような気がして、僕の背中に悪寒が走った。

「・・・な、なんのこと?」

「霊力増進のスペシャルコース。あたし未成年だからね!お付き添いお願いします!」

「・・・えええええっ!?」

 1週間後、僕は真宵ちゃんと春美ちゃんに連れられて、(何故か)霊力増進の修行に付き合わされる羽目になったのだった。




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05 南半球ツアー
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 駅前でもらったポケットティッシュ。その裏を返してみると、チラシが織り込まれていて。

―南半球ツアー!!今一番ナウでホットでツアーはXXXツアープロジェクトまで!!―

 そんなお金があるやつは、ポケットティッシュなんてマメにもらったりしないんじゃないかな、と思いながら、邪魔になるのでコンビニ前でそのチラシをゴミ箱に捨てた。

 それなのに、帰ってみるとデスクの上にそのチラシが置いてあって、僕は唖然としてしまった。

 捨てたチラシがここまで歩いてきたのか?

 そんなばかな。

 これは呪いのチラシとかそういう類のやつじゃないだろうな・・とドキドキながら覗き込んでいると、お茶を入れてきた真宵ちゃんが声を上げた。

「あっ!なるほどくんなるほどくん!それみてそれみて!!」

 二回ずつも言われては見ないわけにもいくまい。

 いや、一度は見てるのでそんなに目を凝らす必要もないんだけど。

「これがどうかしたの?」

「あたし海外旅行って行った事ないんだよね!!」

「ぼくもそうだよ」

「奇遇だね!これはもういくしかないね!!」

「いやいやいや、真宵ちゃん、あのね」

「止めないでよなるほどくん。あたし決めちゃったんだから!絶対南半球ツアーに参加して、コアラとカンガルーとペンギンみてやるんだから!!」

「・・ペンギン?」

「南半球っていうからにはツアーには南極大陸も入ってるに決まってるよね!!」

「え・・それは、どうだろうか」

 真宵ちゃんのあまりに予想外の言動に、後半が御剣みたいな口調になってしまった。

「絶対入ってるに決まってるよ!入ってなきゃ南半球ってツアーの名前自体ジャロってるよ!電話しちゃうよ!!」

「ジャロって・・最近あまり聞かないから、言い直しておくと、間違った内容の広告をしている企業に審査や改善を求めてくれる社団法人JAROのことだよね。よく知ってるね、真宵ちゃん」

「成歩堂法律事務所の陰の所長を侮っちゃいけないよなるほどくん!!」

「・・・」

「だからね、あたしは決めちゃったの。南極大陸に渡ってペンギンを見てやるんだー!!って」

 ここまで雄弁に語られてしまうと、僕も何もしないわけには行かない。

 というか、視線が痛い。睨まないで。真宵ちゃん。だいたい僕は何も悪くないんだから。

 ひどいよなぁ・・。沈黙は金、雄弁は銀、っていうけど、その両方で僕にしかけてくるなんて・・うう。

 しかたなく、僕はその旅行会社に電話して問い合わせてみることにした。


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「・・絶対ジャロってるよ。JAROに電話してやる!」

 結果を聞いた真宵ちゃんは一言、そう言った。

 とりあえず、南半球ツアーの件はなしくずしになった。

 もともと、立つわけのない計画ではあったけど、真宵ちゃんの怒りの矛先はジャロった旅行会社に向かったのでとりあえず僕の貧乏さはお咎めなしだった。

 めでたしめでたし。




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06 雨にうたえば
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「勝訴なのに空模様は雨か・・」

 せっかく依頼人の無実を証明したのに、神様はなにを見ていたのか、帰る時間にはバケツをひっくり返したような雨が降っていた。

「なるほどくん、傘は?」

「あったらこんな顔してないんだけど、真宵ちゃん」

 朝の天気予報では日中は快晴だったはず。それなのにこんな夕立だ。

 折りたたみ一本持ってないっていうのに。

「ええ?どうしよう、家に帰れないじゃない!!」

「僕だってそうだよ・・」

 さすがに審理中は緊張感でもっていた体力も底つき始めた。

 昨日は深夜まで無罪の証拠と論理を組み立てて、寝不足だったし。

 朝も食べる時間がほとんどなくて食べてない。空腹だった。

 困ったな、という考えから、頭が対策に回らない。

 僕の頭は、ぼんやりとやたらと大きな雨粒を見ることしかできなくなっている。

「どうした?成歩堂」

 裁判所の出入り口でぼんやり途方にくれていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り返ると、先ほどまでお互いに正面きって指を突きつけまくっていた相手、御剣だった。

