反転宝珠、再び
「ただいま帰た。ひいばあちゃん?」
標準的な日本語のイントネーションとは違うおかしな発音で、出前から帰ってきた娘がそう言った。声の主は猫飯店の看板娘ことシャンプーだった。
すでに夕暮れは過ぎて星が輝きはじめている。シャンプーはおかもちをカウンターに置くと、すでに椅子が上げられていて店内を見回した。どうやら店主であるシャンプーの曾祖母がきれいに掃除をしたあとらしかった。
「あいや、どこいったか?ひいばあちゃん?」
「どうした、シャンプー」
シャンプーの曾祖母コロンが杖に乗った状態でひらりと現れる。シャンプーはコロンを見てにっこり微笑んだ。
「今から乱馬の家、行ってきていいか?」
コロンがいたのに安心したのか、シャンプーはおかもちから丼を取り出すと、洗い始めた。コロンはそんなシャンプーの傍らに杖で立つと、そりゃかまわんが、と言う。
「それと、お願いがあるね」
手早く洗い上げた丼を布巾できれいに拭く。それから、湯を沸かし始めると、木箱に入った麺を一束取り上げて網に入れた。
手慣れたシャンプーの手さばきを眺めつつ、コロンは不思議そうにこう言った。
「なんじゃ、願いとやらを言うてみい」
シャンプーは嬉しそうに笑うと、
「反転宝珠、貸して欲しいね」
と言う。反転宝珠とはコロンが持っていた宝飾品の一つで、一見なんの変哲もないブローチなのであるが、実は大違い。ブローチに掘り込まれた絵柄を正位置に身に着けると心にある愛情が倍増し、逆位置に身に着けると心にある愛情は憎しみへと反転するのだ。
以前、そのブローチの効力を知らずシャンプーが逆位置につけてしまったために乱馬への想いが全く逆になってしまい、乱馬はそのことに業を煮やして大騒ぎになったことがあった。
そんなブローチの存在をすでに知る乱馬に同じ手が通用するとは思えない。シャンプーの思惑がさっぱりわからず、コロンは眉をひそめた。
「そんなもの何に使うのじゃ?」
口ではそう言ったものの、コロンは懐を探ると一つのブローチを取り出す。反転宝珠だ。それを見て、シャンプーは満足そうに微笑むと、麺を湯の中に入れる。ぐつぐつの煮立つ鍋の中で細い蕎麦麺が乱舞するのを待つ傍ら、丼にスープを入れる。
「逆位置にしてあかねにつけるね」
「あかねに?」
コロンはほほう、と面白そうにうなずいてみせる。
シャンプーは湯だった麺を鍋から上げるとスープの入った丼に入れる。チャーシューを何枚も乗せたメニューにはない特別製チャーシュー麺が出来上がる。
「これは乱馬の分ね」
得意そうにシャンプーはそう言うと、早速おかもちに丼を入れる。コロンからその反転宝珠を受け取り、行ってくるね!と張り切って店を出て行った。
コロンは面白いことになりそうじゃな、とキセルを吹かした。
空に輝く星たちは、そんな二人の思惑を楽しむようにきらめいている。
「待ちやがれくそ親父ーっ!」
「くそだけ余計だ馬鹿息子っ!」
天道家の夕べの食卓はいつも通りにぎやかに繰り広げられていた。居候の乱馬がおかずをとられた父親を追いかけて、庭中を駆け回っているのだ。その他天道家の人々は止める言葉も無駄だと知って、そ知らぬ顔で食事を続けている。
「かすみ、醤油取って」
「はい、お父さん」
長女かすみが手近にあった醤油注し(さし)を父親の早雲に手渡す。次女なびきは中央に大皿で盛られたお芋の煮っ転がしを箸でつつく。
「ごちそうさま」
終始呆れたような表情でご飯を食べていた三女あかねが、そう言って立ち上がった。名ばかりとはいえ、許婚である乱馬の醜態に呆れて言葉も出ないのだった。
「あら、もういいの?あかね」
母親のいない天道家の家事一切を取り仕切るかすみが、立ち上がったあかねを見上げてそう尋ねる。
「うん、もういらない」
ちらりとも乱馬の方を見ようともせず、あかねは自分の部屋へ戻ろうとしたときだった。
「ニーハオ!乱馬ー!」
自転車のまま天道家の塀の上を走ってくるのは、言わずと知れたお騒がせ娘シャンプーだった。
