【名探偵コナン&怪盗キッド】

■裏の姿を持つ二人<3>

掲載日[1998/1/24]





ちっちっちっ、とコナンが人差し指を立てて舌を鳴らした。
「図面見てみてよ、キッド。二本の線はどっちに引かれてる?」
「どっちって、下に・・・・そうか!」
 やっと快斗が納得した、そのとき。
 ドアがまたも開いた。それも勢いよく。
「ごくろうだったな、怪盗キッド。それとそのチビ。」
 拳銃をかまえた黒づくめの男たちが、どかどかと入ってきた。男たちは暖炉のそばにいる二人を囲む。
「さあ、そこを退け。お前達の役目は終わったんだ!」
「役目だぁ?俺達はてめえの指令を受けたんじゃねえよ。まあ、こんな展開予想してたけどな。」
 快斗は吐き捨てるようにそう言った。コナンが見上げて、吃驚したように言った。
「キッド!こいつらと仲間だったの!」
「違う違う。でも、冠の情報もらったのは確かだけど。」
 両手をあげ、快斗は呻くように言った。が、そのとき、別の一団がこの部屋に流れ込んできた。黒づくめの一団と同じく拳銃をかまえて。
「それはおかしいな、キッド。君に情報を与えた私の顔を忘れたわけではあるまい?」
 その中の一人の男が銃口を向けて快斗に話しかけた。快斗は呑気に、
「わりいわりい、あんただったな。」
と、返事をしたが、
(本当はあんとき暗かったから、顔覚えてねえけど)
などと思っていた。そんな思いをよそに、快斗の言葉をつなげた。
「じゃあ、こっちの一団は、一体何なんだ?」
「ちっ・・・・てめえには関係ないことなんだよっ!さっさとそこ退かねえかっ!」
 とうとう黒い方がいきり立ってそう言った。
「そっ!どっちにしても悪い奴だもんねー!」
 そう言ったのは、子供の可愛い声・・・・コナン!
「ばっばかやろっ・・・・このチビ・・・・!」
 快斗が慌ててコナンの口に手を伸ばしたとき、コナンの足下から何かか飛び出した!
「なっ・・・・!」
 尋常な早さでなかったためにそれは何か分からなかったが、ようやく確認がとれたのは、それが奴らの一人の顔を直撃したから。
「花瓶・・・・!!」
 なんとコナンの足下では球体に近い形をしていたはず花瓶が、奴の顔をぶちのめした瞬間粉々になった!
「うわあああっ!」
 奴の顔を中心に破片と血液がほとばしる。周りの男たちは一瞬何がおこったのか分からず、花瓶がクラッシュした男の顔を呆然と見つめた。
「早く!」
 コナンが快斗の手を引っ張り、部屋を抜ける。途中我に返った何人かが二人を止めようと襲いかかったが、快斗が素早く足払いをかけて続く追っ手をそいつらで躊躇させた。その間に二人は部屋を抜け、おそらくさっきの一団にやられた警備員達を飛び越え、階段に向かった。目指すは一階のリビングだ!
「ここの旧館は全て同じ調理室、食堂室、個室が三階全てに配置されているんだ。」
 階段を二人懸命に降りる間、コナンが息切れるのも構わずそう言った。
「リビングもな。」
「うん。あの暖炉も全階の同じ場所に措かれてる。それは、暖炉だけ特別に複数措くのに設計時点で不安だったんだろうね。」
「だから、全ての階を同じように作った、ってわけか。」
「全ては一階にある暖炉が怪しまれないようにするためなんだ。」
 階段が終わる。旧館の一階には倒れた警備員とは別に、次々と駆け込んでくる警備員で一杯になりかけていた。
「やべーな。おい、コナン。お前、ここで止めるか?」
「僕は行くよ、キッド!」
 コナンがにやりと笑った。その笑いからただの子供には見えなくて、キッドは一瞬きょとんとしたが、すぐにふっと笑った。マントの内側に手を入れ、機械の塊を出した。素早く組み立て、それはエンジン付きスケートボードだった!
「乗れっ!いくぞっ!」
「ああ!」
 ドルンッ
 エンジン音が鳴り、命を吹き込まれたかのようにスケートボードが爆走した。警備員をはねのけ、目的の場所リビンクに直接はいる!
 ばきぃっ・・・・
 派手な音を立てて扉を突き抜けると、そこには中森警部と白馬探偵がいた。
「キッド!!」
「あちゃー、やだなあ警部!勘だけの人はこれだから・・・・」
「やかましい!」
「怪盗キッドさん。どうしたんです、予告時間まで間がありますよ?」
二人はキッドに走りながらついてくる。
「予告時間は獲物を頂く時間ですよ、名探偵さん」
「キッド、モテるねー。男に。」
 コナンが面白そうにそう言った。うるせーっと、快斗は言い、
「あれだな!直接行くぜ!」
と、ハンドルでひとしきりエンジン音を鳴らすと暖炉に突っ込んだ。
「き、キッド!ほんとに分かってる?」
 コナンが不安げに問うた。
「何だよ?暖炉だろ?」
「じゃなくて、下の道って事。」
「?」
「落ちるんだよ?」
 そう言ったときには、スケートボードのローラーはすでに空中にあった。