「雨か。フッ・・どうやら傘がなくて途方に暮れていると見た」

「みたまんまだよ、検事さん」

「よせよ。あいつにひねりを求めてもしかたないだろ」

 こそこそと僕らが話しているのに気づきもしない、天才検事。どこか無頓着なのだ、こいつは。

 どうでもいいことを気にし始めたりすると止まらないのでそれはそれで厄介だが。

「さて、ここに一本の傘がある」

「ああっ!検事さんっ!!それっ!貸して下さい、お願いします!!」

 真宵ちゃんはすぐさま懇願したが、ちょっと待て、と僕は思う。

「一本・・?それで、お前はどうやって帰るつもりだ・・?」

「あいにく、私も雨に足止めを食っていられるほどヒマではないのでね・・タクシーで帰るよ。君たちにはこの傘を餞別代わりに渡しておく。気をつけて帰りたまえ」

「うう・・」

 僕も真宵ちゃんも、傘を渡されてしまってから「タクシー代を貸してくれ」とは言えず、なんとも後味の悪い空気を残して天才検事は去っていった。

 まったくあいつの頭脳プレーにはいつもしてやられる・・・あいつの言葉は法廷外でも罠だらけだ。

「・・・。帰ろうか・・真宵ちゃん。途中のコンビニまではこの傘で我慢しよう」

「ううう。寒いよう・・」

 天才検事の傘はどうやら安物ではないらしく、割と大きな傘だったので助かった。

 しかし、土砂降りの雨にどこまで耐え切れるか、というと話は別だ。

 傘は、頭部だけは完全に雨粒から守ってくれたが、足元からまもなくその防御を放棄した。

「つ、冷たいよ、なるほどくん!!」

「天才検事に言ってくれ、そんな台詞は」

 アスファルトの地面は何故か僕らに的確に雨を跳ね上げてくるので、下方にも傘が一本欲しいくらいだった。

 お陰で真宵ちゃんの下駄も僕の靴もぐっしょりぬれていた。

 僕らにできるのは、できるだけ濡れないようにひとつの恵みの傘に寄り添うことだけだった。

 今まで雨の酷さばかりに気を取られていたのか、ふと目をやると、僕の傘を持つ腕には真宵ちゃんの腕が絡みついていた。

 あれ?珍しいことになってるな、僕ら。

 と思ったが、まあ、そんな日もあるかな、と思う。

 じゃあ、珍しいついでに、珍しいこともしてみるか。

「真宵ちゃん、こっち」

「ほへ?」

 鈍感な僕の助手はいまいちわけがわからなそうな顔をしてきょとんと僕を見上げている。

 しかたがないので、僕が動いて差し上げるとしますか。

 車道側になっていた真宵ちゃんをすばやく交代させた。

 僕の傘を持つ手が変わったので、自然に真宵ちゃんの腕が自分の腕からほどける。

 ・・・ああしまった。余計なことするんじゃなかった。

 位置を交代して、ようやくその意味に気づいた真宵ちゃんがちょっと戸惑ったように僕を見上げていた。

「あ・・ありがと、なるほどくん」

「どういたしまして」

 今更ちょっと照れくさくなって、僕は真宵ちゃんを見られなかった。

 しばらく、お互い無口になってしまって、僕も話しかけづらくなって、ただただコンビニのマークを探していると、真宵ちゃんが声を上げた。

「あ、なるほどくん!あそこにコンビニ!」

 はしゃいだような声とともに、絡みつく真宵ちゃんの腕。再びつながれる僕たちの腕。

「あ、ほんとだ」

 僕は、できるだけ平静を装ってそう返事をした。

 真宵ちゃんの体をこれ以上濡らすわけには行かないけど、この腕の感触はちょっと惜しいな、なんてちょっと思いながら。

「でも、もう完璧濡れちゃったし、お金もったいないからこのまま帰っちゃおうよ!」

「そうだね」

 真宵ちゃんがそれでいいなら、いいか、なんて、思ってしまう僕が、そこにいて。

「貧乏弁護士の助手はやってられないねえ〜」

 そんなことを言いながら、僕の腕にはまだ彼女の腕があった。


 知らず、僕は鼻歌を歌っていた。



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07 シークレット作戦B
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 温かな日差しが窓から差し込んでくる。今日は小春日和だ。

 先日まで寒気団が日本列島を完全に包囲していたのだけど、それが抜けるとこの陽気が2,3日続いている。

 所帯じみた言い方をするとお洗濯日和だ。

 ちょっと哀しいが、そこはしかたない。一人身の性(さが)というものだろう。

 僕は温かな日差しに当たりながら、先ほど届いたらしい事務所宛ての封筒を眺めていた。

 A4サイズの封筒の表、その下部には警察庁の文字。

 警察庁から事務所宛てに封書が来るのは珍しいことだ。

 はさみで綴じシロあたりを切り取り中身を出してみると、一枚の紙切れ、いや写真がはらりと滑り落ちた。

 おや、と思い、写真を拾う。

 封筒の中には、手紙も、なにもなかった。ただ、この写真がぽつんと入っていたことになる。

 そのとき、事務所の出入り口で音がした。誰かが来たようだ。

「なるほどくん、こんにちは。あら、何を見ているんですか?」

「ああ。春美ちゃん、いらっしゃい。写真だよ」

 僕は春美ちゃんに持っていた写真を渡した。すると、春美ちゃんがまぁ!と嬉しそうに顔を桃色に染めながらこう言った。

「真宵さまの、幼い頃のお写真ですね。さすがはなるほどくん、愛しい方のすべてを知りたいという・・」

「いやいやいやいや!!そうじゃないよ、よく見てよ。隣に千尋さんだっているし!!」

「確かに・・。それに、この壷!」

 やっぱり気づいたか、と僕は含み笑いをしてしまう。

 写真は、幼い真宵ちゃんが泣いていて、同じく幼い千尋さんが壊れた壷を修繕しているところだった。

 実はその壷、以前に春美ちゃんも割ってしまって修繕したことのある壷だったのだ。

「私が初めて割ったわけでは・・なかったのですね」

「そうだね。こうなると代々割れてるかもしれないね」

 大体渡り廊下に無造作に置いていること自体、そのぞんざいな扱いに気づくべきだった。

 もし価値があるものならば、侵入者には簡単に盗まれてしまう場所だ。

 本来ならば床の間とかに飾るべきものではないだろうか。ぼくにはよくわからないけれど

「安心しました・・私のせいで・・供子さまの魂が初めて解き放たれたわけではないのですね」

「そういうことだね」

 そもそも何の変哲も無い壷に魂を封じ込められるのか、という問題には深く追求しないことにする。

 ちなみに、供子さま、というのは 倉院流霊媒創始者の名前だそうだ。

 真宵ちゃんと春美ちゃんのご先祖様にあたるんだと思うんだけど。

「あの。なるほどくん・・」

「なに?」

「それでも、わたくしが壷を割ったということは・・できれば・・真宵様には・・」

「もちろん、言わないよ」

「ほんとうですか!?」

 嬉しそうにきらきら輝かせてそう言う春美ちゃん。

 真宵ちゃんに怒られるんじゃないかとか、嫌われるんじゃないかとか、気にしているんだろうなぁ、多分。

 先に壷を割っちゃった当人が、というか、真宵ちゃんはそんなことで春美ちゃんを怒ったり、嫌いになったりなんかしないよ、と思うんだけど、多分そういうリクツじゃないんだろう。

