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【名探偵コナン&怪盗キッド】 |
| ■裏の姿を持つ二人<2> |
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掲載日[1998/1/24] ACT2 冠についた宝石 時はさかのぼって昨日の夜。その日、怪盗キッドは三日連日の仕事をいれた最終日だった。 「ひいー!寒ぃー!! こんな時は早くかえって風呂にはいるに限るぜ!」 暗くなったビル街を、快斗特製ハングライダーが颯爽と抜けていく。 ビルの屋上に掲げられた、デジタルの温度計が今、零度を示す。 「まじ?寒いはずだぜ!それにしても、今日の仕事も無駄足か。命の石ってやつ本当にあんのかよ?」 今日快斗がお目当てだったのは“蒼き乙女の涙”。12世紀にフランスのとある農村で一つの乙女の像が発掘されたのだが、その乙女の方は発掘の手際が悪かったのだろう、手足は崩れ落ち、乙女の顔ももはや原形をとどめてはいなかった。貴重な芸術品だったので、顔に埋め込まれていた宝石を残すことでこの芸術品を世に引き止めておこうとされた。それが“蒼き乙女の涙”だ。 「だいたいビックジュエルってもんが分かんねーしな。どんなのをビックジュエルって言うんだ?」 快斗が一人ぶつくさ言っていると、ふわりと白く舞うものが快斗の頬に当たって解けた。 「雪?やべえっ!もうこれ使えねーぞ!」 快斗は素早く右に旋回し、人気のないビル街の合間を縫うように飛んでいく。手短な小さなビルの屋上に、快斗は降りた。 そこに、奴がいた。 「ようこそ、黒羽盗一とやら。貴様の勇気をたたえ、これをやろう。」 「誰だっ!」 とっさに快斗は声のする方にトランプ銃を向けた。 「名のらなくても、お前には分かっているんだろう?命の石と言えばな?」 とっさに快斗は息を呑んだ。 (俺の親父を殺した奴らだ!) シュッと靴と地面をかする音が聞こえ、四角い平べったいものが闇から快斗の足下に届いた。 (B5版の茶封筒?) 「これは?」 「ビックジュエルに関する情報だ。新しい情報が入った。が、ちょいとしたパズルになってる。てめえも目的は同じだしな。教えてやれ、と言う上の命令が出たんだ。」 快斗は封筒を見つめ、それから人影を睨むように顔を上げた。 「それで万が一俺が見つけたら、それ奪おうってハラだな?」 快斗は憎々しげにそう言うと、人影は音もなく笑った。 「それでは、時間のようだ。君が命の石を見つけることを心より願ってるよ。」 「俺は命の石が永遠にあんたらの手に渡らないことこそ、望んでるぜ。」 「・・・・失礼」 快斗には答えず、人影はドアを閉める音を残し、去っていった。その音の聞いて、快斗は少しほっと気を緩めた。相手がどう出るか、いつでも予測できる様気を張りつめていたのだ。 「初めてだな、こんな事。奴ら、よほど手こずってやがる。」 快斗はその厚めの封筒を拾って開こうとしたが、手がかじかんできて言うことを聞かない。仕方なく、快斗はその封筒をスーツの裏地にしのばせると、奴が使ったドアの方に歩き出した。 雪は少しずつその量を増しているようだ。快斗は肩についた雪を振り落とし、続けてシルクハットについた雪も落とした。足下にも雪が積もり始め、快斗の足跡をうっすらと残している。 快斗はポケットに手を突っ込んだまま、ふと上を見上げた。空は雲の切れ目もなく、どうやら真っ黒いぶ厚い雲が空を覆っている。雪は、しばらく止みそうもない。快斗は足跡をそのままにして、この屋上と室内を隔てるドアのノブをゆっくり回した。 (手がかりを渡すくらいだ。奴らはそれほど息詰まっている。今は俺を殺したところで、何の得にもならないはずだ。) 頭でそう解釈はしてみても、快斗の中の危険信号は消えない。 快斗は右手に特製のトランプ銃を掲げ、決死の覚悟でドアを勢いよく開いた。 しかし、そこには何もなかった。快斗を襲ってくる人も、銃も、何一つ。快斗は、自嘲的笑いを浮かべた。 (疲れてんのか?