【らんま1/2】

■呪泉の水[後編]





 


 会計カウンターに行く途中で立ち止まってしまったあかねを見つけて、さゆりがあかねの傍に戻ってきた。あかねの方は『呪泉の水』と書かれたラベルを見つめて動かない。じっと考え込んでいるのだ。
「あかね・・あかね?」
「あ、ああ。ごめん」
 あかねは呼ばれて慌ててさゆりに気づき、これ、と一升瓶を見せる。
「ああ、店長のコレクションのひとつ。これがどうかしたの?」
 さゆりはあかねがなぜそんなものに興味を持つのか理解できなくて、首をかしげている。あかねは焦れて、ラベルの名前がよく見えるようにさゆりの顔に瓶を突き出した。
「『呪泉の水』って書いてあるのよ。これがもし中国呪泉郷の水だったら」
「・・呪泉郷って乱馬くんが落ちたっていう・・?まさか!そんな危ない水だって言うの?それが?!」
「でも、書いてあるじゃない!もしかしたらこの水をどうにかしたら乱馬の体質が治るかもしれないわ」
 あかねは我を忘れて声を張り上げると、店の奥から穏やかな年配の人が出てきた。どうやら店長らしいその男の人はあかねの握り締めた瓶を見て、ゆっくり訊ねてきた。
「その瓶が、どうかしたのかねお嬢さん」
 男の人のゆっくりとした口調にあかねはようやく落ち着きを取り戻して、手に持った瓶を恥ずかしそうに持ち直した。
「あ、ごめんなさい。飾っていた瓶、勝手に取っちゃって」
「いやいや。その瓶と水はな。中国の旅行中に商人から譲り受けたものでな」
 立ち話もなんだから、と店長は近くの空いた席にあかねを座らせた。さゆりはあかねを店長に任せることにして、伝票をテーブルにおいて仕事に戻っていった。
 それから店長も椅子に腰掛けると、灰皿を取っておもむろにタバコに火をつけた。吐き出した紫煙は先ほど大破した窓から流れ込んできた風にかき消される。
「非道なことをいう商人でな。この水で奴隷を動物に変えて簡単に芸をするサーカス団を作れるというのだよ。まあ、そんな馬鹿なこともあるまいと思って、そのとき私は真に受けなかったのだがね」
 まだ春にしては冷たい風がひゅうひゅうと吹き始めていたので、客が一人減り、二人減りとして行く。店長は困ったように割れたガラスを見ていたが、気を取り直して話を続けた。
「でも私はだまされた振りをしてこういう冗談を言ってみたんだ。そんな非道なことをするならば、俺はお前の荷物の水を全部お前にぶちまけてやるぞ!とな。すると商人は真っ青な顔をして怯えてしまってね。私はその水の真価がその商人の反応でようやくわかったのだ。ろくでもないことをする商人だと思った」
 あかねは同意するように頷いた。そんな非道なことが許されていいはずが無い、とあかねのまっすぐな瞳がそう訴えていた。そんなあかねを見て、店長も満足そうに微笑んだ。
「商人は慌てて言葉を飲み込んで、勘弁してくれ、もうしないと言ったのだ。その約束としてひとつの瓶を私に渡した。それが、お嬢さん、あなたが持っている瓶だよ。その瓶の水は、源泉からの水らしく何の呪いもかかっていない純粋な水だと言っていた。私にはよくわからなかったけれども、とりあえず約束のしるしとしてもらったのだよ。」
「そういう思い出の品だったのですか・・」
 あかねはもう一度瓶を見つめる。しばらく躊躇してその瓶を見つめて考え込んでいたが、あかねは先ほどから言おうと思っていた言葉を口にしてみた。
「無理を承知でお願いします。この瓶の水を譲ってもらえませんか」
 あかねは静かな声でそう言うと頭を下げた。仕事をしながらさゆりはそんな姿のあかねを見つけて、心を打たれる。
(普段はあんなにいがみあってるのに・・。あかねってば・・)
 店長も、あかねの真剣な様子に心を動かされたか、ようやくいいでしょう、と言葉を吐き出した。あかねがうれしそうに顔を上げると、店長があかねに微笑んでこう言った。
「その水が必要なんだね。お嬢さんの真摯な瞳に免じて、その瓶は差し上げよう。ただし、非常に危険な水であることには変わりない。扱いには十分注意をするんだよ」
「はい!ありがとうございます!」
 あかねはうれしそうに立ち上がると、瓶を持ったままぺこりとお辞儀をした。買い物した袋を提げてカウンターに向かうと、伝票をひらひらさせてさゆりを呼んだ。満面の笑みを浮かべているあかねを見て、さゆりはそっとため息をつく。
(その健気さと笑顔、乱馬くんに見せてあげたらどんなに喜ぶことか・・)
 さゆりはレジを打ってあかねから会計を受け取ったあと、お釣りを返しながらあかねの手を握り締めた。
「・・・?さゆり?」
 あかねがさゆりの行動に怪訝な表情でさゆりを見つめ返すと、さゆりがいじわるそうな笑いを浮かべてこう言った。
「ねぇあかね?乱馬君が完全な男に戻ったら次はもう祝言しかないんじゃない?それでいいの?それともそのために頑張ってるの?」
「ちっ・・!」
 かあぁぁっ!と顔を赤くしてあかねはさゆりから手を離すと、べぇっと舌を出した。
「そんなんじゃないもん!なんで私があんなやつと!」
「でもさー。普通どうでもいいやつのために、頭まで下げる?」
 あくまでいじわるにさゆりはそう言う。あかねは顔を見られたくない恥ずかしさにきびすを返した。
「いいの!別にあったからもらっただけだもん!」
「はいはい。ありがとうございましたーぁ!」
 さゆりはくすくすと笑いながら、お客様へ挨拶した。と、店長が傍によってあかねを引きとめる。
「お嬢さん。言い忘れていたが、商人があの時こう言って私にその水を渡したのを思い出した。純度の高い『呪泉の水』は飲めば望みの姿にしてくれるとな。くれぐれも口にすることのないようにな」
「ええ。判りました。ありがとうございます」
 あかねは店長にもう一度頭を下げて、その店を出て行った。