 難しいオトシゴロって奴だな。

 なんか、この子の父親みたいになってきたな。変だな。

 いやいや、僕はまだまだ若いんだからやめよう、そんなことを考えるのは。

「もちろんだよ」

 春美ちゃんを安心させるように僕がそう言ったそのとき、ばたん、と事務所の扉が音を立てた。

 僕が真宵ちゃんにおつかいを頼んでいたので、彼女はしばらく留守だったのだ。

「ただいま〜」

「真宵さまっ!おかえりなさい」

 嬉しそうに足をならして春美ちゃんが出入り口のほうに走っていく。

 写真を持ったまま、だ。

 あの写真は前回の事件で証拠品の一部ではあったが、事情を解した人が事務所宛てに送ってくれたのだろう。

 真宵ちゃんの立場に斟酌して判断されたのかもしれない。

 いや、もしかしたら御剣の力が何かしら働いたのかもしれない、と思う。

 あの写真は、真宵ちゃんのお母さんが唯一残した愛情そのものだった、から。

 しかし、証拠品は原則全て警察局で保管されるものであるから、本来証拠品が事件の当事者の手に戻ることは無い。

 やはり、何かの操作があったと見るのが妥当だろう。

 もちろん、悪い意味の操作ではない。

 そもそも、写真自体は事件には関係ないのだし。

 証拠品としては、その写真が入っていたお守りさえあれば問題ないはずなのだから。

 ただ、その操作が本当かどうか、僕に知る術は無い。おそらく知る必要の無いことなのだろう。

 もしかすると、知ってはいけないことなのかもしれない。

 検察局、警察局の機密に関わるのだろうし。

 そんなことを考えながらぼんやりと窓を見ていると、出入り口の方にいる二人の会話が耳に入ってきた。

「お、はみちゃん、何もってるの?」

「真宵さまのお写真です!さきほどまでなるほどくんが見入っていたので、わたくしも拝見させていただいたのです!」

「ちょ、ちょっと待った!!それなんか誤解を招くよ春美ちゃん!!」

 僕はデスクの椅子から転げそうになりながらも、出入り口に向かう。

「へ〜、なるほどくんがあたしの写真を?」

「違うって真宵ちゃん!!」

「なにそんなに慌ててんの?なるほどくん。あれ、この写真・・」

 真宵ちゃんはその写真に気づいて黙り込んでしまった。

 彼女は一心に見つめる・・家族がいた頃の写真を。

 お姉さんも、お母さんもいた頃の写真を。

 しばらく写真に見入った真宵ちゃんを、僕も春美ちゃんも黙って見つめていた。

 泣くかな、と思ったのに、彼女はそのあと、嬉しそうに笑っていた。

「なるほどくん・・これ・・」

 真宵ちゃんはやっと自分を取り戻したかのように、僕にそう聞いた。

「うん、さっき警察局のほうから送られてきた封筒に入っていたんだ。多分、君がもっていていいってことなんじゃないかな」

「本当に?うわぁ・・嬉しい!大事にしようっと!」

 真宵ちゃんが写真を抱きしめて、もう一度笑った。

 見ている僕のほうが、なんだか泣きたくなった。

 いつも健気で逞しい彼女が、いつか壊れないかと、心配で。

「お母さんの写真が返ってきたお祝いに今日はミソラーメン祭りだね!!」

 満面の笑顔で真宵ちゃんはそう言った。

 財布の中身に自信がなかったけど、まあ、こういうお祝いならやっとくべきだろうな。

 僕はそう思って、肩をすくめつつも頷いた。

「わかったよ。仕方がないなぁ・・」

 ただ、お金にうるさい僕が割合素直に了解したことを、春美ちゃんが怪訝に思ったようだった。

「真宵さま、おめでたいお写真だったのですか?それ」

「そうだよ、はみちゃん。これはねえ、お母さんがお姉ちゃんとあたしをずっと想っていてくれた証拠写真なんだから!!」

 そう言って真宵ちゃんはその写真をつきつけるように春美ちゃんに見せていた。



 こんなことができるのは、多分御剣しかいない。

 今度会ったら、ちゃんと礼を言っておこう。

 あいつのことだ。なんのことだと、とぼけるのだろうが。

 一言、言っておけばいい。

 お前の作戦は成功したよ、と。


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08 カンパイ!
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「いつもながらぎりぎり勝訴おめでとー!!カンパーイ!!」

