【ONE PEACE】

■ベリースノウ<1>

作成日[2004/1/16]












 風は北風。秋島区域の小さな島を記録指針(ログポース)は指していた。秋島区域の中で、一行は今冬の季節を味わっている。乾いた冷たい風が容赦なく吹きつけ、波は荒れていた。
「なんで秋島区域の癖にこんなに寒いんだよ!」
 文句をつけるのは狙撃主ことウソップだ。ウソップは厚手のコートの前身ごろをしっかりと詰めた。
「今更グランドラインの文句を言っても仕方ないでしょ!文句言わないで面舵しっかり握ってて!」
 航海士であるナミは威勢のいい声でウソップに命令した。ウソップは慌てて面舵を握り締める。
「そういやァ、ビビちゃんが言ってたっけ。島ごとに季節が分類されてて、その島自身の季節もだいたいあるってな」
「冬島の冬はこんなもんじゃないぞ」
 料理人サンジと船医チョッパーが後ろの帆を安定させるべく控えている。上からメインマストを押さえていた船長ことルフィがきらりと目を光らせてこう言った。
「雪だ!絶対雪がいっぱいだ!」
「まあ、そりゃ当然だな」
 先ほどまで甲板のへりでいびきをかいていたゾロもナミに叩き起こされて目をこすりながらそう言った。
「ルフィは本当に雪が好きだな」
 チョッパーがルフィを見上げながらそう言った。ルフィが上からしししと笑いながら空を見上げる。
「あーまた雪が降らねぇかな!」
 太平楽な一行をよそに、波は徐々に高みを帯びてきた。水しぶきが甲板に入ってくることも増えてくる。風は力強く行き先を遮るかのごとく帆を煽る。突然、ナミが檄を飛ばすように声を上げた。
「この荒波を超えたら島が見えてくるはずよ!」
「おぉッ!」
 一行は力強く声を返した。団結力のある、いい奴らのそろった海賊だった。

 島が見えてくると風そのものが船の進行を遮ることをやめたかのように、ぱたりと風が止んだ。爽快に澄んだ青空が目の前にぱぁっと広がるさまは、一行の目を見張らせた。その島は美しい緑の草原の広がった島だった。
「わぁ。きれいな島!」
 ナミが嬉しそうに声を上げた。ルフィも船首メリーの上にあぐらをかいて、その島を見つめ声を上げる。
「うまそうな肉がありそうだ!」
「夢見てんじゃないわよ!」
「ししし!」
 ナミに即座にルフィの夢を却下されたが、ルフィはお構いもせずいつもの笑みを浮かべる。ナミはそんなルフィをなんともいえない笑みで見つめてから、ナミはもう一度島を見つめこう言った。
「グリーングリーン島よ。小さな島でね、トゥリートゥリー村がひとつっきりあるだけらしいわ」
「トゥリートゥリー村だって?!」
 素っ頓狂な大声を出したのはチョッパーだった。慌ててチョッパーは船室に戻ってひとしきりどたばたさせたあと、また甲板に戻ってきた。
「ほら!これ!」
 ばっと開いた本には字だらけの一ページだった。ルフィ始め一同は一瞬本を見たが、それが?という顔でチョッパーを見つめた。
「ほら、ここだよ!」
 チョッパーが本を床に置き、蹄をある一文に当てた。そこには、こう記されている。

―この世にも珍しき薬の原料は、グランドライン内にあるトゥリートゥリー村でしか生産されてはいない。

「おおっ!チョッパーやったな!こりゃビンゴじゃねぇか!」
 ウソップがチョッパーの肩を叩いて喜ぶ。自分のことのように喜ぶウソップを見て、チョッパーが嬉しそうに笑った。
「ああ!ビンゴだ!」
「よぉし!野郎ども!あの島に上陸するぞ!」
 ルフィの一声に、仲間たちの声が湧いた。
「おおッ!」

