【らんま1/2】台詞お題30より

■12「死にたいの?」→「死にたい?」











(そろそろ、だなぁ。)

 しとしと雨が降る空模様を縁側で寝転がり眺めながら、乱馬はぼんやりと思う。

 今日は乱馬が教えている武道教室が休みの日で、そんな日はごろごろしていることが多い。

 大食らいの居候という負い目をどうにか腐食するために、家計の足しにでもなればと始めた武道教室は意外に盛況していた。物騒な世の中を反映してか、小学生や年頃の女性という年齢層を獲得するのに成功したのだ。成功の過程では、なびきのプロデュースや会計、あかねのアシストぶり、東風先生のところに嫁に行ったかすみが時々持ってくるお手製の差し入れなどが効を奏したようだった。もちろん乱馬もこの盛況ぶりには一役買っている。武術を教えるという役目を嫌いではなかったらしく、教え方が面白い、楽しいと子供達からは喜ばれているのだ。



 ――この話は、皆さんが知っているお話から5年ほど先のお話。



 無差別格闘流2代目早乙女乱馬は、その流派を守る勤めを1つずつ果たしていた。

 まず道場を継ぐこと。

 このことは常に町内を混乱に陥れた元凶であったが、あかねが地方の大学に進学し、乱馬も高校卒業の時点で中国に渡ってしまうと、割合あっさりとシャンプーはムースと身を固め、右京はお好み焼きの道を極めるべく店を畳んで修行の旅へと出てしまった。

 乱馬は中国の呪泉郷で男を取り戻すと、しばらくそのまま中国で修行を続けた。もちろん、娘溺泉に溺れて元の木阿弥になるのは乱馬としても勘弁したかったので、その「伝説の修行場」は乱馬の修行場としては却下された。

 そうして、4年後。天道家に戻った二人を呼び出して、邪魔者がいないうちにと天道家家長その人が祝言を薦めたところ、二人は多少照れながらも承諾しつつがなく祝言が挙げられた。

 そして、流派を守る勤めの2つ目は後継ぎ。

 二人の子供はつい先月生まれていた。

 名前は、蒼馬(ソウマ)。名付け親は早雲だった。天道家の慣わしにより空を意味する「蒼」と早乙女家男子たるものとしてつけられる「馬」を使ったという話だった。その話を聞いて、誰も異議を唱えるものはいなかった。



 よっこらせ、と声を上げながら乱馬は立ち上がる。そろそろ蒼馬の昼寝が終わる頃だろうと思い、乱馬たちの寝室になっている2階へと上がっていってみた。

 そうっと乱馬が襖を開けてみると、あかねが素早く目を覚ました。

「あ、悪い。起こしちまったか」

「ううん、もうそろそろ起きなきゃいけない時間だから」

 あかねは目をこすりながらも起き上がり、よく寝ている蒼馬を見て柔らかく微笑んだ。

「ふふ、よく眠ってるわ。起こすのが可愛そうね」

「蒼馬は眠ってばっかだもんなぁ。よく食べるし、最近太ってねぇか?こいつ」

 乱馬はふにふに、と柔らかい蒼馬のほっぺをつついてみる。

「平均体重みたいだから気にしなくて良いわよ。赤ちゃんは大体ふくよかなもんだから」

 言いながら、あかねは自分の敷いていた布団や掛け毛布を畳んでいる。蒼馬をつついている乱馬を見ながら、あかねがまた笑った。

「なんの笑いだ?」

 乱馬が訳もわからず笑われたことに憮然としてあかねを見上げると、あかねはごめん、と笑いながら謝った。

「だって、本当にそっくりなんだもの、蒼馬とアンタの顔。男の子は母親に似るっていうのに可笑しい位そっくり」

「可笑しくねぇよ。俺が父親なんだからよー」

 憮然としたまま乱馬は蒼馬に向き直ると、なーっ?とすやすや眠る蒼馬に同意を求めた。

「ぜんっぜん起きねぇし・・この眠りの深さはお前譲りだ。寝相が悪くなくてよかったな」

 乱馬はいつも通りに余計な一言を加えてそう言うと、あかねはむっとしながらも布団を押入れに仕舞う作業を優先させた。布団を仕舞って押入れの襖を閉めて、あかねはようやく向き直ると反撃態勢をとった。

「うるさいわね。大体どうしたのよ?いつも休みの日は縁側でぐてーっとしてるくせに、なにか用があったんじゃないの?」

「ああ、そうなんだけど・・」

 乱馬は蒼馬のほほをまだふにふにしている。蒼馬がとうとうその感触に気づいたか、手を上げてイヤイヤをした。乱馬はそれに気づいて、詫びるようにお腹をぽんぽんと叩いてやる。