うわああああああ・・・・・
 暖炉の通気孔に、快斗とコナンの叫び声が轟いた。そしてその声は煙突がホーンとなって屋敷全体にまで行き届いた。
 その声を聞いて、新館にいた者達はこぞって旧館に走り出した。
 新館をうろついていた小五郎と蘭も例外に洩れず。
「なっ?何だ?何があった?」
 ちょうど新館の階段にいた小五郎は、すぐに手すりをつかんで走り出した。
一階と二階の間の踊り場に、蘭が小五郎を待ちかまえていた。眉間にしわを寄せて、ひどく慌てた様子だ。
「お父さん!コナン君知らない?」
「知るか!」
「どうしよう。コナン君、いないのよ。どこにも!」
 走り去ろうとする小五郎を慌てて蘭は追いかける。
「庭で遊んでるんじゃねえのか?それより蘭、旧館で何かあったのか?」
 小五郎は乱暴に新館の扉を開け放った。ザザッと足をならし、旧館に向かって方向転換する。
「うん、なんか妙な一団が旧館に押し入ったらしいの。警備員さんの四割がやられたって!」
 蘭は続けて身軽にとんっと地を蹴ると、同じように方向転換。
「何で、俺に知らせなかった!」
「私も知ったばかりよっ!」
「ちっ・・・・!キッドはもう来てるのかよっ?」
 小五郎は開け放ったままの旧館の入り口に入った。蘭もほぼ同時にはいる。小五郎は警備員で一杯になったこの状態で、ある女の子を見つけて叫んだ。
「あなたは、青森警部の娘さん!どうしたんです?一体?」
 青子が振り向いて、小五郎を見るとほっとしたように微笑んだ。どうやらここで知り合いもなくひとりぼっちにされていたらしい。
「探偵さんですよね?今キッドがここを通ったらしいです。ここから、向こうのリビングに。」
「見たんですか?」
 青子は首を横に振った。
「私も来たばかりです。妙な一団を捕まえたんで父が部屋の前で警備員を待機させたんです。それで動きもとれなくて。」 
それを聞いて、蘭が青子の手を握った。
「まかせて。ここを抜けていきましょ。お父さん、ついて来てよっ?」
「あ、ああ。」
「ちょっ・・・・この状態をどうやってあの・・・・きゃああっ!」
飛んだ!少なくとも青子はそう思った。跳んだではなく。
 尋常ならぬ跳躍をこなし、警備員の皆さんを飛び越える。着地には警備員自らがその場所を空ける。
「はーい、着いたっ!」
にっこり、得意げに振り返る蘭の顔を青子は見れなかった。無理もない。片手一本で振り回され、青子はまだ頭がぐるぐると回っていた。
「あ、ありがとう。」
 お礼だけやっとのように告げて、深く深呼吸をした。そのとき、小五郎がたどり着く。
「ら、蘭。お前なあ・・・・。」
「話してる暇はないわ。ここに、キッドがいるんでしょ?」
 ノブを回して、勢いよく三人は突入したのだが。部屋にはがらんとして、誰もいない。
「なにこれ。誰もいないじゃないっ!」
「でも、本当にここにって。」
 青子は慌てて弁解するように言った。小五郎は、ため息をつきながらソファーに座り込む。
「お嬢さん、困りますなあ。私たちは真剣なんですよ?」
「私、嘘ついてないわ!」
「いいの。間違ってない、この部屋にいたのよ。キッド達。」
 蘭は暖炉を指さしてそう言った。
「あれに入ったのよ!きっと!」
「暖炉?」
 小五郎が聞き返す間もなく。蘭は青子の手を引いたまま暖炉に突っ込んだ。すぐに、蘭と青子の悲鳴が轟いた。


