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【ONE PEACE】ベリースノウ<4> |
| ■ベリースノウ<4> |
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作成日[2004/2/13] 森に入ってからはずっと獣道が続いている。ぼうぼうに生えた草が目をついたり、鼻を突いたりでせわしない。嵐が通り過ぎた後の水を含んだ土が足元を危うくさせ、更には枯葉のせいで余計に滑る。そんな中をしばらくそのまま歩きつづけていると、一つの社(やしろ)がぽつんと、現れた。 「なんだ?これ?」 チョッパーが興味を持ったか、声を上げた。不思議な赤い囲いのようなものが、うっそうとした影で覆う森の中にひときわ目立っていた。 「神庫(ほくら)。神様を奉っている。赤いのは鳥居」 きわめて事務的な声でミヒが答えた。ミヒの抑揚のない声に、チョッパーが怯えてウソップの足を掴む。滑りやすいことこの上ないこの山道で足をつかまれたウソップは危うく転びそうになった。ウソップはなんとかそれを凌ぎはしたが。 「神様?神様が住んでるのか?」 怪訝な表情でルフィがそう言った。ミヒはうるさそうに返事をした。 「そうよ」 返事をすると、ミヒはまた黙々と山道を上がっていく。ナミはソウヤを後ろから威圧しながら歩いている。歩くのだけでもなかなか神経を使う。 その途中、ひどい傾斜で上った先が死角になるところがあった。ナミが一人でも上るのが大変そうな傾斜で、ソウヤを見ながらではとても上りきれない。そう思った瞬間、ナミの手の力が緩んでいた。 パシッと音がしたと思ったら、手から天候棒が落ちていた。慌てて拾い上げようとしたところで、ソウヤがぐいと別の方に引っ張られていく。あっと思って手を延ばしてももう遅い。ソウヤの身柄はいつのまにかミヒの手元にあった。ソウヤの首をぐいと腕で固定している。ナミよりも手馴れたよう人質を扱うミヒを、ナミは信じられないような瞳で見つめた。 「形勢逆転ね。あなたたちって結構間抜けね。それでグランドラインに来れたなんて滑稽だわ。運が良かったのね」 ミヒが笑う。蔑んだ笑いを浮かべている。ミヒの手には2,3本の先のとがった小棒を指にはさんでいた。おそらくナミの手を襲ったのはあの飛び道具なのだろう。 「ソウヤをどうするんだ!幼馴染みなんだろ!」 ルフィがミヒのソウヤに対する扱いに堪らず声を上げたが、ミヒは眉を顰めルフィを見やった。 「幼馴染み?ですって?そんなこと言ったの?コイツ」 ぐい、とさらに腕の力をこめたミヒに、為す術もなくソウヤは首をしめられる。顔色が苦しみに赤く、それから青く染まり始める。 「誰が幼馴染みですって?そんなわけないじゃないの。こんな情けなくて肝っ玉の据わらないヤツ、幼馴染みなわけないわ。それに・・」 「・・・!」 ソウヤは何を言われるのかを反射的に察知したのか、ミヒの腕に首を締められたままぐっと目を閉じた。 「親の仇である海賊に馴れ合うようなヤツが幼馴染みでたまるか!」 あきらかな怒号が森を揺らす。ミヒの悲しみとも怒りともつかない悲鳴のような怒号が、森だけにはとどまらず、海賊一味たちの心を揺らした。そこにはっきり痛みとして、彼らの心を掴んでは離さない。 「もう、いいでしょう。このソウヤの生活を、これ以上荒んだものにしたくなかったら、帰って」 「どういう意味だ?」 ゾロが聞き捨てならねぇな、という表情でミヒに問う。ミヒはゾロを睨みつけると、 「ソウヤをこの島から追い出す事だってできるって言ってるのよ」 「ひでぇ・・」 ウソップが思わず言葉に出すと、ミヒがぎろっとウソップを睨みつけた。 「ひどいなんてよく言えたものだわ。人の命をも奪う海賊が何を言うのよ!何の権利があってそんなことができるの!」 ミヒはソウヤを掴む腕とは逆の腕に短剣を持ち、その剣を一人一人に向けながら言う。 「海賊をあがめる子供たちがごまんといることは知ってるわ。派手で楽しそうだからってね。お宝を探す旅?一攫千金当てれば億万長者?未来永劫の幸せ?でも、その夢見る子供たちがどれくらいあなたたち実態を知ってるというの。例えばあなたたちの実態を知ったとして・・本当にあなたたちはあがめられるような人種かしら・・?」 ミヒが悔しそうな顔をしている。