シークレット・ゲーム
本当は知ってる
お前以外 好きになることはないってことを。
でもまだ表には出せない。
それは
俺と 俺の心との 秘密の約束。
乱馬は空の色を目を細めて眺めていた。今日はいい天気だ。雲がところどころにふわふわと浮かんでいる。そんな空を見て乱馬は、今日は女にならずに済みそうだ、と思う。
乱馬はフェンスの上を歩きながら、ふと下の道路を大人しく歩いている自分の許婚を見下ろした。
「あかね」
「何?」
ショートカットの髪を揺らして、あかねは乱馬を見上げた。不思議そうにきょとんと目を丸くしている。
あどけない表情と物怖じしないまっすぐな眼差し。絶対にうそをつけない真摯な瞳が乱馬の姿を捉える。
(いつもそうして素直な顔してればいいのに)
思わず乱馬はそれ思ってから慌ててそれを打ち消す。思ったことが割と顔に出るタイプなので、乱馬はいつもそういう素直な思いを打ち消さねばならない。
「どこまで買い物につきあわせるつもりだ?俺だって暇じゃねぇんだぞ」
心に少しも思ってないことを言うことで、乱馬はその場を凌ぐ。案の定、あかねは乱馬のその言葉を真に受けて、むっと顔を歪ませた。
(あ、そうか・・いつも俺がそうやってお前の顔を歪ませてるんだよな)
乱馬は今思ったことが顔に出てもいいように、腕を頭の後ろに組みながら空を見上げる振りをした。そうすれば、乱馬の表情は下にいるあかねから見えることはない。
しかし、乱馬の心の中の詫びなどあかねに届くはずもなく、不機嫌そうなあかねの声が声高に聞こえてきた。
「へぇ。乱馬の予定って、例えばかわいい許婚の右京さんとか、例えば乱馬を愛してやまないシャンプーちゃんとか、もしかしたらスタイル抜群の九能小太刀さんとかとのデートかしら?」
馬鹿丁寧な言葉であかねはそう言った。乱馬はあのなっとあかねの顔を見ようと見下ろしたが、あかねは既に乱馬の方から目をそらして前をまっすぐ見据えて歩いていた。
許婚の素直な瞳を逃した乱馬はちょっと悔しくなって、フェンスから道路に飛び降りた。しかし、あかねは降りてきた乱馬が視界に入るのを嫌がるように、つん、と逆方向に顔をそむける。乱馬はそんなあかねに声を荒げてこう言った。
「んなのが俺の予定になるかよっ!だいたい無理やり追っかけられてるだけで、あんなんデートにもならねぇじゃねーか!」
「そーぉ?いつも随分楽しそうにしてるから、乱馬くんとっても喜んでお付き合いしてるんだと思ってたんだけど?」
にっこぉ、と微笑みながらあかねはようやく乱馬の方を向いたが、その口元は引きつり、眉毛は怒りに小刻みに震えている。これはお世辞でもかわいいとは言える顔ではない。あかねのそんな表情に、素直な乱馬の言葉が思わずこぼれてしまった。
「ったく・・お前って本当にかわいくねーな!」
「あんたになんか言われなくてもわかってるわよ!」
あかねはそう言い捨てると、すたすたとあかねは乱馬の傍らから離れるように速度を上げて歩き出した。一瞬乱馬はそんなあかねを後ろから見つめてから、次の瞬間には面白い玩具を見つけた子供のような瞳であかねを追いかける。
「なぁ」
すたすたと早歩きするあかねの後ろから、声をかける乱馬。二人はかなりのスピードでその道を歩いている。
「・・」
あかねは答えない。
「なぁ、あかねってば」
めげずに乱馬はあかねを呼ぶ。鬱陶しそうにあかねはなによっ、と声を上げた。
「なにカリカリしてんだよ。俺が誰とデートしようとお前には関係ないよな?」
あかねはその言葉にぴたっと足を止めた。ぐっと拳を握りしめ肩に力が入ったまま直立不動状態になる。
乱馬は、一瞬怯んだように立ち止まった。言い過ぎたかな、とちょっと後悔したが、今更どうにもならない。
やがて、あかねは乱馬に向かって勢いよく振り返った。頭ひとつ分背の高い乱馬を見上げ、きっと睨み付けた。
「そうよ・・そうよっ!あんたが誰とデートしようと、あたしにはぜんぜん関係ないもん!」
振り返ったあかねの瞳には強気で強情な中にも、悲しそうな光が宿っているのに乱馬は気づいて、乱馬はさすがにしまった、と思った。
本当は知ってる
あいつ以外 好きになることはないってことを。
でもまだ表には出せない。
それは
あたしと あたしの心との 秘密の約束。
あかねは乱馬を見上げて、なんとか泣かないようにするだけで精一杯だった。少しでも気を抜けば涙がひとつ、ころん、と転がって行きそうで、なんとかそれだけは避けたくて、一生懸命乱馬を睨みつけることでそれを誤魔化そうと頑張っていた。
(なによ・・たまに二人きりで出かけてるっていうのに、そんなことしかいえないのっ・・?)