俺は) 快斗は銃をしまうと、またポケットに手を突っ込んで階段を下り始めた。コツ、コツと単調な足音が、暗闇のビルにこだましていた。 「ねぇ!コナン君!今夜十時、怪盗キッドが出るんだって!知ってた?」 4時間目が終わって、給食の時間。歩美はコナンに話しかけてくる。コナンは昨日すでにその依頼者が毛利探偵所に来ていて、もちろん知っている。 「え、うん。そうらしいね。」 コナンは順番が回ってきて、ステンレス製のお盆をとりながら答えた。 「なんか、また見つかってもいない秘宝を奪うそうですね。家の人も何処にあるのか分からないんだそうですよ。」 光彦が歩のすぐ後ろについて、話に入ってくる。その後ろに並ぶ元太が、 「面白そうだな。少年探偵団としちゃ黙ってられねーな。おい、今日行こうか?」 と、勇んでいったのをコナンは思わず大声で止めた。 「ダメだ!」 いつものコナンとは違うその声に、三人のみならず、クラスのみんながコナンを見た。 「今回の事件は、危険だ!」 少しの間だけ、その声に呑まれたように目を見開いてコナンを見ていた三人が我に返るとコナンにつっかかった。 「どういうことだよ!その言い方、お前、なんか知ってんだろ!」 「そうですよ!探偵団の一員であるコナン君は情報を独り占めする資格はないんですからね!」 「説明して!コナン君!」 三人とも、コナンを囲んで詰め寄ってくる。コナンはあらためて、自分の突発的な言動に心の中で舌打ちした。 (しまった。こいつらをよけい誘うような台詞吐いちまった。) 「あ、あはは。ちがうよ、今の僕の予想。それに、今日の事件なら、首つっこまない方がいいよ。」 背中をひやりとぬらす汗を隠しながら、コナンは三人にそう言ってみる。お盆に給食委員がよそってくれたサラダと、パンをおいてもらう。 「どうして?」 「どうしてですか?」 「なんでだよ?」 三人が三人とも、同じ様な台詞で聞き返す。コナンは、そう来ると思ったぜ!としたり顔になりそうになるのを何とか抑えて、だぁーって、と続けた。 「今日の事件は怪盗キッドのお仕事だよ?それなのに、僕たちみたいな有能な探偵がいたらどうなるんだよ?」 「怪盗キッドを捕まえられます!」 「ひょー!大手柄じゃん」 大喜びする二人を、歩美はダメよ!と制した。 「へ?」 「怪盗キッドを捕まえるなんて、絶対ダメ!それに、お仕事邪魔するのだってダメよ!」 歩美は真剣この上ない顔で、喜びまくる二人に警告する。元太と光彦はきょとんとした目で歩美を見つめ直す。 「そーいうことA怪盗キッドって世間のヒーローだよ?そんな人捕まえたら、そりゃあケーサツには表彰されちゃったりするかも知れないけど、周りのファンの人きっと怒るよ!」 コナンが全ての器をお盆に乗せて、やっとしたり顔で微笑んだ。歩美がその言葉に大きくうなずき、他の二人の方も仕方なくうなずいた。 コナンはひとまずほっとしていた。 (ウチに依頼が入ってることも知られずにすんだしな。あとは、こいつ食ってしまって、ウチに速攻帰んねーと。) ところ変わって、ここは黒羽快斗の家。 予告の時間まで残すところ、あと5時間。快斗は部屋で一度は目に通した書類を再び目にしていた。 「っとー、我々はこの度、目的とするビック・ジュエルの一つである命の石を入手すべく、最新の情報を手にした。だが、我々の手にも負えず、君に助けを求めることになった次第である。・・・・ほー、よっくいうぜ!・・・・んと、問題の宝石は、“花嫁の冠”に装飾されている宝石で、大邸宅大野城家に安置されていることが判明した。その冠の装飾として飾られている宝石が目的のものなのだが、それが何処に安置されているのかは全く、分からないのである。しかし、手がかりが皆無というわけではない。同封している簡単な図を見てくれ。それがありかを指し示す、何らかの地図になるはずであり、唯一の手がかりだ。それを見つけたところで、君がそれを阻止しようが奪おうがは我々の問題外である。・・・・そうだろうな、俺を殺せばすむことだもんな。・・・・ん?健闘を祈る。・・・・ケッ!」 快斗はいらだたしげにその手紙をひらりと部屋に放ると問題の図を眺める。 