そうかと思えば、いや、笑っている?悲しそうに笑っている・・? 「そうね、たとえば、眼光の強いあなた、あなたはどれだけの人を切って進むの?未だ生を求める者の血を浴びて、何を望むの?そこの女、その美貌とスタイルでどれだけの人を騙してきたの?そこにいる体の細いあなたは内なる闘魂をほとばしらせて何を望むの?そして、見るからに優しそうなあなたは何故ここにいるの?鼻の長いあなたはひどいと言いつつ自分がどの位置に立って何をしているのかわかっているの?そして、船長」 鋭く、冷たいほどに輝く刃が、ぴたりとルフィに向けられる。 「人を束ねて自分の我儘に世界を脅かして何が楽しいの?」 「このッ・・!」 ゾロが剣を抜こうとするのを、ルフィが止めた。無言で、ただ腕を上げただけ。それだけでゾロの動きはぴたりと止まる。 「ゾロ。待ってくれ」 「ルフィ。俺は・・」 「分かってる。俺はそんなお前じゃないってわかってる。みんなのことも分かってる。お前らが俺の我儘なんかに付き合ってくれてるなんて思っても無いことも、わかってる。だから、待て」 ルフィの言葉に、ゾロが抜きかけた刀を元の鞘に戻す。ルフィはミヒに向き合うと、一度頭を掻いてから、言葉を探すように話を始めた。 「お前の言う、海賊っていうのが、どれだけ豪胆で、どれだけ凶暴で、残忍だったか、俺はわかる気がする。確かにこの海にはそういうやつらが溢れてることも俺は知ってる」 「だからって自分たちはそうじゃないなんて、莫迦みたいな屁理屈を言わないで頂戴ね」 ルフィの顔も見ずにミヒがそう言うと、ルフィがあんぐりと口を上げた。 「す、すげぇな。お前なんかの能力者か??」 「アンタが莫迦なだけよッッ!!」 ミヒが激しく顔を怒らせてルフィにツッコんだ。ルフィがすでにしおしお負けを認めたようにナミを見つめる。 (言葉の応酬には全く頼りにならないったら・・) 今度はナミが一歩前に出て腕を組むと、ミヒに向き合う。 「アンタはそうやって知りもしない私たちのことを蔑むけど、逆に聞くわ。アンタにどんな権利があってそんなこと言ってる訳?両親を殺された娘っていうのは人を蔑む権利があるっていうの?」 ぐっと詰まったようにミヒが身じろいだ。そして、その隙を突いて、ナミが手を伸ばし、短剣をもった腕を掴むとそのままその短剣をソウヤの首筋に当てさせた。 「あとね、できもしないこと言うもんじゃないわよ。荒んだ生活にするだの、島から追い出すだの言わないで、最初からこうしなかったのは何故?」 「・・っ・・!」 呆れた様にナミがその手を離すと、ミヒははじかれたように短剣をソウヤから離した。それからすぐにミヒは気を取り直して短剣をナミに向ける。たいした精神力だ。右腕で押さえ込んだソウヤはまだそのままにしている。当のソウヤはすでに気を失っているというのに。 ナミはその刃の切っ先を寸分も気にしていないかのように、ため息をついた。 「海賊は私もキライ。私の母を殺したからね」 ミヒが信じられないような目でナミを見つめる。ナミは少し、ミヒを同情するように寂しげな笑みを見せた。 「でも助けられちゃったから。海賊に。・・違うわ。この船長に」 ぽん、とナミが今しがた助けを求められた船長の肩を叩いた。ルフィはきょとんとしたまま、ナミを見つめる。 「海賊っていう人種がいるわけじゃないのよ。人は一人一人夢を携えて生きているだけ。ただ、それだけなの。中には豪胆で凶暴で手のつけられない暴れ者がいるとしても、それは海賊だから、じゃないの。だって、あなたの村にもそれくらいの暴れん坊はいるはずでしょう。人を殺めるかどうかは別にして」 ミヒの手が震えている。負けてしまうのを怖れて、ミヒの手が震えている。ナミにでなく、どちらかといえば自分の意思が、信念が崩されたような気がして、ミヒは怖いのだ。 「信じて欲しいのは、ソウヤは決してそんな豪胆で凶暴な海賊に憧れたんじゃないってこと。ただ、夢を追いたくて追いたくて、ただそれだけだったということ・・」 「ソウヤ、それを今、証明してみろ!」 突拍子もなくルフィがそういうと、ソウヤがいつから目がさめていたのか、素早くミヒの腕をするりと抜けて、ミヒの腕を逆手に取り動きを封じる。ミヒが驚く間もなく、ソウヤはミヒの背後で腕を掴んでいた。 「・・ソウヤ・・・あんた!?」 「悪い、ミヒ。だますつもりじゃないかったけど・・」 ソウヤはふっと力を抜いてミヒを解放した。