【ONE PEACE】ベリースノウ<3>

■ベリースノウ<3>

作成日[2004/2/7]








 ルフィの表情は炎に熱く照らされていたが、仲間たちからその顔の向きは完全に死角になっていた。仲間たちも、そしてソウヤもその背中を見つめる格好になっていた。ぱちぱちと炎が爆ぜる音と対照的なほど静かなゆったりとした波の音が一帯を包んでいたが、その空気はルフィの背中から伝わる鋭い意思に研ぎ澄まされたかのようにぴんと張り詰めていた。そんなルフィの背中を見て、ゾロが一言言う。
「お前何怒ってんだ」
「・・」
「ルフィ、何で怒ってる」
 ちゃんと説明しろ、とゾロの心の言葉が言っている。そうじゃないと、誰もわからない理解できない。お前のことだから理不尽なことに怒りをぶつけているのではないことはわかっているが、ちゃんと話してくれないと分からないことはたくさんある。たとえ長く苦楽を共にする仲間とはいっても、だ。
 ゾロの言葉を理解したのか、それともルフィ自身がちゃんと話そうと思ったのか、ルフィは腰を上げた。
「俺は村に行く。ソウヤをこのままにはしておけねぇよ。それに、ソウヤのとーちゃんとかーちゃんだってそうだ」
 ルフィの真摯な瞳が、仲間たち一人一人の目を見つめる。単純な理由に男たちは単純に理解したが、一人そうではない仲間が居た。男ほど単純な構造をしていない心の持ち主、ナミ、だ。
「ルフィ!でも、あんた分かってる?そのままにしておけないからって、海賊である私たちが村になんか行ったら、まずソウヤの信用にかかわるのよ!ソウヤは村の門番なんだから!」
「あっ、そうか」
「そういやそうだ」
 チョッパーとウソップが今ごろ気づいたかのように顔を見合わせた。ゾロとサンジはじっとルフィの顔を見ている。ルフィーはといえば、眉ひとつ動かさずにナミの言葉を聞いていた。そして一言返事をする。
「分かってる」
 ナミは少しも表情に変化の表れないルフィを見て、苛立ったようにどんっと地団駄を踏んだ。
「分かってないわよ!海賊なんかを通したって分かれば、そしてソウヤが私たちに打ちのめされたわけでもなく村に通したという事実を知ったら、村人たちはソウヤにまた疑いをかけるのよ!ソウヤは海賊に手を貸したんだって!そんな事実はないのにもかかわらずよ!」
「そうだ!!そんな事実が無いのにもかかわらずソウヤがこんな扱いを受けるんだ!ナミ!お前のときと同じだろ?!」
 ルフィの吐き出された言葉に、ナミは凍りつく。びくり、と肩を揺らすとゆっくり2、3歩後ずさる。ルフィの気迫に圧(お)されたこともあるだろうが、それよりもナミ自身が長い間自分の村で已む無く甘んじてきた過去を指摘されたことに衝撃を受けたに違いない。
 ナミの、傷ついたような瞳からルフィは目をそらすとソウヤに向かって声を荒げた。
「こいつは何もしてないんだ!村を襲いたかった意思なんてこれっぽっちもなかったんだ。それなのになんで村にいられないんだ!ソウヤがしたことはそんなに悪いことか?海賊になりたい、そう思っただけじゃねぇか!」