「おめでとう!なるほどくん!」

 紙コップを掲げて真宵ちゃんと春美ちゃんがそう言った。

「一言多いよ、真宵ちゃん。せっかく無事に終わったんだから、心地よく余韻に浸らせてくれたっていいのに」

 缶ビールを掲げた後、僕はすがすがしくビールを飲みたかったのに、真宵ちゃんの一言でついついぼやいてしまった。

 すると、真宵ちゃんはすっと足を組み、腕を組むと、僕を見下すように見つめてこういった。

「心地よく余韻に浸れるほど、スマートな審議をしたのかしら?」

「ま、まさか・・千尋さん?!」

 僕がどぎまぎして隣の真宵ちゃんから身を引くと、ぷっと真宵ちゃんが笑い出す。

「なーんちゃってぇ!!ひっかかった〜。なるほどくんってすぐひっかかるよね。このネタ」

 真宵ちゃんが手を叩き、僕を指を指して笑っている。

 人に指を突きつけちゃいけないんだぞ、って思うけど、僕は突きつけまくってるから人のことは言えない。

 ああでも、姉妹だけに声の質は似てるんだよな、真宵ちゃんと千尋さんの声。

 前にもこう言うことがあったし。

 それにこのネタでぼくがひっかかりやすいのには、ちゃんとした理由がある。

 彼女は霊媒師で、審議の時はたまに千尋さんを呼び出してもらっては助けてもらっている。

 千尋さんが彼女の体を借りて僕に物申すというのことは、別段いつ起こっても不思議ではないことなのだ。

 まあそれでも、霊媒がされているかいないか、見分け方がないわけではない。

 霊媒している最中は真宵ちゃんの体は霊のものとなってため、その体はその霊が生前生きていた頃の姿に変わる。

 身長、体格に違いが出るということだ。

「霊が男の人のときは体が男になっちゃうの?」

 僕が思いついたことを聞いてみると、ぷはーっとジュースを一気飲みした真宵ちゃんは、なるんじゃない?とあっけらかんと答えた。

「霊媒中の記憶はないからね・・霊媒している本人にはわからないんだけど。霊媒最中の姿が門外不出になっているのはそれが理由ひとつだって言われてるの」

「ああ、倉院の里では確かに門外不出だって言っていたよね」

「あたしは法廷でお姉ちゃんを呼ぶのになれちゃったけどね」

 いいのか?!とツッコみたい気分は満載だったが、なによりそうさせているのは僕の弁護士としての未熟さによるものだ。

 余計なことはツッコむまい・・。

「真宵さまにご負担をかけないように、なるほどくんは早く一人前の弁護士になってくださいね!」

「はい・・」

 ツッコんでないのにあっさり春美ちゃんに見破られた自分が情けなくなって、少々気落ちした気分で一口目のビールを飲むことになった。

 その隣で、真宵ちゃんがわくわくしながらテーブルに載っているピザの箱を見つめている。

「ピザ開けていいよね!?なるほどくん」

「うん、いいよ」

「今日は奮発したよねぇ〜ピザってあたし初めて食べるよ!!」

「わたくしもです!!」

 意気揚揚と言った雰囲気で、二人がピザの箱をそれぞれ嬉しそうに開けている。

 なんだかクリスマスの朝みたいだな、とぼんやり思う。

 サンタからの贈り物が届く朝、幼い頃の僕がわくわくしながらリボンを解いていたのを思い出す。

「すっごーい。チーズがとろっとろだぁ!!」

「真宵さま、これはピザじゃないのですか??」

「ううん、はみちゃん、ピザだけど。上に乗っかってるアツアツのとろとろになってる黄色いの、これは噂にきくチーズだよ!!おいしそうだねぇ・・うう〜いい匂い〜」

「まあ、それではピザ、はどのへんにあるのでしょう?」

 完全に辺境の地、発展途上の村で育ったのであれば、このくらいの会話は仕方ない。

 倉院の里にはコンビニもファーストフード系の店見当たらなかったし、宅配ピザなどはおそらく圏外の地域に違いない。

 かといって説明するのにもちょっと根気が要る作業なので、あえて僕は彼女たちの会話を無視して、彼女たちの皿にピザを一つのピースごととりわけてやる。

「あついから火傷しないようにね」

「わー!!いっただきまーす!!」

「いただきます!!」

 はふはふと言いながらピザにかぶりつく二人を見てから、僕もひとかけらのピザに食いついた。

 ピザなんて久しぶりに食べる。耳にまでチーズが入っていたりして、ピザも日々進化しているのか、と感心した。

「あっつっ!」

 油断大敵、というのだろうか。真宵ちゃんがふたくち目を齧ったときに声を上げた。

 どうやら口内に熱い具が接触したらしく、真宵ちゃんは涙目になっていた。

 火傷の痛みがあまりにすさまじいのか、ピザを飲み込む間中僕のスーツを握り締めてぶんぶんと振り回そうとする。

 僕は慌てて自分の皿にピザを置いた。このままではこのピザがどこかに飛んでいって二次災害になりかねない。

 真宵ちゃんは痛いのを堪えながら、僕の袖をぶんぶん振り回しながら、口に入れたものを何とか飲み干したようだった。

「痛いよ痛いよ〜!!なるほどくん見てぇ!!」

「どれ?」

 相当痛かったのだろうと、僕は彼女の顎に手を触れて火傷の具合を見ようとしていると、かちゃん、と音がした。

 春美ちゃんが手に持っていたフォークを落とした音だった。

 手で食べていいものなんだけどな、と思っていたんだけど、春美ちゃんがそうしたいならそれでいいかな、と思っていたフォークだった。

 手で食べることにしたのか、と思いきや、そういう雰囲気でもない。

 何故か真っ赤に顔を染めた春美ちゃんが呆然と僕の方を見ていて、なんでだろう?と思った。

「春美ちゃん?」

「あ、あ、あ、あのっわたくしっ!!お邪魔みたいですので今日は帰りますっ!」

「「え??なんで??」」

 見事に真宵ちゃんと僕の声がそろってしまった。

 あまりに唐突な春美ちゃんの台詞に、僕らは二人とも同じような感想を持つしかなかったのだ。

 しかし、春美ちゃんは春美ちゃんで必死の様子だ。

 赤くした顔を隠そうとしたり、それでも僕と真宵ちゃんをちらちらみたりと忙しい。

「い、今からキスをしようという恋人のお二方を前にして、わたくしがずうずうしくもここにいられるわけがありません!!」

 悲鳴のような声で春美ちゃんがわめく言葉が、僕の耳を通ってきたが意味が理解できなかった。

 ・・キス?

 何故キスという単語が出てきたのか、いまいち判らない。

「・・・?」

 改めて真宵ちゃんの方を見て、気づいた。

 目の前にあるのは、よく見て見ればうら若き乙女の唇。

 どくん、と心臓が跳ね上がると同時に、ようやく気づいた。

 あまりにお互いの顔が接近しすぎていたことに。

「わぁっ!」

「きゃっ!なになに!?なるほどくん!!」

 びっくりして思わず僕は真宵ちゃんから飛び退ってしまった。

 あまりに勢いがありすぎたのか、ついでにソファから転げ落ちてしまった。

 ごちんという衝撃。床に頭をぶつけた音だ。

「てっ!」

「なるほどくん?」

「なるほどくん!!」

 真宵ちゃんと春美ちゃんの心配そうな声でようやく我に返る。床に手をついて起き上がる。

「は、はは、大丈夫大丈夫・・」

 早鐘になった鼓動が大丈夫じゃない、って言ってるみたいで情けない。

 おさまれ、おさまれ、と僕は手で自分の胸のシャツを握り締めた。

「あらあら、なるほどくん、真っ赤です!!すぐにお水、もってきますね」

 春美ちゃんがすばやく立ち上がって洗い場に向かう。真宵ちゃんはソファーの肘掛に顎を乗っけて僕を見ていた。

「ほんとだ〜。ビールちょっとしか飲んでいないのにね。お酒弱そうだもんね、なるほどくん」

 どうやら、さっきの挙動不審な行動は酔っ払った反動とみなされたらしい。

 よかった・・似たもの同士のいとこで。

「う、うん。久しぶりに飲んだからかな・・」

 なんか、真宵ちゃんの顔が見れなくて、僕は目をそらした。

 ゆっくり立ち上がる。少し風に当たってきた方がいいかもしれない。

「なるほどくん?」

「ごめん、ちょっと風に当たってくるよ」

「はーい。いってらっしゃい!」

 よろよろと歩き出す足が、がんがんと痛む頭が、どくどくと脈打つ心臓が、全て情けなく思えた。

 なにやってるんだ。なにやってるんだ。なにやってるんだ。

 あの子は僕のお師匠さん、千尋さんの妹さんなんだぞ・・!!