その図は、コの字型に縁取りされたものから、コの字の開いている方から続けて二本の直線が迷いなく伸びているだけ。 「一体これは何の図なんだよ?」 快斗はその紙を指に挟んで見ると、ふうっとため息をついた。 (奴らが見つけさえしなかったら、俺はこんな事に首を突っ込む必要はないんだ。ただ、奴らがこの宝石を見つけないとは言い切れない。奴らだって、金にものを言わせてこれのためにいろんな事をしてきたはずだ。それでも、見つからなかったけどな。) 予想以上の仕事になる。まず、快斗は今回は予告時間までに冠のありかを探し出さねばならない。仮に見つかったとして、それを狙う奴らは快斗を放ってはくれないだろう。もし、それが命の石だったら。 快斗は立ち上がり、盗一が手品をしているパネルを押した。すると、くるりとそのパネルは回転式のドアのように回り、快斗はその裏の部屋に入った。 快斗は青いシャツを着て、ネクタイを締めた。白いスーツが全身を包むと、肩のホルダーにマントを付ける。シルクハットと眼鏡が、黒羽快斗を怪盗キッドに変えた。 「行って来るぜ!親父っ!」 快斗は再びパネルを押し開くと、部屋の窓から飛び出した。 ACT3 コの字型の屋敷 「わあー。おっきなお屋敷。」 タクシーから降りて蘭が第一声、その台詞を吐いた。小五郎、コナンも降りてから、ふえーと目を見張る。 入り口の門は優に車が四、五台通れるほどの幅。そこには西洋のお屋敷には必ずある高い塀と、見事な装飾がされた門扉。それが警備員のような人たちに開けられると、まっすぐに延びた道の両側には緑あふれる庭園。そして、大きな噴水。もちろん噴水にも鮮やかな装飾がなされ、その周りには今の時期には咲くはずのない花達が争うように咲き誇っている。 「あー、私も一度でいいからこんなお城に住んでみたーい」 蘭がうっとりとそう言うと、小五郎がケッとひがみっぽく吐く。 「それにしても、あの大野城家の婦人はどうしたんだ?依頼人がいないんじゃどうしようも・・・・」 小五郎がそう言うと、警備員の一人が、こちらへ、と案内しだした。ほっとして、三人はその警備員が行く方についていく。 警備員は庭園の方に案内した。庭園の奥には白い、丸いテーブルと、四つの椅子が用意されていた。そして、そこは高めの木々が立ち並んでいる。ここからでは、屋敷からも、門扉の警備員からも死角になる。 (? 何のためにここに案内してるんだ?警備員は。ここにあの婦人が来るってのか?まさか。今は秘宝を守ることであの婦人は頭がいっぱいなはず。こんなとこで呑気にお茶飲んでる状況じゃないはずだ!) コナンは蘭の手を引っ張る。蘭は何?と言おうとして、コナンが慌てて人差し指をたてているのに気付くと、蘭はその言葉を呑み込んだ。 「どうしたの?」 状況が分かってくれたのか、声をひそめ蘭がコナンに尋ねる。コナンは、 「あの人、おかしいよ。気を付けて!」 とだけ耳打ちした。蘭も、そう思っていたのか素直にうなずいた。 案内されるまま、三人は完全に四方死角のテーブルに案内された。 「奥様は、もうあなた方は必要ないと仰せです。」 警備員は何の抑揚のない声でそう言った。まるで、機械が喋ったように。 「まさか。そんなことがあるわけがない!ご婦人に会わせてくれないか?」 小五郎は吃驚してそう言ったが、警備員の方は容赦なく、 「おひきとりを。」 と続けた。小五郎は怒りをぶつけて椅子を蹴ると、 「何が何でも婦人に会ってやる。」 と、きびすを返した。が、そのとき警備員が警棒を素早く抜き、小五郎に向かって振りかぶったのだ! 「おじさ・・・・!」 コナンは目をむき、警備員を止めようと足を踏み出したが、その横を風が突き抜けた。と、思ったら、それは蘭だった! 「アアアア・・・・!」 すさまじい気合いがほとばしり、蘭の長いほっそりした足が警備員の腕に直撃する! 「うわっ!」 警備員は警棒を握る力を失い、警棒を落としてしまう。が、しぶとく蘭に襲いかかろうとする警備員の顔を蘭は一蹴した。 「何なの!?あなたはっ!何が目的か、言いなさい!」 「あんたら、あの女に頼まれた探偵だろ?