ばっと自転車から飛び上がると、乱馬の首っ玉にしがみついてくる。それは頬擦りせんばかりの勢いだ。おかげで乱馬は玄馬を追いかけることができなくなってしまった。
しかし、玄馬自身も乗り捨てられた自転車にうまいことぶつかり、池にはまってパンダになっていた。
ばしゃーん、という音を背後に、すりすりと乱馬に掴まるシャンプー。乱馬がそれに驚きの声を上げる。
「うあっ?シャンプー!?」
そのとき、後頭部に大きな石がごぉんと鈍い音を立ててぶつかってきた。あまりの衝撃に耐えかねて、乱馬が一瞬気を失う。
「シャンプー!何しにきたのよ!」
いきり立ったように庭に出てきて、あかねがそう叫ぶ。どうやらさっきの石はあかねから放たれたものらしかった。
「私乱馬にラーメン届けに来ただけ。あかね関係ないね」
そっけなくシャンプーはそう言うと、さっとおかもちから丼を取り出す。
「乱馬、足りないならうち来るよろし。いくらでも私が作ってあげるね」
後頭部を擦りながら、乱馬が丼を見つめる。
「おーっ、チャーシュー麺じゃん。ありがたくいただくぜ!シャンプー」
玄馬におかずを取られて追いかけていたおかげで、ちゃぶ台に乗っている食べ物はもうない。乱馬は割り箸をぱきっと景気よく鳴らすと、おいしそうに麺をすすり始めた。
「それはそうとあかね」
縁側でチャーシュー麺を啜る乱馬の隣に腰掛けたシャンプーが不意に、あかねを振り返った。あかねは不機嫌そうになによ、と睨み返す。
緊迫した睨み合いの中、ギャラリーは乱馬を巡ってひと暴れでもしかねない二人を期待と不安に満ちた眼差しで見つめている。
と、拍子抜けするほど明るい声でシャンプーがこう言った。
「あかね、肩に埃が♪」
「えっ、どこどこ?」
チャンスとばかりに目を光らせたシャンプーは、素早くあかねの肩に手を伸ばす。もう少しであかねに触れようとした瞬間。
ひゅっ!
割り箸がシャンプーの腕に目掛けて飛んできた。弾かれたようにシャンプーの腕はそれを避けたが、うっかり手にもっていたブローチが落ちてしまう。シャンプーはそれを慌てて拾うと、にこっと笑いながら再見っ!と塀を蹴破って出て行った。
乱馬が胡座をかいた足に肘をついて、シャンプーのその様子を見送った。
シャンプーが出て行った後、しばらく誰も口を開かなかった。塀が穿たれたおかげでさらに風通しがよくなった庭に、一陣の風が通り過ぎただけだった。
しかし、乱馬はそんな空気をものともせず、開口一番こう言った。
「ったく、鈍いんだからよー」
あかねがむっとして乱馬に振り返る。
「何よ!あれくらい避けられたわよ!」
「どうかな?あかねは不器用だからな」
「不器用で悪かったわね!」
ふんっ、とあかねは乱馬から目をそらすと、つっかけを脱いで自分の部屋へと戻っていった。
乱馬は丼に残ったスープをぢゅるると飲み込んでから、ぷはっと息をつく。
「シャンプーのやつ、何するつもりだったんだ?」
乱馬は池の辺りまで出て腕を組みながらそう言うと、後ろからなびきが声をかける。
「あれって反転宝珠じゃない?」
「反転宝珠?」
「あら、アンタ忘れちゃったの?」
なびきは目を楽しそうに輝かせながら、乱馬にそう言った。乱馬は言われて、はっとそのブローチと効力を思い出した。
「逆位置にでもして、あかねに着けようとしたのかしらね。ま、でもつけようとつけまいと、あまり変わらない気がするけど」
もともと乱馬に対して冷たくあしらうあかねである。今更、反転宝珠が逆位置につけられたところで、それは変わる筈ないのは確かに事実だろう。
「なーんでぃ、そんなことか」
乱馬はすっかり安心してふっと空を見上げた。
「あかねに嫌われたってどーってことねーもんな。ほっとこほっとこ。わははは」
すっかり上機嫌になって笑う乱馬に、かすみが心配そうに声をかける。
「乱馬くん、そんな事を大声で言うと・・」
ぐしゃっ
「あかねに怒られるわよ」
「惜しい、お姉ちゃん。もうちょっと早かったらよかったのに」
なびきが乱馬の方を見てそう言う。
乱馬はあかねの部屋から投げつけられた椅子が見事に命中して、失神していた。
