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【らんま1/2】 |
| ■誰の所為で |
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掲載日[2009/09/08] 「もう〜遅くなっちゃったじゃないっ」 「俺の所為じゃねぇ!」 「あんたの所為よ!」 どたばたとあわただしく足を走らせながら、乱馬とあかねは家路を急いでいた。辺りはすでにすっかり暗くなっていて、あかねは空を見上げながら、はあっと大げさにため息をついた。 「なんだよ、そのため息」 不満そうな顔をして、乱馬があかねに問いかけると、あかねはわざとらしく乱馬に答えた。 「あら、聞こえた?」 「わざとらしいったらないな、お前」 むっとしたように乱馬が言うが、あかねもあかねで毎度ながら乱馬の喧嘩に巻き込まれるのはうんざりなのだった。 「わざとらしくもなるわよ。いったいあんたどれだけみんなの恨み買ってんのよ。一日に何度喧嘩すれば気が済むわけ?」 「俺が仕掛けてるんじゃねぇ!あいつらが勝手に飛びかかってくるからしょうがねーだろ!」 乱馬はこっちだって迷惑してるんだ、とも言いたげに、あかねにそう言う。 はたしてそれはそうだろうか、とあかねは思う。乱馬はとにかく格闘と名のつく勝負ごとには目がない。確かに始めに手を出してくるのは相手の方だが、乱馬に何も問題がなかったら飛びかかってくる人間などいないのではないだろうか。 そもそもの問題は乱馬自身なのでは、と疑いたくもなるあかねである。 「なんだよ」 「…なんでもない」 何かを言いたそうにしているあかねの表情を読み取って、乱馬が言ったが、あかねはさりげなく顔をそらした。 そんなあかねを見て、まったく、と乱馬は思う。 「間接的には、全部お前の所為なんだぞ」 「なんであたしが!」 濡れ衣を着せられてはたまらない、とばかりにあかねはすぐさま応戦するが、乱馬は答えられない。答えられる内容ではないからだ。 まず良牙が襲ってくるのは、一度乱馬が勝負をすっぽかした(と思いこんでいる)ことも原因のひとつにあるだろうが、結論、良牙があかねに好意を寄せているので許嫁という羨ましい立場の乱馬にいちいちつっかかるというのが大きい。しかも同じ理由で乱馬も良牙には容赦はしない。 九能先輩が襲ってくるのも、あかねの隣にいる乱馬がいつも邪魔で、撃退しようと所かまわず突撃しては乱馬を追い払おうと躍起になっているのである。結果は、いつも二人に追い払われるのだが、それが繰り返されようとも何度も何度もアタックをしてくるかなり粘り強い人である。 ムースの場合は、シャンプーに振り向いてもらえないことを乱馬の所為だと思い込んでの逆切れ的なやっかみだが、回り回ってあかねの所為にならないこともない。あかねが乱馬と許嫁であることを頭から肯定してくれれば、ムースがわざわざ乱馬にやっかんでくる理由もなくなるというものだ。多少、いやかなり他力本願すぎる考え方ではあるが。 シャンプー、黒薔薇の小太刀、右京の襲撃に至っては、これはもう完全にはっきりしない乱馬の所為ではあるのだが、乱馬はそうとは思わない。やはりあかねがもっと素直だったら、三人の思いに引導を渡すことだってできるのに、と思わずにいられないのである。これも、乱馬らしい他力本願な考えである。 しかし、どれも口にできない回答なので、乱馬は黙り込む。あかねに説明できないのは、負けたようで悔しいのだが、こればかりは負けを甘んじて受けとめようと乱馬は思う。そうでないと、自分のメンツが立たないからだ。小さい男である。 「どうせつまんない言い訳みたいな理由でしょうけどね」 さすが、名ばかりの許嫁とは言え、四六時中一緒にいる乱馬のことなどお見通しらしいあかねである。乱馬がぐっと詰まったように言葉をなくすのを見て、やっぱりね、と肩をすくませる。 「いつも訳すら聞きゃしないくせに」 こちらはこちらで、やはり負けるのが悔しかったのか乱馬が小さく言い返す。そもそも、勝負ごとで負けを甘んじて受けることなど、負けず嫌いの早乙女乱馬ができるはずないのである。 「なんですってっ!?」 あかねはかっと頭に血が昇って乱馬に鞄を振りまわす。