(望みの姿に・・かぁ。姿を選べるとしたら、何になりたいかな。小動物は可愛いけど、人形になったときの視点って低くてつぶされそうだったから怖かったし・・大きな動物だと捕まえられそうだし。そういえばおじさまは一度も警察沙汰にならないけど、練馬区って無頓着なのかしら)
 パンダになった玄馬の姿を思い出して、あかねは一人くすくすと笑った。
 荷物は重かったが思った以上の収穫があったのであかねはそんな重さを気にも止めず、家路についていた。
(なりたい人なら、かすみお姉ちゃん。かな?お母さんの顔はもうほとんど記憶に無いし・・写真を見てもあまりぴんとこないのよね。仕草とか暖かさとかなら・・どこか記憶にあるみたいなんだけど)
 あかねはよいしょ、と瓶を抱えなおす。
(ああでも、この水このままじゃきっと呪泉郷の呪いは消えないわよね・・おじいちゃん、呪泉郷の文献でも持ってないかなぁ)
「あらーあかねちゃんやないの。どしたん、大荷物担いで」
 イントネーションのおかげで振り返らずとも相手がわかった。あかねが振り返ると、思った通り右京が大荷物を担いであかねの後ろに立っていた。
「右京こそどうしたのその荷物」
「それがなー、いい天気やし花も見頃やろ?弁当代わりに持ってくっていうお客さん、多いんや。おかげで商売繁盛や。今日はもう二度目の買出しなんや」
 右京は重そうな野菜が詰まった袋を両手に提げて、平然と歩いている。一人で生きてきたという右京にはもうあたりまえのことなのかもしれないが、細身の女一人でずっとこうやって生きてきたと胸を張る右京は、時々あかねにとって雄々しくまた美しく見えた。乱馬にも時々そう思えることがあるのではないかと、不安になる。
「そう、大変ね」
「なんや、元気ないやんか。ははぁ、また乱ちゃんに約束すっぽかされでもしたんのん?」
「元気ないわけじゃないけど。乱馬にすっぽかされた、っていうのは当たり。この荷物持ってくれる約束だったのに。まあ持てるからいいんだけどね」
 あかねはまたよいしょ、と瓶を抱えなおした。
 いつのまにか、珍しく同じの許婚を持つ娘二人は肩を並べて歩いていた。普通の女友達のような穏やかな空気が流れていた。
「まあ〜・・早乙女家は約束すっぽかすのが奥義みたいなもんやからな」
「言えてるわね」
 あかねは右京の台詞にぷっと吹き出した。右京がそんなあかねにすかさず先制攻撃をしかけた。
「そんな乱ちゃんのことならいつでも任せてくれていいんよ?」
 あかねはちょっとむっとすると、ふふん、と不敵に笑ってみせる。
「右京こそ、さんざん苦労させられた乱馬なんかさっさと忘れちゃったほうがいいんじゃない?」
 ぎりぎりっと二人は火花を散らせるようににらみ合ったが、先にふっと右京が笑った。
「なんや元気でたみたいやんか。ほな、うちはここでな。サービスしたるさかい、乱ちゃんにいつでもきいやって伝えてんか」
「私の分今度サービスしてくれるならね」
 あかねは強気にそう言うと、右京はちょっと驚いたように目を丸くした。
「なんやあかねちゃん、しっかりしてはんなぁ」
「お互い様よ」
 ふたりはもう一度お互いに笑い合うと、じゃぁ、と交差点で別れた。