「あら、お水、わたくしがもっていきましたのに」

 ふらふらと歩く途中に春美ちゃんが話し掛けてきて、僕に水の入ったコップを手渡してくれた。

 ひんやりとした感触が熱せられたような手に心地よい。

 目を覚ませ!という理性がようやく頭の中に生まれてきて、僕は自分にほっとした。

「ちょっと風に当たってくるよ。気分がよくなったらすぐ戻るからね」

「まあ、あまり風にあたりすぎないようにしてくださいね!夜風は体に毒だって・・いつもお母様がいってましたから」

「ありがとう、春美ちゃん」

 春美ちゃんの優しい言葉に礼を言って、まだちょっと朦朧とする頭を抱えながら、僕は事務所のドアの外に出た。

 階段の踊り場で一息つく。

 ぐいっと水をあおってしまうと、もう一度自分に目を覚ませ!と暗示を掛けた。

 鼓動は冷気のお陰でようやく落ち着きを取り戻したみたいだけど・・

 しばらく真宵ちゃんには近づかない方がいいかも、と僕はそう思った。

 無意識だったとは言え、彼女だってあまりにも無防備すぎる。

 でも、多分。

 彼女はそんなことに気づきもしないだろうから、僕が気をつけなきゃならないんだろう・・。

 やれやれ。







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09 ぴかぴか
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「さあ!残す砦はここ一つだよ!なるほどくん!!」

「砦って・・大袈裟だなぁ・・真宵ちゃん」

「大袈裟なんかじゃありません!もうこれは砦以上です!ゴミ貯めです!!」

「一応仕事の書類なんだけど・・これ」

 僕らは何を騒いでいるかと言うと、年末の大掃除の――真宵ちゃんの言葉で言えば――最後の砦の前に3人は並んで立っていた。

 つまり書類が散乱する僕のデスクの前で。

「触れれば落ちそうなファイルフォルダーに・・」

「窓を開ければ飛び散りそうな書類・・」

「そんなおどろおどろしくいわなくていいから」

 僕は二人にそう言うと、二人はそろってきっと睨んできた。さすがにいとこだけあってタイミングまでぴったりだ。

「だいたい、毎日帰るときにちゃんとしまえばこんなことにならないのに!!」

「そうです!真宵さまの言うとおりですよ、なるほどくん!!」

「はい、すみません・・」

 至極もっともなことを言われたので、僕は反論ができない。

 まあ、この二人に反論しようとしたところで、言い負かされるのが目に見えているのだけど。

「さ、やるよ。ここが終わったら大掃除は終わりなんだから!」

「ずっと真宵さまが片付けようとおっしゃってましたのに・・最後までなるほどくんは手付かずでしたよね!!」

「はい、すみません・・」

 春美ちゃんにまた怒られながら、僕らはまず山となったファイルと書類の山を床に退避することにした。

 とりあえず、僕は紙の山とファイルの山に分けて床に置いていく。

 すると、真宵ちゃんは床にぺたりと座り込んで、書類の中身を見て振り分け始めた。

 春美ちゃんはホッチキスを持って構えていて、真宵ちゃんが時々複数にわたった書類を春美ちゃんに渡している。

 ぱちん、ぱちん、とホッチキスを打つ音がときどき部屋に響いていた。

 なかなか鮮やかな流れ作業だ、と僕は感心した。

 ファイルや書類を全て床に下ろした頃、真宵ちゃんが立ち上がる。

「なるほどくん、書類のまとめ、代わってね」

「わかった」

 今度は真宵ちゃんは自分がまとめた書類を持つと、ファイルフォルダーの溜まり場に移動した。

 50音順に作られたファイルフォルダーの中身を確認しながら、真宵ちゃんは手に持った書類をフォルダーに挟んでいく。

 僕はその作業が苦手でなかなかやらないので、書類がデスクに溜まってしまう、と言うわけだ。

 しばらくもくもくと作業をしていた。

 日ごろはトノサマンとかわけのわからないものに夢中になったりする真宵ちゃんも、何故かこのファイル整理だけは熱心にやってくれる。

 そういえば、千尋さんもきちんと書棚にファイルをまとめているタイプだったな、と思い出す。

「なるほどくんは帳簿はきちんと取るのに、こっちは全然やらないんだよねぇーどうしてかなぁ」

 ファイルに書類を挟みながら、真宵ちゃんは機嫌よく笑っていた。

 多分、彼女はこのファイル整理が嫌いじゃないんだろう・・前から思ってたけど。

「真宵ちゃんの仕事、とっちゃ悪いだろ?」

 何気なく、そう言った言葉が真宵ちゃんの動作を止めた。それに、僕は気づかなかった。

「・・なるほどくん」

「なに?」

「じゃあ、あたしがいなかったらなるほどくんはちゃんとファイル整理してるのかな・・・」

 声のトーンがいつもより下がっていることに、僕はようやく気づいた。

 はっとして、書類整理のためにうつむいていた顔を上げると、哀しそうに肩を縮めている真宵ちゃんが目に入る。

「あたしが余計なことしてるのかな・・」

 がっくりと肩を落としてファイルに手をついて止まっている真宵ちゃんを見て、僕はびっくりしてしまった。

「まままま真宵ちゃん!?」

「真宵さま!!そんなことありえません。なるほどくんが一人だったらデスクの上どころか事務所自体がゴミ貯めになるにきまっています!そうですね!?なるほどくん」

「そうですとも!!」

 いつのまにか春美ちゃんの言葉がうつってしまうほど僕は驚いて、春美ちゃんと相槌を打ちまくっていた。

 でもそんな僕らの言葉は、真宵ちゃんに生まれた黒い疑惑が頭を掠め始めるのに歯止めを掛けることができなかったようだった。

 真宵ちゃんは手のひらを口に当てながら、ぼんやりとした目で口を開く。

「あたし思うんだよね・・。あたしは弁護士としての知識があるわけじゃないし、できるのは、お姉ちゃんを呼び出して助けてもらうだけだし・・あたし、結局なるほどくんの役には・・」