 ルフィはここまで慟哭のように吼えると、くるりと体の向きを変えた。ナミが最初に教えてくれた「村への方角」を向く。
「だから、俺は村に行く。いいな、ソウヤ」
 言われたソウヤは両親を見つめた。それから、ソウヤの両親は騒動を前にして目を覚ましていた。ソウヤの目を見ると、こくりと頷いた。それは、ソウヤの思う通りにしなさい、という意味に取れた。ソウヤはそれを見て、ルフィに向かって声を上げた。
「ああ、ルフィ。俺はお前を信用する。村を傷つけるような海賊じゃないって、俺がまず一番に信用する。だから俺が村へ案内するよ」
「・・・」
 心配そうにナミはソウヤを見つめたが、ソウヤがそんなナミに安心させるように話し掛けた。
「心配してくれてありがとう、ナミさん。あなたもどうやらつらい思いをしてきたみたいだけど、今はその思い出から逃れられたんだろ?そして、それはほかでもないこの船長さんのお陰じゃないの?」
 ナミは、頷いた。ソウヤがそれを見て、安心したように笑った。
「だからね、俺もこの船長さんに賭けてみようと思うんだ。俺だけじゃどうしようもなかったんだけど、今俺だけじゃないなら、なんとかなるって」
「おーしっ!ソウヤ!それでこそ男ってもんだぜ!なぁに心配はいらない!俺たちの手にかかりゃぁこんなの屁みたいなもんだ。なぁチョッパー!」
「ああ!きっとソウヤは自分の居場所をみつけられるさ!」
「ヨォシっ!じゃあ、片付けも済んだところで、村に行くかぁ?」
 ぱんぱん、と片付けが終わったことを知らせるように手を叩くと、サンジはそう言った。サンジはなんと、ルフィから理由を聞き取った当たりからてきぱきとバーベキューセットの片付けやら皿の汚れを砂で落としたりだとかしていたらしい。すでに砂浜には分別されたごみ、片付いた食器、たたんだバーベキューセットがあった。たたんだバーベキューセットをサンジはルフィに手渡す。
「ほぉら、バーベキューセットお前が運べ!そんなに大声上げてまた腹ぁ減ったなんてなしだからな!」
「はっ、しまった!」
 ぐ〜〜〜きゅるるる。
「このバカっ!」
 ナミにまた一発拳を突かれて、ルフィがまた効かんっ!とふんぞり返る。それを見て笑う仲間たち。そしてソウヤもそんなルフィの姿を見て、笑っていた。
 村へと向かう息子と海賊たちを見ていたソウヤの両親は、ふと顔を見合わせ微笑んだ。
「ソウヤがあんなに笑うのを見るのは久しぶりねぇ」
「そうだな。あんなに笑ったのは海賊になりたいとはしゃいで海賊ごっこをしている頃以来じゃないか?」
「ずっと海賊に憧れて・・そしてあんな結果になってからはあの子は笑わなくなってしまったから」
 ソウヤの後姿が見えなくなると、彼らの声も遠く離れていく。その方向を見つめながら、両親は深く息をついた。
「これ以上悪くなることは無いさ。だったら、ここで勝負に出ても悪くは無い。それに、ソウヤが笑うことを思い出してくれただけでも――――十分さ」
 二人はそう言うと、支えあうように家に戻っていった。
 海の音が、さざめきが、引いては押し返していた。ざざぁん、ざざぁん、と。