ACT4 地下通路

 二人の耳にかすかだがしっかりと二人の女の悲鳴を聞きつけた。
「蘭っ?」
「青子っ?」
 小さな探偵と、怪盗が同時に振り返った。ここは、屋敷の地下通路。暖炉の落ちた先にまっすぐ延びていた通路だ。
 ここは真っ暗闇で、唯一快斗が持っていたペンライトの光だけが頼りだ。
「今悲鳴が・・・・」
 心配げに、コナンが快斗を見上げる。快斗の表情も暗く渋った顔になっている。
「まさかあいつ、ここの通路に?」
「戻るか?キッド?」
「・・・・。」
 しばらく考え込んで、快斗は戻ってくれ、と言った。
「え?キッドは?」
 コナンが見上げても、快斗の表情は見えなかった。快斗は、コナンと目を合わせないように上を見ているのだ。
「キッド?」
「奴らにだけは、あれを渡せねえ。だから、頼む。コナン。お前に、二人を頼みたい。」
「・・・・。いいよ。」
 ため息混じりにコナンがそう言った。それを聞いて、快斗はほっとしたようにコナンを見た。
「ライト、持ってけ。」
「いい。戻る途中奴らに会ったとき、ライトを持ってたら格好の餌食だよ。」
「・・・・そうだな、お前ならやれるよな。名探偵。」
「ああ。キッドも、気を付けて。」
 そう言って、二人は闇に向かって走り出した。お互いに全く逆の方向に向かって。

やはりライトはコナンに持たせるべきだった、と快斗が舌打ちしたのはその数分後だった。
「遅かったな。怪盗キッド。」
 明るく前を照らしていた光の先に、一つの障害物がぶつかった。その障害物が、静かにそう言った。
「三階からでもここに来ることは出来たんだよ。全ての暖炉は同じ煙突に、そして同じこの通路にもつながっていたんだ。まあ、他の馬鹿どもは正直にお前を追っかけたようだがな。」
「ちっ、三階から飛びこんどきゃ・・・・」
「無理だな。あの状態で飛び込んでも我々がすぐに追いつく。あのチビの迂回作戦はまあ正解だったと言うことだ。俺はそれに乗らなかっただけのこと。」
「もうあれをとった帰りか?」
 冠のことを直に聞く。快斗はここで無駄話をするつもりはないらしい。
「ふ、持ってねえ、と言ったところでお前は信じるか?」
「確かに。んじゃ、ちょっくら調べさせてもらいましょうかねぇっ」
 快斗は素早くマスクをすると、くるっと回転しながらマントを扇いだ。
 ばふっ!
 何かの粉末が辺りを覆い、あまりよくない空気に一気に靄がかかる。
「げへっ!何だこれはっ!!・・・・ぶわっっくしょいっ!」
「ちょっと古典的だけど、アメリカじゃあマジに使ってるらしいよん」
 いつの間にかゴーグルまで付けた快斗がにっと笑いながら言う。その快斗の手にはまだ粉末にされていない黒胡椒!
「さあーて、そろそろ目も鼻もぐちゃぐちゃになった頃かなー」
「ちっ・・・・くしょうっ!」
 慌てて、奴は懐に手をやって銃を抜き取ったが、快斗がその手めがけてトランプを放つ。奴はだらしなくも鼻水を垂らしながら、銃を取り落とした。
「ううう・・・・ぶしっ」
「ここにねえ、それ治すクスリあるんだけど。冠のこと教えてくんないかなあ。」
「だ、誰が・・・・ぶしゅっ」
「ほー。はい、あーんして。ぱぱぱのぱっと。」
快斗がさらに追い打ちをかけて、相手の顔に胡椒をかけてやる。相手は目も鼻もくしゃくしゃにして息苦しそうにくしゃみした。
「冠出してくれたら、治すってのに。」
 相手は涙をぼろぼろと流しながら、頭をぶるぶると横に振る。
「しらねーの?なんだよ。」
 快斗はそれだけ言うと、さっさと走り出してしまった。あとに、それ水で顔洗っても一週間くらいかかるからがんばってねー、と言う声を相手に残して。

