「ついて来るなっ!」
 羽飾りの少年はヴェルーニャが何も言わずについてくるので、当然のごとく気味悪がった。
(ついてくるなって言われてもねぇ・・私、貴方を助けるために声まで失くしてこの世界に来たんだし。)
 ヴェルーニャの手には何故か愛用の槍があった。着ているものも、普段着とは違う、あの最後の戦いに装備したものがそのまま身につけられていた。
(それにしても、この装備でドミナ周辺じゃ・・敵が可哀相・・)
 思わずほろりとした時、少年が振り向きざまにぎょっとした。
「な、泣くことないだろっ!わかったわかった、家まで送るから、泣くなよっ!」
「・・・。」
 弱ったように頭を掻いてヴェルーニャのご機嫌をうかがう少年の姿に、ヴェルーニャは思わず笑みを洩らした。
(いいやつじゃない。安心した。)
 ヴェルーニャはにっこり微笑んで頷いた。少年を安心させるように、最高の笑顔を浮かべて。
 少年の方も、その表情を見て安心したように微笑んだ。と思ったら、少年があっと叫ぶ。
「俺、ディドルって奴探してるんだった・・。お前の家、その後でもいいか??」
(あれ・・私もそれ、やった気がする・・)
 ヴェルーニャが不思議そうな顔をしたので、少年が気後れしたようにヴェルーニャを見ていたが、ヴェルーニャが慌てて頷くと、よし、と笑う。
「さっきペリカンが街道に手紙を捨てたとかいいやがったから、街道に行ってみるか・・」
 そう言いながら、ふぃと街道に向かう仕種をして、女だからって心配は必要なさそうだしな、と呟くのが聞こえた。おそらく、ヴェルーニャの立派な槍を見ての感想だろう。
 それを聞いてヴェルーニャが肩を竦める。
(あ〜あ、街道の敵さん、御愁傷様。)