しかし乱馬は身軽にその鞄を避けながらあかねの隣を走り続ける。運動神経だけは神業的な能力の持ち主なので、あかねの鞄などあたるはずがないのだ。 「ほれほれ〜くやしかったら当ててみな〜」 べろべろ〜と舌を出してあかねを馬鹿にしながら、ちょろちょろと動きまわる。あかねは悔しそうに鞄を振り回すが、全く乱馬に当てられそうもない。逃げ惑う乱馬を追いまわしながら、あかねは観念しなさい!などと喚いている。 ――観念、ねぇ。 そう言うセリフは、普通相手を完全に追い詰めている人間が言うセリフだと思うんだけど、と乱馬は思う。 あかねは乱馬を追い詰めている気でいるのだろうか?今のこの戯れが、あかねにとって乱馬を追い詰めている状況なのだろうか。 ――甘ぇな…まあ、その甘いところがあかねのいいところなんだけど。 男に負けたくない、と初めて会ってからそのことばかりを口にしていたあかねは、結局のところ男の力量を超えるような武道家にはなれないことを最近では認識したようだ。九能先輩でさえ、あかねは強いと認識していたくらいだから、乱馬は程度が知れるというものだと、こっそり思っていた。 男が目指す武道家とはつまりは生き方である。生と死を賭して己の力の技量の限界を知り、それを武器に相手との勝負に挑む。それが武道家というものである。女ではそういう生き方は難しいだろうと思う。正直なところ、乱馬はあかねにそういう生き方をさせたくないのだ。 だからこそ、乱馬は自分が強くなければ意味がないと思っている。貧力虚脱灸のせいで力を失ったときに、一番に心配だったのはあかねのことだった。自分が強くなければ、あかねが武道家たる道を歩まなくてはならなくなってしまう。なぜなら、あかねは天道道場の跡取りだからだ。絶対にそれだけはさせられない。させてはいけないのだ。 乱馬にとって、あかねは武道家ではない。あかねが花のように笑っていられるのであれば、あかねに強さなど必要無いとさえ思う。それを言ったらまたあかねは、人を弱いと思って!などと勘違いして憤慨するのだろうが。 「スキあり」 乱馬はぽこんと鞄を頭から置かれた。あかねは珍しく加減してくれたのか、乱馬はあまり痛くなかった。そんな乱馬を、あかねは不思議そうに見上げている。 「どうしたの?乱馬。あんたさっきから黙ったまんまで、変よ」 「誰の所為だよ」 むっとして、乱馬が言う。本当に、鈍い。鈍い鈍い、俺の許嫁。 「また、あたしの所為にする気?」 「そーだよ。あかねの所為で、いつも俺が困る」 「なにそれ。意味分かんない」 ――分かれよ。 ――いや、分かるな!今の分かるのはまずい。まずいったらまずい。 気持ちがばれないことが、嬉しいのか不満なのか、乱馬自身にもわからない。そういう気持ちをごまかすように、乱馬は慌ててフェンスの上を歩き直すと、空を見上げてみることにした。もう空は完全に日が沈んでいて、明るい月が淡い光を発している。満月に近い形の月は、二人を明るく照らす。 ――本当は、あかねの所為で困るなら。 ――俺は大歓迎なんだ。 ――それはお前が生きてる証だから。 ――お前が俺のそばにいるって証だから。 ガラにもなく乱馬がそんな事を思っていると、あかねが嬉しそうに顔を乱馬に向けている。ぼんやりしている乱馬を見つけたあかねは、思いついた企みを隠すように笑顔をみせたのだった。 「乱馬」 「な、なんだよ」 「スキあり」 つんっと人差し指で乱馬は足をつつかれて、簡単にバランスを崩した乱馬はそのままフェンスの向こう側に落ちてしまう。盛大な水音が鳴って、乱馬は女の姿になってしまった。 「こらぁーあかねぇ!何すんだ急に!」 「何でもあたしの所為ばかりにするんだから!天罰よ!」 フェンスにもたれて川に落ちた乱馬を覗き込むあかねは、そう言いながらも朗らかに笑っている。まったく可愛くねぇ、と乱馬はいつも思うが、笑顔を見せられるとその気持ちもすぐに和らいでしまう。 笑うと可愛いよ、って言ったのはいつだっただろうか、と乱馬は考える。久しぶりに今度言ってやろうか、言ったらどんな顔をするだろう、などと乱馬は考えながら、再びフェンスまで飛び上がっていた。 「ったく、帰るぞ、あかね」 「うん」 二人はさっきまで喧嘩していたことなどすっかり忘れて、再び家路を急ぐのだった。 ■END |