掲載日:2002/02/22




ロケーション・ハンティング








「そういえば、あんたたちってさぁ・・」
 事の始まりは天道家次女なびきの言葉だった。
 節分も過ぎ、近頃は三寒四温が繰り返されている。今日は特別暖かい日だった。日差しがやわらかく縁側に射し込み、そこで将棋に興じる早雲と玄馬はなびきの言葉にふと将棋板から目を離した。
 なびきがあんたたち、と呼んだのはもちろんその二人のことではない。なびきはいくら身勝手で意地が悪いとは言え、実の父親と妹の義父になろう人をあんた呼ばわりするほど礼儀のない娘ではないのだ。
 なびきが呼んだのは三女あかねとその許婚の乱馬に対してだった。テレビを見ながら煎餅を齧っていたなびきは、真向かいで黒豚におやつを与えるあかねと隣で茶を啜る乱馬を交互に見つめながらこう言った。
「許婚って間柄の癖に、ぜーんぜんデートしないのね」
「はぁ?」
「へっ?」
 なびきの言葉に、あかねと乱馬は二人そろって奇妙な顔をした。照れもあり、焦りもあり、驚きもある。そんな表情全てを誤魔化すための、呆れたような表情。そんな顔をした二人は、お互いに顔を見合わせると、慌てて目をそらす。
「けっ、なんでこんなかわいくねー女とデートなんてしなきゃなんないんだか」
「こっちだって、あんたみたいなガサツな男願い下げよ!」
 ぷん、とあかねは顔をそらしているその傍で、黒豚がぶきーききっ!と不平の悲鳴をあげるように鳴いていた。この黒豚はあかねに対する暴言を絶対に許さないのだ。
 なびきは二人を見比べるように見つめてから、ぱきっと煎餅を噛んだ。もぐもぐとさせてから、お茶を啜るとなびきは肘をつきながらこう言う。
「でもさー、たまにはいいんじゃない?私スポンサーになってもいいわよ?」
 ぴら、と二枚のチケットらしきものを二人の目の前に出す。二人は、なびきがスポンサーになるなどというまさに青天の霹靂のような言葉に目を丸くすると、そのチケットを覗き込んだ。事の次第を面白そうに見つめていた早雲、玄馬、お茶の用意をしていたかすみも一緒に覗き込む。
「映画の、チケットじゃない。どうしたの?」
 あかねが目を丸くしてそう言った。しかも、割引券といった類ではなく、優待券。つまりタダ券というわけだ。
「ん。なんか随分前に出してたはがきが当選してたみたい。私は興味ない映画だし、二人で見てくれば?」
 そういえば、なびきが先ほどまで見ていたテレビで、そのチケットの映画のCMが流れていた。なびきはそれで不意にチケットのことを思い出したに違いない。
「お、お姉ちゃんが見てくればいいのに」
 あかねは焦ったようにそう言うと、なびきにそう言った。なびきはあらそう?と二枚のチケットを口に当てて、にやり、と笑った。
「じゃ、乱馬くんにあげとくわ。誰と行くかは乱馬くんの自由だから」
 なびきはそういうと、すっと卓袱台にチケットを置いてさっさと部屋を出て行ってしまった。これではチケットを付き返すこともできない。まんまとなびきのデートに追いやる術にはまってしまって、二人はじっとそのチケットに見入るはめになった。
「行って来ればいいじゃない?あかねちゃん」
 同じ卓袱台でお茶を飲んでいた姉のかすみが、ゆったりとそう言った。あかねは焦ったように、お姉ちゃん!と声を上げる。
「乱馬くん、あかねをよろしく頼むよ!」
