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【鋼の錬金術師】 |
| ■離せないよ |
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作成日[2006/12/17] 風が鳴る。静かな草原を渡る風の音は日々その冷たさを増していく。 それでも、昼間ならば子供達の声が途絶えることは無い。仲良く駆け回る姿が年中、雨でないかぎり見ることができる。 視界を遮る邪魔なものが何も無いこの村では、山の稜線と空の境目が途切れることなく見ることができる。 朝焼けの溢れる光、太陽が昇りきったときの青い空、一日が終わる直前の燃えるような朱色、わたしたちはそんな空の変化の中で、生まれ育ってきた。 ずっとずっと一緒だった。 これからもずっと一緒だと信じていた。 兄弟のように。家族のように。 それを疑う余地が無かったから、わたしは子供のころ、それを本気で信じていた。 約束をしたわけでもない。指切りをしたわけでもない。 けれど、単純な思いは二人には通じているんだと思ってた。 わたしたちは、ずっとずっと、一緒にいるんだって。 年の瀬はこんな小さな村でもささやかな準備に忙しい。 それなりに料理を豪華にするから食材は常に新しいものが仕入れられて、いつもよりも八百屋や肉屋に人がにぎわっている。 この間は肉屋のご主人が何の気まぐれか東方の珍しい食べ物を仕入れたと得意げに言い張っていた。 魚の卵が固まったもので、数の子、と言っていた。 ちいさなちいさな粒みたいな卵が固まっているものを味付けして食べるのだそうだ。 あんまりに見た目にグロテスクで、わたしはびっくりしてしまった。 東方の食文化は理解できないと思った。 「年の瀬くらい帰ってきて、うちのこと手伝ってくれたっていいのに」 わたしはついそんなことをぼやいてしまう。 実のところは、家業の機械鎧の整備や発注もそれほど混んでないから、忙しくは、ない、のだ。 けれど、一年の計は元旦にあり、って言うから。元旦くらいはね。一緒にって思いたいだけなの。 家族みたいなものなんだから。 でも、きっと。わたしの我儘なんだ。わかってるんだけど。 わかってるんだけど。 はぁ、と冷たくなった手を温めようと息を吐き出すと、口から白い息がほわり、と涌いて漂う。 わかってるんだけど、な。 「なにぼやっとしてんだ?」 ――――? 幻覚?空耳? わたしそれはちょっと、まずくない? しっかりしなくっちゃ。買出しだってまだ終わってないんだから。 わたしは次に行きたかった店とは逆の方向に体が向いていることに気づいて、くるっと体を回転させると、目の前にいた人とぶつかってしまった。 「わぷ。す、すみません」 慌てて謝って頭を下げると、体が傾いでよろけそうになった。 「わ」 けれど、ああ、知ってる感触が腕を掴んだ。硬質の手が、できる限りの優しい動きでわたしの体を支えてくれる。 さすが、機械鎧をつけてる人に悪い人はいないわね、なんて、思わずそんなことを思ってしまう。 そう思っただけなのに。 「お前なぁ。ばっちゃんに頼まれた買い物も満足にできねぇのかよ?」 あれ。ちょっと。 わたし、本当にまずいかも。 妄想と現実がごっちゃになりはじめてる? さっき、帰ってきてくれてもいいのに、って確かに思ったわよ。 思ったけど。 そんな都合のいいことって、……あるの? 「村っつったって今時期は結構人はいるんだかんな。気をつけて歩けよ」 地面に落ちていた視界に見える、厚底のブーツにいつもの黒の上下。 脇にひらひらと舞っているのは見慣れた赤いフード付きのコート。 「おい、聞いてるか?」 支えられた腕の先を見る。 白い手袋に包まれている、その指。 あまりの符合にわたしは、混乱する。 もしかして、本当にあいつ? 「…んだよ。その顔」 あれ。ほんとにあいつだ。 さっき、なんとなしに考えたあいつが、目の前にいた。 「……エド?」 「なに」 無愛想な返事。 よこせ、とばかりにあいつは私の腕にあった荷物を奪うと、エドは先を歩き出す。 「どうせ、次は工具屋行くんだろ」 そんなことをいいながら、先を歩くのは間違いなくわたしの幼馴染み。 「って…さらっと流さないでよ!」 わたしはすかさずポケットに入っていたスパナを手にすると、あいつの後頭部めがけて投げつけた。 小気味良い音が響いてエドが前のめりになったが、さすがは荷物を持っていたので堪えたみたいだった。 「…っつ〜〜〜〜!!なにすん…」 「帰って来るならっ!」 エドの声を打ち負かそうとするように、私の声があたりに響いていた。 エドが、びっくりした顔で私の顔を見ている。 あ、まずい。泣きそう。 「電話くらいしろっていつも言ってるじゃないの!」 心の準備が、できないじゃない! 言えない悲鳴が、喉元にひっかかったみたいだった。 睨み付けて泣きそうになっているわたしを見てから、エドがふいと逸らして頭をがしがし、と掻いている。 あ、やっぱり幼馴染みのあいつだって思ったら、今度は笑いたくなってしまった。 だって、知ってるもの。その仕草。 その次に来る言葉を、わたしは多分、知っている。 「「悪かったな」」 エドの言葉に被せるようにそう言ってやると、エドがぎょっとした顔でわたしを見ている。 エドのそんな顔にわたしは堪えきれなくなって、無理に怒らせた顔が緩んでしまう。 ふ、と笑うと、わたしは止まらなくなってしまった。 「あはははっ」 「なんだよ、それ…ほら、行くぞ」 むっとした顔の仏頂面。見慣れた背中を見せて前を進む幼馴染み。 その後を追うように歩くわたし。 幼い頃からそうだった。 ガキ大将のエドはいつも前を歩いて、アルとわたしがその後を追うように歩いていた。 ずっと見てきたその背中。 ずっと一緒だって信じてたあの頃と同じ。 ……同じ? マントのようにひらめくコートに映る背中は、幼い頃のそれとは違う。 思っていたよりも、大きく、広いものに変わっていて。 その背中はもう、男の人という片鱗が見えたような気がした。 それに。 さっき泣きそうになった自分が、昔の記憶とは違う。 エドの顔を見て泣きそうになったことなんて今までにないのに。 「お前は〜〜〜っ!いつまでそこに突っ立ってんだ!行くぞ!」 ひっぱられた。 固い感触をする手のひらが、わたしの手を掴んで歩かせる。 生身の腕じゃない分、白い手袋をしていてもその冷たさがわたしの手に伝わってくる。 決して、暖かくは無いその手。 けれど。それは。 まぎれもなく。 (エドの腕、なんだよね…) わたしはそこまで考えて、はっとこの事実に気づく。 もう一度、スパナを持ち出してもう一発投げつける。 今度は顔面クリティカルヒット。 「いて〜〜〜〜っ!なんなんだよ!」 「あんたこそ!なに断りもなく手握ってんのよ!」 「おめぇがぼーっとしてるからだろ!ほら、いくぞ!」 ずんずんとまた、歩き出してしまう。 ちょっと待ってよ。 エド、さっきの衝撃で手、離すかと思ったのに。 しっかり握られちゃって、これじゃ、もう。 離せないよ。 ■エドに会いたい!って私が思ったのでウィンリィにそれをやってもらった。
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