あかねは乱馬を睨みつけながら、悔しくてたまらなかった。しかし、それは次第に乱馬に対するものではなくなっていき、ただひたすら自分に対しての悔しさが込み上げてくるのだった。
(正直になれない自分。やさしくなれない自分。素直になれない自分。少しくらい変われたら、この気持ちが少しは楽になるかもしれないって言うのに、それでも、そのことを自分で拒んで・・。)
あかねは自己嫌悪に陥りながら、とにかく乱馬から逃げたいと思った。
「もうっ・・知らないっ!」
涙だけは見せたくない、そう思ってあかねは乱馬から顔をそらした。一人商店街に向かって猛然と歩き出す。
しかし、困惑した乱馬が、すぐまた後ろに駆け寄ってきた。
「あかね」
「・・・」
(もう放っておいて・・!これ以上あたし、醜くなりたくない・・!)
あかねはぎゅっと自分のスカートを握り締めながら、ひたすら乱馬を無視して歩いていた。
しかし、乱馬も意外にしつこくあかねを追いかけてくる。いつもならそろそろ、勝手にしろ!って言い捨てて帰りそうなものなのに、乱馬はひたすらあかねを追ってくる。
「あかねってば!」
ぐい、と乱馬はあかねの腕を強く引き、あかねは乱馬の方に無理やり向かせた。驚いた所為で潤んでいた涙が目尻に滲んでしまって、あかねは慌てて顔を伏せた。しかし、乱馬はそれを許さないとばかりにあかねの顎に手をやると、強引に顔を引き上げた。
逃げられないほど強い力を湛えた瞳が、あかねの瞳と交錯する。あかねが、どうしても譲れないと思うのはその許婚の瞳が誰にも負けることのない強い光を湛えているからだ。
逃げられない、強い強い眼差し。
あかねは観念したように力を抜いた。それに気づいて、乱馬もあかねの腕に込めた力を緩めた。しかし、離しはしない。
「なんで、自分で関係ないって言った癖に、そんな泣きそうな顔してるんだよ」
あくまでも無骨で無造作な仕草で、乱馬の親指があかねの涙をぐいぐいと拭いてやる。あかねは涙がばれた事が恥ずかしくて、ただされるままになっていた。
「関係ないなら、そんな泣きそうな顔すんな」
「泣いてなんかないっ!」
あかねは強情にそう言い張った。言い張るしかないと思った。乱馬はそんなあかねを呆れたように見つめ、ほぉ、と言う。
「で。買い物どうすんだよ?」
乱馬もそれ以上は追求しなかった。あかねの腕を掴んだまま、そう言う。
(もう一緒に買い物なんてできる気分じゃないよ・・)
あかねは情けない思いに駆られながら、ぽつりと呟くようにこう言った。
「いい、一人で行くから。乱馬は好きな人と一緒にいたらいいじゃない・・?」
どうせ先に帰ってくれるだろうと思いつつ、あかねは投げやりにそう言った。
言われた乱馬はあかねを眺めつつ、
「じゃ、そうさせてもらうかな」
と言うと、さていくか、と声をかけた。
あかねは一瞬訳がわからず、きょとんとした。乱馬の台詞と行動が、頭の中で理解を超える。
「何やってんだ。いくぞ、あかね」
照れくさそうにそう言った乱馬の言葉に、あかねは微笑んだ。これでいいんだ、と自分の中で納得した気持ちが胸の中で暖かく浸透していく。
そして、また二人は隣り合って歩き出した。家を出たときと同じように。
おわり
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*あとがきちゃん。(笑)*
んと。ちょっとこの前言ってきた結婚式の影響出てます(笑)
顎をぐい、とやる乱馬くんは、実はこの前出てきた結婚式二次会の旦那様のテクです(笑)
うちの同期連中が幹事をするとシメに「キスお披露目」がありまして。←しかも必須。
これをこなさないと新婚二人は会場から逃げられないんです(笑)
んで、ぐい、とやってくれたんですね、旦那様が(笑)
これにはもー一同「格好いい〜!」の嵐。いや、マジ旦那格好いいんで様になる<んだ(笑)
そのあとの旦那様の台詞もウケた。
周りのうちの同期の男どもに「次使っていいよ(笑)」だって。(笑)
「使わせてもらいます!」(馬鹿だね〜笑)ってもう〜すごい騒ぎだよ、ほんと。
お馬鹿な会社だ・・・(笑)
楽しかったけど(笑)
って・・乱馬と話関係ないやんけ!(笑)<呪泉郷端会議録パクリ。
2002/02/26