【鋼の錬金術師】

■Good Mornig Game!

作成日[2007/02/11]

















 朝起きるのは苦手だ。けれど自然に起きるのは結構早い。

 4年間の旅慣れた体はもう深い眠りに落ちることがない。調査文書を読み通して徹夜してしてしまった朝以外は、朝早く起きて情報を求めに行くのが日々のそれこそ日常になっていたからだ。

 だから、隣にアイツがいても、やっぱり刻み込まれた日常を追い出すことが出来なくて、起きてしまうのだ。ふと、窓の光が射しただけで、オレにとってはもう目覚めの時なんだ。



 隣には、ウィンリィの寝顔。

 子供の頃から知ってて見慣れてる顔なのに、こいつの寝顔を見ると未だに顔が赤くなる。大丈夫か、オレ。

 だいたい、こいつの寝顔には色気がない。口がぽかんと開いてて、安心しきった表情。少し口元が緩んでいるところを見ると、いい夢を見ているらしい。ちょっとくらいつねっても起きそうにない顔だ。

 ゆるく流れる柔らかい金糸が額縁みたいにコイツの顔を囲ってる。そっと頬に掛かる金糸を除けてやると、まぶしいくらいの白い肌。ほんのり暖かいピンクに上気している頬が、他の色気がない分妙に艶めかしい。

 ガラにもなく、あぁ、キレイだな、と呟きが漏れて自分でびっくりする。

 ウィンリィが起きてなくてよかった、と心底思う。夫婦になった今でも、可愛いとかキレイだとかは一度も言ったことがない。いえるか、恥ずかしい。

 けれど、いつだって最上の感謝をしてる。かつてはオレに腕と足をくれた。壊した手と足を治してくれた。機械鎧の改良に時間を費やしてくれた。ずっとオレを助けてくれた。支えてくれた。

 多分、コイツはオレの良心なんだ。

 昔読んだ絵本にそんなのが出てくるのを見て首を傾げた覚えがある。何で、自分の良心が自分の心になくて、外側にでちまってるんだろう、って思ったんだ。そのときは。

 今ならそれを理解できる。コイツの目がある限り、オレは良心に逆らえない。そういう存在は、やっぱり誰にもあるんだって分かったんだ、今やっと。

 だから、オレのために、ずっと傍にいて欲しい。オレがオレでいるためにお前に傍にいて欲しい。

 そう思ったんだ。

 浅ましい、なんて身勝手な願いなんだろうと、自分でもそう思う。

 けれど、初めてそんなことを言ったときに、コイツは平然と言った。



「エドがそう願うなら、あたしはずっと傍にいるよ。っていうかもともとそのつもりだったけど」



 スパナ片手にネジを口にくわえて器用にしゃべった口はそう言った。なんだかひどくあっけなくて、情けない笑いがこぼれた気がする。

 深く考える必要なんて、少しも無かったんだ。



 ウィンリィのまぶたが細かく震えた。どうやらこっちも目を覚ますみたいだ。

 じっと見守っていると、ウィンリィのまぶたがゆっくり開かれて視線がどこともなく彷徨う。視点がしっかりしてきてオレの顔を見つける。

「おはよーエド」

「ああ」

「また私が遅かった?」

「ああ」

「もーう。あんた老人なんじゃないの!?目が覚めるの早すぎんのよっ!」

「あんだと!」

 食って掛かろうとするオレに枕が投げられる。咄嗟によけられなくて顔面にばふっと枕がぶつかる。

 その間にウィンリィはさっさとベッドから下りてしまう。

「もー。また慌てて朝ごはん作らなきゃなんないじゃないー」

 ウィンリィはぱたぱたとスリッパを鳴らしながら器用に髪を結い上げると、部屋のカーテンを次々に開く。まぶしい陽の光が容赦なく部屋に差し込んできて、オレは目を一瞬しかめた。

「なんだよ。別に慌てることないだろ」

 オレもベッドの上で身を起こして胡座をかきながらウィンリィにそう言うと、ウィンリィは部屋の出てしまう直前に舌を出して意地悪くこう言った。

「今更成長期が来た旦那サマの朝食は作るのが大変なんですよ!」

「今更は余計だ!」

 今度はこっちが枕を投げつけようとしたがその前に、ばたんっ!とドアを閉められてしまった。オレはやり場のなくなった枕をベッドに戻す。



 むっとしてる顔をして見せたが、一瞬にしてその作り顔も崩れて緩む。

 一人でくっくと込み上げる笑いを弟なんかに見られようものなら「兄さん、変態」なんて言われそうだが、この笑いは止められそうもない。

 実は朝からオレたちは勝負をしているらしいのだ、ウィンリィに言わせると。

「だって、ちゃんとご飯が出来てる状態で旦那を起こすのってちょっとイイじゃない」

 だとさ。

 確かに、イイ。それはイイシチュエーションだ。オレもそれは認める。

 だが、同時に最高に恥ずかしい気もする。

 だからオレはウィンリィのちょっとした夢を寝たふりさえしてやれば叶えてやれるんだが、どうしてもそれは出来ないオレがいるわけで。

 それがうまい具合に朝のゲームになってるってわけだ。

 どちらが先に早く起きるかゲームに。

 これはちょっと笑わずに入られない状況だろう。

 もちろんオレはそのゲームに無敗な訳だし、今日もその無敗記録を塗り替えたわけだから。

 しかも、負けても、それほど悔しい気はしないゲームだろう。多分、そこには悔しそうな顔をしながらも、ウィンリィの勝ち誇った笑顔を見れるだけで一緒に笑える自分がいるのを、簡単に想像できる。

 勝っても負けてもいいゲーム。

 そんな幸せなゲームがこの世にあるとは、思いもしなかったよな。

 全く、良心様様ってわけだ。



「エドー!起きてるなら早く顔洗って!ただでさえ朝みっともない顔なんだから!」

「おめぇはいつも一言多いんだよ!」








■夫婦エドウィン第二だーん。15歳の二人の進展は原作を楽しみに待ちます。んなもんで、どうしても私が書くのはアニメパラレルか夫婦になってしまう罠。


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