すかさずミヒはざざっと後ずさりしてソウヤと間合いを取る。 「俺だってずっと鍛えてたんだ。海賊になりたい、海賊になりたい、って思って、あんな目にあってもやっぱり憧れてて、棄て切れなかったんだ・・どうしても・・どうしても!!」 身を切るような切実な願いが木霊する。ミヒが、ソウヤを見つめている。まっすぐな目で、嘲りも蔑みも無い、まっすぐな瞳で。 「だから・・」 ソウヤが何か言いかけるのに、ミヒはくるりと背を向けた。 「ベリースノウ、だったわね」 「は?」 唐突なミヒの反応の変化についていけず、海賊一味が取り残されたように声を上げた。ソウヤがくっと笑う。 「そこ笑うところか?」 ウソップが怪訝な顔でソウヤに聞くと、ソウヤが笑ってこう言った。 「ミヒは負けを認めたんだ。だから顔を見せない。昔からそうだった。ずっとな・・」 ソウヤがミヒを追うように脚を走らせる。仲間たちもそれについていった。 山道をミヒは素早い脚でどんどん進んでいく。その脚はやはり兎のように跳躍を含んだ走りを見せていて、はたから見ると華麗なものだった。 その脚を海賊たちは何とか追いながら、ついた先は小さな洞窟の入り口だった。 「すべるから、気をつけて」 ミヒはそれだけ言うと、先にすたすたと歩いていってしまう。ソウヤはもう一度海賊たちに気をつけて、と声をかけて前に進んでいった。 「な、なんだ!?ここは!」 「うひゃぁ!すげぇ」 ウソップとサンジがまず歓声を上げた。無理も無い。洞窟の中なのにそこはほんのりと光が白くあふれていた。洞窟の天井といわず、左右といわず全ての面を埋め尽くすように自生しているらしいその草は白い茎に白い葉、白い綿のような実をもち、しかもその草はなぜか光を放つ不思議な植物らしかった。 「これが・・ベリースノウ・・。なんだか由来が聞かなくてもわかるわね・・」 きれいだわ、と付け足しながら、ナミが光にあふれた洞窟を見て微笑んだ。 「食べれるか?」 これまでの騒動でお腹が減ったのか、ルフィがひとつ実をつまもうとしたところを、慌ててチョッパーが止めた。 「駄目だぞ!ルフィ!これは食べ物じゃない!」 「違うのかー。ちぇー。いいや、俺肉で」 「さっきあれだけ食って、まだ食うのか」 ゾロが呆れたようにルフィにそう言った。 「どれだけ欲しいの?」 ミヒがそう聞くと、ルフィは首を傾げた。 「なぁチョッパー。どれだけいるんだ?たくさんか?」 「そんなにいるもんか。実が3つあればいいよ」 もらっていいか?とミヒにたずねるチョッパーにミヒは唖然とする。 「何・・?もっとたくさんもっていってお金にするんじゃないの?」 「おかねっ?!」 ナミがすかさず反応するが、そこはウソップが反応すんな、とツッコんでおく。ミヒはそんなナミを見てから、ぽつりと話す。 「ベリースノーの葉は実は麻薬なの。だから、闇取引なんかでは何千万の単位で取引されるものなのよ。でも、その葉じゃなくて実が欲しいの?」 ミヒは実を摘み終わったチョッパーに尋ねると、チョッパーはかばんにしまいながらミヒにその用途を話した。 「ああ、これは一度天火に干してから薬箱と一緒に入れておくと乾燥させる効果があって、薬をだめにしないように防ぐ働きがあるんだ。海は常に湿度があるから、あると助かるんだ。基本的に天火に干せば何度でも使えるから、3個で十分だよ」 「そんな使い方をするものなんだ・・!」 ミヒの驚きに、チョッパーは逆に驚いたように目を瞬かせた。 「じゃあ、ホントの由来も知らないのか?ベリースノウの」 「え?」 「それって、見ての通り雪景色のように見える草だからじゃないの?」 ナミもその由来については知りたいらしくチョッパーに聞いてみると、チョッパーが違うよ、と笑う。 「それは後でつけられた名前。麻薬目的で草をやっとの思いで見つけた闇商人たちが、すばらしき雪景色だ!って叫んだことからっていわれてるけど、最初は麻薬だと知られる前は今話したみたいな乾燥させる効果にしか人の目は行ってなかったんだ。それで、この実の部分だけど、白い毛みたいなもので覆われててそれを剥いてやると・・」 ためしにチョッパーはひとつを剥いてみせる。そしてそこに現れたのは・・真っ白いイチゴのような実だった。 「雪いちご。スノウベリーが正式なんだ。そこから転じてベリースノウって言われ始めたのがその由来」 海賊一味とミヒ、ソウヤはチョッパーの説明を聞いて、納得したように顔を見合わせた。 