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【らんま1/2】台詞お題30より |
| ■07「何を謝る事がある。」 |
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きぃんと張り詰めた空気は、肌を刺すように冷たく凍りついている。空模様は重く暗い雲に覆われていて、今日は気温が上がらないのかな、とあかねは少し肩をすくめた。 ぴょん、と足を跳ねさせて、一呼吸する。朝のロードワークを始める前の、それはちょっとした気合だった。少し前ならば、豊かに延びたみどりなす黒髪がゆったりと跳ねたのに、今では心許なく揺れる短い髪。今更また延ばそうとは思わないけれど、あかねにはまだちょっと肩のあたりが心細い。 きっと、運命だと、思うことにしていた。 知っていたのに、ベクトルが曲がってこちらに向くはずもないと知っていたはずなのに、諦め切れなかったから。自分で蹴りをつけることもできずにいたのだから。だから。 あっという間に。 髪はなくなってしまったの。 そして、未練も想いも、断ち切るように迫られたの。 でも一体・・何に? 何から迫られたのか判らなかった。だから、「運命」だと思うことにした。 『髪が短くなったこと』も『想いを断ち切らなければならなかったこと』も運命だと思えばなんとなくそう思えた。 確かに運命的ではあった。それは、あかねに対してではなく、東風先生にとってかすみが、であるが。その運命を捩じ曲げるようなどとは、相手を思いやることを第一にする心優しいあかねには、土台無理な話なのだった。 頬に何かが、汗と一緒に滑り落ちた。と、思った。思いたかったのに。 そう思って逃げることすらできない。――正面に、あいつが居た。 「・・泣いてんのか?」 怖い。あかねは瞬時にそう思ってから、そう思ったのはなぜだろうと考える。 「なによ、なんであんたがここにいるのよ・・」 涙を拭いたら負けだと思った。涙に気づいた自分がいることを、あかねは知られたくはなかった。目の前に居る奴にだけには一番知られたくなかった――名ばかりの許婚、早乙女乱馬だけには。 だから、あかねは昂然と顔を掲げて、乱馬の瞳を見据えた。絶対に涙だと知られないように。見紛えたのだとすら、思わせるように。 あかねのそんな意志の強い瞳に、乱馬は気圧された。と、同時に、これほどの強い意志の瞳に出会ったことが、乱馬にとって一瞬、奇跡のようにも思えた。 男のように力強い威圧感があるわけではない。とちらかといえば、繊細な研ぎ澄まされた精神力が急所を突くように射抜く様に似ている。これほどの力は男にだってそうそうあるものではない。まして、目の前に居るのは武道家を志すとはいえ女。どちらにしても、これほどの意志の力を持つ者にはついぞ出会えたことはない。 目の前にいる名ばかりの許婚、天道あかね。 その少女の許婚でいられたことが、例え名ばかりであったとしても、乱馬は嬉しいと思った。 「べつに。俺だって朝のロードワークくらいはするさ」 あかねの堂々とした姿に乱馬なりの敬意を表して、くるりと乱馬は背を向けた。あかねのほっとした様子が、空気を伝わって届いたような気がした。 「そーですか。別にいいけどね。でも、よりによってあたしと同じコースを選ばなくってもいいでしょうに」 「ぐ、偶然だよ、偶然っ!」 あからさまに力のこもった声でそう言った乱馬に、あかねは思わず笑いがこみ上げた。 「ぷっ・・あは、あはは・・」 力なく、ではあったが、あかねは笑った。もうちょっと思いっきり笑ってくれたら、と乱馬は少し残念に思ったが、顔には出さないように自分に細心の注意を施した。 「な・・なんだよ・・」 「ううん、ちょっと・・ええと」 笑い泣きしたように、あかねはさりげなく涙を拭いた。それから、乱馬の方に走り寄る。小鹿のような細い足が軽やかに乱馬の傍にやってくるのをみて、先ほどの強い意志の瞳との矛盾に乱馬は少しどきどきした。 あかねが正面に立って乱馬を見上げると、ふわりとあかねの髪の香りが鼻腔をくすぐった。柔らかな花の香りだった。 「ごめん、ごめんね?」 「・・・?何を謝る事があるんだ?」 「なんとなく」 そういって、あかねはにっこりと微笑む。 乱馬はくら、と頭の血が上ったような、血が引いたような、妙な感覚に襲われる。至近距離でこの笑顔は無しだ、と思った。あわてて、乱馬はあかねから目をそらす。 「か、帰ろーぜ。学校、遅れるだろっ!?」 ぶっきらぼうにそう言う乱馬の声に、あかねはまたも声を顰めて笑うのが聞こえてきた。 乱馬は何がなんだかわからない。さっきまで泣いていたと思っていたのに、もう笑っているんだから、女という生き物は不可解だと思った。 「先いくぞっ!」 「ま、待ってよ!」 乱馬が走り出してすぐ、あかねも後を追うように走り出した。 はじめての二人きりのロードワーク。 それは、二人がまだお互いの気持ちに気づく前のプロローグ。 ■END |