 商店街から外れるその道は川沿いのフェンスがかかった一本道。乱馬はそのフェンスの上をいつも器用に歩いていくのだ。
 あかねは一人その道を歩きながら、そろそろ小乃整骨院が近いことを思い出して、そこで一度休憩をして帰ろうかしら、などと考えていた。陽はもう暮れかかり、そろそろかすみは晩御飯の支度を始めるだろう。それにしても、乱馬は未だにシャンプーと追いかけっこをしているのだろうか。
「こりないわね・・いつもながら」
 ぽつり、一人言葉を吐き出だした、そのとき。
「あかね!逃げろっ!」
 乱馬の声がして驚く。あかねは自分を捕らえようとする気だけを頼りに、地を蹴った。今しがた足があったところに、大きな錘のついたシャンプー専用の武器が地に叩き付けられていた。
「いったい何?!」
 あかねは素早く家の塀に飛び移ると、顔を上げた。シャンプーがすごい形相であかねに向かって飛び掛ってくる。あかねはすぐさま再び跳躍しなければならなかった。
 今度は無残なほど家の塀が打ち破られ、がらがらと音を立てる。シャンプーが塀に力強い蹴りを入れたのだ。仕留め損なったシャンプーが間髪おかず、あかねを狙って飛び上がった。
 跳躍しすぎ、空中でどうにもなくなっているあかねはこのままでは避けきれない。あかねはせめて受け流しできるように腕に力をこめた。が、すぐそこに乱馬が飛び上がってくる。
「あぶねぇっ!」
 あかねを怪我させないように体を抱え込み、しかもシャンプーの蹴りを受け流す。もちろん、あかねの買い物した荷物はすでに乱馬が腕に抱えなおし、あかねは一升瓶だけを抱え込んでいる形だ。瞬間的にここまでできるのは天賦の才故か。
 気が付くと乱馬に抱きしめられていたあかねは、シャンプーが悔しそうに一旦落下するのを見た。
「乱馬?いったいこれはなんなの?!」
「お前、呪泉の水もらったんだってな」
 乱馬があかねを見ずに、一旦家の屋根に足を下ろし、再び跳躍する。シャンプーからとんずらする気なのだ。
「なんでそれを?」
「さぁな。お前、その水持ってるところ、誰に見られた?」
 神妙な顔で乱馬はあかねを見て訊ねる。こういう真剣な顔をしているときは、男前なのになぁ、などと今の状況とはぜんぜん違うことを考えてしまうあかねは慌てて思考を元に戻し、乱馬の問いに答える。
「さゆりと右京・・」
「ウッちゃんからっていうのも考えられるけど、一番確実なのはなびき、かもな」
「なびきおねーちゃんとは会ってないよ?」
「ばぁか。お前は会ってなくても、見られてたら?」
 ぞっとした。もしかして、ずっとつけられていたとしたら?喫茶店での出来事も?それより買い物に出かけたところから??部屋でおとなしくしているところを確認して出てきたはずだったのに、つくづく侮れない姉だ。
「ま、そういうことかもしれない、ってことさ。シャンプーはそれでお前の水奪おうとしてる。婆ぁに渡して、男溺泉に還元できないか試すんだと」
「・・・」
 あかねは黙って乱馬の話を聞いていた。
「どうやら婆ぁは呪泉の水の還元方法を知ってるらしいな・・と、あかね??」
 しばらく反応がないあかねを不思議に思って、乱馬は抱えているあかねを見つめた。