「乱馬よ、たまには許婚のあかねくんを楽しませてやるがよい」
 早雲と玄馬が乱馬とあかねの肩を抱き、嬉しそうにそう言う。しかし、日ごろから素直でない二人にとってこの状況は恥ずかしい以外のなにものでもない。
 二人は慌てて立ち上がると。
「だからっ、あかねとなんか行かねぇっていってんだろ!」と乱馬が叫び、あかねも負けじと、
「お父さん、変なこと勝手に決めないでよ!」と言い張ると、ふたりして居間を出て行く。あかねは部屋に戻る方向へ、乱馬は道場の方向へと全く反対の方向に二人は歩いていってしまった。
 あかねと乱馬が居間を出て行った後、早雲と玄馬ががっかりして顔を合わせると、再び縁側の将棋板に戻っていった。そして、かすみは茶碗やお菓子の器を片付けようと卓袱台を見て・・一人微笑んだ。
 チケットはそこにはなかったのだった。

「とはいえ・・見たい映画ではあったんだよなぁ」
 乱馬は道場で胡座をかいて座ると、そうぼやく。目の前にはチケットが二枚並んでいる。腕を組んでそれを見つめる乱馬は、珍しく眉間にしわを寄せて考え込んでいた。
「珍しく考え込んでるじゃねぇか、乱馬」
 まるでその姿をあざ笑うように、一人の男が道場の入り口にもたれかかっていた。腕を組み、不敵な笑みを浮かべて乱馬を見つめている。
「良牙」
 乱馬が良牙に気づいて顔を向ける。良牙はゆっくりと乱馬に近づき歩きながらこう言った。
「お前、あかねさんと行かないんならその券、俺に譲らねぇか」
 乱馬は良牙のその言葉に驚き、良牙を見上げる。
「なんだと?・・お前まさか・・」
 乱馬はぶるぶると体を震わせると、良牙にびしっと人差し指を突き出した。
「俺を女にして俺とデートするつもりだなっ!?」
「・・っんの馬鹿やろっ!なんで俺がお前とデートなんぞせにゃならんのだっ!!」
 がちぃんと良牙が乱馬の頭を拳で殴る。ついでに良牙が目の前のチケットを奪おうと手を伸ばしたが、素早さでは乱馬の方が上だ。乱馬は良牙の動きを見越して足を引っ掛けると、良牙はすてんと転んだ。そして、乱馬はすぐにチケットを取り上げて立ち上がる。
「だぁって、お前俺のこと好きなんじゃなかったっけ?」
 にやにやと薄ら笑いを浮かべながら、乱馬は転んだ状態の良牙を見下ろしてそう言う。
 以前、良牙は『恋の釣り竿』というアイテムを使ってあかねを手中にせんと目論んだことがあったが、目測を誤ってその釣り竿で乱馬を吊り上げてしまったのだった。その為乱馬が良牙にゾッコンになるという恐ろしい事態が発生し大騒ぎとなった。結局、乱馬の胸部に育った恋心を表す鯉の痣を見事良牙が釣り竿で吊り上げることで、その異常事態を脱した。そして、そのことに決着をつけた暁にはあかねに告白するつもりだった良牙は思い切って告白したのだが、そのときの相手はなんと女の姿をした乱馬だったのだった。
 良牙はそのことを思い出し慌てて立ち上がると、乱馬に蹴りを入れようとする。
「あっ、あれは間違いだっ!本当はっ・・」
「本当は?だーれに言いたかったのかな?Pちゃん」
 ひょいひょいと良牙の拳や蹴りを避けながら乱馬は軽口を叩く。むかっと頭に血が上った良牙は手加減を忘れて乱馬に飛びかかった。
「誰がPちゃんだっ!!」
