【名探偵コナン&怪盗キッド】

■裏の姿を持つ二人<1>

掲載日[1998/1/24]






ACT1 怪盗と名探偵

 空は雲が薄く覆われ、薄い薄い雲はその先の淡いブルーを抑えきることができずに透けてしまう。そんな寒い冬の早朝の空に、思いきり元気な女の子の声がこだました。
「おっはよーっ!快斗っ!」
 対して声をかけられた学ランの男の子は、ずびびっと鼻をすすりながら振り返ると、ガラガラ声で、
「なんだ、青子か・・・・」
と、返事をした。そんな快斗を見て、目をまん丸くした青子が、どうしたのよと訊く。快斗はげほげほっとつらそうに咳をした後、怒ったように、
「見りゃわかんだろ。風邪だよ、風邪。ちっくしょー、ぞくぞくしてきやがった」
ぶるぶるっと震える体を、快斗は自分で抱きしめる。
「そんなに無理しなくても、学校休んだらいいのに。青子、ノートとってあげるよ?」
 心配そうにのぞき込む青子の目を逸らして、快斗はケッ、と見下したように吐いた。
「俺はこんな風邪にやられるほどヤワじゃあ・・・・っ・・へっ・・へっくしょおっ!」
 くしゃみで鼻水やら唾やらが一斉に飛ぶ。青子はきったなーい、というと呆れ顔で快斗を見て、手を腰にやる。
「もう帰ろ?家まで送ったげようか?」
 青子は快斗の袖を引っ張るが、快斗は大丈夫だよっ、と振り払う。捨てられた子犬のようにしゅん、と気を落とした青子が快斗の後ろからついててくる。
(ううー。やっぱここんとこの怪盗キッドがまずかったな。この寒空ん中三夜連続仕事入れちまって、しかも昨日なんか雪降ってたもんなあ。)
 ずびびっとまた鼻をすすり、くらくらする頭を押さえて後ろを見ると、青子がまだ心配げな顔で快斗を見ていた。
「そんなに心配すんなって!ほら、もう学校着いたぜ。」
 快斗の親指が間近に迫った学校を指す。それでも、まだ青子は心配している。
「ほんとに平気?」
「平気平気。先行くぞ!」
「もお、待ってよ。快斗!」
 青子は足早に先を行ってしまう快斗を追いかける。そのとき、始業十分前のチャイムが鳴り響く。授業がもうすぐ始まる。
 校門を抜けて昇降口をくぐると、クラス一の美人・小泉紅子がちょうど上履きに履き替えたところだった。
「おはよう!黒羽くん。」
 紅子は愛想よく快斗に挨拶をしてくるので、快斗は仕方なくこの苦手な紅子によお、とだけ返事をする。すると紅子は快斗の顔色の悪さに驚いて、
「まあ、黒羽くん。風邪をひいたんですの?家でゆっくりしてた方が・・・・」
 快斗の額に手をやろうとする紅子の手を、快斗はうっとうしそうにはねのける。
「いいよ、大丈夫だって。」
 そう言うと、快斗は一人階段を昇っていった。
 残された二人の女の子は困ったふうにお互いに顔を見合わせた。
 一方、快斗は教室に入ると、いつものように自分の手柄が載っている新聞を開く。自分の、怪盗キッドの三連勝の記事を。
 黒羽快斗は偉大なマジシャンであった父・黒羽盗一の意志を継いで、怪盗キッドをやっている。怪盗という名のごとく、金品や財宝をこっそり頂くのがそのお仕事だ。一般にはただ当てもなくやっている仕事のように見えるが、快斗にとってこの仕事は父を殺した奴らへの復讐だった。なぜなら、盗一は事故死ではなく、ビックジュエルの一つ、命の石を狙う一団に殺されたのだ。奴らは不老不死の願いを叶えるために命の石を捜していた。それに気付いていた盗一はそれを阻止せんとして、無念にも命を落としたのだった。
(あいつらだけは許さねえ。絶対に!それに、奴らの思い通りになんかさせねえ!)