ちっ・・・・!」 「!?どういうことだ!?」 「あんたらも、充分気を付けるこったな。・・・・冠を狙う奴は星の数、だ・・・・」 それだけ言うと偽物の警備員はふっと意識がかき消えた。 「蘭、救急車だ!事情はお前が説明しておけ。俺は屋敷に入る!」 「分かった、お父さん。私もすぐ行くわ。・・・・コナン君はどうする?」 「え?」 (この警備員が何者だったかってのも気になるけど、意識を取り戻すまで時間かかりそうだしな。回復したところで素直に吐いてくれないだろうし・・・・。他の警備員の様子でも、見てみるか。) 「僕、ここでお庭見てるよ。だって、きれいなんだもん。」 コナンはにっこりと笑って蘭にそう言うと、蘭も微笑んだ。 「そう。じゃあ私、あとでコナン君迎えに来るから、それまで待っててね。」 コナンはそれを聞いて、うなずいた。 「これは・・・・!」 ようやく怪盗キッドが到着する。快斗はハングライダーで来たので上空から屋敷を見下ろす形になっていた。その屋敷の形は、なんとあの図と同じコの字型、だったのである。 「あのコの字はこの屋敷のことか!へへ、なーんだ、簡単じゃねえか!んで、この門までの道がこの二本の直線って訳か。ちょろいもんだぜ!」 快斗はコの字型の屋敷の屋根に降りると、ハングライダーの骨組みの部分をたたんだ。ハングライダーはマントに変わる。 「んじゃ、一応目標確認といきますかねー♪・・・・ん?」 快斗は門の方に目を向ける。屋敷からその門までおよそ二百メートル。快斗は両目ともに視力2.0。門の辺りの方まで優に見えるのだが・・・・。 「何してんだよ?あいつら。」 門の辺りをちょろちょろと動き回る人影。服装は警備員のようななりをしているが、行動はそれを伴っていない。何かを探すように、門扉を調べたり、塀を触ったりしている。 (まさか、奴らか?) 快斗の背中に悪寒が走る。奴らは先にありかを知っていたのか、と。 自分がここに来るのが遅かったことに快斗は舌打ちした。とにかく、まだ奴らと決まったわけではない。かといって、このまま正体を聞きに行くのもマズイ。なんと言っても、予告時間までまだ3時間はある。もうここに来ていることが、あからさまになってはあとが動きにくい。 (仕方ねぇ。様子だけ見てみるか。) 快斗は思い切り屋根を蹴って、まず屋敷を囲む樹木に足をかけ、庭園の方の潜り込んだ。地に足を付ける瞬間、予想外の気圧が体を迫った。風が吹いたのだ。 「うわっ!?」 思わず、両腕で顔を防ぐと上着からひらりと紙が飛んでいってしまう。それは、唯一の手がかりの図面!! 「やっべー!!」 白い紙切れが一度空に舞い、まるで力尽きたように落ちてくる。快斗は白い紙を追いながら(且つ、姿を誰にも見られないように気を付けながら)、庭園を走り抜けた。が、どうしても、障害物を避けながらでは追いつけない!! 「ちっくしょー。誰かにあんなもん見られでもしたら、厄介どころじゃすまねぇぞ!」 ひらり、ひらりと気ままに落ちてくる紙切れが、庭園の緑に吸い込まれた。 その一瞬の後、子供の声が聞こえた。 「何だよ?これ?」 (やばいっ!見られたかっ・・・・!) ザザッと、きれいに間引かれた木を退けるように快斗はその子の前に立ちはだかった。 「!」 「・・・・!その格好・・・・まさか、怪盗キッド?」 黒縁眼鏡に、首には蝶ネクタイ。まるで、七五三のような格好をした、小さな子供。その子供の目は、鋭く快斗の瞳を射抜いた。 (こいつ・・・・ただのガキじゃないっ!) 「ねー。これなーに?秘宝のありか?」 「な・・・・何でもいーだろっ!返せよ、それっ!」 快斗が手を伸ばして紙を捕ろうとするが、子供はちょこまかと動き回る。 「へー。言わない気かぁ。」 子供はすううっと息を吸うと。 「♪おーまわーりさー・・・・」 「うわわっ!待て待てっ!」 快斗が焦ってそう言うと、子供は振り返ってにんまりと笑った。 「怪盗キッド、だっけ?この図面、この名探偵・江戸川コナンにまかせてくれないかな?」 「め、名探偵?お前が?」 快斗が目を丸くしてそう言うと、コナンはくすっと笑った。 「そう。