 びゅっと今までの蹴りとは比べ物にならないほどの勢いを持った蹴りが、乱馬に繰り出される。それでも乱馬はその蹴りを避けるようにひょい、と屈みこんで、続けて手刀でぱしっと良牙の足元を掬う。一瞬宙に浮いてがら空きになった良牙の懐に、乱馬は拳を突く。うっと良牙が悶え気が削がれたところで、乱馬は足を振り上げた。成す術もなく、良牙は天道道場の天井に穴をあけて空へと飛んでいった。
「うあぁぁぁっ!」
 良牙の飛んでいく姿をちらりと見てから、乱馬は息をつく。
「・・ったく、毎度毎度うっとうしいったらねえな」
 乱馬はそう言ってから、ポケットの中に突っ込んだチケットを確認する。ちゃんと二枚その手にあることを確認し、乱馬はほっと息をついた。
 ほっと息をつくのも束の間、天道道場に向かってたったったったっという足音が近づいてくることに気づいて、乱馬はうんざりと頭を抱えた。規則正しいほどの足音をさせてやってくる人物といえば、一人しかいない。
「早乙女乱馬、許さーぁん!」
 どびゅっと竹刀を振り下ろしつつ乱馬に飛びかかってきたのは、風林館高校2年剣道部主将九能帯刀17歳その人であった。
 乱馬はすかさず振り下ろされた竹刀から退くように避けてから、次の瞬間飛び上がった。後ろで編んだおさげが、前に流れて揺れる。
「イキナリなんなんだよっ!九能先輩っ!」
 九能は飛び上がった乱馬を憎々しげに見つめると、乱馬を目掛けて横方向に竹刀を振り切った。乱馬はその竹刀に身軽に乗って見せると、竹刀を蹴って九能の背中側に音も無く着地した。
「天道あかねとのデートなんぞ!デートなんぞ!デートなんぞ!」
 びゅっびゅっびゅっと乱馬に向かって竹刀を振り回しながら、九能先輩は涙目になりながらそう言った。
「天道あかねとのデートをしたくば、この僕を倒してから・・っ!」
 乱馬は頭を抱えながら、ひょい、ひょいと九能先輩の竹刀を避けつづけ、したいわけねーだろっ、と乱馬は九能の顔面を潰すように足を振り上げた。
 みし、と乱馬の足に顔を潰された九能先輩はばったりと倒れる。
 乱馬はその傍にしゃがみ込んで、まじまじと倒れた九能を見つめる。
「一体、誰に聞いたんだ・・?ま、大体の予想はつくけど・・」
 ま、いいか、と乱馬が立ち上がり、振り返るとあかねを除く天道家の面々がそこには屯しているのに気づいて乱馬はひく・・と退さった。
「乱馬くん!あかねとデートするために九能くんを倒したのね!偉いわ!」
 花のような微笑を浮かべながら乱馬にそう言うのは、かすみ。そして、その傍でなびきが舌を出しつつ面白がるように笑っている。
「ごめーん、デートのこと言っちゃったー」
「乱馬くん!あかねとデートのために・・ありがとうっありがとうっ!」
 うっうっと涙を堪えきれず溢す早雲に、隣でよくやったとばかりに頷く玄馬。
「なっ・・なんでそうなるんだよっ!」
 いきり立って頬を染めるという不可思議な表情で、乱馬はそう叫んだ。しかし、天道家の人々は乱馬の話など聞いてはくれない。勝手に都合の良いように、乱馬はあかねとデートをするために九能を倒したのだ、という思い込みの既成事実を喜んでいる。
 乱馬はやってられん、と心の底でそう思うと、道場を飛び出した。

「しっかし、なんで映画一つみるだけでこんなに騒がれなきゃならんのかなー」
 商店街に向かって一人で歩きながら、乱馬は疲れたようにそう言った。と、さっきの天道家の面々の中にあかねがいなかったことを思い出し、乱馬は少し不思議に思った。
(あれ?そういえば、あかねはどこにいっちまってたんだろ?)