リュオン街道。そこはまさに魔物の群生地帯であり、また、渓谷の先には賢者「大地の顔」ガイアが静かに佇んでいる。遠い過去、そこは街と街との交流を行うために栄えたはずだったが、数えるほどの街しかなくなった今では、人々はあまり利用することがない。街の交流は既に絶たれていた。結果、魔物の温床となっている。
「なんで、こんなとこにわざわざ捨てるんだ。ペリカンのやつ・・」
 少年は不平を洩らしながら、街道を進んだ。手には片手剣が握られている。ヴェルーニャは槍を見つめて、心底魔物が出ませんように!と願った。
 それは無駄な願いであると知ってはいたが。
「あ、出た。」
 まるで何の抑揚もなく、少年はそういった。ラビが3匹。可愛らしくとも、一丁前に噛み付いてくるれっきとしたモンスターだ。
「お前、戦えるんだろ?加勢してくれよな?」
 そういうと、少年は颯爽とラビに近づいて、一匹のラビを切り付ける。ヴェルーニャもそれにあわせて駆け出すと、別のラビを一撃で叩きのめす。
(あ〜・・やっぱり・・。)
 心の中で苦笑いすると、ヴェルーニャは二匹目を貫いた。それを見て、少年がきょとんと目を丸くする。
「すっげえなあ〜。伊達に頭に変な棒を立ててないな。」
(あんたこそ、その羽帽子ヘン)
 ヴェルーニャが不満そうに少年を見ると、少年が慌てて悪い悪いと笑う。
「加勢してくれたんだもんな。礼を言うよ。さて、手紙落ちてないか探さないとな。」
 そう言いながら、少年は誤魔化すようにその辺を調べ始める。ヴェルーニャはその様子を見つめながらぼんやりと思案に耽った。
(・・私が喋っちゃいけないわけが分かった気がする・・・この英雄さんも私と同じ道を辿るようにマナに運命付けられているんだわ・・)
「英雄になりなさい」
 それはきっとこの世界にただ一人マナに見出されてその道を取るように、さだめられたただ一人の人物。向こうのファ・ディールでは私、そして、このファ・ディールでは貴方。きっといくつも平行宇宙で、いくつものファ・ディールで誰かが「英雄の道」を辿っている。
(そうとわかっていたら、私も空き家で助けを呼ぶんだったわ。楽ができたのに)
 ヴェルーニャは一瞬そう思ってから、まあいいか、と笑う。過ぎたことを言ってもしょうがない。自分は「英雄の道」を終わらせたのだから。
「ないなあ〜・・もっと先かな。面倒だな。ぶにゅで送ってもらうか・・」
 少年は一通りこの辺を調べてそういった。ヴェルーニャもそれを聞いて頷いた。
(名案ね。)
 ぶにゅ。入り口に静かに佇む奇妙な生き物。触ると別の場所まで飛ばされてしまう。
 二人は入り口まで戻ると、ぶにゅに触れた。瞬時に、街道の中央まで飛ばされる。と、なんと都合の良いことか!手紙が目の前に落ちている。
「おっ?すげーラッキーだなあっ!」
 大喜びで少年がその手紙を拾おうとした時、横から颯爽と猿のような生き物が手紙を奪った。
「・・カペラ」
 呆れたように少年がそういった。猿のような生き物・・カペラはディドルの友達兼仕事仲間。
「今まで何処いたんだか・・」
「これ、ディドルの手紙じゃないか!」
 カペラが周りを見回してから、びりりっと封を開ける。
「おいっ!いいのかよ!勝手に読んで!」
「うわっとー。いたのかい、君たち!」
(変わりないのね、カペラ・・)
 ヴェルーニャが心の中で笑う。
 そうこうしてるうちに、カペラは手紙を声に出して読んでしまう。要約すると、どうやら里帰りを決意した手紙だった。
「大道芸人はこれからだってのに!ディドルの奴ー!!」
 そういうと、カペラが洞窟に向かって走り出してしまう。少年も慌ててその後を追う。
「おいおい、行き先知ってるのかよ・・」
 ヴェルーニャは大人しく少年の後を追った。
 果たして、洞窟の前でディドルが発見される。カペラの手にある手紙が破られているのを見て、ディドルは間延びした声で酷いーというと洞窟に逃げ込んでしまった。
「・・・参ったなあ・・魔物だらけだぞ、ここ・・」
 少し少年は考えてから、はたとヴェルーニャを見ると、まあいいか、と笑った。
「お前、強いから何とかなるよな。」
(こらこら、男の癖に女を頼りしちゃ駄目よ・・)
 ヴェルーニャは、とりあえずついていくよという変わりに微笑んだ。それを見て、少年も頷く。
「無理すんなよ。」
 少年が一言だけそういうと、先に洞窟に入った。ヴェルーニャが嬉しげに笑った。
 常に戦いは援護の形を取った。この世界での英雄が少年である以上、ヴェルーニャばかりが経験を増やしても意味がないのだ。結局、最終的に彼が世界をマナのある状態に戻さねばならないのだから。
それを理解して、ヴェルーニャは最小限度の戦い方しかしなかった。少年はそれを始め不思議そうにしていたが、やがて何か納得がいったのか、自分が先陣を切るようになった。
 チームワークとしては最高だった。戦闘もつまることがない。苦戦を強いられることも、まずなかった。
 やがて、洞窟の最深部で成り行き上この洞窟のボスを倒し、ディドルがここにもいないことを確認した。
「まずいなあ・・どこにいったんだ?アイツ・・・」
 カペラが心配そうにそういっている。と、自分達が入って来たところから、ディドルがのそのそと入って来た。
「あれーー?こんなところでなにしてるのー??」
 間延びしたディドルの声に一同がっくり。
 とりあえず、二人は元の鞘に収まって、この洞窟をそろって出ていった。
「なんか。疲れたな、どっと・・」
 少年が苦笑いしてそういった。ヴェルーニャはくすっと笑う。
(お疲れ様。)
「戻るか・・ドミナに。」
 やれやれ、と背伸びして少年がそういった。ヴェルーニャが頷く。二人はまた先ほどのコンビネーションを取り戻して、敵をなぎ払いながらドミナに向かった。
 ドミナに戻るなり、琉璃というラピスラズリを胸に抱く青年が少年に突っかかってきた。
「おい、俺を連れて行け。」
「おいってなぁ・・お前琉璃だろ?評判悪いぞ?」
「そんなこと聞いてない。その女と別れろ。邪魔だ。」
(この人も相変わらずねえ・・)
 ヴェルーニャはため息を吐くと、了解とばかりに手をふった。バイバイという風に。
「え、いいのか?送らなくて。」
 少年が心配そういった。ヴェルーニャが微笑んで頷く。琉璃は興味なさそうに明後日の方を向いて、事が済むのを待っている。
「そうか、残念だな。ありがとう、助かったよ。」
 少年が手を差し伸べた。ヴェルーニャが微笑みながら握手を返す。
(また、ね)
「おい、もういくぞ?」
 琉璃が催促するようにそういった。少年がいきり立ったように、琉璃を睨む。
「おいって本当に失礼だな。俺にはリューシスって名前があるんだ。・・あ」
 そういってから、少年・・リューシスがヴェルーニャを見つめる。
「そういえば、俺、名乗ってなかったな。リューシスっていうんだ。お前は・・話せないみたいだからいつかでいいや」
 そういうと、リューシスは微笑んだ。ヴェルーニャも笑う。
(そうね。もし、話せるようになれたら、一番に自己紹介をするわ)
「じゃあ、またな。」
 リューシスはそういうと、琉璃を連れてヴェルーニャから離れていった。ヴェルーニャは二人をしばらく見つめてから、ほっと息をつくと、空き家に向かって歩き出した。
 空き家を開くと、元の自分の家の裏の小屋の前に戻っていた。
「なにかありました?」
 不思議そうな表情でコロナがヴェルーニャを見上げている。ヴェルーニャはそれを聞いて、え?と首をかしげた。
「小屋を偵察してきたんですよね?何かありました?」
 それを聞いて、ヴェルーニャは合点がいった。ここでの時間があまり過ぎていないのだ。小屋を偵察してきた程度にしか、過ぎていないということだろう。
「面白いものをみつけたわ。でも、内緒。」
 ヴェルーニャはそう言って笑うと、牧場に戻りましょう、とコロナの手を引いた。コロナが不思議そうにヴェルーニャを見つめていたが、ヴェルーニャはにこにこと笑っていて気づいてもいなかった。

 その夜。ヴェルーニャはサボテンくんにいつものように自分の一日を話して聞かせた。
「聞いてる?寝てない?」
 サボテンくんはこくこく、と頷いている。が、これはあてにならない。寝てることもしばしば。
「リューシスかぁ・・また会えるかな?」
「会いたい?」
「あら。起きてるのね、ちゃんと。」
 ヴェルーニャがサボテンくんを見てそういう。
 和やかに笑いながら話すヴェルーニャは一日で一番柔らかい表情をしている。
「そうねぇ。会えたら楽しいかもね。」
「無理すんなよ」
 それを聞いて、びくっとヴェルーニャは肩を震わせる。
(そんなところまで嬉しそうに話した自分が恥ずかしいかも。)
「変なとこだけ覚えないでよね・・オヤスミっ」
 がばっっと毛布を被って、ヴェルーニャはサボテンに今日最後の挨拶を交わした。
「無理すんなよ」
 サボテンくんがもう一度だけそういった。



続きを読む


Copyright 1999 BY SAE