思わず手に力が籠もって新聞がくしゃくしゃと鳴り、快斗は我に返った。
(それにしても、警部ときたら進歩がねえ・・・・。罠張っときながら自分からその罠に閉じ込められるわ、ダミーには毎度引っかかるわ・・・・)
 新聞にはキッドが盗みに成功した姿が、窓ガラスを割って出ていく自分の姿が大きく写り。その隅には悔しそうに顔をゆがませた青子の父である中森警部の写真が小さく載っている。
(ま、警部のおかげで仕事がいつもうまくいくわけだから、警部には感謝しとくべきかもな。・・・・青子には悪いけど。)
「よー、快斗。相変わらず、また新聞読んで。そんなにおもしれえのか?キッドの記事が。」
 快斗の前に山田が椅子にまたがって座る。腕を組んで快斗の机にもたれると、新聞を眺め見る。
「山田。・・・・げほげほっ!」
「おいおい、風邪かぁ?お前ら年中熱そうなのに、風邪ひくのかよ?」
 眼鏡をかけた山田の目がニヤつく。快斗はその目に、多少どきっとしながらも顔には出さず、
「何のことだよ?」
とだけ言っておく。山田が意地悪そうに、誤魔化すなよ、と言う。
「中森青子のことだよ。おめーら、いっつも引っ付いてるもんなぁ。なんだかんだ言いながら。鬼ごっこにかくれんぼ、極めつけに二人一緒の登下校。いいなあ。俺にもしあわせ分けてくれよ。」
 山田がよよよと泣き崩れるのに、快斗は呆れて口を挟む。
「あのなぁ、あいつはただの幼なじみだよ。物心つく前からずぅぅっっと一緒だったからな。」
 快斗が、所々に咳を交えてそう言うと、でもよぉ、と山田が付け足した。
「青子って結構狙ってるやついたらしいぜ?」
「いたらしい?」
 快斗は思わず無関心を装いきれずにそう聞き返した。
「ああ。でもなあ、お前らがあんなに仲良いんじゃ、そりゃーメゲるわな。」
山田のその台詞を聞いて、快斗はケッと馬鹿にしたように吐き捨てた。
「そんなの男らしくねーよ。狙った獲物は逃がさねえってのが男じゃねえか?」
 快斗がそう言うと、山田はキョトンとして、
「快斗。おまえキッドみたいだな。」
「そ、そうか?」
 ひとしきり二人は笑うと、そうそう、と山田が思いだしたようにこう言った。
「そう言えば知ってっか? 最近出てきた工藤新一って名探偵。俺達と同い年でさ、事件の難問を鮮やかな推理で解いちまうんだと!」
 快斗は、へえ、と興味ありげな顔で続きを促す。
「今世紀最大の怪盗と探偵だぜ。怪盗キッドに新たな敵現る!ってかんじだよな。中森警部も白馬探偵もキッドに追いつくには今一つ足りねえ感じだから、キッド捕まえるとなったら、工藤って探偵かもな。」
「でも、キッドも簡単には捕まらないぜ?」
 快斗がそう付け足すと、山田は呆れたような笑みを浮かべて、
「お前、本当にキッドびいきだな。分かってるって!だから、捕まるとしたら、ってちゃんと言っただろ?でも」
 山田が急に今までのわくわくした雰囲気が急に衰えたのを見て、快斗はどうした?と訊く。
「工藤新一って名探偵は、ある時期を境にマスコミから姿を消したんだ。それも唐突に、な。」
「唐突に?」
 オウム返しに快斗は問うた。山田が残念そうにああ、と言ったところで数学の女教師が教室に入ってきた。教師は教壇に立つなりにっこりと微笑み、
「今日提出のプリントを、今出して下さいねっ!」
と、愛嬌たっぷりのそう言ったとき、快斗と山田は同時にゲッ!と呟いたのだった。

「よー、青子。工藤新一って奴知ってっか?」
 帰りに快斗は昇降口で青子に話しかける。快斗はどうやら調子を取り戻したらしく、朝青くなっていた顔は今では血色が良くなっている。
 そんな快斗を見て青子は、えー?と聞き返す。
「何だ、お前も知らねーのか。鈍くせーお前が知るわけないか。」
 ケケケと小馬鹿にしたように青子に笑いかける快斗。しかし、当の青子はしばらく目をしばたかせてから、ぷっと吹き出した。
「な、なんだよ。」
「オクれてんのは快斗の方よ!だって、もうその名探偵・工藤新一って人は今じゃ見る影もないもの。あんまり前のことで、青子、思い出すのに時間がかかったんだからね!」