「蘭姉ちゃんっ!」
 コナンがやっとの思いでたどり着く。蘭達はあの暖炉から落ちて、やはりこの地下通路をさまよっていた。
「コナン君?こんな所にいたの?もーっイタズラっ子なんだから!」
 蘭が思い切りコナンを抱きしめる。よほど心配していたのだろう。
「怪我はない?蘭姉ちゃん」
「コナン君こそ!もう危ないから帰ってなさい!」
「ど、どうやって?」
 コナンは聞き返すと、その言葉を返したのは中森警部だった。
「心配ないよ、坊や。我々が入ってきたときに、この通路に暖炉からロープを垂らして置いた。それを上るといい。」
「子供は帰ってもらった方がいい。捜査の邪魔になります。」
 冷たく言い放ったのは、目鼻立ちの整った白馬探偵。その言葉に蘭はむっとした顔を浮かべた。
「なによ!キッドを追い回してるだけの探偵のくせに!新一だったら一発なのにさ!」
「何ですって?聞き捨てなりませんな、お嬢さん」
「ら、蘭さん・・・・」
 慌てて青子が蘭をなだめようとする。さっきからこの二人は相性が悪い。蘭の口から工藤新一の名がこぼれたときから、白馬探偵は新一の悪口を言い、蘭は白馬探偵を能なし!と罵っていた。
「あーあ、新一が帰ったら、一番に私依頼しようっと。キッドを捕まえてってね。どーせ、こんなんじゃ今回も逃げられちゃうわ!」
「ふっ、逃げ出してしまうような探偵に何が出来るんです?あなたは工藤探偵を、いや工藤新一という人間を買いかぶりすぎてますよ。」
「な、何ですってぇ!」
 悔しそうに歯ぎしりする蘭を青子とコナンが押さえ、ふんとそっぽを向いた白馬探偵を中森警部がなだめる。
(一体どうなってんだよー。)
 訳が分からず、本人である工藤新一ことコナンは二人を見上げ首を傾げた。 
「そ、それよりも、キッドを追わなくては!」
 中森警部が今更のようにそう言うと、走り出す。こんな子供の喧嘩などほっとくことに決めたらしい。
「待ってよ!お父さん!」
「あ、ぼくもーっ。」
 続いて青子とコナンもそれについていくことに決めた。蘭と白馬探偵はふんとお互いに顔を背けると、同時に走り出した。