 村は海岸沿いの小さな砂丘を越えて、小さな丘を登ったところにあった。島全体がそんなに広くは無いので、遠足気分で歩ける程度だった。
 ソウヤに案内されながら、サンジとゾロが目を光らせる。
「気づいたか?」
「ああ。監視されてるな・・」
 歩いてきた道は砂丘と丘へと上る道。その道なりは障害物がほとんど無く、きちんと整備されている。これは島に村がひとつしかないということを考えると、違和感を覚える事実だ。村が複数あるならば何らかの交流が生まれ、その道は踏み均され障害物は自然と取り除かれる。しかし、ここには交流する村も無く、また踏み均されるほど物資調達の船が来ている雰囲気もない。(港として整備されず、ルフィたちがその船を入り江に停泊させるしかなかったというのがその理由だ)
 それならば、なぜこの道は見晴らしよく均された道が作られたのか。
 村人が頻繁に利用する道ではないのにここまで整備される必要があるという理由は、もうひとつしか出てこない。村を出入りするものを監視しやすくするため、である。
「よく気づいたわね。褒めてあげる」
 軽快な脚が地に付くと、女がそう言った。ゾロとサンジが慌ててそちらを向くと、にこりと微笑んだ娘がいた。両腕にそれぞれ短刀が握られており、動くな、と目がそういっていた。
 ソウヤが振り返って、娘を見るなり叫んだ。
「深緋(ミヒ)!」
「誰だ?」
 ルフィがきょとんとした表情のままソウヤに尋ねると、ソウヤは早口でこう答えた。
「村の幼馴染みのミヒだ」
「ふーん」
 ミヒはソウヤが海賊相手に馴れ合っている様子を見て、あきれたように声を上げた。
「ソウヤ。あんたは懲りないのね。海賊に騙されやすい性格なのかしら?」
「この人たちは本当にミヒの言うような悪い海賊じゃないんだ!」
「あら、海賊の言うことなんて分かるもんですか。海賊なのよ?信じるか信じないかなんて、いうべくもないコトだわ。そんなことも分からないの?あんな目にあっても?ソウヤって本当にお莫迦ね」
 ナミがそんなミヒの言葉を聞いて、ぴくりと耳を動かした。ソウヤが何も言えず、黙り込んでいる。
「まあ、お莫迦さんは何度でも同じ間違いをするに決まってるんだもの。門番として役に立たないことなんて、最初から分かってたわ。だから、ソウヤに代わって言うわ。さぁ海賊さんたち、即刻この島を立ち去って頂戴」
「いやだ!」
 ルフィが吼える。ミヒが笑う。声高々に、あはははっと笑うと、ごめんなさい、言い方が悪かったわ、といった。
「お願いしているんじゃないの。命令しているのよ。あそこを見て」
 ミヒのキレイな指が一行の目指すべき村の方向を指した。そこには先ほどには無かった黒い大きな塊がどん、と構えている。大きな大砲のようだ。
「ミヒ・・っ!」
 喘ぐようにソウヤがミヒを呼んだ。ミヒは肩をすくめて、ひゅっと体を浮かせた。身軽な脚でととととっと兎のように原っぱを横切っていくと、あっというまに原っぱを囲む森へと姿を消した。
 それから、村からのやけに大きな声が一行の耳に届く。
「海賊ども!そして哀れなる過去の村人ソウヤよ。即刻ここから退け。命令に従わない場合はこの大砲を打ち鳴らす!破壊力は身を持って知るがいい!」
 村から聞こえるその声はそう言うと、がこん、と大砲の向きを変えた。ルフィたちが立つその場所へ向けて、威嚇するように静まった。
 ルフィは大砲を見ながら、腕を組む。隣に居るゾロに声をかける。
「どうする?」
「どうするかだと?そんなことはお前が決めろ。お前は船長で、お前がここに来ることを決めたんだろうが」
「あっ、そうか」
 ゾロとルフィがそんなことを話している後ろではナミが親指を顎に当てて考え込んでいる。サンジは落ち着きを払って煙草を吸っているし、ウソップはウソップで「総員退避だ!早く逃げろぉ!」といえば、チョッパーがぎゃぁぁぁ!と喚きながら逃げ惑っている。
 そんな海賊の様子を見て、こんな状態なのにソウヤはなんだか笑い出したくなる不思議な気分になる。この海賊たちの奔放さに憧れて、そして、羨んで笑いたくなるのだ。
 そんなソウヤをナミが見上げた。ナミがソウヤに何か一言言うと、ソウヤは驚いた顔をした。
 そんな中、村からの怒号が届く。うろたえはするものの逃げようともしない海賊たちに苛ついたようだ。
「きさまら聞こえなかったのか!もう一度言うぞ!即刻ここから退け。命令に従わない場合は・・・・・こ、こら・・!!」
 村から聞こえる大きな声が途中から、慌てた声に変わった。ルフィが訝しげな顔をしながら後ろを見ると、後ろではナミがソウヤを羽交い絞めにしつつ首に天候棒(クリマタクト)を押し付けていた。ソウヤはすでに苦しげな顔をしている。
「ナミ?!おいっ!!なにやってんだ!!」
「取引よ。私たちが村に向かっている理由を思い出して!」
 ナミが静かにそう言う。ゾロが憎憎しげにナミを見つめ、サンジは煙草をくゆらせたまま村の様子をうかがっている。チョッパーはわぁわぁと大騒ぎで走り回っているし、ウソップはナミを落ち着かせるように、落ち着け!と繰り返している。
「村に行く理由なんて・・」
 ナミのすることが理解できない。ルフィは歯痒い気持ちを押しつぶすようにぐっと拳を握り締める。
「チョッパー!ここの村でしか取れない薬の名前は!」
「ベリースノウだ!」
 ナミに大声で怒鳴られて、チョッパーは反射的に立ち止まると直立してナミにそう答えた。
「そうよ。そのベリースノウとソウヤを交換よ!聞こえる?ミヒ!」
 森に一度消えたミヒが、のろのろと現れた。青い顔をしたまま、ナミをにらみつけている。
「さぁ、ミヒ。ソウヤを助けたかったら案内して頂戴。悪いけど今度はこちらが命令させてもらうわよ」
 ぎりっと歯噛みするミヒは恐ろしいほどの形相でナミを睨みつると、くるっと体を反転させた。ついてこい、と背中が言っている。
「さ、行きましょう」
 ナミがソウヤを羽交い絞めにしたまま進む。
 仲間たちはそのナミの背中を見つめながら歩き出した。
 ルフィは一人、ナミの背中を見つめ、理解できない苦しさに耐えていた。











■To Be Continued...


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