「すごいわ!チョッパー」 「お前ほんとすげーな!」 仲間たちから、それから島の者から褒め言葉を浴びせかけられて、チョッパーはいつものように困ったような嬉しいような顔をして叫んだ。 「そんなの褒められたってちっとも嬉しくねーや!!」 仲間たちはそのいつものチョッパーの照れ隠しに笑い声をとどろかせ、島の者もチョッパーの可愛らしさに声を上げて笑った。 「ソウヤ、一緒に来ないのか」 入り江に停泊させた船の前で、ソウヤは海賊たちを見送りに着ていた。ルフィが残念そうに声を上げたとき、ソウヤはその言葉を嬉しそうに受け止めていた。 「ありがとう、ルフィ。でも、俺、海賊も好きだけど、この村も好きだから」 「村もいいよな。俺の育った村もいい村なんだ!」 ルフィは懐かしい故郷を思い出したのか、嬉しそうに顔をほころばせた。ソウヤがそれを聞いて、うん、そうだろうね、と頷いた。 「でも、結局解決にならなかったんじゃない?大丈夫なの?」 ナミが心配するようにソウヤにそう言うと、ソウヤは実はね、と話し始めた。 「今更なんだけど僕が思うに、俺は村に居てもつらいだけだと判断したんだと思うんだ。ミヒは」 「ミヒがソウヤを追放したの?」 驚いたようにナミがそういうと、ソウヤはうん、と頷いた。 「ミヒは、今の村の長なんだ。ミヒの父さんが長をやってて、しかもあのベリースノウは長が管理するものだからね」 「そうなのかー」 ルフィはいまいち分かってるような、わかってないような返事をした。 「それで・・ミヒは多分、村人たちに恨まれて俺たち家族が追い込まれるのを分かってたのかもしれない。だからとりあえずほとぼりが冷めるまで村を追放したんじゃないかって・・」 「ソウヤがそう思うんならそれでいいさ。それにそうだったら、またいつか村に戻れるってことだもんな!」 ルフィが元気付けるようにそう言う。それにソウヤが強く頷く。 「だから、それ信じて待ってる。村のみんなが許してくれるまで、俺は待つよ」 ルフィがごめん、と唐突にそう言った。 「え?」 「俺、なんもできなかったから」 ルフィの素直さに、ソウヤは笑う。 「まさか、十分大事なもの貰ったよ。海賊のすばらしさ、教えてくれたじゃないか」 「スバラシさ?」 ルフィは首を傾げた。どう考えても自分がそんなものを教えた覚えが無いのだ。首を傾げたところで、ナミがルフィの耳を掴んでルフィを呼んだ。 「さ、出航するわよ!船長!」 「あ、いていて。ナミ自分で歩く。歩くから引っ張るなっ・・!」 「じゃーね、ソウヤ!元気でね!」 ナミはルフィをぞんざいに扱いながら船へと引っ張っていった。船上ではみんな出航の準備に忙しく立ち回っているのがソウヤの目に入ってくる。羨ましさのあふれた瞳に、涙がこぼれそうになるのをソウヤはなんとか堪えた。 「またな〜!ソウヤ!」 「元気でな!」 「ミヒなんかに負けんなよー!!」 ウソップの言葉に反応するように、ひとつの人影が現れた。 「一緒に行きたいって、素直にいえないのね。ソウヤ」 「ミヒ!?」 ソウヤがミヒの姿を見て驚き、同様に船上でソウヤに別れを告げようとしていた海賊たちも驚いたように目を見張った。 「ミヒだ!あいついいやつじゃん、見送りしてくれるなんてよー!」 「馬鹿。なんか用があったんだろ?」 ルフィが驚きながら喜ぶのに、ゾロがそっけなく応答する。そのゾロの声が聞こえたのか、ミヒの声がその通りよ!という声が空に響き渡った。 「あなたたち海賊に伝えたいことがあるの。私は村で今回の騒動について報告をしました。そして、あなたたちがここから持ち出したものはベリースノウ、もといスノウベリー3つのみということ。そして、海賊たちがソウヤの暮らしをよりよくするために今回の騒動を起こしたということを集会を開いて報告しました。前の海賊の事件で私たちの心が荒み、人を疑い、蔑むことしか出来なかったことを長として私自身が深く反省したと」 「・・ミヒ・・」 ソウヤはミヒを見つめると、ミヒが安心するように微笑みかけた。 「ソウヤは、近いうちに村に戻るでしょう。そして、あなたたちのような海賊がいたことを、私たちは生涯忘れないでしょう。改めて御礼を言います!ありがとう!」 順風満帆の風に、抜けるような青い空。 海賊たちの心をまた一つ成長させて、船は再び道なき航海を進む。 ■END |