 そのころ、やっとの事でたどり着いた地下通路の最果てに、快斗はいた。そこには冠を置くための台があしらわれており、その上に寂しげに光る女性用の冠があった。冠というよりただの金の輪っかの様なもので、一部に装飾があるのでそこが正面だというのがかろうじて分かる程度である。それにしても、その冠には目指すものがなかった。ビッグ・ジュエル・・・・宝石があしらわれていないのだ!
「なんだよっ・・・・これ。石がねえじゃねえかっ!」
 快斗は冠に触れようとして、慌てて手を引っ込めた。快斗の背中を嫌なものが走ったのだ。それは、例えようのない悪寒。
「誰だ?出てこいよ?」
 快斗が不機嫌にそう言うと、奥の壁の陰から一つの影が現れた。
「ようこそ、キッド。そして、お疲れさま。」
 なんとそれは子供だった。そう、さっきまで一緒にいたコナンと同じくらいの。
「ガキがこんなとこで何してんだよ。」
「ここはボクのウチだよ?ここで何をしようがボクの勝手。」
 それを聞いて、快斗は目を点にした。予期していなかったことだったので、頭で考えたことを口にするのにいつもの倍かかった気がした。
「って、・・・・大野城家の御曹司か!」
「そういうこと。」
 見るからに育ちの良さそうな、利口そうな少年が微笑む。が、目は笑っていない。その笑い方が、快斗には鳥肌を立てさせた。
 コナンも充分ただ者でない気配を漂わせていたが、この少年はそれとはちがう。異質の・・・・高貴で、見る者をすごませるような強い
雰囲気を身にまとっていた。
「はは。いてもおかしくねえよな。子供くらい。」
「書類に書いてなかったから知らなかった、んでしょ?」
(・・・・書類?何でそんなことを・・・・)
 快斗は警戒心全開にしてその子供を見た。が、子供の方は少しも最初に姿を見せたときから姿勢を変えていない。
「その情報提供したのボクだからだよ。」
 しかも、この子供は快斗が思ったことを先回りして答えているのだ。
(負けてる・・・・?こんなガキに!)
「それ、どういうことか、聞かせてもらおうか。」
 快斗は少しすごみをきかせてそう言ってみるが、子供の方はいたって平然としたもの。
「いいけど、宝石はもういいの?」
「よくねえけど、今は必要ない。今聞きたいのはお前の方だ。」
「オーケイ。ボクの名前は大野城遥。12歳。住所不定無職の小学生さ。趣味は誘拐ごっこ。これ、する方じゃなくてされる方だよ。記憶がない頃から誘拐は慣れっこ。通算してもうかれこれ30回以上誘拐されてる。それを全部クリアしてきたけどね。」
「クリア・・・・」
 呆れたように快斗が呟くのを、遥はにっと笑いながら見ていた。
「ゲームよりつまんないよ。オトナって生き物は図体ばかりでかくってやることなすことは小学生以下なんだ。だからこそ今ボクがあるんだから、感謝しなくちゃなんないかもね!」
「で、書類は?」
「ああ、いつかちょっとやばくなったとき、情報をやる変わりに自由にしてくれっていったんだ。まあしばらく監禁場所から出られなかったけど。」
「奴らはその事を?」
「もとから知ってたんだよ!うっすらとね。だから俺がさらわれたんだって。」
「その情報はそこで漏らしただけか?」
「いや、相当洩れてるよきっと。ボクがわざとパソコンにいれたからな。ネットで入り込まれてるだろうよ。」
 と言うことは、快斗が受け取った書類はおそらく、遥がネットに入れて置いたものをあいつ等が落とし込んで、快斗の手に届いたという事になる。 
 それにしても。快斗はまるで大人と話しているような錯覚に陥りそうだった。遥の口調はそれほどまでに、自分以外の者を見下げ、さげすんだような口調だった。もし遥の姿が見えなかったら、声がボーイソプラノでなかったなら、快斗は間違いなく遥を大人とみなし話しただろう。
「何故そんなことをした?俺達にこれは盗られてもいい代物なのか?」
「要らないよ、そんなものより欲しいものがあるんだ。」
 遥は汚いものを見るかのように目をしかめ、その冠から目を逸らした。
「何だよ。」
「オヤさ。」
 快斗を見上げ遥はそう言った。快斗はそんな遥を見て、笑う。
「母ちゃんなら上にいるさ。こんなとこうろついてないで、さっさと母ちゃんに会ってこいよ!」
「アレは違う。俺のじゃないんだ。」
 遥の一人称が変わった。ボクが俺に。
「俺が欲しいのは、アレじゃないんだ。本当の親なんだ。」
「あの女は、この屋敷の人間じゃあ、ない?」
 快斗はおそるおそるそう言うと、遥は目を見開いた。遥が初めて見せた子供らしい表情。悲しげなまなざし。
 その表情で、快斗は初めて遥が子供だと言うことを思いだした。
「そう、よくわかったね。あいつは俺の親じゃない。正確に言えば、母さんの姉かのか。かの子は母さんの名前だけど、年老いた俺の親父は顔が似てると言うだけであいつを後妻にして、かの子と呼んでたんだ。」
「・・・・。」