人は見かけで判断しちゃいけないっていうの、ボクの事だからね!」 一方、屋敷内の本館一階の食堂室では、警察と探偵達による作戦会議が行われていた。 「私が怪盗キッドの捜査主任、中森です。前置きはこの際抜きにして、早速本題に入らせてもらいますが、今回怪盗キッドが狙う、花嫁の冠はこの家の女主人・大野城かの子婦人でさえありかが分からないと言うシロモノであります。怪盗キッドがどういう経過を持って、その冠のことを知ったのかも謎の一つですが、ともかく冠を守ることが我々の任務です。と、ここまでで何かご質問はありますかな?」 中森警部は部屋を眺め回した。集まった一部の警官達、探偵と、婦人、そしてなぜかついてきている我が子を見ると、目をきょとんとさせ、青子っ!?と大声を上げた。 「だってー。白馬君が是非って言うし、青子、冠見たいしー。」 「は、白馬くん!?」 小五郎の隣に座っている白馬探を中森警部は見つけだす。白馬探は立ち上がり、 「フッ、大丈夫です。今度こそ、キッドは捕まります。」 「な、何か策が?」 「ちょっとした物ですがね。」 小五郎はその不敵な笑みを浮かべる白馬を見て、ケッと吐くと。 「で、中森警部殿。どう言った警備体制を敷くおつもりですか。我々はそれにどこまで介入できるのかお聞かせ願いたい。我々には我々の仕事がありますからな。」 「そうですな、それでは・・・・」 警部が屋敷の構造を書いた模造紙を広げながら説明しだしている。対して、青子はそれを聞かずに今日とうとう学校を休んでしまった快斗を思って、物思いに耽った。 (風邪、そんなにひどかったのかなあ。昨日の帰りは元気そうだったのに・・・・やっぱり早くかえって寝たら、って言えば良かった。) 青子はふうっとため息をつく。食堂の真正面にある大きな窓ガラスが、かたかた、と控えめに鳴った。 「ねー、おじちゃん。何か探してんのー?」 コナンが塀の辺りを一心不乱に見つめ続ける警備員に尋ねる。すると、警備員はビクッとして、その場所から飛び退いた。 「あ、ああ・・・・坊やとは関係ないもんだから。ほら、君ここのお客さんだろ?さあ、早くお屋敷に入った入った。」 警備員はうっとうしそうにコナンを屋敷内に入らせようとする。しかし、コナンはその手を避けて、なおも警備員に話しかける。 「ねー、もしかしたらここに冠があったりしてー」 「ば、バカなことを言うんじゃない!子供は子供らしく、おとなしくしてればいいんだ!」 コナンはそれでも、飽きずに話しかける。 「ねー、パンドラって知ってるー?」 これはさっきキッドに頼まれた単語。これで反応があるかどうかを調べてくれと言われたので。 「? 何だそれは?」 警備員は一瞬、コナンを押す力をゆるめはしたが、多分唐突な質問に驚いたせいだろう。この単語自体に反応したような表情ではない。 コナンはついでとばかりに聞いてみた。 「ジン、はー?」 コナンにしては、予想外の反応だった。警備員は突然眉を寄せてコナンにつかみかかった。 「小僧。何を知ってる?」 (こ、こいつ・・・・!) コナンは一瞬戸惑ったが、持ち前の陽気さがそれを窮地から救った。 「な、なーに?ちょっとした心理テストだよお!次はエクスカリバーって剣の事訊こうと思ったのにー!」 そういうと、警備はばっとコナンから手を離した。 「バカ野郎!さっさと母ちゃんのとこ帰れ!くそガキが!」 怒鳴り声を背中に受け、コナンは逃げるようにまた庭園に入った。さっきの死角になっていたテーブルセットのところにキッドがいるはず、だが。 「よお。」 キッドは門の近くの植木に隠れるようにたたずんでいた。 「き、聞いてた?」 「ばっちりな。やっぱ、おめーの方もなんか訳あるみたいだな。ま、聞かないことにしてやるよ。その方がお互いのためだろうし。」 組んでいた腕を解き、手をポケットに突っ込ませると、快斗はそれで、と切り出した。 「どうだ?あいつら。」 「ある組織が、狙ってる。冠を。」 ぽつりとコナンが言うのを、快斗はそうか、と答える。 「二つの組織が、あれを狙ってることになるな。ありがとよ、チビ助。とにかく、俺は冠見つけねーと。」 