「ごめん!真宵ちゃん!」

 僕は無我夢中で土下座して頭を下げていた。今度はびっくりして真宵ちゃんの方が口を閉ざしたようだ。

「違うんだよ。全然違う。ごめんよ真宵ちゃん!!この通り!!」

「なるほどくん・・?」

 頭を下げたままなので真宵ちゃんの顔は見れないけれど、彼女は多分唖然として僕を見つめているに違いない。

「君の仕事をとっちゃ悪いなんて、傲慢なこというべきじゃなかったんだよ。本当にごめん」

「なるほどくん、ちょっと・・顔、上げようよ」

 僕の土下座に心底驚いたのか、真宵ちゃんが僕の前に移動してきたのが足音でわかった。

 僕はようやく顔を上げて、真宵ちゃんを見た。困ったような、そこはかとなく哀しそうな顔がそこにあった。

 そうだ、彼女はいつだって一生懸命にやってくれている。

 ファイル整理だけの話ではない。

 法廷のときや、捜査のとき、時々不真面目に物事を投げそうになる僕を、いつも支えてくれている。

 正しい方向に導いてくれる。

 いつだったか、その身に「法廷侮辱罪」を受けてまでして審議を全(まっと)うさせようとしてくれたことさえあったじゃないか。

 それなのに、僕は心ない一言で彼女を傷つけた。

 これは、僕にとって許されざる重罪、だ。

「ごめんね、真宵ちゃん。役に立たないなんて、そんなこと思わなくていいよ。真宵ちゃんは十分役に立ってるんだから」

「ほんとに?」

 ほっと顔が緩み微笑む真宵ちゃんの顔に、僕も少し顔が緩んだ。

「もちろん。この法律事務所は千尋さんが僕らふたりに任せてくれたんじゃないか。千尋さんが認めてるんだよ?真宵ちゃんが大好きな、あの法曹界でも有名な一流弁護士がね」

 そうだね、と真宵ちゃんは言いつつも、少し口に手を当てて黙り込んだ。

 あれは、彼女が何かを考えるときの癖だと知っている。だからそのまま、彼女が何かをいうのを僕は待っていた。

 そして、真宵ちゃんが思い切ったようにその言葉を口にした。

「なるほどくんも?」

「うん?」

「なるほどくんも、あたしを認めてくれる?」

「もちろん。あたりまえだろ」

「よかった。じゃあ、仲直りの握手ね!」

 真宵ちゃんがすっと手のひらを出してきたので、僕も慌てて手を差し出した。

「喧嘩だったの?今の?」

 笑いながら言う僕に、真宵ちゃんがさぁ?と肩をすくめて笑ってみせる。

 よかった、もういつもの真宵ちゃんみたいだ。

 握られる二つの手のひら。真宵ちゃんの手が驚くほど細くてびっくりしたけど。

「これからもよろしくね」

 素直にそういって笑う真宵ちゃんは本当に可愛かった。

 さっき哀しそうな顔をさせてしまった罪悪感のせいもあったかもしれないけど、すごく可愛く見えたんだ。

 だから。僕は。

 無意識に、不覚にも、これからもずっとね、などと言おうとしてしまいそうになってしまって。

 ただ、危ういところである視線に気づいた。絡みつくような、それでいてかなり真摯な視線に。

 はっとあたりを見回してみると、いつのまにか部屋から退散している春美ちゃんがじぃっと見つめているので、僕は慌てて口を閉ざしたのだった。

 余計なことを言って、やれプロポーズだのやれ婚約だの騒がれてはたまらない。

 背中にどっと得体の知れない汗が流れるような気がした。

 手のひらを離した真宵ちゃんは、元気を取り戻して装束の袖を腕まくりすると張り切ってこういった。

「さ、じゃあ残りのファイル整理終わらせて、ご飯食べにいこう!!あれ、はみちゃんは?」

「真宵さまぁ・・」

 案の定、これ以上ないくらい残念そうな顔で春美ちゃんがドアの陰から出てきた。

「どうしたの?ああ、あたしたちが変な言い合いしちゃって怖かった??」

「そんなことはいいのです!仲良いお二人だって喧嘩することだってあるのでしょうから!!ただ、わたくしはなるほどくんの甲斐性無しに呆れているんです!!」

「か、かいしょーなし??」

 本当に、春美ちゃんは一体どこからそんな言葉を仕入れてくるんだろう・・

 嘆息しつつそんなことを思っていると、ぎろっと恨みがましい目で春美ちゃんに睨まれてしまった。

 ・・・怖い。

「さ、さあ、今日はもうとっとと片付けてラーメン屋にいくよ!さっさと働いた働いた!」

「はみちゃん、ホッチキスは?」

「もちろん持っています!」

「じゃあ早くやっちゃおう!」

 目の前ににんじんをぶら下げられた馬のごとく、僕らはてきぱきと働いた。

 書類の分類が終わると、僕は雑巾を絞って久しぶりに顔を見せたデスクを拭き掃除した。

 本当に砦だったのかもしれない、と思うほど、デスクが片付くと、部屋全体がすっきりして明るくなったように思えた。

「ぴかぴかです!」

「ほんとだね!」

「これで大掃除も終わったし、あとは年越しを待つばかりか」

 やれやれ、と思いながら下を見下ろすと、春美ちゃんが僕を見上げているのに気づいた。

「どうしたの?春美ちゃん・・」

 すっと手を差し出した春美ちゃん。ああ、さっき真宵ちゃんと握手したのを真似したいのかな、と思って僕も手を差し出した。

 ぎゅっと思いのほか強く握られてびっくりする。

「は、春美ちゃん??」

「なるほどくん!!くれぐれも!!来年は真宵さまをお願いします!!」

 意味のわからないプレッシャーを当てられて、ぎりぎりとあらん限りの力で手を握られて。

 僕の手は解放された。

「はみちゃん、なんかその挨拶違わない?」

「違いません!」

 そう?とよくわからなそうに首を傾げる真宵ちゃんは、世俗に疎いのか、それともどうでもいいことなのか、ま、いいかぁ、などと声を上げていた。

 まあ、でも。

 きれいになった部屋のついでに、新たな気持ちで君と向き合うのも悪くないと思う。

 それこそ、ぴかぴかの気持ちで。




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10 ワールドピース
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 ――君と僕の世界がいつまでもしあわせでありますように。