「奴は冠が欲しくてたまらない、ウジ虫さ。だから、俺は家を出た。度重なる誘拐のほとんどはあいつがしくんだものだったから。」
 快斗はごくりと唾を飲み込んだ。常軌を逸した家庭。そんな中を、こんな幼い子供が生き抜くには強靱な心が必要とされる。そして、幸か不幸か遥はそれを生きるため見事持ち得た。
「俺は誘拐されてもどんな傷つけられても、あいつがしくんだという確信があれば怖くはなかった。俺が死んだら、冠は闇に葬られる。奴はそれを絶対に避けなきゃならないからな。」
「・・・・。」
「宝石が欲しいんだろ?ほら。」
 遥はポケットをさぐって、快斗に光る石を投げた。快斗は素早く握ると、それは桃色に光る小さな宝石。
「この冠はその宝石がなけりゃ、価値はない。キッド、あんたが少しでも心を持つ奴だったらそれはあんたがどこかに持ち去ってくれ。決して、ここに戻さないでくれ。」
 遥は快斗を懇願するように見つめた。快斗は遥の目を見つめ、力強く頷いて見せた。
「・・・・これは、きっと返さない。いいな?」
 遥はうすく笑って、頷いた。その表情は心底快斗に感謝していた。
「キッドおおぉっ!そこかあっ!」
 中森警部の声が聞こえてきた。快斗はやべえっと舌打ちすると、遥がにっこり笑って台座を動かす。下から階段が覗いている。
「行こう、キッド。ここから裏庭につながってる。」
「おおっ。サンキュー!」
 遥かを先頭にして快斗はついていく。いったん階段が下り、踊り場のように広く穿たれた所を境にして階段が地上へ上っていく。
 快斗も遥も、走って走って走り抜いた。快斗は捕まるわけには行かなかった。この手の中にある宝石が何であるにしろ。
(頼む、地上に誰も待ちかまえないでいてくれ!)
 もちろんこの願いはむなしく天には届かなかったのである。
「ご苦労さん、怪盗キッド。さあ、冠をこっちによこしな。」
 そう言ったのは、本来叔母となるはずの継母。月の光をまぶしく感じながら、二人が外に出るのを歓迎したのは黒ずくめの一団だった。全員、拳銃をこちらに向けている。
「な、んだよ。あんたこんな奴らの一味だったのかよ!」
 遥が呻くようにそう言った。かのかが遥を見てほくそ笑むと、突然笑い出した。
「あーはっは!そうだよ!おぼっちゃん。何にも知らなかったようだねーえ?」
 そのあくまでうれしそうなかのかの声に、快斗は叫んだ。
「知らなかったんじゃねえよ!おばさん。信じたくなかったんだよ、遥は!」
 腹の底から煮えくり返るその怒りにまかせて、快斗はそう怒鳴った。
「そうだよな、遥。お前の賢さはあの継母を見抜いていた。けど、お前の中では何度それを否定したか・・・・」
「否定なんかしてない。俺は奴の腹の底を知ってたから。」
 しかし、知っていても実際そうだったことを認めるのは、こんな12歳の子供には残酷すぎる。
「そんなことはどうでもいい。冠を出せって言ったんだよ?」
かのかの最後の言葉は、青森警部のキッドおお!と言う声にかき消された。
「ナイスタイミングA」
 快斗は満足げに階段を見やると、立て続けに5人が地下階段から飛び出てくる。青森警部、白馬探偵、コナン、蘭、青子の順に。
 出てくるなり、コナンがはっとした顔をしたのに、快斗が気付く。
「あなた!依頼主の・・・・!」
 蘭がかのかを見て仰天する。
「キッド!・・・・と、何だこれは!」
 中森警部が声を荒げてそう言った。
「見ての通り、悪役さんでーす。俺のことより、こっちが先じゃない?拳銃持ってるし。」
「いい加減にしな!」
 かのかが一喝する。ドスがきいたその声に、二人とも黙り込んだ。
「冠、出しな。」
 快斗は懐を探って、冠を出した。それを見た遥が目を見開いた。まるでその目はいつの間に!と言っていた。
 快斗は冠をかのかに放った。が、かのかが手を伸ばした先に弾丸が放たれた。
 きぃん!
 冠の端をかすって、弾丸が飛んだことが後に分かる。なぜなら、快斗が放った方向とは明らかに違う方に冠は届いていたのだから。
 黒ずくめの一人が受け取り、ちらりと見てから冠は地に捨てられた。拳銃は素早くかのかに向けられ、弾丸が飛んだ。
 空に爆音がこだました。
 叔母が地に倒れゆく間、男はぺっと唾を吐いて死に逝く女を罵った。
「こんなただのわっか相手にこんなに人を使わせるなんざぁ・・・・」
「このやろっ・・・・」
 青森警部は今にも帰ろうとする一団を引き止めようと拳銃を抜こうとしたが、それより早く一団が警部に銃を向けた。
「お父さんっ!」
「刑事さん、娘の前でわざわざ命を捨てることもあるまい?」
「く・・・・。」
 青森警部が動きを止めたのを確認した一団は、一人が散れと言うと同時にバラバラとこの場を去った。
 それを追ったのはなんと、小さな探偵コナンだった!





■To Be Continued...


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