【らんま1/2】台詞お題30より

■01 「言わないのか…言えないのか…。 どっちだ?」








 最近、あかねの様子がおかしい。


 常に遠い目をしている。そんな気がする。

 食事のときは呆けたようにしていたかと思えば、はっと我に返り満足に食べずに部屋に戻っちまう。

 授業もいつもなら一心に板書をとり、当てられてもすらすらと答えるあかねなのに、今日は授業中ぼうっとした顔をしてひなこ先生に叱られていた。


 あかねと仲のいいゆかとさゆりが、心配そうにあかねに近寄る。

 あかねはいつもそれを誤魔化すように手を振っているのをみつける。これはいつもの仕草のように見えた。

 ただいつもの元気がないようにも、見えた。



―別に四六時中あかねの様子を見てたわけじゃねーけど。


 帰り道。

 俺達は同じ屋根の下に暮らしているもんだから、いつも一緒に帰っている。

 最初は冷やかされて少し恥ずかしい気持ちもあったけど、結局一緒の家に帰るんだからどこかしらで出会う。

 別にお互いに別の用事がなければ、自然と一緒になってしまう。

 それに、今更誰もひやかしても来なくなった。

 こういうのを公認、というのだろうか。自覚すると顔が赤くなりそうになる。

 まあ、許婚だって、聞きなれちまってなんとも思わないけど、よく考えるとすごいことだ。

 両家の親が生まれたときから結婚を許している、なんてことは普通ありえねーし。

「乱馬」

 ふいに、その許婚から声を掛けられてどきりとした。余計なことを考えていた所為で、返事の声が裏返りそうになる。

「な、んだよ」

「何、考えてるの・・黙り込んじゃって」

 あかねの方を見下ろす。自分は今フェンスの上を歩いているので、道路を歩くあかねを見下ろす形になる。

 しかし、あかねはこちらを向いてない。

 心、ここにあらず、かよ。声掛けといて失礼な奴だ。

「別に。少なくとも不器用で寸胴で可愛げのない誰かのことじゃないのは確かだな」

 意識を、こっちに向けて欲しいと思った・・んだと思う。正直に認めると。

 でも俺は認められないから。そんなにまだオトナになれないから。

 ただ、話をしたかったんだな。ちゃんと顔を見たかったんだ。

 唯一の、しかも確実なセン(方法)で。

 でも、それすら、今のあかねには届かないようだった。

「あ、そう・・別に私も・・」

 あかねは気の無い返事でそこまでいうと黙り込んだ。

 結局あかねは俺を見上げてはくれなかった。

 一体、何をそんなに思いつめてるんだ?

「あかね」

 思い切って聞いてみるか?

「何よ?」

 俺が呼ぶと、少し言葉に意識が宿ったように聞こえた。抑揚が、さっきよりかはあるようだ。

 しばらく黙っていることにするか。

「・・・」

 あかねは俺の言葉を待っているんだろうか?それとも、もう意識を手放してしまったんだろうか?

 不安になる。声をもう一度、掛けたくなる。

 あかねの意識を自分に留まらせておく方法がないのかと、頭の中を得体の知れない感情がふつふつと湧きあがっては消える。

 でも、声をかけたら負けだ。

 なんとなくそんな気がして、俺は必死に言葉を紡ぐことを抑制していた。

「なに?乱馬」

 ようやく、あかねがこちらを向いた。念願が叶ったような気持ちになる。

 俺はあかねを見下ろしてから、しばらくあかねの顔を見ていた。よく見ると、その目はいつもよりも元気が無い。

 目の下にくまのような黒ずんだ跡のようなものも見える。

 俺は意を決した。軽く膝に力を入れて、フェンスからあかねの立つ道路に飛び降りた。

 大した衝撃もなく、俺はあかねの目の前に立つ。あかねが、不思議そうに俺を見つめている。

「最近、お前ぼーっとしてるけど、何かあったのか?」

 言ってみてから、俺は自分がずっと聞けなかった理由が初めて分かった。

 聞いてみて、拒絶されるときのことが怖かったのだ。関係ないと、つっぱねられることが、怖かったのだ。

 今更そのことに気づいてももう遅い。俺はあかねに聞いてしまったあとだったのだ。

 あかねがうつむいた。しまった、と思う。何か、言わなければ。


「俺には…、言わないのか…言えないのか…。 どっちだ?」


 半ばそれは賭けのようなものだった。

 少なくとも俺に関係あることなのか、が知りたかった。

「言えない、の」

 あかねがぽつり、とそう言った。少し、嬉しかった。

 あかねの意識が俺にあることがわかった気がして。

「じゃあ、言えるようになったら言えよ。わかったな?」

「うん。ごめんね、心配かけて」

 素直なあかねが、珍しく顔を出した。

 元気の無い顔でふんわりと笑うあかねを見て、思わず手が出そうになる。

 …こ、こら!しっかりしろ俺!!

「帰ろ。乱馬」

「ああ」

 俺の気持ちを知ってか知らずか・・・というよりそんなことに微塵も気づかない鈍い俺の許婚は、再び歩き出す。

 俺もそれを追う様に、歩き始めていた。


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 これから2ヵ月後のクリスマスに向けて、あかねがセーターを編んでいることに気づいたのはそれから3日後のことだった。







■END


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