「雪だぁ〜なるほどくん、雪だよ〜!!」

「ほんとだ、一日早かったね」

「なんの?」

「明日クリスマスイブだから」

「ああ、なるほど。で、なんでクリスマスイブに雪が降るといいの?」

「なるほど、って思ったんじゃないの?」

「うーん、口裏合わせてみたって感じ」

「別にあわせるべきところでもないよ・・」

 とん、と書類を机であわせると、僕は右端の書類の束の上に載せた。

「う〜〜。せっかく整理したのに〜〜・・」

「ごめん、後でちゃんとしまうからさ」

「そういってしまったためしがないよ、なるほどくん・・」

 呆れながら真宵ちゃんはソファからまた窓の外を見はじめた。

 なんとなくその姿が寂しそうに見えるのは、多分隣に春美ちゃんがいないからだろう。

 今日は学校の終業式だそうで、真宵ちゃんが昨日駅まで見送って倉院の里に返したのだった。

「なんだか静かだね」

「はみちゃんがいないとね・・」

「また明日から来るんでしょ?」

「うん、多分ね」

 残りの書類もチェック完了。

 今日はこれくらいにしようかな、と思いながら、僕は思いっきり背中を伸ばした。

「今日は終わり?」

「そうだなぁ。今日はこれで終わりにしようかな」

「じゃあ、書類しまうしまう!お茶淹れてきてあげるから、一緒にとのさまんじゅう食べよ!」

「クリスマスイブ前日にとのさまんじゅうって・・」

「ヤッパリさんが大量に昨日持って来ちゃったんだもん、しょうがないじゃない!悪くなる前に食べなきゃ!明日は明日でケーキ買うから、残しちゃだめだよ!!」

「うううん・・」

 真宵ちゃんがいそいそと流し台の方に向かうのを目で見送ってから、僕は立ち上がる。

 横目で書類の束を見たけど、やっぱりしまうのがめんどくさい。

 あとで真宵ちゃんと一緒にやろう、とか勝手なことを頭の片隅で思いながら、僕はソファに腰掛けた。

 お盆に湯飲みを二つ載せた真宵ちゃんが現れるなり、ぷくっと顔を膨らました。

 デスクの上の書類を見つけたのだろう。

「なるほどくん!」

「あとでやるから」

「だめ!今やる!お茶ここに置くよ!」

 とん、と置かれたのはソファの前のテーブルではなく、デスクのほうだ。

「真宵ちゃんはいじわるだね」

「しっかり者なの!」

「自分で言ってるし」

 しょうがないな、と僕はソファから立ち上がった。

「あたしとお菓子を食べられる光栄をやすやすと受けられると思ったら大間違いだよ!」

「やれやれ」

 書類整理なんてたいした作業じゃないんだけど、どうも調査以外で紙をいろいろ見るのが僕は苦手みたいだ。

 クリップでまとめてファイルフォルダーにしまっていると、ひょいと顔を出した真宵ちゃんが横から手を出した。

「これは、こっちに入れてた方が後でわかると思うよ」

「そう?じゃあ、そっちにお願い」

「了解」

「真宵ちゃんは優しいね」

「いつもでしょ」

「そっか、気づかなかった」

「なるほどくんは駄洒落が下手だよね」

「う、うるさいなっ」

「ふっふっふっ」

 ニコニコしながらファイルまとめをやってくれる真宵ちゃんを見ていると、僕までちょっと楽しくなってくる気がしてくるから不思議だ。

 苦手な作業のはずなのに、真宵ちゃんがとなりで一緒に片付けてくれるだけで、一気にその嫌な気持ちが半減してしまう。

「よし、終わりー!!ほらほらやればできるってね!さ、お菓子食べよー!!」

 朝来たときと同じようにきれいに片付いたデスクを見て、やっぱり片付けるもんだな、と思う。

 真宵ちゃんはさっさとソファに座ってテレビのリモコンで電源を入れる。口にはもう饅頭が咥えられているし。

 夕方のテレビは、再放送の時代劇や、再放送のドラマやサスペンス、今夜のスペシャルの予告編など他愛ないものばかり。

 僕も真宵ちゃんの隣に腰を下ろした。

「年末って変なスペシャル多いから、番組つぶれちゃうんだよねぇ・・」

「トノサマンはスペシャルやらないみたいだしね」

「そうなんだよ!!シツレイしちゃうよね!!人気番組をスペシャルにしないなんて間違ってるよっ」

「・・・そうだね」

 ものすごい剣幕でまくし立てられたので、つい同意の言葉を返してしまった。どうでもいいんだけどね、僕は。

「もう!つまんない!」

 多分、トノサマン以外は真宵ちゃんには興味の対象にはならないのだろう。ぷちん、と音を立ててテレビが切れた。

 真宵ちゃんがリモコンでテレビを切ってしまったのだ。

 テレビの音がなくなって、なんとなく無音が気になった。

 今度は僕がリモコンを手にとって、電源を入れる。

 再び部屋に音が満たされる。なんとなく安心して、僕はチャンネルをくるくる変えた。

 ニュースが流れているチャンネルを見つけて、僕はそれで止めた。

 見たいニュースがあるわけでもないけど、ただなんとなく無音になるのがやりにくくて。

 春美ちゃんがいないと、この部屋が広く寂しく感じられて。

「なるほどくん」

「なに?」

「明日って仕事する?」

「依頼人が来なければ、仕事はないかな。さっき終わった仕事で実質残件ゼロだし」

「じゃ!はみちゃんとパーティしない?」

「パーティ?クリスマスの?」

「うん、倉院の里ではクリスマスってないから」

「ああ、たしかに」

 なさそうだな、と思う。どちらかというと宗教は仏教っぽい建造物が多かったしなぁ。

「じゃ、そのことはみちゃんに連絡しなきゃ!」

 真宵ちゃんは携帯を探すが、どうやら手元にないらしい。

「うーん。コートにいれっぱなしかなぁ」

 立ち上がって、テーブルと僕の間を歩き出そうとする真宵ちゃんに、ふっと一つの考えが浮かんだので、咄嗟に僕は彼女の手首を掴んだ。

「そうだ、真宵ちゃん!」

「え?!わっ・・ちょっと・・!」

 握ったタイミングが悪かったようで、真宵ちゃんは僕が握った方にバランスを崩してしまった。

 どさっと音がして、気が付くと真宵ちゃんの体が僕の体の上にすがるように落ちていた。

 同時に一瞬、ふわりと花のような香りがした。

「うう・・。なるほどくん〜〜〜!!びっくりするじゃないっ!!」

「ご、ごめん」

(いや、僕もびっくりした・・)

「なに?いったい・・」

 ああ、さっき花の香りがすると思ったら、彼女のシャンプーの香りなのか、と気づく。

(ああ、やっぱり女の子、なんだな・・)

「なるほどくん!!」

「あ、ごめん・・」

「どうしたの?」

「あ・・あのさ。春美ちゃんにはパーティのこと黙っておいてサプライズパーティにしたらどうかなぁ、って思ったんだけど」

「お、いい事言うね!!なるほどくん!よっし、電話電話〜♪」

 ただ家具に手を置くように、僕の胸に手をつけてがばりと起き上がると、真宵ちゃんが立ち上がる。

 クローゼットは受付のほうにあるので、そのまま真宵ちゃんは所長室を出て行ってしまう。

(・・やれやれ)

 もう一度引き止めたかった右手を、僕は一人握り締める。

 テレビが点いていることを思い出して、テレビに目をやる。

 どうやら毛色の違うらしい子供たちが白い衣服に身を包み、手を祈りの形に組んで精一杯歌っている。

 聖歌隊だ、と思ったが、なにを歌っているのかは判らなかった。

 音楽は得意じゃないからなぁ・・。

『・・明日に備えて聖歌隊の子供たちも一生懸命ですね。この聖歌隊の歌声はチャリティーコンサートで明日から公演されます。集められた基金は世界の人々が一人でも多く平和に暮らせるよう役立てられます。一人でも多くのご協力をお願いします』