 くすくすと笑う青子を、ケッとばつが悪そうに吐き捨てると、快斗は昇降口を抜けて校門へと歩き出す。そして、急に生真面目な顔をして青子に訊く。
「そんなに前なのか?その名探偵がテレビに出なくなったのは。」
 うーんと青子は唸りながら、ううんと首を振ると。
「そんなにって訳じゃない。そうね、二ヶ月くらい前かな。ほら、そういう人って流行りがあるじゃない。格好いい人って次から次に出ちゃうから、ちょっと前でももうずいぶん前にって感じちゃうのよ。」
「格好いい?」
「そうよ。スポーツ万能で、どんな難問のあっさり解いちゃう頭のキレの良さ。おまけにルックスもいいんだから。」
「女ってああいうの詳しいもんなー。」
 快斗が呆れたようにそう言うと、当然よ、と青子は言う。
「女の子って格好いい男を見るのが目の保養だもの。」
「お前もそうなのかよ?」
 快斗は振り返って青子を見ると、ああら、と青子がうれしそうに微笑む。
「快斗、やきもち妬いてくれるのぉ?」
 青子のその台詞を聞いて、快斗はまたケッと吐き捨てる。
「誰がお前なんか。でもこれだけはいっとくぜ、あんまり高望みしても釣り合わねえってな!」
「なによお!それって青子がまるでぶすみたいじゃない!」
「ご名答Aよーくわかってんじゃねえか。」
「もおーっ。バ快斗!」
「何だとー!?アホ子!」
「いったわねー!」
 鞄を武器に河原の土手で鬼ごっこ。そんな二人を、真っ赤な夕日が照らしている・・・・。

「ああ、これよ、これ。これに載ってると思うんだけど・・・・」
 さっきまで喧嘩をしていたかと思いきや、快斗は青子の部屋にお邪魔している。きれいに整頓された青子の部屋で、快斗はクッションにもたれて青子を眺めていた。いま、青子は本棚の雑誌エリアからA四版の雑誌をとり出したところだ。
 快斗は知りたかったのだ。今世紀最大とも呼ばれる名探偵を。
 青子は一冊の女性雑誌を持って、快斗の前に広げた。格好いい男の条件!と大きく題字が書かれ、その後には順位別にその格好いい男の写真が載っている。
これほど男をバカにした記事もあるまい、と快斗はうんざりしながらも青子に訊く。
「何位だ?その工藤新一。」
「待ってよ。ええと、あ、これよ!四位。まだ、出始めみたい。でも、すぐ連続一位を取り出すよ」 「どれどれ。」
 快斗はもっとよく見ようと雑誌を取り上げる。
『名探偵・工藤新一。世界的ヒットを飛ばす推理小説家・工藤優一と、あらゆる賞を総なめにした美人女優・工藤有希子の一人息子。現在帝丹高校二年生で学校生活を送りながら探偵を務める、日本警察の救世主。特技はサッカー。彼の推理力は抜群で、そのキレの良さとまっすぐに人を射るまなざしが女の子に受け徐々に票を伸ばしている。来週はベストスリー入りか!?キッド危うし!?』
(俺は別にこいつのプロフィールが知りたいんじゃなくて、こいつの実力が知りたかったんだけどな・・・・。まあ、こいつの顔が分かっただけ、良しとするか。)
 幾分げんなりした快斗が前のページをめくると、そこには自分が・・・・怪盗キッドが載っている。順位は当然一位。
「おおっ!キッド一位じゃねえか!」
「そうよ。まったく、顔もはっきりわかんないような奴がどうして一位なんだろ!」
 青子は不満たっぷりにそう言うが、快斗はかまわずそれを読み出した。
『怪盗キッド。いわずと知れた今世紀最大の怪盗。毎回大量の警備群を難なくくぐり、目当ての財宝を手に去ってゆく。顔はいまいちはっきりはしていないが、彼の紳士的な行動と気障な台詞が女の子のハートをいつものごとく射止めている。正体は何等明らかとなっていないが、それはそれで彼にミステリアスな雰囲気を与える役目を充分に果たしている。彼はなんと今回で12回の連続一位獲得となる!』
(へへー・・・俺も捨てたもんじゃねーよな、っと。)
「青子、お前さっき工藤新一って奴が一位取り出すっていったよな?キッドはどうなるんだ?」