 良牙を空に向かって投げ飛ばし、九能を相手にしてあれだけ道場で大騒ぎしたのだ。大騒ぎはいつものこととは言え、あかね一人だけがあの場所にいなかったことが少し乱馬に気にかかった。
(ま・・いいか。)
 乱馬はおざなりにそう思うことにした。本当の乱馬の顔は『ちっともよくない』という顔をしていたのだが。そんな乱馬の表情を読み取ったかのような台詞が飛んできた。
「あかねの居場所、教えてあげようか?」
 にんまりと笑って乱馬の前に現れたのはなびきだった。乱馬ははぁっと息を吐く。
「なんで、あかねとそんなにデートさせたがるんだ?なびき」
「別にぃ。乱馬くんが知りたいかなって思って。違うの?」
 ひょいと顔を近づけられて、なびきは乱馬にそう言う。乱馬は焦ったようになびきから目をそらすと、まさか、と粋がってそう言った。
「そう?」
 なびきはふと乱馬の頭上を見てから突如、スッと身を引いた。乱馬は一瞬その動きを不審そうに見つめてから、気配を感じはっと後ろを振り返る。
「乱馬ーっ♪」
 自転車を放り投げて飛び上がるのは、乱馬を婿にしようと日夜熱烈にアタックするシャンプーだった。
「しゃ、シャンプーっ!?」
 ぎゅうっと首に腕を巻きつけ、頬擦りせん勢いでシャンプーは乱馬に抱きついた。勢いのあまり、乱馬は体ごと地面に叩きつけられる。
「いてっ!」
「乱馬っ、私のために映画のチケットを手に入れたって本当か?」
 ぎくっとして乱馬はなびきの方を見やる。なびきは悪びれも無く微笑んで、
「ごめん、言っちゃったー。」
などと言っている。乱馬の背中に瞬時に悪い予感が走り抜けた。
(まさか、ウッちゃんや小太刀にまでしゃべってるんじゃ・・)
 乱馬の予感は的中していた。立て続けに乱馬とシャンプーの傍を、お好み焼き用のコテと新体操で使うリボンが襲ったからだ。
「シャンプー!抜け駆けはさせへんで!」
「乱馬様は私のもの!」
 すたっと乱馬とシャンプーを挟み込むかのように、右京と小太刀がその場に現れた。
 果たして、乱馬の映画のチケットを巡って三人娘が集結した。その傍で、なびきが呆れたように息をつく。
「乱馬くん、いつもながらモテるわねー」
「って・・おめぇが煽った所為だろーが!」
 青筋を立てながら乱馬はなびきにそう言うが、なびきは少しも動じない。乱馬がすごんだくらいでびびるような神経を、彼女は持ち合わせてはいないのだ。こういう強気なところはあかねに通じるものがあると、乱馬は常々そう思う。
 いや、あかねよりも狡猾で頭が回る彼女は、あかね以上に掴みにくく、厄介なのだ。
「私は事実を伝えただけ。この状況を作りだしたのは他でもないあんたでしょーが」
 実際のところ、その通りだった。乱馬自身がどっちつかずの態度をとるばっかりに、この三人は果てしない乱闘を繰り返すのだ。その実害は乱馬のみならず、あかねにまで降りかかる。
 乱馬がうっと詰まったように黙ってしまったのを見て、なびきはふっと嘲笑うように乱馬を見て去っていく。
「アンタ次第よ・・チケット無駄にしないでよね」
 そう言うなびきの後ろ姿を、乱馬は呆然と見つめていた。と、そのとき。
「乱ちゃんっ!その映画のチケットはうちのためやねっ!?」
 シャンプーと小太刀を一時的に退かせた右京が、乱馬に掴みかかりながらそう言った。しかし、二人はすぐさま右京に飛びかかると、右京を放り乱馬の腕やら首やらに抱きついてくる。
「乱馬っ、早く映画館に行くね!」
「乱馬様、ささ、私と一緒に参りましょうっ!」
 乱馬は二人を振り払うと、いい加減にしてくれっ!と家の塀から屋根に飛び移った。三人は慌てて、乱馬を追いかける。
「逃げる卑怯ね!乱馬」
「潔く乱ちゃん!うちと!」
「乱馬様っ!」
 女とはいえ一人一人の実力が確かな三人に追われ、乱馬がぼろぼろになるのは時間の問題だった。
(なんとか撒かねーと・・そうだ!)
