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【らんま1/2】台詞お題30より |
| ■09「なにしてんだこんな所で。」 |
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昼休み、バレーボール部の部長が直々に一年のクラスまできた事で、クラス中に落ちつかなげな雰囲気が漂っていた。教室に、クラスじゃない人が来ると、どうしてこんなに違和感を感じるんだろう、とあかねはぼんやりと思いながら、教室のドアの前でバレー部部長こと、高梨幸枝と話していた。 「悪いねぇ、レギュラーの子が捻挫しちゃって。いつもなら部の中で代理立ててでもやるんだけど、今回ちょっと負けられない試合なのよ」 幸枝はそういいながら、腰の辺りまでのびた髪を振り払った。かつて、あかねにもあった長い髪に、あかねは目をやりながら、いえ、と遠慮がちに返事した。 「ありがと、天道さん。あとね、やっぱりチームワークのこともあるし、大会までちょっと部活に出てもらえると嬉しいんだけど」 「いいですよ」 あかねは頷いた。大会だけ出るよりは、少し周りの癖や長所を知っておくべきだろう、とあかねはそう思ったからだ。幸枝はさばさばとした性格のようで、助かる、と言うと、あかねの肩をトン、と叩いた。 「頼りにしてるよ。・・部員じゃないのにごめんね」 「いえ、そんな・・」 あかねは首を振っている。幸枝はあかねに目を細めると、教室の向こうでひときわ、ちらちらとこちらを気にしている男子生徒に声を放った。 「早乙女くん、許婚、借りてもいいよね?しばらく一緒に帰れないけど、我慢できる?」 幸枝の言葉に、乱馬は一瞬驚いた後、すぐになんでもない、という表情を装ってこういい返した。 「べっつに。俺は関係ねーから!」 「そーぉ?ありがとね!」 幸枝はそれだけ言うと、あかねに「じゃ」と挨拶して1年F組を退散していった。 そんなわけで、今日からバレー部に参加することになったあかねは、珍しく一人で帰途についていた。いつもは話すことが特別無くてもなんとなく一緒に帰っている相手が、今日はいない。話したいことがあるわけでもないのに、隣にいない、ということが、なんとなく寂しくてあかねはちょっと不思議だった。 「変なの・・」 あかねは一人ごちた。夕焼けに染まったあたりに広がる一色の赤。フェンスの上を歩く足音がしないと、なんて静かなんだろう、とあかねがなんとなくそう考えていると。 あーん、あーん。 子供の泣き声が、不意に聞こえてきたことに気づいて、あかねは辺りを見回した。見える範囲に子供は見つからない。 「・・・?」 泣き声は止むどころか次第に大きくなっていった。どこかに迷子の子供でもいるのかしら、とあかねは思う。しばらく立ち止まってその声を聞いていたが、一向にやむ気配はない。あかねは気になってしかたがなかったので、子供を捜すことにした。 「どこなのかしら・・」 帰り道から外れて、見つかる限りの曲がり角を曲がってみるが、どうしたことか子供の姿は見当たらない。 「まさか、お化けなんてことは・・ないわよね」 一瞬自分の言った言葉に、あかねはぞくりと背筋が冷たくなった。あかねはお化けの類(たぐい)が大の苦手なのだ。しかし、そう思った瞬間に、子供の声がまたひどくなったことにあかねは気づいた。先ほどまで夕焼けの照り返しで赤く染まっていた景色が、一変して暗闇に転じようとしていた。子供は暗闇を怖がってさらに泣いているのに違いない。 「お化けなんかじゃないわ・・!」 あかねは子供の居場所をみつけようと、再び足を走らせようとした、その瞬間。あかねがいたその狭い路地の塀の下に小さな穴が開いているのを見つけた。あかねはその塀のむこうに建つ一軒家を見つめた。ガラス窓は曇っていたし、明かりがついていないので中の様子は伺えなかったが、その家からは誰かが住んでいる、という気配そのものがないように感じられた。塀の上に覗いている木々の手入れもされていないので、おそらく空き家か、長く不在にしている家なのだろう。 「まさか、ここに入り込んでる、とか?」 あかねはごくり、とつばを飲み込んだ。ただでさえあたりは暗くなり始めているっていうのに、薄気味の悪い空き家になぞ本来なら関わりたくはないところである。だが、子供の声はまだ聞こえてくるし、ましてこのまま家に帰ってしまうことなんて、あかねにはできはしない。 「入るしかないわね」 すうっと息を吸い込んで気合を入れる。正面の門扉から入るべきかもしれないが、子供ならば門扉よりこの抜け穴を使った可能性が高い。あかねはその抜け穴の幅を確認して、よつんばいになってその穴を抜けた。 塀の向こうに抜けると、やはりそこは空き家らしかった。