「確か二位止まりになっちゃうわよ。でも、すぐその名探偵、いなくなっちゃうから・・・・」
「じゃあ、またキッドが一位独り占めって訳か!」
 満足げににやにやする快斗を青子は疑わしげな顔で、
「何でそんなにうれしそうなのよ?」
「そう見える?」
「・・・・。あーあ、青子は名探偵の工藤新一くんの方が好みだなーぁ」
「・・・・あーあー、そーかよ。」
 いいながら、新一は脱ぎ捨てていた学ランを拾い上げる。それを見た青子が慌てて立ち上がる。
「帰る?」
「ああ、邪魔したな。」
 快斗がシャツの上に学ランを着ている間、青子はじっと押し黙って何か考え込んでいるようだった。快斗が不思議に思い、腰をかがませて青子?と言うと、青子はものすごい勢いでがしっと快斗の胸をつかんだ。快斗は青子のその唐突な態度にも驚いたが、青子の目に光るものを見つけてさらに動揺した。
(青子、泣いてる?)
「・・・・快斗。・・・・快斗は」
「ん?」
「快斗は急にいなくなったりしないよね?」
「ええ?」
「・・・・青子、この工藤新一って人を想ってる女がいるような気がするの。それにその人が、当たり前だけど、ものすごく悲しんでるような気がして・・・・。快斗は、いてくれるよね?ここにいるよね?」
 ぽん、と快斗は安心させるように青子の頭に手をやる。
「なーにいってんだよ。俺が何処行くってんだよ?だーいじょうぶ!」
 その台詞を聞いて、青子はほっと胸をなでおろした。
「そだね!」
 青子は玄関まで快斗を見送ってくれた。快斗は元気よく青子に手を振って青子の家を去った。
 帰り道、快斗はふと考えた。
 唐突にいなくなった名探偵に、それを悲しむ一人の女。
 それを考えながら、快斗はひとりごちる。
「明日は我が身、だな。」
 青子が自分をどこまで想ってくれているのか、快斗には分かっていない。ただ、自分がいなくなって一番心配するのは青子だという確信が、何故だかは分からないが快斗にはあった。
(俺はいつか、親父を殺した奴らと対決しなきゃならない。無傷ですむような対決でないことは確かだ。命だって落とすかも知れない。現にこの前だって宝石に弾玉が当たってなかったら、俺は死んでいた。) 
ぎゅっと、快斗はらしくもなく自分の胸をつかむ。さっき、青子が快斗を信じられないほどの力で引き止めるようにつかんだところとほぼ、同じ場所。
(運が良かったんだ。あれは確か、青子の誕生日だった。)
 物思いに耽っていると、いつの間にかそこは自分の家の前。快斗は頭を振って不安をかき消す仕草をすると、ただいまー!と声をあげ、ドアを開けた。
 場所は変わって。ここは毛利小五郎が経営する『毛利探偵事務所』。
 第二土曜で学校が休みのその娘、蘭はお茶の用意をしていた。
「あーんなおばさんがどんな依頼するんでしょうねー?生き別れの息子さんとかの人捜しかなぁ。」
 そばでお茶菓子の残りを盗み喰いしているのは、わけあってここの居候をしている江戸川コナン。小学校一年生。彼はとある組織に薬を飲まされて、子供になってしまった高校生探偵・工藤新一、その人。しかし、残念なことに蘭はその事を知らない。いや、蘭に限らずコナン=新一と言うことは、ばれては困るのだ。何しろ新一は毒薬を飲まされる直前にある組織の秘密を見てしまっている。もしも、新一が無事だということが組織に感づかれたら、周りに危害が及ぶ。だから、コナンは毛利探偵事務所に潜りこみ、組織の情報が来るのを待っているというわけだ。
 そのコナンが、いきなり蘭に盗み食いの現場を直視されて、慌ててお茶を飲む。
「・・・・ん、んぐっ。さあ・・・・。でも、あの成金趣味で豊満な体型じゃ、人捜しで困ってる感じじゃあないよ。どっちかっつーと、財産問題のこととか、お金のこととかじゃあないかな。」
「こらっ、お客さんにそんな口利いちゃダメだよ!コナン君。」
 蘭は、軽くコナンをたしなめると、茶碗をお盆に乗せた。
「コナン君は、そのお菓子の器を持ってきてくれる?」