 乱馬は咄嗟にポケットから紙切れを出す。
「それ!受け取ってくれ!」
 チケットのような紙切れを三人の目の前に投げつける。当然、三人は餌を取り合う獣のような眼差しでその紙切れに夢中になった。乱馬はその隙に乗じて、三人から逃げ出すことに成功した。
「このチケットは私のもの!」
「うちのもんや!」
「私のものですっ!」
・・その三人が我に返ってその紙切れを確かめると、それはどこぞの広告の紙切れだということに気付いたのは、それからかなり後だった。

「ねーあかね、こういうの嫌いじゃなかったっけ?」
 映画館の前で待ち合わせしていたゆかがあかねにそう言った。あかねは、う、うんと頼りなげな声を上げる。いつも強気な彼女にしてみれば、こんな声を出すのはかなり珍しいことだった。
「話題作とはいえ・・結構怖いって話よ?大丈夫?」
 心配そうにさゆりがあかねの顔色を確かめつつそう言う。あかねはぐっと胸の前で拳を作ると、思いっきり頷いて見せた。
「だっ、大丈夫!平気平気!」
「その声、全然平気そうじゃないよ〜・・」
 ゆかが情けなさそうに笑う。
「ねえ、無理して見ることないんじゃない?ほら、もうひとつの映画はアクションだし、こっちの方でもいいんじゃない?」
 さゆりが映画館の入り口の上に掲げてある大きなポスターのような看板を指差してそう言うが、あかねは強情にその恐ろしげな映画の方でいい、と聞かない。
 ふたりもそれなら、と諦めた頃だった。
「あら?あれ、乱馬くんじゃない?」
 ふとあかねから視線を外したゆかがそう言った。つられて、さゆりとあかねも顔を上げてゆかが見つめる方向に視線をやる。
「ほんとだ・・ずいぶんぼろぼろ。どうしたんだろ?」
「乱馬くーん!どうしたの?」
 ああっ呼んじゃだめっ!と言いかけたあかねの声はさゆりには届かず、さゆりは乱馬に分かるように手を挙げてそう言った。
「あれ?おめぇら何やってんだ?」
 乱馬はすたたっと傍に寄る。そして、ゆかとさゆりの影に隠れるように、あかねが一緒に居ることに気付いて乱馬は驚いたように目を丸くした。
「・・あかね、こんなとこで何やってんだよ」
 それがね、とさゆりが乱馬に話し掛ける。
「急に映画を見に行こうなんてあかねが言うからね。待ち合わせしてたの。そしたらさぁ」
 そのあとをゆかが引き取ったように話し出す。
「あかねったら、こういうオカルト系の映画、全然駄目な癖に無理に見ようなんて言い出して。」
 これ、とゆかが指差した映画のタイトルは、乱馬がなびきにもらったチケットのものと同様のものだった。
 乱馬はわけがわからず、一瞬きょとんとさせた。
「それなら、俺が持ってる映画のチケットと同じだけど」
 事も無げに、乱馬がポケットからチケットを出す。二人はそれを見て、ようやく合点が行った、とばかりににんまりと微笑んだ。
「ははぁん、あかね」
「そういうことだったのね」
 ゆかとさゆりは後ろで小さくなるあかねを見つめるとそう言った。乱馬はさっぱりわからない。
「ロケハン・・ってことか。じゃ、もうその必要は無いわね。」
 と、さゆり。
「本人がここにいるんじゃねぇ」
 ゆかはぽんぽん、とあかねの肩を叩くと、頑張りなさいよ、と言った。そして、さゆりを誘って、じゃねっ!と手を挙げて乱馬に別れを告げる。
 まるで、映画のことなどすっかり忘れたかのように。
 乱馬はそんなゆかとさゆりを見つめ、あの二人何しに来たんだ・・?と首を傾げる。それからあかねが気になって視線を落とすと、あかねは既にそこから逃げるように歩き出していた。
 乱馬は慌ててあかねを追いかける。
「お、おいっ、あかねっ!」
「ついてこないでよっ!!」
 すたすたと歩き出すあかねを追いかけていたのでは、この映画館からすぐにでも離れていってしまう。乱馬はそれを見越したか、それとも単にあかねの態度の真意を知りたかっただけなのか、慌ててあかねの前方を塞ぐように飛び上がり着地した。正面に佇む乱馬を見てあかねが焦ったように後ずさった。