芝生はすでにぼうぼうに伸びて雑草と混じっている有様だったし、花壇のように誂(あつら)えてあるレンガの囲いの中には、茨の蔦のようなものがうねうねととぐろを巻いているだけで、すでに枯れてしまっているようだった。しかし、塀を越えた分、子供の声はさらに近くなったような気がして、あかねは心のうちでほっとした。早く見つけなくてあげなくちゃ、とあかねはすばやく立ち上がって、服に付いたほこりを払うのもそこそこに走り出した。 「誰かいるのー?ねぇー、返事してちょうだーい!」 子供の声が聞こえても名前がわからないので呼びかけることもできない。あかねは声を上げ、その子が助けがきたことに気づいてくれることを願った。声を上げながら走っていると、唐突に物陰から影が飛び出してきてあかねは仰天して思わず悲鳴を上げた。 「きゃぁっ!」 驚いて尻餅を突きそうになったが、かろうじてあかねはこらえた。正面を横切った影は、さっきまで泣いていた子供のようだった。まだ、しゃっくりをしながら泣いているが、あかねが来てくれたことに気づいてあかねの声のする方に出てきてくれたらしかった。 「大丈夫?」 あかねは安堵の息を吐くと、子供の方に歩み寄って子供に怪我はないか確かめた。 「怪我はないわね。ずっと大声で泣いていたのはあなたね?」 子供はこくり、と頷いた。子供は幼稚園の服を着た女の子で、頷いた拍子にウサギのように結わえたツインテールがぴょこんと揺れた。あかねは優しくその子の手を取ってしゃがんだ。 「暗くて怖かったでしょう。さ、帰りましょう?お姉ちゃん、送ってあげるから」 子供の腕は柔らかくぷくぷくとしていて、頼りないほど小さかった。その小さな腕が、きっぱりとあかねの手を振り払ったので、あかねは驚いた。 「だめ、帰れないの」 「どうして?」 あかねが聞き返すと、今度は子供のほうがあかねの手を握って、こっち、と引っ張った。あかねは言われるままにその子供が呼ぶほうに歩いていってみることにした。 「あそこの風船、とれる?」 子供がそういって指差したのは、この空き家の2階の雨どいのところに引っかかった風船だった。風に流されてひっかかってしまったのだろう。そういえばこの家の裏手は公園がある。そこで遊んでいたこの子の手から離れて、この家の雨どいに引っかかってしまったのだろう。 しかし、あかねは高さを見て、ちょっと気後れした。明かりがある時間帯ならまだしも、明かりがなくて見えにくい上に足場の悪いところに行くのは多少気が引けた。しかし、その子はその風船と一緒でないと帰らないと言い張るだろう。その風船のために、暗くて怖いのも我慢してずっと泣いていたのだから。 「ちょっと待っててね。お姉ちゃん、取ってきてあげるから」 女の子を元気付けるようにそういうと、あかねはその子をその場から下がらせた。 心を落ち着かせ、風船までの到達ルートを確認する。とりあえず、無理してでも塀に上がる必要がある。そのあと一階の屋根を足場にしてそのまま、背の高い隣の木の枝に足を掛け、2階の屋根まで木を伝って上り詰めるのが一番よさそうだ。 「いくわよ!」 ルートを決めたら迷いはなかった。シミュレートしたルートをなぞるだけだ。それ以外のことを考えてはだめだ。 あかねは助走をつけて塀に飛び上がった。これはまずは成功した。そのまま塀から一階の屋根へと飛び移る。屋根の瓦ががこっと音を立てたので、ひやりとしたが、何とか次の目的の木の枝には到達できていた。しかしここで息はつけなかった。枝は思ったよりも細く自分の体重を耐え切れるほど強くはなさそうだ。思うより体が反応していた。しなった枝の反動を利用して、2,3ジャンプする。あっという間に2階の屋根に到達できた。 「わぁ!」 女の子がうれしそうに声を上げたのが聞こえた。あかねは口の端で微笑みつつも、まだ目は真剣だった。足場の悪い屋根の上だ。油断は禁物、とあかねは心の中でつぶやきながら、風船の近くまでそろそろと這っていった。一階の瓦がずれたこともあり、屋根の瓦止めが信用できず、立つことはできなかった。風船に到達するまで、じりじりした気持ちをこらえながらあかねはずるずると移動した。ようやく、指の先が届いたところで雨どいにひっかかった風船を手にとった。 「とれたぁ!」 女の子が下で喜んだ声が聞こえて、あかねは微笑んだ。思わずほっと息をつきそうになった瞬間、ずるっと体がずれて、あっと思った時には体は屋根から放り出されていた。瓦止めがやはり弱っていたのだ。いくつかの瓦が落ちていくのを見て、あかねは叫んだ。 「危ないから下がって!!」 瓦が割れる音が聞こえてきて、あかねは女の子が怪我をしていないことを祈った。しかし、人の心配ばかりしている場合ではない。あかねの方も体は完全に屋根から出てしまい、雨どいをつかんでなんとかぶら下がっている状態だ。 「お姉ちゃん!」 子供の声が聞こえてきて、あかねは思わずたずねた。 「怪我はない?!」 「うん!お姉ちゃんは大丈夫!?」 「大丈夫よ!」 