 優しく蘭はコナンにお願いすると、コナンはにんまり微笑んでハーイ、と良い子の返事をした。
「失礼します。」
 蘭は居間兼客間になっている部屋にはいると、テーブルに二つの茶碗を静かにおいた。続いてコナンが、ことん、とお菓子の器を置くと、依頼人である婦人がにっこりと微笑んだ。
「まあ、偉いのね。僕。お姉さんのお手伝い、きちんとしてるのね。」
 さっき悪口を言った罪悪感もあり、コナンは控えめにたはは、と笑うと。
「まあ、ご婦人。さっきの続きを。」
と、小五郎が話の続きを促した。婦人は、ああら、というと、わざとらしくきらびやかで太っとい首飾りをなおす。そのときにぶよぶよとした指に填められた、これまた太い指輪がきらきらきらっと輝いた。
 それを見て、コナンはうんざりとしたが、顔には出さなかった。相手の機嫌を損ねたら、聞ける話も聞けなくなってしまう。
「ええ、その我が家の家宝は、我が大野城家に伝わる秘宝なんですけどね。それは花嫁の冠ですのよ。大きさは、そうね、こんなものだって聞いてますけど。」
 婦人は両手で手を広げ、水をすくうような仕草をした。つまり、両手でやっと持てるくらいの大きさ!
「うわぁ!大きいんですねえ」
 蘭が目をきらきらと輝かせてそう言う。さすが女の子だけあって、光り物には弱いらしい。
「ほほほ、まあなんといっても我が家の家宝ですからねえ。」
 自慢げに笑う婦人を、コナンは我慢できなくなって密かにケッと吐いた。
「ご婦人、“こんなものだって聞いてますけど”っていうのはどういうことです?貴女はご覧になったことがないんですか?」
 それを聞くと婦人は柄にもなくしょんぼりした。
「ええ、私は聞いただけなんです。見たことはおろか、何処にあるのかも分かりませんの」
「なんですと?今あの家の主人でもある貴女すら家宝の場所が分かってもいないのに、怪盗キッドは狙っているんですか?」
 小五郎は一通の手紙を指に挟み、念を押すように手紙を振る。
「ええ。この家宝のことは本来、我が血族の男子にしか伝えられてはいないんですのよ。だから、周りのものが、まして一般に知れ渡ってるはずがないんですが」
(よっくいうぜ。さっきあんなに自慢げに話してたのは他でもない、あんたじゃねえか!待てよ。と言うことは婦人は他の誰かからその家宝のことを知らされたことになる。一体誰が?)
「ご婦人、貴女は大野城家に嫁いだんですよね?」
 小五郎は確認する。婦人は控えめにええ、と頷いた。
「それではやはり、貴女は秘宝の存在と知る機会がなかったことになる。貴女は誰にその秘宝のことを知らされたんですか?」
「息子ですわ。今はもういない、私のたった一人の息子。」
 婦人は遠くを見るような目でそう言った。小五郎はこほん、咳払いすると、失礼、と言い。
「その、ご子息はもうお亡くなりに?」
「いえ。息子、行方不明なんです。出ていったっきり、帰ってこなくて」
婦人は、少し押し黙ってからため息をついた。
「息子は家を出る前に私と夫にに言ったんです。たとえ俺がここにいなくなっても、いずれあの秘宝は俺のものになるんだ!って・・・・」
「それを聞いていたのはあなた方だけだったんですか?」
 急に、コナンがしゃしゃり出て訊ねる。いつものごとく、小五郎はコナンをつまんで蘭に投げる。蘭は慌ててコナンを抱きとめる。
「蘭!!」
 ぎろっと小五郎が蘭を睨むが、蘭はいつものことで動じずに、分かってるわよっ!とおざなりに返事をする。そして、蘭はゆっくりコナンを降ろしてやる。
 一方、婦人は目をしばたたかせながら、
「え、ええと。召使いが何人かいたと思いますわ。」
と、コナンの問いに答えてくれた。コナンはにんまりと微笑む。
(サンキュー、おばちゃん!これで、秘宝の話が一般化した訳は分かった。何人か、の話はやがて人に伝わりデマを含んで広まる。大野城家の屋敷はただでさえでかい。そういう話だったら掃いて捨てるほどあったはずだ。そして現に秘宝があると分かったら!)