「で、どうして乱馬はそのままにしなかったの?放っておけば、男溺泉が手に入るのに」
 乱馬はちょっと顔をしかめた。
「お前なぁー、俺のことなんだと思ってるんだ??」
「男溺泉のためならウソもつく男、でしょ?」
 つん、とあかねは乱馬から目をそらして言ってやった。
 前に『即席男溺泉』という薬をシャンプーが持ってきたときのことを言っているのだ。
 乱馬は言われたことについて思い当たることが当然あったのでぎくりとさせたが、すぐに強気の口調を取り戻してあかねに言い返した。
「そ、そんな大昔のことイチイチ覚えてんじゃねーや。可愛くねぇっ」
「大昔、ね。・・じゃあなんで今はこうして大昔とは大違いのことをしてるの?」
 あかねの問いに、乱馬は首をかしげてこう言った。
「だって、その水はあかねのだろ?」
 あかねは乱馬の事も無げに言うその言葉に目をぱちくりとさせた。
「あかねの水を無理やり奪って出来上がった男溺泉に、平然と浸かって喜ぶほどこの早乙女乱馬は落ちぶれてねーんだよっ!」
 乱馬は恥ずかし半分にそう言うと、高く跳躍した。気持ちいいくらい抜ける空に、高く高く舞い上がる。あかねは、乱馬の言葉と恥ずかしそうなその顔に、くすっと笑う。
 と、どんっ、という重い衝撃にあかねは驚く。見れば、乱馬があかねに向かって飛び出してきたシャンプーの拳を腕で防いでいたのだ。
「ら、乱馬!」
 予想外の攻撃で無理な体勢でそれでもあかねを守ろうと伸ばした腕。買い物した袋が破れ、小物がぼろぼろと落ちていく。そして、あかねを支えきれなくなった腕はあかねをずるりと手放してしまう。あかねにとっても予想外のこの事態に、持っていた一升瓶から手を滑らせてしまい、あかねは瓶と共に落下しはじめた。
「あかねっ!」
「その水、わたしのものね!」
 一足先に落ちていくあかねに、それを追う二人。あかねの水を追うシャンプーに、あかねを救わんと追う乱馬。あかねはひたすら水が無事であるよう、一升瓶を握り締めた。
 しかし、もう地面はすぐそこに迫ってきていた。乱馬はばらばらと落ちているあかねの買い物した小物たちを見て、一つの方法を思いついた。
「無差別格闘早乙女流・雷光照射鏡っ!!」
 落ちてくる小物の中の手鏡を利用し、乱馬はシャンプに太陽光線を反射させ照射した。狡い手段ではあるが、一瞬の隙を作るには有効であった。
「なにするね!乱馬!!」
 思わず目をあかねから逸らしたシャンプーを追い越し抱え、落ちていくあかねをも掴んで地面すれすれであかねを掬うように拾い上げた、のだが。
「ああっ!!」
 あかねがその予想外の衝撃に耐えられず、一升瓶を手から滑らせ無情にもその一升瓶と水が地面に飛び散った。
「なんたる悲劇ね!呪泉の水が!!」
 乱馬がシャンプーとあかねを着地させるや否や、シャンプーはすでにただの水溜りとなった呪泉の水を見てへたりこんだ。その傍でひらひらと舞う蝶が水の飛沫に掴まってその水に浸かったのを見た。
「蝶溺泉・・になってしまうね」
 がっくりと肩を落としてシャンプーはそう言った。
 あかねと乱馬も顔を見合わせ、仕方ない、というような寂しい笑いをお互いにしあったのだった。