「おめーは、ほんっとに素直じゃねぇなぁ・・」
「なによっ!あんたにそんなこと言われたくないわよっ!」
 あかねは精一杯の虚勢を張るようにそう言った。乱馬はむっとしつつも、あかねの手を取ると、強引に行くぞ、とそう言った。
「え?乱馬?」
「見たかったんだろ?あの映画。なら、行こうぜ。俺も見たかったんだ」
 ぎゅっと握りしめられた手のひらの暖かさに、あかねの心は少し和んだ。素直にうん、と頷く。
 乱馬はあかねの方を振り返りもしなかったが、あかねの手だけはしっかりと握って、映画館に戻る道をひたすら歩いていった。
 照れた二人の視線が交わることはなかった。それでも二人は幸せそうだった。お互いの手のひらのぬくもりと共に、心ごと通い会ったように二人には思えたのだった。

 あかねと別れてから喫茶店に入ったゆかとさゆりは、窓越しに見える人の往来を見ながら紅茶を飲んでいた。
「ロケーション・ハンティング・・略してロケハン、かぁ・・いいなぁ、私もそんなのやってみたいなぁ」
「ほんとはテレビ業界用語らしいけどね。」
 くすっと笑いながらさゆりの言葉に答えるように、ゆかがそう言った。ティーカップからの紅茶の香りにうっとりと顔を和ませる。
「そうそう、ドラマとかのロケ地を事前調査することらしいね。でも、ある女子アナがデート前にデートの待ち合わせ先を事前調査してからデートの日を迎えることを指して言ったらしくて。それがうちの高校で流行っちゃったんだよね」
「でも、わかるよね。好きな人の前で粗相したくないもん」
 甘党のゆかはケーキを口に運びながらそう言った。たしかに、とさゆりも笑いながら頷く。
「あかねは、強がりだからあの映画を事前に見て置いて、乱馬君に弱いところみせたくなかったんだろうね」
 さゆりはティーカップをかちゃ、と置くと、ゆかのケーキがおいしそうに見えたのか、メニューに目を走らせる。
「でも、映画って先に見ちゃったらつまんないと思うんだけど」
 ゆかは相変わらずケーキを食べながらそう言う。さゆりがウェイトレスを呼び、ケーキを注文する。
「それは、ひとそれぞれの価値観じゃない?映画の面白さを大事にするか、その人の前にいる自分を大事にするか、ってところは」
「それもそうね。」
 納得したように、ゆかは頷いた。一個食べ終えたので、ゆかはさらにケーキを頼もうとメニューを見始めた。
「ああ、雨が降ってきたね・・」
 さゆりが窓の外の景色を見ながらそう言った。ゆかも景色に目をやると、確かに地面にぽつぽつと黒いシミが出来始めている。
「今日は降水確率0%なのに。きっと乱馬くんとあかねのせいよ」
 ゆかがむくれてそう言った。さゆりはそれを笑う。
「慣れないことをするから?」
「そうそう。槍が降ってもおかしくないってね」
 二人はそう言って、笑いあった。



おわり


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☆らんま1/2 スタッフ名鑑 <磯野智さん編>☆

らんまの作画監督をさせたらこの人の右に出るものはいないっ!
ともいいきれないが(ぉぃ)かなり好き。
もともと作画監督・中嶋敦子さんの乱馬大好きだったんですが、途中から絵が変わってきてしまって・・。
まあ、でも上手には変わりないんですが、愛らしさでは磯野さんの絵が上かなぁ・・。
あかねの髪型が原作寄りなのかな。結構短い。風になびく余裕もないくらいに(笑)
乱馬はなんだろ・・なんかツボなんですよ・・わからないけどときめきます(笑)
中嶋さんの乱馬は第一弾の映画の頃が最高!!
いまでも悲鳴あげられます(あげんでいい)
ビデオでは作画監督から降りちゃって・・磯野さん。寂しかったな。
2002/02/21