 婦人はまたため息をつくと、話を続けた。
「いつの間にか、世間に秘宝のことが知れていたんです。それが何か、までは知られていないはずなんですけどねえ・・・・。」
(確かにそうだ。息子さんは秘宝は俺のものになる、と言っただけだ。なら、どうして婦人は冠のことを?)
「ご婦人、冠の事は誰に?」
「夫が死ぬ間際に言ったんですの。花嫁の冠を、守れと。」 
「ふーむ。」
 小五郎は腕を組んで、椅子にもたれた。コナンが、トコトコっと小五郎に近づき、
「ねえおじちゃん、その手紙、僕にも見せてよ。」
「んんー?」
「だめぇ?」
 小五郎は手に持っていた一通の手紙とコナンを見較べると、ホレ、とコナンに渡した。コナンはそれを受け取ると、素早く封筒を開けて、中身を取り出した。
 手紙にはこうあった。
『明日の夜10時、大野城家家宝、花嫁の冠を頂く!
                       怪盗キッド』
(花嫁の冠!やっぱりそうだ!この怪盗キッドって奴は冠だと知っている!一体どうやって・・・・?)
 婦人は突然、堰を切ったようにこう言った。
「とにかく、お願いします。あの冠をどうか守って下さい。あの冠を守らないと、私は主人と息子に顔向けができません・・・・!」
「分かりました。その件、お引き受けいたしましょう。」
 小五郎がもったいぶってそう言うと、婦人は大喜びしたが、急に、申し訳ありませんが、と言葉をつなげた。
「は、何でしょう?」
「大切な家宝ですので、この事は他に警察と、もう一人の探偵さんにもご依頼しておりますの。それでも、お気を悪くなさらないで下さいね?」
 それを聞いて小五郎は、一瞬間をおいたが、お気になさらず、と対応した。それを聞いて、婦人は安心して頭を下げた。
「それで。もう一人の探偵というのは?」
 小五郎は気になって訊いてみる。小五郎は、服部平次ではないかと踏んだのだが。
「白馬探、と言う方ですの。」
にっこり笑い、冷めかけたお茶を一口飲んで、婦人はそう言った。
 蘭と小五郎は、その白馬探と言う名探偵を思いだして、ああ、と頷いた。

 婦人が帰った後、蘭は茶碗や器を片づけながら、
「それにしても、怪盗キッドの依頼が来るなんて、ウチには初めてねぇ。」
というと、コナンはえ?と聞き返す。
「蘭姉ちゃん、怪盗キッドを知ってるの?」
「あら、コナン君知らない?」
 コナンはやはり残ったお菓子を食べながら、こくんと頷く。
「結構有名な泥棒さんなのよ。悪い人なのに、なぜか人気者なのよねー。白いマントにシルクハット、青いシャツに白のスーツ。片目に眼鏡を填めていて。」
 かちゃかちゃと片づけると、蘭は台所に器を下げた。お菓子ごと持って行かれたので、コナンはつまんなそうにソファーにもたれ、足をばたつかせる。
「それにしても、奴は何でわざわざ盗みを働いてるんだろうな。盗んだものは後で持ち主に返してるらしいし。」
 小五郎が不思議そうにそう言うと、客間に戻ってきた蘭は驚いて、そうなの!?っと叫んだ。
「ああ、なんだか奇妙な怪盗だろ?でも、それだから、人気もひとしおなのかねえ。」
「でも、悪いことは悪いことよ!」
 蘭は憤慨したようにそう言うと、コナンに、ねー、コナン君!と言う。コナンは、う、うんと曖昧に返事をした。




■To Be Continued...


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