 乱馬がなかなか話を始めないので、あかねは言い難い話なのだろうと思い、乱馬の隣に腰を落ち着けた。二人で蒼馬を見下ろすような形になる。

「どうしたの?」

「あのさ・・」

「うん」

「なんか、欲しい物あるか?」

「えっ?」

 あかねはびっくりしてしまう。今まで乱馬から何かを貰ったことなど・・ないとは言わないが、本当に珍しいことなのだ。しかも事前にちゃんとあかねに聞いてくるなんてことは、結婚する前では考えられないことだった。

「うーん・・ないわけじゃないけど、どうして?」

 あかねは唐突にどうして乱馬がそんなことをしてくれる気になったのか、そっちの方が気になった。

「蒼馬、生んでくれたからかな。あと、祝言挙げたの去年の今ごろだったし」

「結婚記念日ってこと?」

 あかねはくすぐったそうに笑いながら、膝を抱えて乱馬を見つめる。乱馬は照れ隠しのようにあかねの方には顔を絶対に向けないで、蒼馬のお腹をぽんぽんとリズミカルに叩いてやる。

「ひらたくいやぁ、それだな」

「そか、でも難題かもよ?私の欲しい物」

 あかねが意地悪そうに乱馬にそう言うと、乱馬はギョッとした顔であかねを見やった。

「なにっ?」

「乱馬には無理かもねー♪」

 完全にからかった声であかねはそう言うが、乱馬はどうやら真に受けたらしくがっくりと肩を落としている。

「そんなに高価なものなのか?」

「どうでしょう?」

「そんなに手に入りにくいものなのか?」

「さぁ?」

 あかねは完全に乱馬を手玉にとって遊んでいるのだが、乱馬はそのあかねに気づいていない。あかねのほしいものを与えてやれないという不甲斐なさに、一人どんよりと頭を抱えている。

「ねーショック?」

「・・ああ」

「死にたい?」

「いやそこまでは」

 素で返事する乱馬に、あかねはとうとう噴き出した。

「うっそ。乱馬嘘よ。でも私結構欲張りなの。今から欲しい物言うから、ちゃんと聞いてくれる?」

「ああ」

 乱馬はどうやら無理難題を言われるわけではなさそうだと判断したのか、立ち直って居住まいを正した。あかねも、それにあわせてきちんと座りなおす。

「私が欲しいものはね」

 いかにもあかねがそれを大切にしていこうとしているかが傍から見ても判るほど、あかねはゆっくりとその言葉を紡ぎだした。

「あったかい家族」

「え?」

 あまりに拍子抜けして、乱馬は声を上げた。あかねはそんな乱馬を見て微笑む。

「ほら、あたしお母さんいなかったでしょ。だからちゃんとした家族ってほんとは憧れてた。お父さんがいて、お母さんがいて・・って当たり前のそんな家族が羨ましかった。誰にも言ったことないけどね」

「うん」

「だからね、私にはもう結構乱馬からもらっちゃってるんだ。私はお母さんになれたし、蒼馬もいるし、蒼馬のお父さんも一緒にいてくれるでしょ。だから、私、乱馬にはもう感謝してもし足りないくらいなんだ」

「あかね・・」

 乱馬はあかねの言葉を聞いて感慨深い表情になっていった。あかねが、そんな乱馬を見つめて、えへへ、と照れ隠しのように笑った。

「うん、でも家族ってこれからもずっと時間を過ごすものだから、これで終わりじゃないし。だから乱馬とちゃんと協力してもらって蒼馬も乱馬も私も居心地のいい家族になって行きたいなって思って。それが私の欲しい物を手に入れる一番有効な手段だと思って・・だから、乱馬、協力してくれる?」

 あかねはそういって乱馬の顔を覗き込むと、乱馬は当たり前だろ、といつもの憮然とした顔に戻っていて、なんだかあかねはその乱馬の表情に安心してしまったのだった。

「うー、うえっ・・」

「あ、蒼馬目を覚ましちゃった。乱馬、じゃあ今から実行よ。オムツ取ってきて!」

 あかねが素早く蒼馬のオムツをチェックして、乱馬にそう言うと乱馬は面食らった。

「ああ?」

「協力するって言ったじゃない。乱馬もオムツ替えくらい覚えないと、私が買い物でいないときとか困るでしょ?早く早くっ!」

「ああ・・」

 乱馬はなんかうまく丸め込まれた気がする・・と思いつつも立ち上がってから、はっと気がついた。

「オムツってどこに仕舞ってるんだ?」

「ああもう!」







■END


ガンガレ乱馬(笑)
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