こんなことで弱音を吐くわけにはいかない。あかねは心を強く保つように、息を吸った。雨どいの強度もたいしたものではないことはわかっている。すでにみしみしと悲鳴を上げているのだ。即断しなければならない。降りることを。 「大丈夫、いけるわ!」 えいっ、と声を上げて、2階の雨どいから手を離す。衝撃に耐えられるように、足を軽くまげて構える。1階の屋根に到達すると同時に、膝に重い負荷がかかったが、こらえきれないほどではない。あかねはよし、と心の中で思うと、そのまま体を反転させて塀に向かって飛ぶつもりだった。しかし、また瓦がずるっと滑り落ちていく。先ほど1階の屋根に足をつけた時点で既に瓦止めは緩くなっていたようで、瓦は何の抵抗もなくがらがらと落ちていく。瓦に完全足を取られたあかねは、もう体勢を整えることはできなかった。最後の手段は、受身を取ることのみだ。 (せっかくの風船っ・・!) 完全に中空に投げ出されたあかねは歯を食いしばり、衝撃が来るのを待った。女の子の悲鳴が、ずいぶん遠くで聞こえた。 その後、確かに衝撃は来た。しかし、思ったほどの衝撃ではなかった。冷たい地面に叩きつけられることを覚悟していたことに比べれば、その与えられた衝撃はほとんど無に等しかった。あかねは驚いて目を開けてみると、目を開けた先には無表情の許婚がいた。乱馬に両腕で抱えられていたことに、あかねはやっとのように気づいた。 「乱・・」 「なにしてんだこんな所で。」 声には静かな怒気がこめられていた。こんな声を聞くのは、いつもならばあかねに対してではない。あかねを酷く扱った相手に対して、ごくたまに乱馬が見せる本気の怒りだ。 あまりに強い乱馬の怒りのオーラに、あかねはうろたえた。慌てて目をそらしたのは、乱馬の恐ろしい怒りから逃れたかったからだ。 「あ、ありがと。も、いいよ。降ろして」 「歩けるのか」 乱馬はあかねを下ろそうというそぶりも見せずに、そう言った。あかねは黙り込む。実は、さっき一階の屋根で瓦で足を取られた瞬間に足をひねったのだ。 「で、でも、これ、その子に渡さなくちゃ」 すっかり乱馬の怒気に圧されて、あかねはおずおずと握り締めた風船を見せた。乱馬はそんなあかねと、風船を見比べてから、はぁ、と息をつくと、あかねをそうっと降ろした。乱馬の肩にしがみつかせるように、あかねを立たせる。 「ごめんね、びっくりしたでしょう?はい、風船」 「ありがと・・お姉ちゃん、怪我しちゃったの?」 すっかり驚いて女の子はまたもや泣き出しそうになっていた。あかねは慌てて、女の子の頭を撫でてやる。 「そんなことないの。大丈夫よ。すぐ治るお医者さんも知ってるし」 女の子はあかねを見上げて、ごめんなさい、と小声で謝った。涙腺も緩んで、また泣き出し始めているのを見て、乱馬が手を差し伸べて肩車をしてやった。 「大丈夫だって。この女頑丈だし、ちょっとやそっとじゃ壊れやしねぇよ。で、おめぇ、家どっちだ?」 泣き始めていた女の子も、肩車が嬉しかったのかすぐに泣きやんで、あっち、と家の方向を指差した。 「よし、じゃあとっとと送ってやるから」 いいながら、乱馬はまた、あかねを腕に抱えてやる。あかねは慌てて、いいわよ!と言おうとしたが、乱馬は有無を言わさず抱えて、軽々と塀を飛び越えていった。 二人は女の子を自宅まで送り、夜遅く悪いとは思ったが東風先生のところに行くことにした。あかねの足の腫れが尋常でなくなってきたことを乱馬は見て取ったのだ。女の子を降ろしたあとは、乱馬があかねをおんぶしていた。 「捻挫の代役が捻挫してどーすんだ」 「うるさいわねっ」 いつもなら口喧嘩が始まるところだが、今日はどうしたことか、二人ともそのあとが続かずに黙り込んだ。 しばらく、じっと黙っていた二人だったが、あかねが先に沈黙に耐え切れなくなった。 「ねぇ」 きゅっと、乱馬の首にかけた腕に力をこめる。そうすれば、なんだよ、とかいつもみたいに言ってくれると思ったのだが、乱馬は返事をしなかった。あかねは思い切って、先に謝ることにした。 「ごめん、心配かけて」 「してねぇよ」 「そぉ」 今度ばかりは自分が悪いので、あかねは怒る気になれなかった。ここで怒るのは乱馬にとって理不尽な気がしたので、あかねは乱馬が言った言葉を流すことにした。 整骨院が見えてきて、乱馬が不意に立ち止まる。 「一つ頼みがある」 「なに」 乱馬はしばらく言いにくそうに黙っていた。街灯の明かりが頼りなげに点滅して、二人の影を映しては消し、映しては消しを繰り返した。乱馬がなかなかしゃべってくれないので、あかねは不安でしょうがなかったのだが、我慢して乱馬の言葉を待った。 そして、ようやく乱馬は声を出した。 「無茶だけはすんな。頼むから」 それだけいうと、乱馬は足早に歩き出した。あかねは、うん、と頷き、乱馬の首にしっかりと抱きついた。 「今日は、ありがと」 ■END |