 乱馬とあかねは天道家に帰宅し、かすみが用意してくれた食事を摂った。すでに他のみんなは食べてしまっていて、あかねと乱馬のために、かすみは温め直した料理を卓袱台に並べてくれた。
 それから、部屋で今日の事を思い返していたあかねは、ふと気になることを思い出して部屋を出た。乱馬君なら道場で汗を流しているようだよ、という早雲の言葉を聞いて、あかねは道場へ向かった。
 道場では乱馬が今日のちょっとした無念さを洗い流すように、打ち込みに精を出していた。
 しばらくあかねはその姿を見ていたが、ふと乱馬があかねの気配に気付いて打ち込みを止めた。
「どうしたんだ?」
 少し息を乱しながら乱馬がそう言うと、あかねはうん、といい道場に滑るように入った。
「ちょっと今日のことで聞きたいことがあって」
「なんだよ?」
 乱馬は近くにおいていたタオルで汗を軽く拭くと、肩にタオルをかけてあかねの方に近づいた。
「今日さ、『呪泉の水』でひと騒動だったじゃない」
「ああ」
「シャンプーが水のことを知った経緯はだいたい予想がついたんだけど・・乱馬は?」
「は?」
 乱馬は誤魔化すように惚けた声を上げた。あかねは訝しげに乱馬の顔を見上げた。直感で何か、隠している、と思った。
「シャンプーが乱馬にわざわざ喋ってから私を追いかけに来たってことは無いと思うのよね。やるならてっとり早く私から水を奪う方が先決だもの。だったら・・乱馬はどうやって水のことを知ったの?」
「そりゃぁ・・おめぇ・・」
「見てたんでしょ。違う?」
 あかねは思い切ってそう言った。そう、乱馬が水の経緯を知る考えられる方法は三つ。右京から教えてもらうこと、またはなびきに教えてもらうこと。もしくは、自分がその現場でいきさつをみていること。すなわち、あかねが必死に頼み込んで水を貰うところを見ていること、だ。
 右京からというのは可能性は薄い。あかねは水のことなど右京には話していない。なびきから知るにはそれなりの手数料がいる。乱馬を追う三人娘ならばある程度の経済状態があるが、乱馬にそんなお金は持ち合わせがあるとは思えない。一番手っ取り早く情報を得る方法は自分が見ること、だ。そして、その状態だからこそ、なびきがのぞいていたことも実際見つけることが出来たのだ。
「隠れてたのね。こそこそとみっともない」
 自分が一生懸命になっているところを、その張本人に見られたのだということをあかねは理解した。乱馬が何も言えず肯定も反論もしないからだ。
「だってよ・・」
(あれだけ必死になってる最中にのこのこ俺が出て行ける状態だったかよ?それに・・俺のために必死になってるあかねを見てたかったしな・・)
 乱馬はいい訳がましくぼそぼそと何かを言うが、あかねは恥ずかしさのあまり聞きたくも無い、という態度をとってしまう。
「いいっ!?言っときますけど、別に私あんたのために必死になったことなんて一度もないんだからね!あの水のことだってそう。分かってるでしょうね?!」
 乱馬はあかねの言い方にむっと来たが、いつも通りその手の応酬には事欠かない。
「けっ、俺だって今日おめーを助けたのはおめーためなんかじゃねぇからな!水があったからだよ、み・ず・が!!自惚れるなよ!」
「分かってるわよ!じゃあ、それだけっ!おやすみ!」
 あかねはそれだけ言うと、鼻息荒くどすどす道場を出て行った。
 
 空では、星達が二人の不器用さを笑うように煌いていた。





■END


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