【FINAL FANTASY9】

■安眠妨害

掲載日[2009/09/05]







 目覚めたとき、窓からの光はなかった。
 サイドテーブルに置いた銀時計を掴み、それが意味をなさないことを思い出す。
 これは封じられた時計だからだ。
 時間がわからないが、とにかく深夜であることには間違いない。ここは田舎町リゼンブールの機械技師ロックベルの家。もともと静かな村であるこの村は深夜は耳鳴りがするほどの沈黙に包まれる。空で星たちが煌めく音があるとすれば、ここならばはっきり聞こえるかもしれない、というほどの静けさだ。
 しかし、エドはわずかな音に気づいた。何かが回転するような周波数の高い音だ。聞いて、エドは手のひらを顔にやる。
「まぁ〜た、あいつは…」
「兄さん?起きたの?」
 そばで静かにしていたアルに気づかれて、エドは瞬間的にしまった、と思った。しかしすぐに、そう思わなくていいことに気づく。アルは、眠ることができない体で、今までずっと目を覚ましていたに違いない。
「アル。ちょっとつきあえ」
 言ったか言わないかというタイミングで、エドが部屋を飛び出した。隅で縮こまるように座っていたアルは、慌てて立ち上がると、兄を追いかける。
「待ってよ兄さん!」
 アルが歩くたびに鳴る金属音は割に大きくて、ウィンリィに気づかれたらしい。エドがウィンリィの作業場に入る目の前で、突然扉が勢い良く開いた。鼻の頭と額にドアがちっと掠めて、エドは震えあがる。
「あっ…ぶねぇな!」
「あら!エドも?!アルが何か用があるのかと思ってドアをあけたのに」
 ウィンリィが煌々と照らした部屋から、ひょいと顔を出す。どうやら眠らずずっと作業を続けていたらしい。ウィンリィの作業着といい、隙間から見える素肌といい、あらゆるところがキラキラと反射した。金属を削った時に出る金属粉まみれの体になってしまっている。しかし、ウィンリィはそのことを気にした風もなく首を回すと、そうだ、と言った。
「ちょうどいいわ。休憩しようと思ったの。二人ともつきあってよ」
 二人がタイミングよく現れたことに嬉しそうにウィンリィが笑って、そう言った。結局エドはウィンリィに言ってやろうと思ったことを言えずに、ウィンリィの休憩に付き合うことにしたのだった。

「お前もう2日寝てねぇんじゃねぇの?」
 苦味の強いコーヒーを渡されてエドは一口口に含むと、ウィンリィに言った。
「あ、そうかもね。だって全然眠くないの。だって機械鎧のこと考えてるとわくわくして眠ってるどころじゃないわ!」
「ったく、機械鎧オタク…」
 不機嫌そうにエドが文句を言うと、ウィンリィもすかさず応戦する。
「何よ、錬金術オタクに言われたくないわ。だいたい、ここに来たのだってゆっくり体を休めろってお達しが来たからでしょ。なにこんな時間に起きてんのよアンタは」
 ウィンリィが大きめのマグカップでぐりぐりとエドの頬に押しつける。
「熱っちーだろバカ!そういう休息が必要な人間に向かってこの仕打ち!しかもこれブラックコーヒーだしよ!」
「何よ!嫌なら飲まなくていいのよ!あとウチにある飲み物は、アンタのだーい好きな牛乳だけだからね!」
 ウィンリィがそう言うと、エドの勢いは急に萎んで体を縮こませた。エドは牛乳が嫌いなのだった。
「これで…いいです…」
「よろしい」
 ウィンリィがふんぞり返って息巻く。エドのとなりでおとなしく座っていたアルが、ウィンリィはすごいなぁと笑う。
「兄さんを黙らせることができるのは、ウィンリィくらいなもんだよね。あと大佐かな?」
「俺は大佐に負けた覚えはねぇぞアル」
 ぎろりとアルを睨みつけてエドが言う。
「どうかしら、エドのことだから自分に都合の悪いことは覚えてないだけじゃないの?」
 ウィンリィに横から突っ込まれて、エドはなんだよ!と言い返す。
「お前さっきから聞いてりゃー言いたい放題言いやがって!」
 ウィンリィはエドの応戦には応じず、エドの顔を見ながら不服そうに唇を尖らせた。
「えー。私は正直なだけよ」
「ウィンリィは素直で正直で可愛いもんね」
 アルは天然なので、こういうことをさらりと言う。エドはアルのこういうところを見ると、本当に血の繋がった兄弟かを疑いたくなる。エドがアルを横目でじっと睨みつけるが、アルは気にした風もなく素知らぬ顔をしてウィンリィを見つめているようだ。
「やっだーアルったら!そんなこと言っても何も出ないわよ!」
 ばしーんとアルの金属の肩を叩きながら、ウィンリィが言う。慣れたもので、手のひらが痛くならない加減で音が鳴るような叩き具合だったのだろう、景気のいい音がした。
「おばはんか、お前は」
 エドはウィンリィとアルとが仲良くやっているのが面白くない。完全にむくれた子供のように手元のコーヒーを啜った。
「あはは、エドってすーぐそうやって不貞腐れちゃうんだよねぇ。小さい頃と一緒!」
 ウィンリィが面白そうにエドの不機嫌そうな頬をつつく。
「小っさい言うな!」
 エドはそれだけ言ってから残りのコーヒーをがぶ飲みした。それからウィンリィを上目使いに睨むと、今まで言いたかったことをようやく言い放つ。
「とにかく、お前今日くらい早く寝ろ。俺の安眠のためにな!」
 がんっと勢いよく空になったマグカップをテーブルに叩き置くと、エドはどかどかと足を鳴らしながら自分の寝室にあてがわれた部屋に行く。機嫌悪そうに大きな音をたてて扉の音が閉まり、やっと、ロックベルの家は静かになった。
「あれは、逃げたね」
 ふふん、とアルは意味ありげに笑いながら言う。
「ね、逃げたよね。懐かしい話をされて困ることがエドにはたくさんあるんだろうねぇ」
 ウィンリィもそれに乗って、にやにやと笑いながらエドが締めた扉を見てそう言うと、扉の先から「逃げてねぇ!」という喚き声が聞こえてきて、二人は吹き出したように笑いだした。
 ロックベル家の夜は、久々の客に暖かさを増したようだった。










Fin.


←←TOPへ←目次へ
Copyright 2009 BY SAE