翌日、慌てて家を出る乱馬とあかねの姿があった。乱馬がたっぷり寝坊をしたおかげで遅刻寸前の有様なのだった。
「ったく!なんだってそうあんたは落ち着きないのよ!」
「るせー!お前だって寝坊したんだろうが」
「失礼ねっ、あんたほどじゃないわよ!」
仲良く(?)口論をしながら、乱馬とあかねは通学路を蹴り立てて急ぐ。あたりに風林館高校の生徒の人影はなく、かなりまずい時間のようだ。
「遅刻者撲滅週間で、遅刻者はトイレ掃除なのよ!遅刻したら乱馬のせいだからね!」
「なんで俺のせいなんだよ」
むっとしたようにフェンスの上を走る乱馬があかねを見下ろしたとき、ちょうど正面からパイナップルが投げつけれられた。
どぉんっという爆発音を鳴らして、パイナップル爆弾が爆発する。煙と爆風にあおられて、二人は身をかばう姿勢をとった。
「HAHAHAHA−!遅刻なさーい!」
「校長!」
アロハシャツに花飾りをつけたハワイ帰りの色黒校長が乱馬たちの前に立ちはだかる。
「邪魔すんな!」
乱馬はばねのようにしならせながら体を飛び上がらせると、校長に殴りかかる。あかねは校長を乱馬に任せることにしたのか、殴りあう二人を眺めている。
「うぉのれ悪の校長!」
木刀を振り回しながらこの厄介な状況にまた厄介な人物が現れる。九能帯刀だ。
「でぇい!」
校長と喚いておきながら、九能の木刀の振り下ろし先は乱馬だった。乱馬はすでにそれも予想済み、といわんばかりにさらりとかわすと、くるりと足を振り上げて後ろから九能の体ごと校長にぶつける。
がちぃんと二人がぶつかり合って道路の真ん中にくず折れる。乱馬はすとっと再びフェンスの上に降り立った。
「一丁上がり」
乱馬がにっと笑いながら二人を見下ろす。あかねがそれを見て、乱馬をせかした。
「急ぐわよ、乱馬」
「おう」
勢いよく乱馬が走り出そうとした。その後ろでか細い猫の声がする。
みー・・
ぎくっとして、乱馬は振り返るとすぐ後ろに猫の姿になったシャンプーがいるのである。呪泉郷の猫溺泉に落ちたシャンプーは水を被ると猫になる体質なのだ。
「ね・・ね゛ご・・!」
乱馬は顔面蒼白になって目を見開いた。猫は乱馬の唯一の弱点。猫の前だと腰も砕けん勢いで震えが始まり、顔はぐしゃぐしゃの泣き顔になってしまうのだ。
猫姿のシャンプーにあかねはいぶかしげな表情をする。乱馬の前に現れるとき、シャンプーは故意的に猫になったりしない。逃げられることがわかっているからだ。
「シャンプー・・あんた何を考えて・・」
あかねが睨むように問いただそうとして近づくと、乱馬のほうはとうとう恐怖の糸が切れたかのように、喚きながら逃げようとした。が、振返り様あかねと衝突し、あかねはそれに気をとられて一瞬隙が生じた。
昨日のシャンプーと同じに、猫の瞳が輝いた。
しゅっと猫はあかねに飛び掛ると、反転宝珠を逆位置に着けてしまったのだ。
乱馬がぶつかったままのあかねは、そのブローチの効力に乗っ取られた。泣きべそ状態の乱馬をぐいと引き離すと、目にもとまらぬスピードの往復ビンタをお見舞いする。それから頭から手で押さえつけて、ぐしゃっと乱馬の頭を地に沈めた。
「触んないでよ!変態!」
あかねはそれだけ言うと、ふんっと冷たい視線を投げかけながら一人学校に向かって走り始める。
乱馬は頬の痛みに目を回したまま、そこにとり残された。傍らで猫が満足そうににゃあと鳴いた。
「で?乱馬くん。あかねに嫌われてもいいんじゃなかったっけ」
ぼろ雑巾のようになり果てた乱馬は放課後、なびきに誘われてパーラーに足を運んだ。姿はすでに女の姿になっていて、パーラーに足を運ぶのに支障はない。
「嫌われるのはかまわねーけど、身が持たん」
パフェをがっつきながら、乱馬はそう言う。
「ま、その様子じゃそのようね」
プリンアラモードを口に運びながら、なびきはすましたようにそう言った。
「で、話ってなんだよ」
「なんとかしてあげようかと思って」にっこり笑いながらなびき。
「ふっ、その手はくわねえよ」
パフェを素早く食べ終わった乱馬がすっくと立ち上がりながら笑う。