「世界が平和に・・ね」

 ずいぶん大それた願いをする人がいるもんだ、と思う。

 僕なんて目先のことで精一杯だ。

 けど、やっぱり僕にも願うことはある。

「ねえねえ、なるほどくん!はみちゃん、すっごく喜んでたよ!!」

「ええっ!?真宵ちゃん言っちゃったの!?パーティのこと!!」

「あっ・・うん、つい。わぁん、うっかり言っちゃったよなるほどくん!!」

「サプライズにしようって思ったんだけど・・まあいいか」

「ごめんね〜、せっかくなるほどくん考えてくれたのに〜!!」

「それなら、矢張とか御剣とか呼んで人を増やすか。その方が盛大に見えるかもしれないし」

「わぁ!そうしようそうしよう!」

 花が咲くような笑顔で喜ぶ彼女の顔を見て、僕は今一番の願いを胸に描いた。



 ――君と僕の世界がいつまでもしあわせでありますように。











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●今回のオマケ
真 宵:お疲れ様でした!綾里真宵です。
成歩堂:お疲れ様でした!成歩堂龍一です。
真 宵:いや、ほんと、今回は長かったねぇ・・。10話だよ、10話。お題初コンプリートだよ!!
成歩堂:でも全部僕視点ってどうなの。
真 宵:あたし視点は難しそうだからやだって言われちゃったよ!!シツレイしちゃう!!
成歩堂:まあまあ。一人称の小説の主人公やると、プライバシーもなにもないからやらなくてよかったじゃない。
真 宵:ま、そうだね。
成歩堂:(あっさりかよ・・!!フォローした僕の立場は一体。)
真 宵:で、だ。10話分解説するわけには行かないので、ま、いろいろ思い残したこととかね。かいつまんでいこうと。
成歩堂:(しかもスルー)っていうか・・この話全部こじつけみたいなもんだよね。
真 宵:またイタイこと言う!管理人吐血するからやめなよ、そういうこというの!
成歩堂:この前は真宵ちゃんが言ったんだッ!
真 宵:あれ、そうだっけ。
成歩堂:ま、でも本人わかってますよ。こじつけですよー。
真 宵:なるほどくん・・。
成歩堂:僕はこのこじ付けで色々恥ずかしい心の台詞を植え付けられたからね・・(腹いせ)
真 宵:鼻歌まで歌ったしねぇ・・
成歩堂:!!そうだった・・。
真 宵:歌、うまいの?なるほどくん。
成歩堂:聞かないで。管理人は音痴っぽいって思っているらしい。じゃあ歌わせるなよ!ヽ(`Д´)ノムキィィィ
真 宵:公式設定では歌の話は何も出なかったしなぁ・・
成歩堂:依頼人が歌手とかいう設定の人も出なかったしね。コ○ンと被るからか?(笑)ヨーコちゃーんって人と。
真 宵:トノサマン絡みになるとどうしても俳優さんになっちゃうんだよね。あ、いたいた、歌関係。
成歩堂:だれ?
真 宵:さすらいの忍者ナンジャだよ。あの人歌うたいだよ。
成歩堂:役の上でね。って・・トノサマンの話はもういいよ!
真 宵:あ、そうだね。うっかり「オマケ☆スペシャルバージョン」だから関係ないこともしゃべっちゃったよ。
成歩堂:待った!スペシャルバージョンって何。
真 宵:10話分解説あるんなら、長めなんでしょ?このオマケ。
成歩堂:また、管理人が吐血するようなことを平気でこの子は・・。
真 宵:まあまあ。気を取り直して解説するよ。実は管理人、このお題をやる上での目標があったみたいで。
成歩堂:そんなのあったの?
真 宵:あったらしいんだねぇ。題して「ナルマヨを進展させよう計画!!」(ばーん、と題字を広げてみる)
成歩堂:・・・・・。
真 宵:・・・・・。
成歩堂:ちょちょちょっとコラっ。コレ僕らがコメントするはきついぞ、管理人ーー!!
真 宵:ま、しなかったと。(題字をくるくると丸めながら)
成歩堂:(ガンっ)終わりかよ!
真 宵:終わりだねぇ。だって1話〜10話まで何も変わってないもん。
成歩堂:・・・。(表面的にはそうだけど。うう・・)
真 宵:ま、失敗したらしいね。管理人。頑張ったみたいだけど。
成歩堂:そうですか。(なんともコメントしづらいなぁ、ほんとに)
真 宵:あと、「10題」ではみちゃんの言葉遣いをものにしよう計画、とか。
成歩堂:あ、それは達成したかなって言ってたな。
真 宵:掃除ネタが多かったよね・・時期的に許されるんだろうけど。
成歩堂:12月だしね。一番いい時期に挑戦できたみたいだよね。日常だけど一大イベントあるし。
真 宵:年末の掃除とクリスマスと、おみくじも年越ししてたら初詣でかけたんだろうけど。
成歩堂:まあ、捜査でもね。ありそうな話じゃないかな。
真 宵:雨、冬はあまり降らないけど・・でもやっぱりあれは冬の雨のイメージ。足すごく冷たかったから。
成歩堂:一番書きにくかったのは何って言ってた?
真 宵:「ワールドピース」世界平和とか考えたこともない人だからね。管理人自分いっぱいいっぱいだから。
成歩堂:じゃ、書きやすかったのは?
真 宵:「おみくじ」「ノックアウト」「雨にうたえば」は比較的すらすらと行ったっぽいね。「雨」は相当楽しかったって。
成歩堂:お気に入りはなんだって?
真 宵:「ワールドピース」?苦労したからかな。
成歩堂:はみちゃんが抜きだとしゃべれなくなった僕ら(笑)
真 宵:はみちゃん言葉の慣れが仇になった話ね。(笑)
成歩堂:まあ、でもなんだかんだいいつつ、完成してよかったね。年内に。
真 宵:ほんとほんと。プレッシャーになるくせにやろうとするんだから・・
成歩堂:落ち着いて年も越せそうだ・・
真 宵:管理人はこれから2周目集中プレイだって。
成歩堂:好きだよなぁ・・ほんと。

★10話分お付き合い有難うございました〜!

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