 船は島の入り江を発見して、そこに停泊することにした。小さな島のせいか、水路があまり大きくないらしく入り江に入るのに苦労をしたが、船をつけて錨を下ろすのに成功した。
「ここから、村は遠いのか?」
 ルフィは早速身支度をしながらそう言った。というのは、今まで島が見えてくるのにうきうきしすぎてコートを着ていなかったのだ。サンジに突っ込まれて、寒さに気づいたルフィは今更コートを着込んでいるというわけだ。
「そうでもないけど、気になるのは村とは違う方向から煙が見えるの。あれはなにかしら」
 ナミは一つ前に上陸した島で手に入れた島の地図を見て、それと煙の方向を交互に見つめた。
 言われてサンジ、ウソップもその煙の方向を見つめる。確かにその方向から、一筋の細い揺らぎが天に向かって伸びているのを見つけた。
「ナミさん、村はどっちだい」
 サンジは自分も煙をくゆらせながらそう言った。ナミは地図を見てすんなり体の向きを変えるとそちらを指差した。煙の方向とは九十度ほど左側になる。
「むこうよ」
「そっか。どうするよ船長?」
 サンジがおもむろにルフィに指示を仰ごうと振り返ると、ルフィはすでに甲板を降りていた。
「おおぃ!?ルフィ?」
 焦ってサンジが先にすたすたと歩くルフィを呼び止めると、ルフィがああ?と声を返す。
「どこいくんだよ!」
「飯のしたくしてる方にいく」
 一行は一瞬目をテンにした。が、それもまぁいつものことだ。やれやれといいつつも、仲間たちは船長の背中を追うべく船を下りた。
 その海賊は実に気のいい奴らがそろっていた。

 歩いてそう遠くない場所にその崩れ落ちそうな一軒家があった。そこの窓というか、ただの崩れ落ちた穴というか、とにかくその荒んだ家の隙間から煙が噴出していて、ルフィが一瞬火事かと見紛ったほどだ。
「なんだかすげぇ家だなぁ」
 チョッパーがびくびくとウソップの足につかまりながらそう言った。ウソップはまだその家に危険性があるとは思えなかったためか、どーんと仁王立ちしていた。
「ちょっと、様子を見てきてよ」
 ナミが一言そう言うと、ルフィがすぐさま頷いた。まだご馳走にありつけるという希望を彼はまだ捨てていないようだった。
「俺も行こう」
「俺もだ」
「よーし!言ってこい!」
 ゾロとサンジも声を上げて、先を進むルフィについていった。最後の合いの手は言うまでもなくウソップである。
 三人がその荒んだ家の出入り口に程なく到着しようとした瞬間だった。
 ぱんっ!
 あまりにも唐突で、乾いた音が周囲に響いた。平和そうな一面が、一瞬何か邪悪な色に塗りつぶされたかのように場面に変わる。音と同時に起こった異変に、一行が息を飲んだ。
 銃だった。ただ、それほど重量感のある銃を使っていなかったためか、そしてまた狙撃者の腕がたいしたことなかったのか、弾はそれてルフィの腕を掠っていったに過ぎなかった。
「ルフィ!」
 ナミが思わず声をあげたが、ルフィは返事をしなかった。しばらくそのあばら屋をにらみつけた後、声を上げた。
「隠れてるやつ、でてこい!」
 ルフィの声の後、しばらくその家とその一帯に静寂が垂れ込めた。やがて、がたがた、と出入り口の戸が開いて人が三人、姿を現した。二人は夫婦のようだった。年老いた夫婦。それと、もう一人はその息子らしき青年。いずれも酷くみすぼらしい服装をしていた。
「撃ったの、誰だ!」
 ルフィが3人に問う。一人の青年が、前に出た。おそらく、ルフィとあまり変わらない年端の行かぬ男だ。
「何故撃った!」
「おまえら、海賊だろ」
 低く、しわがれた声がそう言った。年齢の割りに、声に覇気がなく頼りない声だった。
「だったら、帰ってくれ。村にも踏み入れないでくれ。頼む。ログなら1日で貯まる。なんなら、貯まるまでここにいてもいいが、村は駄目だ。頼む」
「なんでだ!」
 ルフィが声を張り上げる。しかし、青年は先ほどとさほど変わらぬ口調で同じ事を繰り返した。
「村には踏み入れないでくれ。頼む。うちで過ごすのは構わない。けれど村は許してくれ。頼む」
 そこで、ようやく後ろの老夫婦が頭を下げた。禿げ上がった男の頭と、白髪の多い女の頭が妙に事の重さを暗示するようだった。懇願、という言葉がぴったりくるような頭の下げ方だ。
 仲間たちは顔を見合わせた。
 一体、この島はどうなっているのだ?と。









■To Be Continued...


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