「あのブローチを取り上げさえすりゃいいんだろうが。なびきの金づるにはならねぇからな」
乱馬はそれだけ言うと立ち去ろうとした。なびきはふう、と吐息をつくと乱馬にこう言う。
「乱馬君、それならいいけど・・」
なびきは請求書をぴらぴらと見せながらこう言った。
「自分のパフェ代くらい、置いていきなさいね」
「ちっ」
乱馬はなびきを睨みつけながら、ポケットの中の五百円をなびきの手の中に落とした。「消費税は貸しにしとくわ」
「守銭奴」
ぎりぎりと恨めしそうに乱馬がなびきにそう言うが、なびきは動じない。領収書をもってカウンターに歩きながら、乱馬にこういい捨てた。
「しっかり者と言って欲しいわね」
そして、家に戻った乱馬は男の姿に戻った後、あかねの隙をうかがって何度も何度も反転宝珠の強奪に挑戦した。しかし、なまじあかねも武道を嗜みがあるために、事はそう簡単には済まない。
しかも、反転宝珠の効力のおかげで、嫌いになってしまった乱馬の気配さえもあかねは許さない。半径五メートル以内になれば率先してあかねの方から攻撃を仕掛けてくるのである。これでは隙をうかがう暇もない。
「しつっこいわね!あんたも!近づかないでよ、大嫌い!」
どばきぃっと拳を振り上げて、あかねが乱馬を空へと飛ばす。すでに何度も乱馬を飛ばしているおかげで道場の屋根は、あちこちに穴があいていた。
どしゃっとぼろぼろになって落ちてきた乱馬を見て、あかねがふんっと鼻を鳴らし道場を出ようとする。
「待てよ。・・あかね」
ぐぐっと肩に力を入れて乱馬が立ち上がる。あかねは蔑むようにその姿を見て、まだやる気?と言う。
「絶対・・元に戻してやるからな」
乱馬はぐっと顔を上げてあかねを見るとそう言った。あかねは一瞬その乱馬の眼差しにひるむ。
「・・・何いってんの?あんた」
そこに、唐突にシャンプーが道場に乗り込んでくる。出入り口でもない壁を突貫して、シャンプーは乱馬に飛びかかった。
「ニーハオ乱馬ー!あかねはもう乱馬の許婚関係ないね!デートでもしにいくある!」
ぎゅっとシャンプーが乱馬を抱きしめる。
と同時に、乱馬の後頭部にあかねの蹴りが入った。
ごぉん、と鈍い痛みが走った後、乱馬があかねに文句を言う。
「てめぇは・・あんだけ人を殴っておいてまだヤキモチ妬くのか?!」
「・・何よ。そんなんじゃないわよ」
乱馬を蹴りつけた状態のまま、あかねは文句を言う。
「じゃあ、これはなんだ」
乱馬は蹴りつけられた足を指差しながら、あかねに問う。あかねはふん、と息を吐いてもっともらしくこう言う。
「嫌いなやつを蹴りつけて何が悪いって言うのよ」
そんな二人を見て、いつのまにか道場に集まった天道家の面々がさわさわと囁く。
「条件反射ね」
ぎゅっとスナックの空き袋を握り締めてなびきがつぶやく。
「あかね、自分の本当の姿を覚えているのね・・」
かすみがそっと涙を拭きながらそう言った。早雲がそれを聞いて、うんうん、と涙ぐんでいる。傍らではなんの反応もないパンダ。
「あのなぁっ!妬くか殴るか嫌うかどれかにしろよなっ!全く可愛くねぇ!」
「あんたに何でそんなこと言われなきゃなんないのよ!」
「うるせぇ!もーぉ我慢ならねぇ!」
すっかり頭に血が上ったのか、抱きしめられたシャンプーをそのまま乱馬は水を被る。傍にしっかりと掴まっていたシャンプーにもその水をひっ被られ、乱馬は女に、シャンプーは猫に変身する。
「ぎゃぁああ!ねごーー!」
乱馬が悲鳴をあげながらのたうち回る。シャンプーはごろごろと乱馬に懐いていると、そのうち乱馬の様子が変わってきた。
ふっと乱馬の動きが止まり、手を猫のように握り締め、猫のように四つ這いになる。お座りをして、天に向かって口を開けば、にゃーご、という猫の鳴き声。
「いかん!乱馬くんはあかねを最強の技、猫拳で取り押さえるつもりだ!」
早雲は焦ったようにそう言った。
「それじゃ、あかねは・・」呆然とするかすみ。
猫化した乱馬は、四つ這いに走りながら勢いよくあかねに飛び掛かる。あかねはあまりに常軌を逸した乱馬のスピードと勢いに、思わず悲鳴をあげた。