「キッド。本当にコの字型がこの屋敷で、秘宝のありかが門のどこかだと思ってる?」 コナンは快斗を見上げてそう言った。快斗はああ、と間の抜けた声で答える。 「代々伝わってきている秘宝がこんな、外部者に一番さらされ易い所にあるなんて、おかしすぎる。それに、その地図が仮に本物としても、そんなわかりやすい地図を書くくらいなら、文字で門って書いてるはずだ!」 コナンの言葉を聞いて、快斗はもっともだとうずいたが。 「じゃあ、冠はどこにあるんだよ?」 「ま、門の方は警備員さんにまかせて、屋敷内に入ろう。ここにいても何にもならないわけだし。」 コナンがそう快斗を促すと、蘭がコナンを呼ぶ声が聞こえてきた。 「コナンくんー?お屋敷入るよー?」 「いっけね!キッド、あとでね!」 「あっ、おいっ!待てよっ!」 快斗が止める間もなく、コナンは庭園を走り抜けてしまった。快斗はやれやれとばかりにため息をつくと、 「子守する怪盗なんて、聞いたことねーぞ。」 と呟いた。 予告時間まであと一時間。 この二時間、快斗はこの屋敷を歩き回って地理感覚を養っていた。もちろん、警備員の目をかいくぐって、だが。 歩き回って、快斗はこの屋敷が二つの建物によって出来ていることが分かった。 一つはL型に造られた新館。そこは大小あわせて三十以上の部屋を持つ三階建ての作りになっている。この新館には、まず玄関の大きな両扉を抜けるとホテルのロビーのような明るく広々とした大広間が来る者を歓迎する。ここの主人の部屋から食堂室、リビングのような(快斗の感覚ではいささか居間の広さではなかったので。)一室、調理室、あまりに広い客間などが屋敷を埋めていた。そう、新館は今の主な生活の場、と言うわけだ。 一方旧館は、コの字型の全体を形作る残りのI字型をしている。あまり使われていないらしく、召使いの姿はほとんどなかった。警備員の数も程々で、新館より歩き回りやすい。同じ三階建てで部屋の数は二十前後。新館ができる前まではここが主に使われていたらしく、新館より広さは劣るが調理室、食堂室、リビング、個室が並んでいる。しかも、一つ一つの階全てにそれぞれの用途の部屋が存在したのに、快斗は呆れた。 「金持ちのする事って理解できねえな・・・・。そういや誰か言ってたな。人がお金をかけないところにお金をかけるのが、金持ちだって。・・・・当たってるぜ。」 誰もいない三階のリビングで、快斗は暖炉に寄りかかって一休みした。さっきまでこの部屋に配属された警備員がいたのだが、誤って鉢合わせしてしまったため、快斗はその警備員を縛り上げてソファーの後ろに転がせておいた。彼には麻酔薬をかがせておいたので、事が終わるまで目が覚めることはない。事実上、この部屋には快斗しかいないも同然となる。 「ここかなっ?」 唐突にこの部屋の扉が開く。とっさに快斗は身を隠そうとしたが、相手を見て安心した。さっき庭で会った小さな探偵、江戸川コナンだった。 「チビ助。お前まだこの屋敷にいたのかよ。姿が見えねーから、帰ったもんだと」 「さすが、キッド。分かってたんだね。」 コナンがにっこり笑って快斗の言葉を遮った。が、快斗には何が分かってたのか、全然分からない。 「な、何がだよ?」 「あれ、分かってたんじゃないの。冠のありか。」 「分かってたら、こんなとこうろうろしてねえよ!」 それを聞いて、コナンがあちゃーと呆れた目をした。 「何だよ、そのリアクション。そんなの、ありかが分かってからしてくれよなー」 「だから、分かったんだよ」 「何が。」 「冠のありかが、だよ。少なくとも、これがその地図が示す場所だ!」 コナンが快斗のいるすぐそばの暖炉を指さす。が、快斗はお前な、としゃがんでコナンの肩に手をおいた。 「確かにこの暖炉、コの字型だけどな。その二本の線は何だよ?」 コナンは快斗の手を振り払うと、鈍いね、キッドと言った。 「暖炉には必ず通気孔がついてる。それが屋根から突き出してるのが煙突だ。」 「じゃあ、煙突に冠があんのか?いくら何でもそれはねえよ。家宝を煙にさらすなんて。」 ■To Be Continued... |