そんな中。
「でもさぁ・・」新しいスナックをかじりながらなびきは呆れたようにつなげた。
「それってあかね以外にしか効かないんじゃなかったっけ?」
どーんっ!と言う音とともに、あかねの膝にぬくぬくと乗っかる乱馬。
安心と乱馬の間抜けさに、早雲がこける。
あまりに驚いて目をつぶっていたあかねが目を見開くと、幸せそうにあかねの膝に丸くなる乱馬の姿が目に入ってくる。
「・・・なに・・いったい・・」
「はいはい、それくらいにしましょうか」
なびきがとととっ、と近づいて、ぴっとあかねから反転宝珠を取り上げた。
我に返ったあかねが、なびきを見上げてあれ?と目をしばたたかせる。
「じゃ、あかね、乱馬君の傷の手当て、よろしくね」
「え?なに?何かあったの?お姉ちゃん」
わけがわからず、あかねはなびきにおろおろと尋ねる。なびきは振り返りながら、なぁんにもないわよ、と笑う。
「でも、愛情表現もほどほどになさいね」
「ええ?」
あかねはさらに混乱して、いったい何が起こったのかきょろきょろと見回した。
ぼろぼろに壊された道場、ぐっしょりと濡れたシャンプー猫と女になった乱馬。しかも猫化したようで、乱馬は自分の膝の上でぬくぬくと横になっている。よく見ると乱馬はずいぶんとひどい痣や傷が残っているのだが、一体何が起こったのかあかねにはわかりようもなかった。
「猫ちゃんはこちらにいらっしゃい。ごはんをあげるわ」
かすみがそう言ったのだが、シャンプー猫はふいと自分が壊した壁を通って出て行ってしまった。
「じゃ、お夕飯にしましょうか」
かすみのその声を合図に、天道家の面々は道場を後にした。
「いてててっ!」
「我慢しなさいよ、これくらい」
あかねにぺちっとバンソーコーを貼られて、乱馬は悲鳴をあげた。猫化して意識が飛んでいた乱馬も、お湯をかけられて意識を取り戻した。自然、お湯をかけられたせいで、乱馬は男の体に戻っている。
「一体誰にやられたの?」
不思議そうに尋ねるあかねを尻目に、乱馬はため息をつきそうになるのをかろうじて堪えた。
「このやられ方って普通じゃないわよ。あんた、よっぽど恨みを買うようなことその人にしたんでしょう」
湿布のナイロンをはがしながら、あかねはそうぼやく。そんなあかねを見ながら乱馬はそうだな、と頷く。
「確かに喜ばせるようなことはひとつもしてないかな」
「やっぱりねぇ」
くすくすとあかねは笑う。反転宝珠のおかげで一度も見られなかった、笑顔。それが今はすぐそばにある。乱馬は心の中で安堵の息を吐いた。
「それで」
湿布をぴしっと貼りながら、あかねは続けた。
「誰にやられたの?」
「知りたいか?」
乱馬が面白そうに笑いながらあかねを見やる。あかねは乱馬がなぜそんなに面白そうな顔をしているのか解せないように、眉をひそめつつも、そりゃあね、と答える。
乱馬はにっと笑いながら、こう言った。
「世界一、可愛くねぇ女」
どかんっ!と、そのあと天道道場に新たな穴があいてしまった。
その夜。星たちは、元の鞘に納まった二人を楽しむようにきらめいていた。
おわり
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疲れました・・(笑)
小説ってこんなに疲れるものだったかしら。
ものすごい緊張して書いてます。
TVでのオリジナルバージョンを見ながら、「こんなん乱馬は言わないよー」とか思ったりすることがあって。
そういう思いを自分がしたくないから、極力注意をするんですよ。
そしたらもう〜すごい抑制がいるんですね。乱馬とあかねって。
デュランアンジェラ(聖剣3)を書いていたときも本来はこの抑制がなきゃいけなかったんだろうな、と思いながら書いてました。
結果的に、これが自分的に精一杯。
つかずはなれず、っていうのは見てるのは楽しいのに作るのは一番難しい・・。
難しいのを知ってるから楽しいのかなぁ・・単純に楽しんでるだけなんだけど(笑)
・・あとがきだかなんだかわからなくなったな・・・。
2002/01/22